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ほんの少しの味見と言った姉  作者: 夏見颯一
番外編【白昼夢の令嬢は夜を知らない】

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9【妖精と呼ばれる女性達は誰の理解も必要としていない】


「フランベルが王族の婚約者? あり得ないだろ」

「言う事を聞かせられる高位貴族令嬢が条件ならフランベルは入るでしょう。クレア様が婚約者に選ばれたのも、前のリシス公爵夫妻が亡くなって現公爵が引き継ぎに手一杯になっていたからよ。伯爵令嬢でしかないフランベルなら、まして逆らえる訳もなく、条件的にはクレア様と互角だった筈よ」


 今のリシス公爵が爵位を継いだのは学園に通っていた頃だったそうです。

 急な代替わりで資産を整理する事に時間を取られ、クレア様や王家に何かを援助する余裕などなかったと、以前リシス公爵本人が仰っていました。その前提ならネーヴェ公爵家からの援助が未知数のフランベルでも同等だったと思うのです。


「男関係や性格とか、そこら辺で落ちたんじゃないのか? というか、私はそろそろフランベルの話は頭が爆発しそうなんだが……」

「フランベルに関しては、結婚後に発覚するまで素晴らしい公爵夫人と讃えられていた事を忘れたの? それにリシス公爵家も確かにフランベルの助力もあって立ち直ったのよ。ちょっと『妖精』だったけど、十分フランベルは優秀な人間だったわ」


 リシス公爵がフランベルがあんな事をやったというのにロアズ伯爵家を切らなかった理由にしても、公爵家の勢いを取り戻してくれたフランベルへの恩があったからだそうです。

 実際にはネーヴェ公爵家とは縁がなくても、血縁であり高い能力を持っていたフランベルは『魅力的』だったと思うのです。


「……今分かったわ。ネーヴェ公爵家と王家が険悪な理由と称して流れてもいない噂を持ち出してきたのは、フランベルではなくクレア様が選ばれた理由を知りたかったのね。随分回りくどい話をしてきた事」


 とは言え、実に貴族らしい噂です。

 ただ面白い噂と捉えて考える事を止めた者はそれまでの話。事実と付き合わせ考え、自分の立場も考慮して、初めて答えが得られる噂話です。ロウリスは早々にリシス公爵の派閥の貴族から試されたようです。

 派閥に入った者へのよくある洗礼でもあるので、ロウリスは苦々しい表情だけでした。


「……どうしてクレア様が選ばれたのかなんて、私達に分かるものか? それも少しおかしいだろう。そして、一旦この話は止めよう」

「色々立場が違っているし、ロアズ伯爵家の関係者だから何か知っている可能性を感じたのでしょう。どの道過去の話だから。出来れば知りたいって程度の話よ」


 フランベルではなく、どうしてクレア様が選ばれたのか。

 領地にいる両親に尋ねれば……でも、腹芸も微妙な小心者の父が、王家絡みの話があった場合、何処まで隠し通せるものでしょうか。噂だけで何の話もなかった気がするのです。


「どうしてフランベルは選ばれなかったのかしらね?」


 無論、選ばれなかった方が良かったのですが、私はフランベルが候補でもなかった可能性が少し気になりました。

 やはりロウリスが言うように性格的な問題、と考えていた時、不意に、


「まさか……フランベルが『妖精』だったから?」


 『妖精』ではなかったとしても『妖精の血統』だった前の王妃が、発覚どころか何も起きていない段階のフランベルに何かしら『妖精』の片鱗を見ていた可能性はあるでしょう。


「同族嫌悪? ううん、前の王妃は自分が『妖精』だから狙われるように息子の婚約者となったらフランベルも殺されると思ったから候補から外したなんて、あり得ない話だと思う?」


 調子に乗って話していた私が振り返ると、ロウリスは筆舌に尽くしがたい何とも微妙な顔をしていました。

 やはりロウリスは新しい派閥での会議で疲れていたようです。

 未だ慣れない貴族当主の振る舞いを求められ限界が来ていたロウリスに、私はあれこれ詰め込んでしまって……流石に私も反省しました。





 翌日、まだ使用人として働いていますよと言わんばかりの顔をしたマルスが、アルマ伯爵家にやって来ました。

 堂々としていたからか誰も不審に思わずマルスを奥まで通してしまったので、ロアズ伯爵家から移動してきた護衛の表情がとても険しいです。なお、ロウリスは昨日の疲れが取れなかったらしく、執務室にマルスが現れてもぼんやり天井を見ておりました。

 しっかりと従者の制服を着たマルスを前にした私は、


「貴方、さては状況に応じて騎士と従者の身分を使い分けるつもりね?」

「当然ですよ。と言う事で、そちらの名簿には載っていないのですが、アルマ伯爵家使用人のマルスです。人に聞かれたら、アルマ伯爵家の使用人ではないとお答え下さい」

「普通は使用人の事など聞かれないのよ? 何かやらかしますよって予告は止めて欲しいわ」


 ロウリスを始めとした元騎士達は、退団後もこんな風に騎士団と繋がっているものでしょうか?

 取り敢えず、外で言い回る話ではなく周囲にも黙っているので、私はまだ真実を知りません。


「……それで? そんな事だけ言いに来たわけじゃないだろ」

「アルマ伯爵に手紙をお預かりしてきました。種類は脅迫状です。ご確認をお願いします」


 声は出たけれど、まだぼんやりしていて動かないロウリスに替わり、私が手紙を受け取りました。

 騎士団経由での脅迫状なんて割と斬新だなと思いながら差出人を確認すると、


「ノエリア様からじゃない。これが脅迫状?」

「ノエリア様からなら脅迫状だろう。……ノエリア様は義理の姉ではなく、騎士団の先輩として私に手紙を送ってきたと言う事だ」


 騎士団経由はそう言う意味ですか。

 手紙を持ってきたマルスも「私だって人間としての尊厳を捨てる事は出来ませんからね」なんて呟いてますし、騎士団の上下関係って辞めたから逃れられるものではないのかも知れません。

 私が手紙を渡すとロウリスはのろのろとペーパーナイフを出すなど始めました。

 この調子だと内容を理解するのも時間がかかりそうです。


「……アルマ伯爵夫人、ロアズ伯爵家に何かあったんです?」


 マルスがこそっと尋ねてきました。


「ノエリア様から何か聞いたのではないの?」

「先輩も全く分からないと。私達も知らないので、治安上の観点から教えて頂けると嬉しいです」

「……狙われる理由は分からないけれど、ロアズ伯爵がリシス公爵にお渡しする筈だった曰く付きのブローチを私から盗んだのよ。ブローチの元の持ち主の男爵夫妻は事故で死亡し、家は火事で焼失しているわ」

「……へー。もう少し」

「ないわよ」

「もう少し! 何か、報告出来る何かを!」

「……そのブローチは同じ形の物が後二つ存在するわ。一つは隣国の王太子が作った物で、今はクレア様が所持しているわ。こちらは恐らく一番後に作られた物でプレゼント以外の意味はないでしょう。もう一つはクレア様が慕うアルメイダ様の所持していた藤にそっくりなハリエンジュのブローチ。こちらは隣国の王太子が作ったブローチのオリジナルという話だそうよ」


 盗まれたブローチと直接繋がりがありそうなのはアルメイダ様のブローチですが、先日お伺いした所、婚約した時にデューイから送られた物だったそうです。


「えーと、つまり?」

「アルメイダ様のブローチと、男爵夫妻から預かったブローチは何故かそっくりで不思議ですね……詳細が分かってたら最初に言いますよ!」


 調べるのに手間取っている事もあって、詳しい話を聞きたがるマルスに腹が立ってしまいました。


「いや、絶対もう少し分かっているでしょ!」

「五月蠅いわね! 恐らくよ、恐らく! まだ確証も得られていない事を話せますか!?」

「何なら代わりに調べますから!」

「貴方達が調べて分かる事なら、とっくに白日の下にさらされているわよ!」


 思わず力が入って私達が言い争いをしていると、


「マリー、マルス! 五月蠅い」


 普段は大声を出さないロウリスの一喝に、私達はどちらも口を閉ざしました。

 ロウリスがかなり怒っている様子で、私は肩を竦めて壁に寄ります。


「黙りますから少しだけ……」

「マリー、良いじゃないか。私もマリーが何を疑っているのか知らないが、マルスに言えば騎士団の資料も漁ってくれるぞ」

「何か犯罪者がいるなら捕縛出来る我々にもお話を!」


 ほぼ推測でしかない話はしたくないって何度も言っているのですけどね。

 五月蠅い状況を止めたいロウリスと、聞くまで粘るつもりのマルスの視線に私はため息をつきました。


「良いですか。まだ本当に推測ですよ? それに至る過程も何も証明も情報もありません」

「分かってます。全力で頑張ります!」


 私は何故かテンションの高いマルスを胡乱な目で見ながら、


「今分かっている情報だけで考えた時、リシス公爵達にお渡しするべき物があるとしたら、先代のリシス公爵夫妻の死亡に関わる品と言う事です」


 ずっと不思議だったのですよね。

 たった一人の公爵令嬢のいる家の当主夫妻が、前の王太子の婚約者を選ぶタイミングで揃って死亡するなんて、出来すぎじゃないですか。

 きっとリシス公爵の派閥の貴族達は長らく疑問に思っていたのでしょうけど、立ち直るのが先決なので調査は後回しにせざるを得なかったでしょう。その内に前の王太子を始めとした王族が亡くなり、王家も入れ替わって謎のままになっていた。


「え、何でそんな物を男爵夫妻が……?」

「だから情報も何もなく、状況からの推測だけだと言ったでしょう。近しい身内も存在せず領地で朽ちるだけだった男爵夫妻なのよ。わざわざ殺す理由があるとしたら、何か重要な犯罪に関わっていたと考えるのは、騎士達の考えだとおかしい事かしら?」


 二人からの反論はありませんでした。

 ただ、まだ推測でしかないので、違っている可能性も高い話です!


「まあ、いずれにせよ、あのブローチを調べている方の結果待ちでしょうね」

「いやだから……」

「調査が遅いと言う話で、騎士団からネーヴェ公爵家に苦情を入れて頂けると助かります」


 マルスから小さく悲鳴が上がりました。

 ロウリスも私を凝視しておりますが、ロアズ伯爵がある程度信用して貴族の裏事情に詳しい方と限定するだけでも他に該当者はいません。

 ネーヴェ公爵家が絡んでいるとすれば、盗んだ後のロアズ伯爵に全くといって良い程罪の意識がなかった事も、単なる身内同士のやり取りと捉えていたからだと一応説明がつきます。



 そろそろ結果を出して欲しいのですけどね。


 私はほとんど会話もした事のない祖父を始めとしたネーヴェ公爵家の出方を今は待つだけでした。







 弟の様子を窺ったなら妹の様子も窺わなくてはいけない。

 一番上というのも大変だと『フランベル』は思っていた。


『あ、何だ。マリーも鉄錆と一緒になったんだ』


 マリーが結婚して嫁いだというアルマ伯爵家に行くと、マリーは鉄錆と仲良く並んでいた。


『あの鉄錆、鉄錆の割にぼんやりしているけどな!』


 何処からかくすねてきたクッキーを食べている妖精が言った。

 『フランベル』もまじまじと観察してみたが、やはり弟の横にいた鉄錆よりちょっと頼りない印象だった。


『私の妹なのよ! もっとしっかりして欲しいわね!』


 家族としての情なのか、妖精の感覚として妹も所有物扱いから出てきた言葉なのかは判然としない。

 ただ、『フランベル』が腹が立った事だけは間違いなかった。


『いいわ、私が頑張ってみせる!』

『おー、頑張れよー』


 妖精達は笑った。

 その頑張りすら面白い。


 それが幸福となるか不幸となるかは、『フランベル』次第。



朝6時分……

最初書いたのが気に入らなくて書き直してました……

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