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第103話 古龍の解体と、商人
古龍は討伐した。街道の建設に大いに利用させてもらった。山脈を震わせていた古龍の生命活動が停止し、周囲には静けさと、削り取られた岩盤の削りカスだけが残っていた。俺は懐から魔導計算盤を取り出し、目の前に転がっている古龍の価値を弾き出すとした。
「リアム様、見てくださいまし。龍の鱗、一枚一枚が宝石のように輝いていますわ。これだけの素材があれば、我が領地の騎士団の装備を一新できますわね。あ、でも、一番良い部分はリアム様の寝室の装飾に使いましょうか?」
「相変わらずの発想の貧困さに驚かされます。主が求めているのは装飾ではなく、実利です。この龍の肝は万能薬の原料に、骨は不滅の新街道の支柱に転用すべきです。それと、主の寝室の管理は私の仕事です。アリシア様のような光るだけの女が立ち入る場所ではありません」
「なんですって? 影の中で埃を被っているセレーナに、リアム様の安らぎが守れるとお思い? 貴女の役割は、主の歩く道に落ちている小石を片付けることだけですわ」
「小石。ええ、今まさにアリシア様という小石を片付けたい衝動に駆られています。主の演算を邪魔するその口を、影で縫い合わせて差し上げましょうか」
「ふん、やってご覧なさいな。貴女の影ごと、わたくしの極大光魔法で焼き払ってあげますわ」
二人の魔力が再び衝突し、バチバチに会話の火花が散る。俺はもう慣れたものた。その横で、震えながら龍の角に触れようとしている男に声をかけた。
「カイル。いつまで呆けている。解体作業を始めるぞ。その聖剣ガラティーンは、龍の逆鱗を切り裂くために鍛え直したはずだ。まさか、包丁代わりに使われるのが嫌だとは言わないだろうな?」
「リアム、君は本当に容赦ないね。伝説の聖剣を解体道具にする勇者が、歴史上のどこにいるんだよ。でも、分かったよ。君の指示通りに動けば、一番効率が良いんだろ?」
「理解が早くて助かる。セレーナ、アリシア。内輪揉めはそれぐらいにしようか。商人のマルコを呼んでおいた。奴が到着するまでに、部位ごとに仕分けを終わらせる。遅れた分だけ、今夜の食事の配分を削るぞ」
「承知いたしましたわリアム様」
「承知です主!」
現金なものだ。二人は即座に武器を構え、龍の巨体へと向かっていった。
「クォオオン!」
シロが誇らしげに喉を鳴らし、龍の心臓部があった場所で銀色の毛並みを輝かせている。シロが吸い込んだ魔力は、すでに新街道の基礎工事へと変換され、この険しい山道に滑らかな石畳を敷き詰め始めていた。
「お待たせいたしました、グラナード公。いやはや、遠目からでも分かりましたよ。この山脈に不釣り合いなほどの、莫大な利益の輝きが」
岩陰から、汗を拭いながら商人のマルコが姿を現した。奴の目はすでに、古龍の死体ではなく、そこから生まれる金貨の山を捉えているようだ。
「マルコ。到着が予定より三分遅い。運搬用の魔導馬車を十台用意した点は評価しよう」
「ははっ、公爵様のご期待に応えるのが私の商売ですから。それで、この古龍の素材。市場を通さず、すべて公爵様の直轄物流網に乗せるということでよろしいですね?」
「ああ。龍鱗の三割は帝国へ、魔導回路に使う骨の二割は聖王国へ売却する。ただし、代金は金貨ではなく、街道建設に必要な魔導資材と、新領地の開拓に必要な奴隷いや、労働力の提供で支払わせる」
「さすがは物流の支配者。単なる金儲けではなく、基盤整備を優先される。ですが公爵様、この龍の眼球はどうされます? これ一つで小国が買えるほどの価値がありますが」
「それは、シロの新しい遊び道具だ。今のは嘘だ、冗談を真に受けるな。眼球は、新街道の結界の核として、頂上の管制塔に配置する。これで馬車が、飛竜に襲われる確率は零になるぞ」
「ひゃあ! そこまで計算されているとは。リアム様、一生ついていきますよ」
「マルコさん、主を安売りしないでいただけますか。主の隣は、利益を数えるだけの男が居座って良い場所ではありません。それとアリシア様、先ほどから龍の肉をこっそり保存瓶に詰めるのはやめてください。主への献上品は、私が厳選します」
「うっ、見ていたのですか!? 違うのですわ、これはリアム様の筋力向上のための、特別なスープの材料に!」
「スープ。主の食事管理にまで口を出すつもりですか。毒味は私がします。一滴残らず、私が」
「セレーナが全部飲みたいだけでしょう!」
俺は、騒がしい仲間たちと、次々と解体されていく古龍の素材を眺めながら、手元の地図を更新した。
「古龍の素材を各国の弱点に流し込めば、利権争いは自然と鎮火する。すべては、滞りのない供給のために」
空は晴れ渡り、難所は世界を繋ぐ希望の道へと姿を変えようとしていた。俺は満足げに鼻を鳴らすシロの頭を撫で、次なる工程へと意識を向けた。
「行くぞ。次は、聖王国の国境だ。あそこの関税制度を、根底から叩き壊してやる」




