42話【妖精の幻を現実という刃に引き裂く者】
さて、勘違いしていけないのはこの一連の話には偶然があるとするならば、それは偶然にもフランベルがいた事でしょう。
多くの人の思惑が重なり合い、まるで魔法のように不意に色々な事が出てきておりますがそれは単なる必然。
訳の分からないものとして片付けるのは、『妖精』だけで十分です。
水門の話は思い出せないので、それはそれで横に置いておきましょう。
「ところで、その結論で宜しいのですか?」
学園長が偽断罪の時の黒幕だったという結論になる雰囲気になりかけていたので、私は思わず確認をしてしまいました。
これまで偶然に見えたものは全て裏がありました。
ここでアルメイダと言う教師が魔法使いだと言われた事さえも信じられず、私にはやはり何かの裏があるように感じました。
妖精だって全てに理由があったでしょう?
偶然、魔法、そんな発想で思考を止めてしまうのは、私にはかつて大人達がやった真実を隠す事と同じだと思います。
望むようになるよう計算をして手を打った結果、魔法のように事をなす事が出来る『魔法使い』はいるでしょうが、お伽噺のような魔法を使う魔法使いなど都合良くいる訳がありません。
「え?」
私の言葉にクレア様とデューイが首を傾げました。
焦っているクレア様はともかく、ここまで誤魔化そうとしているデューイは酷いものですね。
ロアズ伯爵令嬢である私はまだ話を終えられません。
「一連の話は学園長達が企んで、学園長が黒幕だったという結論で、皆様本当に宜しいですか?」
「いや、他にいない筈……」
おやおや、クレア様とデューイは大事な人をお忘れのようです。
リシス公爵は組んでいた手を解き、私を見ていました。
「その荒唐無稽な計画が実行出来ると考えたのは、誰の所為だと思っておられるのですか?」
学園の話をすると、必ず根底にフランベルがいます。
呆れる程に人間を振り回している事実に、神殿がわざわざ『妖精』認定した意味が良く分かります。
大勢の人の人生を狂わしすぎなんですよ、フランベルは。
「フランベルは状況を作っただけだろう? まさか、学園長達にまで何か囁いたというのか」
「リシス公爵、私はそこまでは考えておりません。けれど、フランベルが人を惑わし愚かな行動に走らせた結果、教師の目からは生徒達は実に『愚者』のように見えたでしょう。そうですよね、デューイさん」
来る時の馬車の中でも同様の事を話していたデューイは、物凄く苦いものを噛みつぶしたような顔をしました。
私は全く誤魔化させる気はありません。
「……そうだな。教師達には優越感があった」
普段なら絶対に失敗すると分かっている無謀な計画に手をつけるなんて、自分に相当自信がないと出来ない事です。
愚鈍だと思う生徒達ばかりで自分の優秀さを自負できる環境だった学園での教師生活は、学園長辺りは余程楽しかったでしょう。特に学園は閉じられた環境でもありますから、まるで自分が世界で一番賢いと思っていたかも知れません。
フランベルを利用した者は破滅する。
これは最早法則です。
偶然で破滅するのではなく、自身の慢心で確実に破滅するように誘導されていたという事。
「フランベルはここまでの状況を作っただけなので罪には問えないでしょう。ですが、今回も根底にフランベルがいる事をお忘れなく」
全ての状況にフランベルは何処かで関わっております。
とても恐ろしい事に、フランベルの存在は偶然を必然に塗り変えていくのです。
「確かにそうだけど、そこまでフランベルの所為にしなくても……」
「隣国の公爵を殺そうとした場所がロアズ伯爵領だった事はフランベルの所為ですよね。家ごと没落させてフランベルを消そうとした。勝手に罪の連座にされるのは私も家族も理不尽極まりませんね」
私が当時どの立場であれ糸を引く一人だったデューイを睨み付けると、人を食ったように笑いました。
水門の事件の時にはいた可能性がある人物なのですが……やはり私の記憶に引っかかるものはありません。
「賢い教員方ならフランベルの危険性も認識していた筈。少ない手間でいくつもの利益を得ようとするのは、とても貴族的で模範的です」
「ふうん。偶然かも知れないよ。偶然、そこに辿り着いただけ」
「隣国の公爵の殺害を止めに行った貴方がいて、偶然辿り着いた先がロアズ伯爵領で偶然事故が起きて偶然隣国の公爵は助かったと仰るのですか。まあ、それでも宜しいですよ。偶然私も巻き込まれ偶然死にかけたのですから」
記憶はさっぱり残っていないのですが、周囲から聞いた話を総合すると私は水門の時に大怪我を負って死にかけたのだと思います。もしかすると記憶がないのはその時のショックがあるのかも知れません。
クレア様は大きなため息をついて、
「……もう隠す義理なんて何処にもないのに、黙っている必要があるの?」
「黙っているんじゃなくて、確認だ。何処まで物事を理解して話しているのか知りたいのは当たり前。……しかしロアズ伯爵令嬢、本当にフランベルと血縁があるのか? 似ていないにも程がある」
兄弟姉妹も全然似ていない場合なんてざらにある筈です。
そう分かっていても、他から「似ていない」と繰り返し言われると、フランベルは私の姉ではなく、やはり妖精だったと言われているような気がするのです。
「お前さんの言う事は合ってる。ロアズ伯爵領が選ばれたのは、生徒に悪影響を及ぼすフランベルを退学させたかったからだ。普通に早めに退学させておけば良かったのに、都合良く舞台を整えさせた後にしたんだよ」
「なるほど。賢くありませんね。フランベルを消したとしても、どうやって風紀を元に戻すつもりだったのですか? 手遅れでしょう」
「そう! そうなんだ! 学園長達は元に戻せると思っていたんだ。でも、手がつけられずに放り投げた!」
「最悪でしょ! 私の命のかかった追放の裏側、かなり巫山戯てるじゃないの!?」
最後の叫びはクレア様です。
これは裏と言うより詳細なのですけど、さっきと同じ話なのに補強をしたら頭の足りない話になってしまいました。
これは不可抗力です。
「まあ、でも、頭の悪い話はもう一つあるのです。お気づきですか?」
「……まだあるの? もう考えたくないから、説明をお願い」
そんなに勿体ぶる気もないので、私は机の上にあったアメジストの藤を小箱ごと手に取りました。
「ブローチ、偽物ですよね? これには魔法なんてかかっていません」
これは普通にミスでしょう。
魔法なんてほとんど見かけないものだからこそ起きてしまったミス。
「まさか……」
「……印を見せただろう? あれは魔法のかかっている歴とした証なんだ。知らないだろうけど」
私はクレア様が持っていた壊れたブローチの横に、手にしていたブローチを並べ直しました。
宝石の色合い以外のデザインなどはそっくりです。でも、それだけでしかない誤魔化す為の偽物です。
「私の婚約者が騎士だった事をお忘れですか。騎士は魔法がかかっているか調べる仕事もしているんですよ?」
リシス公爵に渡すのなら万が一があってはいけないと、魔法の有無は調べております。
まあ……一瞬信じてしまって高価だったのではと焦ったのは、言わなければバレないでしょう。




