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2話 前夜

ハワード博士と合流したメリッサは、任務について詳しく聞くことになり、新しい協力者と出会うことになるのだが…。

挿絵(By みてみん)


「ふむ、サルバシオンも随分と寂れたもんだなぁ、あぁ、詳しい説明をどうもありがとう。」

「予算の不足はいつもの事ですよ。」

「ははっ、あそこは昔から変わらんなぁ。」

メリッサはハワード博士と合流後、サルバシオンの一角にある防音の小会議室にて、依頼確認を行っていた。

ここサルバシオンは世界でも有数の傭兵派遣組織であり、建物自体がアメリカ合衆国から分離した一つの国家として成り立っている。そのため、より優れた兵士を育成するための傭兵訓練施設や、子供の頃から強靭な兵士を作り出すためのサルバシオン傭兵学園といった様々な設備が備わっている。胎児処分で遺棄されかけていたメリッサも、この国に拾われて一から傭兵として育った。なので、彼女にとってこの国は祖国であり、父であり、母でもあった。

「依頼内容については先程話した通りで、目的は彼の救出である。そこまでの移動手段だが…、今現在ロシアの鎖国政策で航空規制がかかっており、領空に侵入した機体はロシアの無人戦闘機に空中で一人一人内部スキャンされると聞いている。ロシア国籍以外の人間が確認された場合即空中で無人機に回収されてしまう。」

「空路がダメなら海路ですか。」

「そう、だがその海路も今や海底にセンサーが張り巡らされており、見つからずに入国するのは困難だ。だから…というわけではないのだがね、君にはアメリカで過去に開発されていた弾道型潜入スーツに乗ってもらう。海、空、がだめなら宙でいけばよいのだ、勿論訓練は受けているよな?」

そう言うと、ハワード博士は椅子に深く座り込んだ。

「ええ、シュミレート訓練は勿論、実際に操作したこともあります。」

「システムは10年前のままだが問題なく扱えるだろう。あと私は君の他にもう一人傭兵を雇っている、その傭兵と協力して任務を遂行してくれ、報酬は100万ドルと四脚装甲車の技術資料だ、ああっと、まあそんなところだ、とにかく出発は明日だから今日は休んでくれ。」

ハワード博士手元の認証装置にカードキーをかざし、ドアのロックを解除した。

「了解しました、確実に任務を遂行してみせます。」

メリッサは一礼をすると会議室の外へ出た。


廊下に出ると深緑色の髪をした一人の女性が、扉の向こう側に立っていた。

「あなたのことですね、新卒の優等傭兵さんは。」

「えっ、あぁはい…。」

急に話しかけられ、メリッサは少し身構えた。その女性の顔に感情は無く、その目はまるで無機物のような、独特の殺気を漂わせていた。

「準備はよくて?明日はAM4.30にサルバシオン東棟の第一発射口から大気圏外へ突入するのよ、配給装備はAR-10にトカレフ、それから旧式のダットサイトには…。」

「あぁ、あの…。」

「っと失礼しました、済まない、私のネームはアレッサンドロ・イリーナ・カリオストロ、サルバシオン第12期生拡張機兵、通称コドネームはカリオスって呼ばれているわ。って堅苦しく言われても困るわよね。」

その女性が笑顔になったのを見て、メリッサは安心した。

「私はハワード博士に今回雇われた傭兵の一人、雇い主の命令で今後あなたと協力することになりました。私のことはイリーナって呼んで下さいね。」

「こちらこそよろしくね、っというか12期生ってことは、私と同い年ってことでいいのかな?」

「はい、そういうことになりますね。」

イリーナがそう言うとメリッサはまるで普通の高校生のように目を輝かせ、イリーナの手を握った。

「はぁ、良かったです!初めての工作任務のバディが同期生で凄く安心しました!」

メリッサはその鍛えた腕でイリーナの手を激しく振った。

「あっ、ちょっとそんなに強く手を揺らしては…。」

イリーナの手が軋む。

「顔見た時てっきりここで試作してるって噂のサイボーグかなんかだと…。」

「ちょっと、ああ、待って!」

   <<ガシャリ>>

「あっ…。」

「うぅっ…。」


サルバシオンの外は、深々と降り積もる雪が青色のライトに照らされ、キラキラとまるでダイヤモンドのように光り輝いていた。メリッサはサルバシオンの居住区の個室で一人窓の外を眺めていた。

「はぁ、まさか協力する相手がサイボーグだなんて思ってもなかったわ…。」

メリッサは目覚まし代わりのスピーカーをセットして窓のシャッターを閉め、優等傭兵専用のふかふかのベッドに潜り込んだ。

ここサルバシオンには傭兵学園特有の厳しい上下関係があり、幾度もの訓練や試験を乗り越え経験を積んだ、ごく限られた者だけが高額で雇われる優等傭兵として認められていた。メリッサはそれらの試練をたった18歳で乗り越えた数少ない天才傭兵の一人だった。

「私も機械になったらああなってしまうのかな…。」

メリッサは布団の中で深く悩んでいた。イリーナの体は頭部以外機械と人工筋肉で出来ているということ、義体化すれば傭兵学園の試練をほとんど受けずに優等傭兵になれるということ、それと引き換えにに少しずつ感情を失っていくという悲しい真実。そして何よりも、それらを無理してでも押さえ込み、自然な感情を引き出していたイリーナの強さのことであった。17年この小さな国で育ったメリッサでさえも全て初めて聞いた事実だったのである。

「はぁ…。」

メリッサは深く悩めば悩むほど、頭の中が空白になる気がしたので、悩み、考えるのをやめそのまま深い眠りにつくことにしたのでだった。


<ゴゴゴゴゴゴッ>

心臓に響くような低く響く音に気付き、メリッサは目を覚ました。

「何かあったのかしら…、まさか攻撃されてる?そんなことはないはずだけど…。」

サルバシオンのような傭兵組織は、大体が大国と裏金を引いており、その抑止力のおかげで攻撃されることはまずないのである。

メリッサが周りを見渡すと、部屋は暗く、窓のシャッターから赤い光が差し込んでいた。

「火災?」

メリッサはぼやける目をこすりながらシャッターまで歩み寄り、吊り紐を引いた。

その瞬間、彼女の目は恐怖を悟り、体は氷のように硬直した。

「なに…よっ…、これっ…。」

窓の向こうに見えたのは、火災や青い雪原でもない。宙に浮いた巨大な赤い胎児だったのである。

メリッサは窓から離れ、急いで扉に手をかけた。よく見ると、窓の外は空気ではなく何かの液体に満たされており、そこに胎児が浮かんでいることに気づいた。

「きっと夢だ…、変に悩みすぎたせいだわ…。」

そう思いながらも扉の取っ手を引くと、扉の向こう側には何もなく、まるで滝のような勢いで液体が流れ込んできた。それと同時に窓も割れ、個室は瞬く間にその液体で満たされてしまった。

<ああっ…、もうだめ…>

気づかぬうちにメリッサは窓から飛び出され、どんどん胎児の方向に吸い込まれていくのを感じた。

<!?>

メリッサが目を向けたとたん、胎児は赤い光を放ちながら急激に手足が伸び、赤い目が皮膚から突き出て、牙の生えた口が裂けるように浮き出てきた。その外見はまるで恐ろしいキメラのような外観だった。

メリッサはそのまま意識が薄れながら、自分が吸い込まれるのを感じ、目を閉じた。


<<アルト… タスヲ… サガス…>> 

<<キョウダイ…二… シヲ…アタエ… ロ…>>


メリッサは確かに人の声を聞いた気がした。まるで雑音のような、低い音と高い音が混ざったような声だった。だが、それを意識する間も無く、そのまま意識を失ってしまった。





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