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三日間の自宅での療養を経て、セレノアは学園に復帰した。
その後も何度か説明を試みたがやはり誰もセレノアのいうことを信じてくれない。
(僕のためだという癖に、誰も僕のいうことなんて聞いてくれないじゃないか)
元から伯爵家の人たちにはそういう節があったなとは思う。セレノアのことを考えているようで、当の本人の気持ちはいつも置き去りだ。
教室に入ると、リュカとユミルがこちらへ駆けてきた。二人とも森でセレノアを一人にしてしまったことを酷く後悔していたのだ。怪我の具合が軽いことを伝えると、ほっとしたように笑った。
「先生に休んでいた分の課題を渡しに行かなくちゃ」
「「ついていきます!」」
リュカとユミルの声が重なった。二人にとっても、今回の事件は衝撃だったのだろう。すっかり心配性になっている。
くすぐったい気持ちだ。
「大丈夫、ここに危険はないから」
職員室まで課題を出しに行くだけなのに、危険なんてあるはずがない。セレノアは二人を制して、一人で廊下へ出た。
まだ朝早いので、清々しい空気を纏う白亜の廊下には誰もいない。別にセレノアは魔獣を倒したわけでもないが、英雄の凱旋のような気持ちで堂々と中央を歩いた。
廊下の突き当たりを左に曲がったところに職員室がある。ちょうど突き当たりに差し掛かったところで、誰かとぶつかった。
勢い余って、目の前に現れた男子生徒の逞しい胸元に顔をぶつけてしまった。
「す、すみません!」
「セレノア殿……?」
聞き覚えのある声におそるおそる顔をあげると、ヘリオフェルトがいた。
「ヘリオフェルト様……⁉︎」
互いに大きく目を見開く。ヘリオフェルトは視線を下にずらして、セレノアが抱えている紙の束を指差した。
「課題の提出か?」
「はい」
「私もだ」
ヘリオフェルトもセレノア同様に課題を出されていたようだ。それもそうか、と納得する。考えてみれば、ヘリオフェルトも療養していたはずだ。
キョロキョロと辺りを見回して誰もいないことを確認すると、セレノアはヘリオフェルトの手をとって廊下の端へ引っ張った。
「帰宅してからあの日あったことを何度も説明したのですが……誰も信じてくれないんです。もしかすると、ソルヴァイン家にご迷惑をかけてしまうかも。すみません」
ヘリオフェルトは大きく息を吸うと、そっちもかと呟いた。
「実は侯爵家でも似たような状況なんだ。学園でもそれぞれの派閥の生徒がいるからな……どこか話せるところは……」
口元に手をやって少しの間彼は固まった。それから、視線をセレノアに向ける。
「そうだ、今度の休日、こっそり街に出てくることは出来るか? あ、いやそうか、君は」
洞窟で、セレノアが自由に外に出られないと話したことを思い出したのだろう。このままじゃせっかくのお誘いがなかったことになってしまう! すぐに誘いを撤回しようとするヘリオフェルトの手を両手で握って、セレノアは食い気味に返した。
「行けます! 任せてください!」
セレノアの有無を言わせぬほどの圧に、ヘリオフェルトはこくこくと頷いた。
遠くで足音が聞こえて、二人はサッと距離をとる。
危機を共に乗り越えた友達と廊下で語り合うくらい堂々としたいのに。今の家庭の事情はそれを許してくれない。それが酷く恨めしい。「また休日に」の挨拶もできないまま二人は別の方向へ進んだ。
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