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毛布に包まれた状態で捜索隊に抱えられ、森の入口付近まで行くと伯爵家の馬車の前に兄たちが立っていた。二人とも、今にも泣き出しそうな表情でセレノアを迎えてくれる。やっと家族の顔を見ることができたセレノアは、安心感からわんわんと声を上げて子供のように号泣した。
馬車に乗せられ少し落ち着くと、窓からヘリオフェルトを探したがその姿はもうなかった。一晩中起きていて疲れ果てていたセレノアは、馬車がゆっくりと動き出す頃には夢の中だった。
次に目を覚ますと、ちょうど伯爵邸の玄関だった。横抱きにして運んでくれている次兄に自分で歩くと声をかける。少し残念そうな顔をして、兄はセレノアをおろしてくれた。
玄関には、心配をかけたのだろう。憔悴した両親が待っていた。
二人の顔を見るなり、セレノアは駆け出した。人目も気にせずにぎゅうっと抱きつく。両親の温もりが、なんだかとても懐かしいものに思えた。たった一晩の出来事だったが、それほどの経験だったのだ。
ようやく帰ってこれたと実感して、涙腺が緩んで次から次に涙がこぼれ落ちてくる。
しかし、その涙を見た家族や使用人たちは、揃ってやるせない顔をした。
まさか、セレノアが嬉しくて泣いているとは思いもしなかったのだ。
彼が身につけているのは、明らかにセレノアのものではない大きくボロボロのシャツ。宝物のように育てられてきたなめらかな白い肌には、いくつもの小さな傷跡と打撲痕が残っている。
大きな怪我がない以上、崖から落ちただなんて誰も想像がつかなかった。
だが、二人を救出した捜索隊の報告で、セレノアがあのソルヴァイン侯爵家の令息と一夜を共にしたことはすでに知らされている。
家族も使用人も、皆それぞれに事情を想像した。誤解の程度こそ異なれど、たどり着く結論は皆同じだ。
――きっと、ソルヴァイン侯爵令息に乱暴されたに違いない
最初に口を開いたのは父親であるクレール伯爵だった。
「あぁセレ。どうしたんだその傷に服は……! ヘリオフェルトだろう? あの忌まわしいソルヴァインの悪魔め」
父親の低い声に、ようやくセレノアは周囲の勘違いに気がついた。
「お父様、違うんです。ヘリオフェルト様は僕を守ってくださって……! この傷は――」
「いいんだセレ、言いづらいだろうがお父様たちはセレノアの味方だからね」
慌てて訂正しようとするが、頭に血がのぼっているからか、全く伝わらない。
「僕が勝手に森の奥へ入ってしまったから、ブラックウルフに遭遇してしまって」
「何⁉︎ ブラックウルフだと⁉︎」
説明をしようとする声は、父親の荒々しい声にかき消される。
ブラックウルフをヘリオフェルトが手懐けていたに違いない。周囲は勝手な推測を始めた。セレノアを心配して集まった伯爵家の面々は誰一人としてセレノアの表情が暗く沈んでいる理由に気が付かない。それどころか、擦り傷やシャツに至っては、奥ゆかしいセレノアが自身の貞操にまつわる話を恥じているのだと決めつけられてしまった。
どんなにセレノアが否定しても、その健気な態度は、かえって伯爵家の面々の怒りを募らせるだけだった。




