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ルゥナさんが一瞬僕に視線を向けた。
交わる視線。
いつもの優しい穏やかな瞳をしている。
その刹那だけここが戦場だということを忘れてしまう。
視線が外れるとルゥナさんが嘶いた。
「神獣であるこの私に勝てると思うな愚かな人間共よ!!何度来ようが何度でも叩き潰してくれる!!!」
ルゥナさんの角から光の球が空に放たれる。
上空に飛んで行った光の球は大きさを増し熱量が上がっていく。
先程まで勇者到着の言葉に沸いていた人々は呆然と空を見上げる。
そこにあるのは圧倒的な魔力量を込められた小さな太陽。
あんな超大規模魔法に巻き込まれてはひとたまりもない。
「百合子さん!最速で離れて!!」
素早く百合子さんの背にしがみ付きつつ、声を上げる。
即座に百合子さんはその場から離れるべく反転し森に向かう。
ないよりはマシだと後方に何重にも水と土魔法の複合魔法で防御壁を後方に張る。
人の頭を踏みつけ飛ぶように走る百合子さん。
「そうさせないのが勇者ってもんでしょー!!!!!」
場違いなほど明るい声が後方から聞こえた。
同時に上空から凄まじい熱と爆音が降り注ぐ。
森に入る手前で百合子さんの足が止まる。
空を見上げると先程あった小さな太陽は消し去られていた。
まさかあの超大規模魔法を相殺したのか!?
視界を遮るだけになった邪魔な防御壁を消し、後方を振り返ると空中に両手剣を肩に担いでいるやけに派手な人物がいた。
戦場にいる全ての人がその人物を見ている。
黒髪に赤い鎧、赤いマントを纏った高校生ぐらいの少年。
顔を見ようと目を凝らす。
あの顔立ちは…日本人…?
「この俺が来たからにはもう大丈夫だ!忌々しい魔獣はこの俺が倒す!戦いの邪魔になるから連合軍は下がってくれ!!」
やけに芝居がかった台詞と仕草。
自分に酔いしれているのがここにいても分かる。
百合子さんにもそれが伝わったのか不機嫌そうに低い唸り声を上げている。
「勇者様のお言葉が聞こえたか連合の諸君!全軍本陣まで退避せよ!あとは勇者様が終わらせてくれる!」
先程の良く通る低い声がまた戦場に響く。
波が引くように人々が移動していく。
ルゥナさんはそこに攻撃をするでもなく静かに勇者だけを見ている。
≪アルバ、手出し無用だよ。そこから動かずにいておくれ≫
頭にルゥナさんの声が響く。
念話で僕に語り掛けてきているのだ。
≪私が不甲斐ないばかりに君に人を殺させてしまってごめんね≫
違う、違うよ母さん。
僕は僕の自己満足でここにきたんだ。
≪君を拾ったのは寂しさを埋めるためだったんだ。この森では私は崇め敬われる立場で傍に寄り添ってくれるものはいなかった。
【神獣】という自分の存在が疎ましかった。私の存在価値は【神獣】だけなのだろうかと思うと虚しさに襲われた。
でも赤子だった君はありのままの私に手を差し伸べてくれた。小さな暖かな手に私は救われたんだ。
君は育てた私に恩を感じているようだけどそうじゃない。逆なんだよ。
成長していく君を見るのは明日の楽しみをくれた。
笑顔を私に向けてくれる度に忘れていた暖かな心を取り戻していった。
ありがとうアルバ≫
気づけば人の波が引き草原にはルゥナさんと勇者と呼ばれる少年だけになっていた。
連合軍は遠くにひかえ一騎打ちの行方を見守る態を取る。
僕も百合子さんの背から降りてルゥナさんを見つめる。
「欲にまみれた人間の言葉に唆さてここまできたのか異世界の者よ。哀れよな」
嘲る様にルゥナさんが言うと、その言葉が不愉快だったのかムッとした表情になる勇者。
「魔獣風情が何を言うんだよ。不当にこの森を縄張りにして近隣諸国に不利益をもたらしているくせに。
本来この森はセヴィオス国のもん。
そんでもって俺はこの森を皮切りに世界中の不当に占拠しているお前みたいな魔獣を倒してほしいという人々の願いを叶える為に召喚された勇者様だ。
悪者は勇者に退治されるってのが物語のセオリー…ってことでさっさと死ね!」
言い終わった瞬間に切りかかる自称勇者。
避けるでもなく光魔法の障壁を多重発動するルゥナさん。
剣は弾き返されることもなく光の障壁を切り裂き霧散させ、すぐさま剣を切り上げる。
紙一重で避けたルゥナさんは後ろに飛び距離を置く。
距離を詰めることなく自称勇者はニヤリと笑った。
「障壁を張っても無駄だぜ。この剣は魔法を切り裂き無効化させるんだよ」
見せつけるかのように剣を左右に揺らす自称勇者。
そのドヤ顔に僕は苛立ちを隠せない。
動揺もせずルゥナさんは次の魔法を放つ。
無数の光の球が自称勇者の周りに浮かび、一斉に熱線の光を放ち乱舞する。
「こなくそぉ!」
自称勇者は目にも止まらぬ速さで剣を振るい光を断ち切り、自らの安全圏を確保している。
ふざけた態度してるけど強い。
少なくとも僕はあの魔法を凌ぐ方法が思い浮かばない。
「魔法でこの俺を殺せると思うなよ!」




