22
≪着いたわよ≫
百合子さんの声に目を開けるまでもなく分かった。
人々の怒声と悲鳴。魔法による激しい地響きと爆音。
血と臓腑の独特の生臭さと肉が焼ける臭い。
ありとあらゆる死の薫りと戦場の熱気に包まれているのが肌で感じる。
ゆっくり目を開けるとそこには地獄が広がり、その中で美しい白銀の麒麟が踊っていた。
首を振ると角の先から超高温の光線放たれ大地と人々を焼き尽くす。
跳ね回り踏みつけ蹴り上げ人体をただの肉塊に変えていく。
夥しい死体が地獄の光景に混ざっていく。
僕と百合子さんは森の木に隠れながらその様子を見ていた。
戦場は森の向こうに広がる平原。
飴に集る蟻のように鎧をまとい剣と盾を手にルゥナさんに群がる。
別部隊が森に侵入しようとして光線で焼かれる。
数えるのが馬鹿らしくなるぐらいの人の数。
こんな数相手にたった独りでルゥナさんは戦っていたのか。
≪で?行くの?行かないの?≫
既に百合子さんが背を低くし走り出す準備に入っている。
何と言っても行くくせにと思うと少し笑ってしまう。
そのおかげで気持ちに余裕が出来た。
「僕が大きな魔法を放った後に一気に戦場に突入。その後は一緒に暴れまわろう」
そう言って魔法を練り上げる。
昔暴発させてしまった蒸気爆発だ。
更に土魔法で鋭い棘を生やした弾丸サイズの小さな土玉を混ぜる事によって殺傷力を上げた。
ルゥナさんに当たらないように考慮しながら、人々の密集地で魔法を遠隔発動する。
凄まじい爆音と共に魔法の近くにいた人は瞬時に肉の塊と化し、その肉塊と土玉が飛び散り、更に周囲の人間を傷つけていく。
突然の大爆発に戦場は混乱と恐慌状態に陥る。
≪行くわよ!≫
百合子さんの首の皮を鷲掴みにして体勢を安定させると、待ってましたと言わんばかりに百合子さんは戦場に飛び込んでいく。
先程の移動ほど早くないので片手で掴んでるだけで振り落とされる心配はないようだ。
空いたもう片手で雷鳥と焔鳥を創り出し戦場を飛び回らせ戦場を撹乱させていく。
百合子さんはすれ違いざまに体を鋭い爪で切り裂き、牙で食いちぎる。
人間側から魔法が放たれたら僕が防御壁を張り防ぐ。
今のところは良い感じだ。
小さな火球の魔法を幾つも放って牽制しつつ、時折火と風の複合魔法ファイアーストームを起こし焼き払う。
ルゥナさんは無事だろうかとチラッと見ると先程と変わりない戦いっぷり。
大丈夫、このままなら勝てる。
また一緒にいつもの日常に帰れるんだ。
「勇者様がきたぞぉぉぉ!!諦めるな同胞よぉぉぉぉ!!!」
良く通る低い声が戦場に響く。
風魔法を応用して拡声器のように使っているようだ。
勇者?
勇者といえばあの勇者?
残念ながら勇者とやらは本当に来たばかりみたいで僕のとこからは確認出来ない。
しかしルゥナさんの所からは見えるのか視線が遠くを見ていた。




