帰ってこない
そして数日後の夕暮れ時。私は鉢植えに入っている橘とヤツデを交互に眺めていた。部屋の中にある植物まで荒らされて居ないため、変わらず私を神として居させてくれる。
突如呼び鈴。幸いにも昨日の藤袴の香りが残っているせいか、そう気張らなくとも擬態が出来る。私は慌てて玄関まで走ると、すっと顔を出した。現れたのはお隣、満輝さん。ではなく、そのお母様。彼女は困ったような顔をしている。
「こんにちは、崇島さん」
「こんにちは。どうかなさったのですか?」
出来うる限り不安を煽らないように、穏やかな口調で返した。すると さんは眉間に皺を寄せて、口を開く。
「娘が帰って来ていなくて.......。今から探しにいこうと。でもその前に、あの子、崇島さんに良く懐いているから、もしかしたらお邪魔しているかと思って」
そう言って頭を下げた。血の気が引くのを感じる。嫌な予感がする。結界が弱まっている。私も神よりも妖に寄った状態。もしかしたら、彼女は今.......。
なるべく気持ちを落ち着けるようと深呼吸をした。それから さんに向かって一つ提案をした。
「すみません。此方にはまだ.......。先日、私の庭を荒らされたのです。娘さん、頭痛持ちでしょう? 不審者の事もありますし、私もお手伝いさせていただけませんか?」
そう言うと、 さんはポカンと口を開いた。まさか手伝いを申し出されるとは思っていなかったのだろう。だが今は一刻を争う。私は真剣な表情で彼女を見ると、深くお辞儀をした。それに対して彼女も深く深く一礼をした。
「是非、宜しくお願いします」
彼女と別れた後、人の擬態を解く。艶やかな黒色の着物が肌を包み、背には大きな羽が生まれる。傍から見たら天狗にしか見えない姿だ。しかし人々の清らかな思いが、自らの気質が神としての在り方を繋ぎ止めてくれる。
地を蹴って高く飛翔。あの子の霊気はとても上質で目立つ。真上から見たら星々の中の一等星でも見ているようだ。だが今は見つけられない。禍に汚染されたか? 急降下し、出来うる限り人の顔が分かる範囲まで低空飛行を行う。なかなか見つからない。早く、早くしなければ.......。
書いてないですが、満輝と母の仲は結構良好です。
崇島さんの話とか、絶対してる。
という訳で、『懐いてる』という判断です。




