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第102話 新街道建設開始! 山岳地帯の古龍


 王都を離れた俺たちは、帝国と聖王国、そして我が領地シロ・ノヴァを最短距離で結ぶための難所である断絶の山脈の麓にいた。

 ここは一年を通して険しい風が吹き荒れ、物流の天敵である飛竜や魔物が生息する魔境だ。つまりはここら辺を通るには冒険者などに、多額の依頼料を支払わなければ馬車も通るのは困難となる。


「リアム様、見てくださいまし! この山脈を貫く壮大な計画まさに世界を導く者としての手腕ですわ。でも、少し風が冷たすぎますわね。わたくしの光魔法で温めて差し上げましょうか?」


「必要ない、アリシア。体温維持に魔力を使うのは資源の浪費だろう。それよりも、その杖の出力、山を削るための精密な照射に回すほうがいい」


「相変わらず主は冷徹で、最高に合理的ですね。主が求めているのは暖房器具ではなく、削岩機としての貴女です。分かったら、その無駄に華やかな装飾を捨てて、岩盤でも削っていればよろしいのでは?」


 セレーナが影から音もなく現れ、アリシアに冷ややかな視線を向ける。まるで暗殺者だな。俺も認識できない影だった。


「なんですって? 影の中で日の光も浴びずに縮こまっているセレーナに、光の収束による破壊力が理解できて? リアム様、この陰気な女は影に潜ませて、荷物の運搬でもさせておけば十分ですわ」


「運搬、ですか。確かに、私の影の空間はアリシアの底の浅い知性よりも広く、深い。ですが、主を背後から守る栄誉は誰にも譲りません。貴女は、表側で土埃にまみ

れていなさいな」


「クォオオン!」


 足元でシロが力強く鳴いた。銀色の毛並みを逆立て、前方山脈の頂を見据えている。


「シロの言う通りだ。来るぞ」


 原作ではこの工事の開始に合わせて、地脈の乱れを嫌った古龍が目覚めるシナリオがあったような。もしそのシナリオならば、厄介だな。


「えっ、リアム? 今、龍って言った!? 街道を作るだけじゃないの?」


 カインが聖剣を抱えて震えながら、俺の背後に隠れようとする。隠れてどうするんだ主人公。


「カインは勇者だろう。龍の一匹や二匹、この街道の資材にするくらいの気概を持て。セレーナ、右翼の索敵を。アリシア、上空の気流を固定を頼む。シロは俺の側で魔力の供給源となれ」


「了解しました、主。カイン様が邪魔です。腰が抜けているなら、その聖剣を杖にして地面に刺さっていればどうですか?」


「ひどいよセレーナさん! 勇者だって怖いものは怖いんだよ!」


「カイン様、情けないですわね。リアム様の計算によれば、貴方がおとりとして機能するようにしなさいってこと。ほら、前へお出なさいな!」


「アリシア様まで!? オトリ前提なの!?」


 その時、天を割るような重低音の響きが山脈を揺らした。


「龍です!!」


 雲を突き抜け、白銀の鱗を持つ古龍が姿を現す。


「不快な、静けさを乱す羽虫どもめ」


「古龍か。以前の歴史なら、数千の兵を飲み込んだ脅威だが、俺にとっては建設予定地の障害物の一つに過ぎない。シロ、お前の真の力を見せてみろ。この地の魔力を、すべて喰らい尽くせ」


「クォオオン!!」


 シロが俺の指示で激しく吠えた。小さな体が光に包まれ、一瞬で巨大な銀狼へと膨張する。シロの周囲の空間が歪み、古龍が放つ氷の息吹が、シロの口の中へと吸い込まれていった。


「魔力を、食べている? あの伝説の神獣が、あんなに美味しそうに」


 カインが呆然と言う。


「シロ、そのまま核を狙っていいぞ。アリシアは、光の槍で龍の翼を縫い留める。セレーナは、影の鎖で地に引きずり下ろすのをよろしく」


「「御意!!」」


 二人の声が重なる。アリシアの放つ極大の閃光が龍の飛行を奪い、セレーナの影がその巨体を拘束する。


「な、私の力が、消失していくだと!?」


「無駄だ。俺の指揮下にあるシロの胃袋は、無限の欠乏を知る渦だ。お前の魔力は、この街道の街灯を灯すエネルギーとして、一滴残らず再利用してやる」


 俺が指を弾くと、シロが龍の胸元に食らいついた。古龍の莫大な魔力がシロを通じて俺の魔力回路へと流れ込み、周囲の岩盤を一瞬で平坦な道へと作り替えていく。


「あ、あり得ませんわ。戦闘を行いながら、同時に土木工事を完遂させるなんて。リアム様、貴方は本当に人間を越えた領域の統率者ですわね」


 アリシアが頬を赤らめ、感嘆の吐息を漏らす。


「主。古龍の無力化、完了しました。シロ、お疲れ様。主の役に立てて、少しは顔つきが良くなりましたね。まあ、私の方が主の意図をくむ速さは上ですが」


「クォオオン!」


 シロが元の小さな姿に戻り、誇らしげに鼻を鳴らして俺の脚に顔を寄せた。


「貢献度は九分九厘だ。シロ、今日の働きは、物流改革の歴史に刻まれる。さて、カインは龍の鱗の回収作業だ。一枚でも傷つけたら、明日の筋力鍛錬は三倍にするからな」


「ええええっ!? 戦いが終わっても休めないの!? リアム、君は本当に鬼だよ!」


「鬼ではない。ただの効率主義者だ。行くぞ、次の難所はここから三キロ先だ。日が沈むまでに、一国を繋ぐ土台を完成させる」


 俺は、ひれ伏した古龍を背景に、まだ見ぬ街道の先を見据えた。

 世界を繋ぐ街道の一部が俺の指先一つで繋がりを始めたのだ。

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