これからのこと
閑話をはさんだら前のつながりに四苦八苦してしまいました。
この先は、週1火曜の定期更新にして頑張ります~
ヴィオが来て2,3日はバタバタしていたけど、店も開けて日常が戻ってきた。
朝、ユーリスと3人で朝食をとり、一緒に後片付けや洗濯をした後、私とヴィオは開店準備をする。ヴィオは体を動かすことは楽しそうだ。店頭の椅子や窓を拭いたり、箒で床を掃いたり、そのあとは私がカウンターで調剤の用意をしているのをキラキラした目で眺めている。
ユーリスは護衛と言っても四六時中一緒にいなくていい(うっとうしい)ので、昼間は中央門のギルド支店へ行っている。ヴィオの村についても何か情報がないか聞いているみたい。
さて、いつも通り開店。ヴィオはジーンさんが作ってくれた椅子をカウンター近くにもってきて静かに本を読んでいる。必ず私が見える位置にいる。まだまだ心細いのかな。
常連さんたちと一緒に、ユーリスの冒険者バディのキリーが来た。ユーリスより一回り大きい彼は、
「ブラウ!久しぶり~!子ども保護したんだって?」
ドカドカとにぎやかに入ってくる。ヴィオはびっくりして私の陰に隠れる。
「キリーさん、ヴィオです。大きな声は怖がるので気を付けてくださいね。」
とくぎを刺しておく。
「キリーさんや、ヴィオは繊細なんだから、でっかくてガサツな男の人は苦手だよ。」
「そうそう、もうちょっと静かに入っておいで。」
常連さんにも言われてキリーはたじたじ。
「わ、わかったよ。悪かったよ。
ヴィオっていうのか?俺はユーリスのバディのキリーだ。ユーリスがこっちに拠点を移したんで俺も一緒にこっちに来ることにしたんだ。時々顔見せると思うからよろしくな。」
口は悪いけど人懐っこい笑顔でヴィオにあいさつした。ヴィオは私の後ろからそっとキリーを見て、静かにうなづいていた。
キリーはユーリスよりちょっと年上で、実家のファーレン商会の初めての護衛依頼の時からの顔見知りだ。最初は2人で護衛の依頼を受けていたのでしょっちゅう顔を合わせていた。
「キリーさんもこっちのギルドへ拠点を移すってこと?」
「ああ、さっき登録してきたところだ。あと、城壁近くに空き家があったからそこも借りてきた。落ち着いたらユーリスもそっちへ住むと思う。」
「そうだね、うちの庭で野営じゃ休まらないもんね。」
聞いてみると空き家はうちからすぐのところだった。息子さんが独立して王都に住んでるんで、ご夫婦がそっちへお引越しした家だ。
そんな話をしていると、中央門のアレン隊長も来店。ヴィオは私の後ろから出てこない。どうも大きな男の人が苦手なの?
「おはよう! おう、キリーも来てたのか。」
「アレン隊長も相変わらずイケメンででかいっすね~。」
「お前に言われたくないわ。」
二人がそろうと一気に店が狭くなる! 酸素も足りない気がする。
「ブラウ、お茶持ち帰りで。ヴィオはブラウのスカートの陰か~。どうだ?肩車して中央門見に行くか?」
アレン隊長はヴィオを構いたくて仕方ないけど、ヴィオはふるふる首を振って私の後ろへ行ってしまう。
「どうも嫌われてるなぁ。うちの子たちと年はそう変わらないと思うんだが・・・。」
「隊長も俺と同じっすね。」
キリーがニヤニヤしてマウントとってる。似たり寄ったりだわ。
昼近くになってお客さんが途切れたところで昼休憩にした。
「ヴィオ、ドアの看板休憩中にしてお昼にしましょう。」
ヴィオは椅子からおりるとトテトテ店のドアへ行き、魔力を流す。ドアに表示する休憩や終了は簡単な魔法なので、ヴィオに教えてみたらすぐにできた。 ヴィオの魔力も登録したので結界のスイッチも入れたり切ったりできるようになった。うちの子天才!
「ヴィオ、大きな男の人は苦手?」
ヴィオはちいさくうなづく。
「ユーリスも大きい方だと思うけど、ユーリスはOKでアレン隊長とキリーさんがダメなのは何か違うのかな?」
ヴィオは困ったようにわたわた始めたので
「あ、わかんないのね。わかった、この話はおしまい。さ、お昼ご飯食べようね。」
私は、ヴィオが困るような問いかけはこうして中断して終わらせるようにしている。本当にわからないんだと思ったら、今は無理に考えさせることはしていない。大きくなってきたら嫌でもたくさん考えなきゃならなくなるんだもの。今は甘々でいいじゃん!
夜、ユーリスと一緒に夕飯もお風呂も終わってベッドに入る。まだ一人では怖がるから必ず一緒にベッドに入るようにしてる。どうしても夜にやらなきゃならないことは、ヴィオを寝かしつけてからにしている。
眠ってしばらくすると大体うなされ始める。うなされると部屋の中に風が吹き始めるからすぐわかる。でも横でトントンしながら「大丈夫だよ、怖くないよ。」と言い続けるとおさまって寝息が静かになる。
うちに来た日の暴風はあれから一度もないので、だいぶ気持ちは落ち着いてきたのかなとは思うけど、毎日うなされるのを見るとまだまだ恐怖はぬぐえてないんだと思う。
もう大丈夫かなと思って下へ降りるとユーリスが食後のお茶を優雅に飲んでる。しゃべらなければどこぞのおぼっちゃまかと思うわ。
「ヴィオはまだうなされてるか。」
「うん、わかるの? 暴風にはならないけどまだ風は吹くわね。」
「ヴィオの魔力は多いから、魔力がちょっと動くだけでわかるよ。」
私もお茶を入れてテーブルに着く。
「まだうちに来たばっかりだから、そうそう癒されないと思うけど、やっぱりうなされてるのを見るとどれだけ怖い思いしたのか、どうしても可哀そうって思っちゃう。」
「まあ、時間も必要だと思う。それにだいぶ表情が豊かになってきたし、にこにこしてる時もあるからいい傾向だとは思うよ。」
「そうね、こっちがあまり焦っちゃだめだね。」
ユーリスがお茶のカップを手の中で動かしている。
「何か気になることでも?」
割と何でもはっきりと言うタイプのユーリスが何か言い淀んでる気がした。
「う~ん。気になるっていうか、ブラウには言っといたほうがいいかなと。ヴィオを見つけた時の事なんだ。」
ユーリスは静かに話し始めた。
「ルードの買い付けの帰り道、隣国の境界近くの村を通過した後、大きな魔力の動きを感じて見に行ったって話はしたよな。」
「うん。」
「ルードには言わなかったんだが、その時ヴィオの声を聞いてるんだ。」
「え?ヴィオが話してたの?」
「いや、正確には声じゃない。魔法通信のような、ヴィオの叫びを魔力に乗せて飛ばしてる感じ。『コワイ、タスケテ、ダレカタスケテ、パパ、ママ』って。」
私は思わず息をのんだ。どれだけ怖かったんだろう。
「子どもの声みたいだっけど、どこから来てるのか、本当に子供かわからなかったからルードを置いて捜しに行ったんだ。それで、暴風の中心に声の主がいるとわかって、俺も魔力で声を飛ばしてみたんだ。」
「ええ?ユーリスもそんなことできるの?」
「ああ、護衛や戦闘中にキリーと離れた時に連絡手段として声を魔力で飛ばしてたんだ。ただ、キリーは剣技の方が強くて魔力量が多くないから一方通行なんだ。」
「それで、暴風の中心に向かって、大丈夫だ、助けるから落ち着けって飛ばしてみたら、ヴィオから『ダレ?コワクナイヒト?』って帰ってきたんだ。その時点で相当魔力量があるんだと思ったよ。」
ユーリスはお茶を一口飲んで続けた
「それで俺は、助けるから大丈夫、そっちへ行って助けるから大丈夫だって言い続けながら中心点へ向かって行ったんだ。ヴィオからは魔力の声と一緒に恐怖の香りがした。」
「恐怖の香りって?」
「う~ん。俺の特殊能力なのか、人の香り?みたいなものがなんとなくわかるんだ。一人ひとり違っていて、それは感情によって強くなったりきつくなったりする。ヴィオの時は香りの中に恐怖が入っているような気がしたんだ。だから一刻も早く助けなきゃって。」
「相当怖かったんだね。」
「ああ、魔力をコントロールできなくて暴走してるからどうしたらいいかわからなくて怖かったと思うし、それ以外に、助け出してわかったんだけど、近くに大きな魔獣の死骸があったから、魔獣に襲われそうになったのが暴走のきっかけだったのかもしれない。」
私はさらに怖くなった。あの小さい子が両親を亡くして村からも厄介扱いされ、さらに魔獣に襲われるって・・・。ヴィオの心の傷の深さを改めて思い知らされる。
「そんな体験したら声も出なくなるね。 うちでのんびり楽しく過ごしてもらいたいな。」
「ああ、俺もそれがいいと思う。もし、ヴィオが手で示した通り7歳だとしたら、本来は中央教会で第2性の選定を受けるんだけど、それも先に延ばしてもいいと思う。選定を受けなかったからって罰則はないし、元気になって受けたくなったら受ければいい。」
「そうだね、まずは体と心を元気にしてからだね。」
私も同意した。
「ヴィオの魔力量からすると、大人たちから目を付けられやすくなるし、教会だけでなく貴族の中には自分のところに取り込もうとする者もいるかもしれない。その時に、理不尽に取り込まれないように自分の身を守れるよう、魔力のコントロールを教えようと思う。」
「あ、それはいいね。ヴィオもユーリスなら怖がらないしね。」
「あと、剣技と護身術はキリーに教えさそうと思うんだけど、どう思う?」
ユーリスは、ヴィオが大きな男の人から隠れることが多いのを知ってるから心配してる。
「大きな男の人は苦手だと思うけど、キリーさんは人懐っこいからもしかすると大丈夫かもよ。ヴィオはとても理解力があると思うの。ヴィオにちゃんと説明をしてやりたいかどうか聞いてみようよ。」
「ああ、それがいいな。ヴィオがやりたいと思ったら教えよう。」
ユーリスは話し終わって庭の野営テントへ行った。私は後片付けをして寝る支度をしてベッドへ向かう。今夜はもううなされない気がする。どこからともなくそよ風が吹いてくる。ヴィオが静かに寝息をたてていた。




