1話 誕生
1987年の事件が起きてから、各国はテロの脅威に怯えていた。
そんな中、アメリカのとある小屋で事件が起こる…。
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アラスカ州ノンダルトン
雪が深々と降り積もる広大な雪原地帯の一角、夜の木造二階建ての小屋にオレンジ色の光が灯っている。
「なぁサリー、ちょっと火をくれないか」
「ああいいぞ、タバコであったまるなんて、まるで考えてなかったぜ…」
入り口にはAKを背負った兵士が二人、二階のテラスにSVDを構えた狙撃兵がスコープ越しに遠方を確認していた。
「モールツによる暗号が届いた、もうじきVIPが到着するぞ」
テラスにいた狙撃兵がスコープを覗き込んでそう言うと、小屋の裏にいた兵士たちは持っていたライターを急いでポーチにしまい、吸っていたタバコを積雪に差し込み、AKに持ち替えて凛々しい顔立ちで入り口に整列した。
間も無く、雪原の向こうから一台のジープが到着、2人の女性と黒いケースを持った1人の男性が降りてきた。
「相変わらずの木造建築ですな…」
「しょうがないですよ、彼らは木造が大好きでなんです。さあ、いつも通りやりましょう」
そう言うとVIP達は小屋の扉を開け中に入る。
小屋の中には一つのテーブルを囲んで椅子が囲むように置いてあり、奥の席に2人の男性と一人の黒服の女性が座っていた。
一人の男性が席から立ち上がる。
「やあカタールさん、お待ちしておりましたよ、その二人の女性は愛人ですか?」
「はっはっは、まさか、我が国で活躍している例の派遣科学者二人組です。」
「そうでしたか、これは失礼、まあ座ってください、この小屋は外装とは打って変わって内装はきちんと整備されているので安心なんですよ…」
VIP達の談話が始まったちょうどその頃、小屋の入り口では兵士達がまたタバコを吸おうとしていた。
「そういやさっきのタバコ回収しないとな、あれ見つかったら色々とやばいからな」
「おう行ってこい、想定ではタバコは VIPに見つからないことになってたなぁそういや」
「悪いなサリー、入り口の警備よろしくな」
そう言うと兵士は片方を入り口に残し、小屋の裏の、屋根から落ちて積もった雪溜まりにある穴を確認しに行った。
「……あったあった」
手を差し込み抜き出しす。
「そうそうこれだよこれ!最近ロシアでも値上がりしたから貴重なんだよな〜、まだ吸えるかな…
ってなんだよこれ、薬莢じゃねえか!」
それは紛れもないライフルの薬莢だった。
「探してたタバコはこれかしら」
その瞬間背後から聞きなれない女の声がした。兵士は背後につかれたことを瞬時に理解した。
「……なにおぉ!」
叫びながら振り向くと同時に胸に装着していたサバイバルナイフを右手で瞬時に抜き出し、背後に向かって時計回りに振りかざした。しかし振り返った視界に人の姿はなかった。
…いない⁉︎…
その瞬間、兵士の目には金色に輝く目をした、宙を舞う女性の姿が映った。
だがそれと同時に頭部に激痛が走ったかと思うと意識を失ってしまった。
<ゴトン>
「何の音だ」
入り口にいた兵士が音に気付くが、もうその時には女性は兵士の背後に周っていた。
不意を突かれた兵士は、そのことを理解する間も無く倒れる。
女性はそのまま兵士を踏み台にしてジャンプし、その勢いで2階のテラスに着地し、狙撃兵が気付かないように小屋の2階に侵入した。
……その頃一階VIP室
「それでその資産が消えたのですか、理解できました。それでは、本題に移りましょう、ターシャさん、例のアレ持ってきてくれるかい?」
「承知いたしました」
そう言って男の一人が女性研究員に鍵を渡した。女性研究員は鍵を手に入れると2階の部屋に行くために扉を開け、廊下にに出た。その瞬間、天井にあったライトが5秒ほど点滅した。
「あいかわらずだねぇ」
「こうも脆いと積雪で潰れそうですねぇ、ライトも付け替えないといけません」
そう言って黒服の女性がライトを指差した時、研究員が駆け足で扉を開けて入ってきた。
「大変です!サリリースが!」
「手を上げろ!荷物を降ろしてそのまま頭に!」
彼女を見るなり奥の席に座っていた男がいきなり大声で怒鳴りながら、懐からトカレフを取り出し銃口を研究員に突きつけた。隣にいた男と黒服の女性も立ち上がって銃を取り出して彼女に向ける。
「その手に付いた黒い汚れはなんだ!電気系統をいじった後だな!」
しかし彼女は何かを伝えようと必死で、荷物を置かずに前に踏み出した。
「…っく、命知らずめ」
そう言うと男はサンプルを持った研究員の右腕に照準を合わせ、容赦なく引き金を引いた。
<<バキューン>>
研究員は撃たれた腕を抱え込み声にならないような声で、私じゃないとつぶやきながら倒れこんだ。
「急いでここから離れるんだ!この小屋から外にあるジープで脱出する。黒服はサンプルの確保、もう一人はカタールの護衛に回れ!」
銃を構えた男がそう言うと、他のVIP達は慌てて席を立ち外に出た。
しばらくして、男が小屋の外に出るとカタールの護衛をしていたもう一人の男が戻ってきた。
「カタールのジープまでの送迎が完了しました」
すると男は答えた。
「入口の兵士たちがいないのは何故だ!」
「全員無力化されてます」
「そうか、ここに増援は出せない!急いで離脱するんだ!」
「了解しました」
「それと、黒服からの連絡はまだか!」
「それが…、小屋のどこにも見つかりませんでした」
「……そんな」
その瞬間、男は黒服の女が言っていた言葉を思い出した。最初からこの小屋にいたはずの彼女が、内装が整備されたこの小屋の事を脆いなどと言うだろうか、ましてやライトなど指摘するはずがないのである。
そしてそれがが、彼女がワザと漏らしたヒントであったという事も理解した。
「やっちまったなぁ、こりゃ俺のミスだな、まあいい、合格だ」
男はそう呟くと懐にあった照明弾を取り出し、上空に向かって発射した。
その瞬間、小屋をサーチライトが四方から照らされ、仄かなオレンジ色だった雪原は、まるで夜間のスキー場のように真っ白に輝いた。
「見ろ、照明弾だ!やったぞ成功だぞ!」
雪原の向こうで監視していた幹部達は拍手しながら立ち上がり、それぞれ感想を交わしていた。
アナウンスが流れる。
「セレクトリース・メリッサ、サンプルの回収に成功した事により、合格、これにより、工作員育成システムを終了します」
それと同時にジープに乗っていたVIP達もぞろぞろと降りだし、小屋の傍で倒れていた兵士達も起き上がった。
小屋の裏側にある丘の上にサンプルを持って伏せていた女性が立ち上がり、サーチライトが当たると、観覧席にいた関係者達も立ち上がり、一斉に拍手しだした。
彼女の名はセレクトリーム・メリッサ。
今年初めて育成システムに合格した一級雇われ工作員の誕生である。
メリッサの元に、一人の女性が歩いてきた。
「見事だ、全部見させてもらったぞ、セレクトリーム・メリッサ」
「お言葉、ありがとうございますチャリオット大尉」
女性の名はクロム・チャリオット。新しく結成された傭兵組織、サルバシオンの大尉であると同時に、ここの工作員育成システムの最高責任者である。
チャリオット大尉は、拍手が鳴り響く観覧席を深々と見つめて言った。
「この小屋にもだいぶ慣れたか?」
するとメリッサも観客席の方を向いて言った。
「ええ、なんせ75回目ですから、けれどももうこれで終わりましたから、ここともしばらくはお別れです。」
「そうだな、君がここからいなくなると少し寂しくなる」
大尉がそう言うと、彼女は少し下を向いた。
「ええ、ですが私にはやらねばならない事がこれからたくさんあるのです」
「ああ勿論知ってるさ、早速ロシア行きの依頼が届いてるぞ」
「え、もうですか?」
「ああそうだ、あ〜あと、決行は明後日だ」
「って、はやっ!」
メリッサは驚いた顔を見せた、大尉はそれを見て笑みを浮かべた。
「良かったぞ、君のそんな顔が最後に見れて」
「え?」
大尉はメリッサの方を向いた。
「工作員は基本人を騙して生活する事を強いられる職業だからな、皆自分の本当の感情を基本表に出さないんだ。ここの施設で訓練している工作員も皆感情がなく、まるでロボットのような生活をしているんだ」
メリッサはここに来てから今までの事を思い出した。
「あと一つ、言う事があったぞ」
すると大尉は少し表情を少し険しく変えてこう言った。
「君はアメリカ生まれだが、アメリカの工作員ではない、雇われ工作員だ、雇われて初めてその国、組織の工作員となる、くれぐれもそれを忘れんようにな、君にとっての本当の祖国は、このサルバシオンであるということもだ」
「はい、承知しました」
メリッサがそう言うと、大尉は安心したのか笑顔に戻り
「さあ、まず最初のミッションはあの人ごみの中から依頼主を探し出す事だ」
「ええ⁉︎あの中からですか?」
メリッサがまた驚くと、大尉は笑い出した。
「ははっ、ああそうだ、依頼主はハワード博士とかいう人だそうだな」
「制限時間は?」
「制限時間は10分だ!」
「10分⁉︎」
「ああそうだ、行って来い!はっはっはっ!」
メリッサは雪の降る中、明るく照らされた雪原を観客席に向かって全速力で走っていった。
その走る姿はまるでエリート兵だったが、その顔には確かに本当の笑みを浮かべていたのであった…。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




