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ほんの少しの味見と言った姉  作者: 夏見颯一


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2話【未練はないが後始末は必要】


 しばらく父達が忙しくしている間、私は新居予定の屋敷に持ち込んでいた荷物を引き取るのに大忙しでした。

 ジェイク様があの様子では誰がどう考えても政略結婚として割り切って結婚生活をするなど無理ですし、私達の結婚を決めた父達もジェイク様の暴力を見てしまった以上、縁を結ぶ事は完全に諦めたそうです。

 大きな家具はその内に商人を呼んで売り払うと母が言っておりました。


「あの場で全部暴露状態になったなんて、今考えても爆笑ですね!」


 私付きのメイドのプリシラはドレスを元のクローゼットに戻しながら、いい顔をして笑っております。

 職場の話としてならば、私の婚家について行く予定だったプリシラも十分出戻りでしょう。

 ただ、プリシラが笑い飛ばしてくれるので、私の方も幾分気が楽になります。


「本当笑ってしまうわね。人の名前を使って浮気をしていたそうですけど、しれっと姉の顔で参列していたのですものね」

「自らの身に火を付けに行ったと言う事で宜しいではありませんか」

「それもそうね。自分の夫も横にいるのに、何を考えていたのかしらね」


 私を、貴族女性を殴った罪でジェイク様が駆けつけた騎士達に捕縛され、父達の喧嘩はそこで一旦幕を下ろしたのですが、その後には姉夫婦の修羅場が待っておりました。

 当たり前ですけど、私の名前を使ったとしても姉がしたのは正真正銘浮気です。

 平然と義兄と並んで結婚式に参列出来た姉の心理は到底理解出来るものではありません。


 本格的に姉夫婦が喧嘩を始める前に私達は実家に帰されたので、その後は何があったのか正確には知りません。

 ただまあ、何と言いますか。公爵家にまで嫁いだ身でありながら、浮気は浮気でもよりによって妹の婚約者を寝取った浮気。私の名前を名乗ってジェイク様を騙した事もあります。

 色々倫理観の著しく欠如していた姉には帰る場所はなく、今は神殿に身を寄せているそうです。


 そもそもあの結婚式が無事に終わったとしても、姉はどうするつもりだったのかしら?


 年が離れており、私と姉はほとんど交流はありませんでした。

 正直あまり姉の事は知りません。

 一応、姉は公爵家に望まれる程度に賢い女性と周囲からは聞かされており、特に疑う理由もなく長年信じておりました。


 その姉の、はっきり言ってあまりに頭の悪い不倫。

 私はこれまで姉が受けていた評価そのものの真偽を疑ってしまいます。


「お嬢様、リシス公爵からお見舞いの品が届いております」


 ドアのノック音の直後に執事の声が聞こえました。

 ここずっと毎日姉の夫であるリシス公爵からお見舞いが来ております。

 私とプリシラは顔を見合わせると、プリシラはにっこりと笑った。


「では、私は受け取りに行ってきます。今日は何処のお菓子でしょうね?」

「お菓子とは限らないわよ」

「ふふふ……女性に気を持たせない時の紳士の贈り物はお菓子と相場が決まっております。消え物万歳ですからね」


 言われてみると、確かに食べてしまう菓子だけでしたら、受け取る女性も誤解出来る部分はほとんどないでしょう。

 やはり公爵だと気の使い方が違いますね。

 どこぞの知り合いの貴族令息などは自衛の為と言う事でしょうか、手紙もなく剣のみをポンと送ってきた事を考えると……いえ、比較してはいけないでしょう。


 考え事をしていると、また扉がノックされました。


「お嬢様、奥様がお茶を一緒にとのことです」

「あら、分かったわ。悪いけど、行き違いになるといけないから、私は母のところに行ったとプリシラにも伝えてくれる?」

「プリシラは奥様が連れて行かれましたよ」

「じゃあ伝言はいいわ。ありがとう」


 扉を開けないままやり取りしている間に身支度を簡単に整えた私が外に出ると、扉越しに声をかけてきたメイドが待っていた。


「どうしたの?」

「フランベルお嬢様に警戒しろと命令を受けておりますので」

「……もしかして、お姉様はこの家に帰ってきてるの?」

「それはありません。フランベルお嬢様は一歩も屋敷内に入れないようにと命令されております。ですが、旦那様は警戒しておくようにと」


 もしかして剣は必需品だった?

 異様なまでに姉が警戒されている理由は私には分かりません。




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