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ベータのくすり屋  作者: 碧海


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7/7

辺境の町へ キルディス

閑話 今度はキルディス視点です。

<キルディス>

 この国シェーングレンは、風の精霊信仰を中心に人々は暮らしている。


 俺、キルディス・セラフィムはその王都中央で生まれ、7歳の時に教会によってアルファと認定された。

 父は近衛騎士団長のセラフィム侯爵、兄2人と妹がいる。家族全員貴族特有のアルファだ。兄たちはもとより、俺も幼いころから父から騎士になる基礎訓練を受けている。上の兄は侯爵家後継者として、下の兄は騎士団へ入るための教育がされた。3男の俺は魔力はそこそこだが剣技は兄弟の中では見込みがあったらしい。騎士団へ入れることも考えたそうだが、ちょうど王家の4男が2歳下に生まれたので、7歳でアルファ認定された直後から従者として王宮で暮らすことになった。


 4男のユーレリウス・アレクサンデル・ミリア・アイオロス・シェーングレン。

 兄3人姉2人の末っ子だ。アレクサンデル王もミリア王妃も兄姉たちもこの末っ子をとても可愛がっていた。初めて会った5歳の時は、サラサラの金髪に大きな碧の目をキラキラさせた可愛い子だった。 が、何せ魔力が半端なく、しょっちゅう魔力暴走をして雷をあちこちに落としまくっていた。一番ひどかったのは王城の尖塔に雷が直撃して大穴が開いたこと。俺も一緒にいてさすがにびびった。


 このままではまずいと思ったのか、王宮に魔法士を呼んで魔力のコントロールを教わり、魔力暴走が収まるまで家庭教師をつけて勉強することになった。俺も従者としてすべて一緒だ。


 父のセラフィム近衛騎士団長は、王城勤めなので毎日のように顔を合わせる。兄2人も近衛に入ったので同じくだ。なので、7歳で王城暮らしとなったが、それほど寂しいと思うことはなかった。いや、むしろ忙しくて寂しいなんて思ってる暇はなかった。何しろ父がユーリスと俺を毎日のように鍛錬するし、その他もすべてユーリスと一緒だからだ。


 唯一、母と妹とはめったに会えなくなった。俺は基本ユーリスから離れることはないので王宮から出ることはない。可哀そうに思ったのか、王様と王妃様は俺をユーリスと一緒に可愛がってくれた。時には母と妹を王宮に呼んでくれることもあった。よく考えれば従者としては破格の好待遇だ。それだけ末っ子のユーリスを可愛がっていたんだと思う。


 ユーリスは7歳でアルファ認定され、王宮で相変わらず末っ子として育っていったが、少しずつ将来について考えるようになっていった。


「上の兄さまたちが結婚して子どもができたら、僕は継承権がうんと下がるから気楽になるな~。将来は冒険者になって町で暮らしたいかも。」


 なんて言い出した。第4王子となれば高位貴族へ婿入りするんだろうなと思っていたんだけど、冒険者で町で暮らすって? 王宮育ちができるのかよと、当時の俺は思ったね。そん時は子どものたわごとだと思ってたんだが・・・・。


 16歳の成人近くになって、ユーリスは正式に王様に、冒険者になって町で暮らしたいって言いやがった。もちろん継承権を放棄して。

 今まで言い続けてはいたが、まさか本気だったとはだれも思ってなかったので、王様も王妃様も慌てたね。

 近しい者たちを集めて極秘緊急会議が開かれたらしい。そのメンバーに当然うちの父もいたし、王宮御用達のファーレン商会のエド・ファーレン会長も入ってた。


 議題に上がったのは、ユーリスが市井に降りて果たして冒険者として生活ができるのか問題だった。大人たちはユーリスの希望を頭から否定するわけじゃなく、可能かどうかを探ったらしい。

で、結果、条件を付ければいける!ってなってOKが出た。その決断力は王家としてすごいなと今では思うよ。その条件というのが、


1,継承権の放棄。ただし、王族からの離脱はしない。王家、国家に緊急事態が起きた時には王族として義務を果たすこと。

2,従者としてキルディス・セラフィムを帯同すること。なお、キルディスは王家に定期連絡を入れること。

3,冒険者として中央ギルドに登録し、最初はファーレン商会の採集・護衛の依頼から始めること。

4,アルファ用の抑制剤を常に服用すること。ファーレン商会から定期的に納品される。キルディスも同様。

5,将来の婚姻については王と王妃の許可を得ること。(これ大事)

6,住居については、王都外れに小さな屋敷を与えるのでそこを拠点にすること。

7,侍女やメイドを雇い入れず、自分たちで生活すること。

8,陰謀、暗殺、市民の混乱を避けるために、出自を明かしたり、家名を名乗らないこと。これはキルディスも同様。

9、上記の規定を1つでも破った場合即時王宮に戻ること。


 そしてこの条件下のもと、ユーリスと俺は正式に市井に下りることを許された。このことを知る者は、中央でもほんの一握り。第4王子は継承権を放棄して臣下に下ったとだけされている。


 この国は王政だが市民は精霊信仰が厚いので、教会のアイオロス像に親しみ、王族の肖像画は王様以外は一般には公開されていない。中央でも高位貴族でないと謁見する機会がないので下位貴族でもわからないと思う。まして町なか、第4王子がうろうろしてても誰にもわからない。金髪でちょっときれいなにーちゃんがいるなっていう程度。それもユーリスが市井に下りる許可が出た理由の一つだ。


 そして、極秘会議に参加していたファーレン商会のエド会長。彼もまた、ユーリスの顔を知る1人。

王家御用達の商会で、アルファの多い高位貴族の抑制剤を主に取り扱っている。ほかにも抑制剤はあるが、効き目と副作用の点からファーレン商会の抑制剤が一番信頼度が高いので、王族や高位貴族は成長に合わせて薬を常用している。


 それもあって、俺たちの抑制剤は独立してからずっとファーレン商会から定期的に届けられている。多分その時に俺たちの様子を直に確認して王家へ報告しているみたいだ。あちこちにユーリス包囲網が敷かれてる。ホントに家族に愛されてるよね、っていうか、いつでも帰っておいでって思ってるんじゃないかな。


 俺は従者になりたての頃、その「従者」の意味が分からなかった。子どもだったので、ユーリスのそばにいて一緒に勉強したり、鍛錬したりして常に行動してるもんだと思ってた。王宮内なので、身の回りの世話は執事や侍女がいるし。


 ある日、鍛錬の合間に父に何気なく聞いたことがある。


「父上、従者って一緒に勉強したり鍛錬したりする人のことですか?」

 父は少し驚いたように目を見開いたが、やがて静かに俺に言った。


「今のお前としてはそうだろうな。キリー、今はそれでいい。だが、この先ユーレリウス様が将来どういう選択をしたとしても、お前はついていくんだよ。そして、身を挺してお守りするんだ。そのために今鍛錬をしてるし勉強もしているんだよ。わかったね。」


 その時の俺はあまりわからずにうなずいたが、今思い返せば、父はある程度予想はしてたのかもしれない。ユーリスの性格をよくわかってたんだと思う。


「キリー、今更だけどお前本当に俺についてきてよかったのか? 家からそろそろ帰って来いって言われないか?」

「いまさら何言ってるんだ、もう家を出て6年だぞ。俺は3男だし、家は兄が継いですでに男子が2人生まれてる。妹も去年結婚したし気楽なもんだよ。」


 お前が市井にいる限り、帰って来いって言われないよ。お前が行くところが俺の場所だからな。


 俺たちは王都のはずれの小さい屋敷を拠点にしてる。小さいといっても部屋はいくつかあるので2人でも十分だ。ただ、侍女はいないので生活のすべては自分たちでやってる。もちろん掃除もだ。

さすが庭だけは時々庭師を雇ってる。まあ、それも王宮の庭師だけどね。


「ユーリス、明日からファーレン商会の護衛依頼だったよな。」

「ああ、ルードか隣国へ買い付に行く護衛だ。明日王都を経って、中央門経由。戻りは5日後の行程だったはず。」

「了解。今回は護衛1人の契約だったから俺は王都にいるけど、何かあったら魔法通信で連絡しろよ。」


 俺はその間王宮に定期連絡に行くんだよ。正装しなきゃいけないんで面倒なんだよ。


「まったく・・・。俺をいくつだと思ってるんだ?もう22だぞ。独立した16の時から過保護は全く変わってないな。」

「俺にとってはいくつになっても出会ったときの可愛いユーリスだよ。 あ~、金髪で大きな碧目が可愛い子だったのになぁ。すっかりデカくて可愛くなくなっちゃったぜ。」

「年寄りの思い出話かよ。お前だってまだ24じゃん。」


 子どもの時と変わらない大きな碧の目をこちらに向けていたずらっぽく笑った。


 翌日、早朝からユーリスはルードと隣国へ向かって行った。

冒険者になりたての頃は、ファーレン商会の依頼で2人で護衛をしていたが、今ではユーリス1人の依頼も多くなってきた。何せ魔力が多いから、城壁外の対魔物戦に苦労することはない。

ユーリスの実力が上がるのは喜ばしいことだが、ユーリスの従者としては1人の依頼はあまり歓迎できない。付いて行けないからだ。

仕方ないので、常に魔法通信を受けて、何かあったときにはすくに行けるよう待機している。

中央門なら、魔法付与で馬で飛ばせば半日のところ1時間で行ける。あと、隣国へ行く場合には、こっそり中央門の町で待機してる。知ったらユーリスは嫌がるだろうけど、継承権を放棄したといっても王族だから仕方ない。それに、こっちが俺の本来の仕事だからね。


 そして、俺の本来の仕事の一つ、ユーリスがオメガのヒートに巻き込まれないようにすること。

俺たちはアルファ用の抑制剤を常用しているから、オメガのヒートにあってもあてられないはずなんだが、絶対とは言い切れない。だから、できるだけオメガに会わない辺境や城壁外での仕事を受けるようにしている。


 ユーリスもアルファの抑制剤を常用しているが、生来魔力が多くフェロモンに敏感だ。オメガだけでなくアルファやベータのフェロモンも個体識別ができるらしい。小さいころはかくれんぼ最強だった。どんな所に隠れてもすぐ見つけられてしまうからだ。


「みんな匂いが違うからすぐわかるよ。」

 と言っていた。それがフェロモンだとわかるのは成人近くなってからだが、小さいころはただの体臭だと思ってたらしい。


「父上はすごい強い匂いがするんだよ。母上は優しい花のような香り。キルディスはそうだな、風にのってきた草や木の香りかな。時々強い匂いになる。」


 この不思議な感性は俺にはわからなかったが、感情によってフェロモンも強弱するらしい。俺が何かに怒ってると匂いでわかるんだそうだ。 今ではご近所の知り合いや、辺境の町の人々の個体識別をしているみたいだ。


 中央門がある辺境の町は、ファーレン商会の娘、ブラウが小さな薬屋をしている。 俺より4歳年下だが独立して店を経営してる。商会長や兄のルードはやたら心配しているが、常連もついて、特に健康茶は独自のブレンドをして評判が良い。案外しっかりしている娘だと思う。

ユーリスもファーレン一家のまとう優しい香りが好きだと言っていた。


 ブラウの店には中央門のアレン警備隊長も立ち寄っている。彼もユーリスのことを知る1人だ。

アレン隊長は中央騎士団所属で公爵家の次男。王家から直々に、ユーリスが立ち寄った時に様子を報告するよう指示されている。また、不測の事態には保護するようにも言われているとのこと。

俺も父から、辺境で何かあった場合はアレン隊長を頼るよう言われていた。

なにせ、16と18のひよっこだったから、親たちはどんだけ心配したんだと思うよ。ただ、それが今も続いてるってどうなのよ。


 ユーリスが辺境の町へ向かったあと、おれは礼服一式を抱えて馬で王城へ向かった。町なかを正装でうろうろするわけにいかないので、平服で行って王宮で着替えるんだ。メンドクサイ。略服OKにしてくれないかな~。王様に謁見だから無理かぁ。


 俺は馬に乗って王城の主門へ向かう。俺の魔力を結界に登録してるからどの門から入ってもスルーで通れる。警備兵とも顔なじみだ。何せ定期的に報告に来てるからね。

王城深く、王族の住まいの王宮へ向かい、馬を預けて客間に通される。王宮の侍女長が着替えを手伝ってくれる。


「まあ、キルディス様、また一回り大きくなられましたか? 丈も短くなったみたいですし、新しく礼服を一式誂えられたらよろしいかと。」

「しがない冒険者なもんでね。たまにしか着ない礼服をを新しくできませんよ。」

「またそんなことを。王妃様が聞かれたら嘆かれますよ。そんな丈の合わない礼服では侯爵様にも恥をかかせますよ。」

「あ~はいはい。」

「返事は一度で結構です。」


 子どもの頃のやり取りのようでちょっと懐かしい。 侍女長にはユーリスと一緒に礼儀作法や王族の心得をみっちり仕込まれた。


 礼服にに着替えたら、謁見の間ではなく王族の私邸の応接室へ向かう。今回は王様と王妃様、父の近衛騎士団長とうちの母が一緒だった。うあー、今回は三者面談かよ。

豪華な応接室の奥に王様と王妃様。 その向かいにうちの両親が座っている。案内してくれた侍女長がドアの前に立ち、それ以外の護衛はいない。いわゆる人払いだ。俺は王様の方へ向かって臣下の礼をした。


「久しいのう、キルディス。息災だったか?」

「は、アレクサンデル陛下、ミリア王妃様に拝謁賜ります。陛下にはご機嫌麗しゅう・・・。」

「まあまあ、堅苦しい挨拶はなしよ、キリー。元気そうで何よりね。さ、お座りなさいな。お茶にしましょう。」

 ユーリスと同じ色をまとったミリア王妃が優しく話しかけてくれる。侍女長が流れるようなしぐさで俺にもお茶と一緒に菓子を置いて下がっていく。


「キリー、変わりはないか? ユーレリウス様の様子はどうだ?」

「ちゃんとお務めは果たしてますか?」


 両親が交互に聞いてくる。うちの母はミリア王妃と魔法学校の同級生で、学生時代からの気心が知れた仲だそうだ。だからユーリスの従者にと俺が指名されたのもうなづけるし、王宮に上がってからもユーリスと同じようにかわいがってくれていた。


「現在ユーレリウス様は、ファーレン商会の単独護衛の依頼を受けておられ、今日から5日の行程で出立されました。今日中には中央門の町に着くので、アレン警備隊長から通過の連絡が来ると思います。」

 俺は現状を簡潔に答えた。


「それで、キリー。ユーレリウスの交友関係に何か変化はあったかしら?」


 ミリア王妃はそれが聞きたかったんだな。今のところ劇的に変化はないし、末っ子で可愛がられて育って鷹揚ではあるけど、人の感情を敏感に感じ取るので危害を加えられるような人には近づかない。


「交友関係は今まで知り合った知人を中心に、特段大きな変化はありません。屋敷やギルドでもトラブルはなく、辺境の町にはオメガもいないですし、安定した生活を送っております。」

「あらそうなの? 恋バナでも聞けるかと思ったのに・・・。」


 ミリア王妃はちょっとがっかりしたような顔をした。うちの母もうなづいてる。おいおい、母上まで。 変化があった方がいいのかよ。ユーリスに恋バナなんて聞かされたくないぞ。俺的にはややこしくなるのは勘弁。


 そのあとは定期報告という名の身内だけのお茶会が続き、陛下や王妃様たちからの質問に答えたり、うちの両親からもあれこれ聞かれ、さらに俺たちが子どもの頃に王宮でやらかしたいたずらの話に花が咲いて・・・俺は笑ってお茶を飲むしかない。勘弁してくれ。


 独立してからずっと定期報告はこうして必ず私邸で行われた。公にユーリスの話ができないというのもあるが、俺がめったに会えない両親と合わせようという陛下や王妃様の心遣いだと思っている。やっぱり心配かけてるね。


 ひとしきり話に花を咲かせ解散となった。俺は陛下に礼をして、両親にも挨拶して退出した。

侍女長にさっきの客間に通されて、平服に着替えて帰り支度をする。


「キルディス様。陛下も王妃様もご両親も心配されていますが、信頼もされています。そのことをくれぐれもお忘れなきよう。」

「わかっています。」


 俺が答えると、侍女長は昔と同じ、凛とした目て俺の方をまっすく見ると、静かに礼をして私邸の入り口まで送ってくれた。

次に来るのは来月くらいか。その時もあまり変化のない報告になるだろうなと思いながら王城を後にした。


 ユーリスが辺境に向かってから3日、突然魔法通信を送ってきた。魔力で声を届けてくるんだが、ユーリスほどの魔力持ちならかなり遠くてもクリアに聞こえる。ただし一方通行だ。俺の魔力では遠くへは届かないので、通信魔道具でないと会話はできない。


『キリー、隣国境界で魔力暴走した子を保護した。事情があるようなので、このままシェーングレンに連れて帰る。まだ小さいが多分オメガだ。』


 なんだって? ユーリスのやつなんだかトラブル抱えてきたぞ。俺は出かける支度をすると、急ぎ父に魔法通信を送り、アレン隊長に連絡するよう頼んだ。王城からなら魔道具で中央門と通信ができる。


そして俺は急ぎ馬で辺境の町へ向かった。

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