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「寒さは問題ないか?」
日が完全に沈んでしばらく経つと一気に空気が冷え込んだ。
「だいぶ寒いです。ヘリオフェルト様は?」
焚き火は少し遠いうえに小さいので、たいした暖にはならない。両手で自分自身を抱きしめるようにして熱が逃げないようにする。
「さすがに冷える。……なあ」
言葉を選ぶように、いつもよりもゆっくりとヘリオフェルトの唇が動く。
「近くに寄れば、お互いの体温で少しはマシになるかと思うんだが……そっちへ行ってもいいか?」
なんだか照れくさくて、こくこくと首を縦に振って返事する。その反応を見るなり、大きな身体が近づいてきた。
もう傷口に瘡蓋ができたのか、血の匂いは薄まり、代わりにヘリオフェルトの甘く色気のある香りがセレノアの鼻腔をくすぐる。
キュッと身を寄せ合うと、心なしかぽかぽかとしてきた。ヘリオフェルトの顔色も、先ほどまでよりも赤みを増している。
森で夜を越す行為はとても危険だ。眠ってしまわないように二人はポツリポツリと他愛ない話を続ける。この授業が面白いとか、あの先生はこんなことを言っていたとか。そんなどうでもいい会話に花が咲き、二人は夢中になって話した。
正真正銘、二人きりの空間のここでは、何のしがらみもない。それが新鮮だった。
入口から見える空が白む頃には、二人はすっかり時間を忘れるほどに楽しんでいた。遠くで二人の名前を呼ぶ声がする。
捜索隊がきてくれたようだ。
名残惜しく思いながらも、二人は顔を見合わせて頷き合って、入口の方へ向かった。ここを出たら、岩穴で一夜を共にした級友ではなく、政敵同士の関係に逆戻りだ。
逆光になったヘリオフェルトの背中を見て、セレノアは思わず彼の服の裾を掴んでしまった。
慌てて、取り繕うための嘘を考えるが思いつかない。こんなことするはずじゃなかったのに。でも、どうしても寂しいんだ。このまま、昨夜は何も起きなかったとでもいうように別れるのは、あまりにもセレノアの胸を切なくさせる。
「どうかしたか?」
少し嬉しそうに口角をあげたヘリオフェルトが振り返った。
「あの……今度食事にでも行きませんか?」
顔が熱い。きっとセレノアは耳まで真っ赤だ。
思っていたことがそのまま直球で出てきてしまった。断られたらどうしよう。不安で心臓がバクバクとうるさく音を立てる。
「ぜひ。私も誘おうと思っていた」
けれど、そんな心配は杞憂だったようだ。ヘリオフェルトの大きく、ふかふかした手のひらがセレノアの頭を撫でる。わしゃわしゃと、豪快な手つきだ。
いつ、どこで、なんて具体的な約束はないけれど、自分の提案に頷いてくれただけですごく嬉しい。くすぐったい気持ちだ。
二人は目を合わせて口元を緩めると、何事もなかったかのように捜索隊の元へ向かった。




