統一
ドラゴン族たちは、マレフィクスが亡くなった後の戦いで、惨敗した。軍隊も、誇りも、何もかもが砕け散った。もはや再起は無いだろう。
戦いを終えたザルツは、騎士団の本拠地に戻っていった。レギウスは、自分の城に戻って行った。
レギウスは、城に戻ると、レムルの居る公務室に向かった。扉を開けると、机に向かって椅子に座っている、レムルと目線があった。レムルが、気まずそうに目を逸らす。レギウスは、そんなレムルに近づいて行った。そして、レムルに言う。
「レムル、今まで、心配をかけて、苦労させて、嫌なことさせて、放置して、本当に、本当に、済まなかった……」
レムルが、少し驚いた様子で、レギウスを見上げる。レギウスが続ける。
「戦争は終わった。もう君に何かをさせることもない。もう、嫌なことをする必要はない。俺はもう、どこにも行かない。本当に、済まなかった……」
レムルが、立ち上がって、レギウスを真っすぐに見つめる。そして、レギウスに言う。
「本当に?もう、どこにも行かないの?」
レギウスも、レムルを真っすぐに見つめて、言う。
「ああ、行かない!」
レムルが、レギウスに抱きついた。その目には、涙が溢れている。レギウスも抱き返した。
二人は、暫くの間、抱き合い続けた。
そんな二人を、ルーカスは扉の外側から見つめていた。そして、微笑を浮かべながら、ゆっくりとその場を離れて行った。
竜王の墓のある本拠地の都市では、お祭り騒ぎだった。竜王が亡くなってから100年以上続いていた内乱が、これでようやく終わっていくからだ。国が再び統一された。
その統一を成した英雄として、ザルツは、竜王を継ぐ者として見られることになった。
人々は、ザルツのことをこう呼ぶ。
「魔工帝」
神殿が改装されて、竜王の祭壇のあった場所に、王座が拵えられた。ザルツがそこに君臨する。アエリアスは引き続き神殿の巫女であり続け、ザルツの巫女となる。
神殿騎士団はアエリアスに仕える騎士団であったが、魔工術を掌握し、統一を指揮したことで、実質的にはザルツの騎士団としての様相が強くなった。
ザルツは、最高権威と最高権力を兼ね備えた、皇帝へと変貌していく。もはや、彼を止められる者など、誰も居ない。
満月の夜の晩、アエリアスの寝室の窓際で、一人、ザルツが窓際の椅子に腰かけている。その手には剣が握られ、それが月明かりに照らされ、鈍く光っている。
ザルツが、その剣を眺める。フローラがヴォルクスから掠め取り、ザルツと二人で研究し尽くした、朽ちぬ剣。異世界への鍵。漆黒の飛竜に続く、ザルツのもう1つのルーツ。
アエリアスが、ザルツの近くに来た。そしてザルツの持つ剣を見つめて言う。
「とても、古そうな剣ですね」
ザルツが答える。
「そうですね。一体いつから存在しているのか分からない、古い物です。私の師の形見です」
アエリアスは意外に思った。ザルツが昔のことを、自ら持ち出すことが珍しいからだ。アエリアスが聞く。
「ザルツ様のお師匠様ですか。一体、どのような方だったのでしょうか?」
ザルツが、少し笑いながら、答える。
「とても傲慢で、強烈で、賢く、計算高く、それでいて向こう見ずで、好奇心が強く、未知への探求心を持ち、破滅していった。そんな方でした……」
アエリアスが、少し悲しそうな顔をして、ザルツに言う。
「尊敬、してらしたんですね……」
ザルツが少し考えて、答えた。
「尊敬……だったのかもしれませんね……。少なくとも、亡くなってしまったのが、惜しい方でした」
そう言うと、ザルツは剣に布を巻いて、壁に立てかけた。そして、窓から見える満月を見つめる。
まだ、物語は終わりでない。これは、もう1つの始まりに過ぎないからだ。以前書いたことを、ここでもう一度繰り返そう。
ザルツ、彼は、業と叡智を駆使した、魔王となる。
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