拾い子精霊の子
朝食後、ヴィオを連れて4人で中央門へ向かった。
アレン隊長にお願いして預けていた馬と荷車を引き取り、ヴィオの正式な入国手続きのためだ。
私は成人しているけど、ヴィオの身元保証人としては弱いので、ルードとユーリスが連名で身元保証人になった。そして、主たる保護者は私になり、正式にうちで預かることが認められた。
念のため、騎士団の医療班にヴィオを診てもらったら、擦過傷はあるけど大きなけがはないとのこと。そして、話ができないのはショックによる一過性のもので、生活が落ち着いてストレスが軽減されたら話ができるようになるだろうという所見だった。ちょっと安心。
あと、医療班で年齢を聞いたら指で7と出したので、7歳だということと、数字はわかっているので多少の知識は与えられていただろうということだった。
手続きが終わると、ルードは私に何度も突っ走らないようにと、毎日魔法通信で状況報告をするよう念押しして王都に帰っていった。過保護!
「さて、正式にヴィオはうちの子になったので、今日は店をおやすみにして買い物に行こう!」
私は店に臨時休業の看板を出して3人で町へ出かけた。何しろ一人暮らしだから子どものものはおろか、来客用の椅子すらないってことが分かったからね。
ベッドも買おうかと思ったけど、夜はまだ一人で寝られないと思うので当分は私と一緒。
「まずはヴィオの服と、椅子、食器も。あとは食料の買い出しかな。ユーリスはどうする?護衛って言ってもうちには部屋の余裕がないからジョアンさんの宿をとる?」
「俺は野営でもいいって言ったんだが、ルードが長期になるから一番近い家か宿をを探すって言ってくれた。それまでは裏の畑のところに野営テント張っていいか?」
「何も植えてないところがあると思うので、とりあえずそこでもいい?」
「ああ、簡易テントだから場所は取らない。」
「わかった。じゃ食事はうちで一緒にね。手の込んだものは作れないよ。」
「ああ。俺も野営で慣れてるから何を作るか言ってくれればある程度はできる。味の保証は・・・わからないぞ。」
ユーリスは、見上げて話を聞いていたヴィオと目が合うとウインクして言った。 おお、頼もしい味方がいたぞ。
3人で歩いていると、向こうから大工の棟梁ジーンさんが大工仲間と一緒に歩いて来た。現場に行く途中らしい。
「おう、ブラウ朝っぱらからデートか?」
おじさん特有のジョークを浴びる。
「もう!現場に出て張り切りすぎないようにね。」
「大丈夫だよ。あれ?このちっさい子は?まさか・・・!」
ジーンさんたちがのぞき込む。予想通りの展開(笑)
「この子は事情があってうちで預かることになったヴィオです。」
私が紹介すると、ヴィオはちょこっとお辞儀をすると私の後ろに隠れてそっと見てる。
私はジーンさんに少し近づいて声を落とし、
「ご両親が亡くなって、本当なら教会へ預けるんだけど、いろいろショックなことが続いて話ができなくなったの。それで落ち着くまでうちで預かることになったので、よろしくお願いしますね。」
ジーンさんは少し目を見開くと、
「そうか、大変だったな。いいぜ、みんなにも言っとくよ。 ヴィオ?っていうのか?俺は大工のジーンだ。よろしくな!」
ジーンさんは日焼けした肌から真っ白な歯を見せてクシャっと笑って言った。ヴィオは私のスカートの影から見ていたが、大きな声に一瞬びくっとした。
「棟梁、声でかいっすよ。怖がってるじゃないっすか。」
「なんだと?!」
道で元気なやり取りが響く。
「ジーンさん、大丈夫だからとにかくよろしくね。あ、そうだ。あとで工房へ行こうと思ってたんだけど、ヴィオの椅子を作ってほしいの。お願いできる?」
「おう、任せときな。ちょうどいい、ちょっと測らせてくれ。」
と言うと、背負ってる袋からメジャーを出して、ヴィオを測り始めた。 なんだかわからないヴィオは赤くなったり青くなったりわたわたし始めたので、私はしゃがんでヴィオの背中をなでながら、
「大丈夫だよ。 ヴィオの椅子を作ってもらうために測ってるんだよ。」
と言うと、まだ顔は赤くなってるが少し落ち着いてきた。
「これで良しっと。そうだな、2,3日中に作って届けてやるからな。」
と言って、ヴィオの頭をクシャっとなでると相変わらずのイケオジスマイルで去っていった。
ヴィオは急に頭を触られてびくっとしていたが、はにかむようにジーンさんにうなづいていた。
もともとは素直で少し恥ずかしがりの優しい子なんだと思う。魔力が多くて大変だったと思うけど、ご両親に愛されて育ったんじゃないかと思った。
ジーンさんとのやり取りの後、ユーリスがひょいっとヴィオを肩車して、
「ヴィオ。この町の人は元気でにぎやかで大声の人が多いが、優しい人も多いから安心していいぞ。もし怖い人がいたら俺たちや騎士団がやっつけるからな。」
ヴィオはユーリスの金髪の頭につかまりながらふわっと笑ってうなづいた。
いや~ヴィオの笑顔の破壊力! 大人になったらどんだけモテるんだろう。すでに親バカです。
「さて次はヴィオを紹介しがてら、パン屋のニールさんのところと、宿屋のジョアンさんのところへ行こう。」
私ら3人は町並みや商店をヴィオに見せながら歩いて行った。ユーリスに肩車をされたヴィオは高いところから物珍しそうに瞳をキラキラさせて町を見ている。かわいい。
パン屋のニールさんのところでパンを買って、ヴィオを紹介したらお手製のクッキーをもらい、宿屋のジョアンさんのところでは、子どもたちが着られなくなった服をいくつかもらった。
そのあと、市場へ行って見物しながら屋台で買い食いし、肉や魚、うちでは栽培できない野菜や果物、それからヴィオとユーリスの食器などを買い込んで大荷物で帰ってきた。
すっかり日も暮れ始め、夕飯の支度をしている間、ヴィオは市場で買った絵本を見ている。ユーリスは裏の畑に簡易テントを張りに行った。
簡単に夕食を済ませると、ユーリスがヴィオをお風呂に入れた。新しい環境で疲れたのか、髪を乾かしている間にうとうとし始めたたので、私も急いでシャワーをして寝る支度をした。
「あとは片づけとくから、ヴィオと一緒に寝てやりなよ。今夜はまだ心配だから寝袋で下にいるから、もし暴走が始まったら呼べよ。」
「うん、ありがとう、そうする。じゃおやすみ。」
「おやすみ。」
私はヴィオを抱っこして2階へ上がって一緒にベッドに入る。ヴィオはもぞもぞしていたが、私の方に寄ってきてきゅっとパジャマをつかむ。ちょっと泣きそうな顔になったけど、背中をトントンしているとパジャマに顔を寄せてきて、すりすりしてたと思ったら静かに寝息を立て始めた。
翌日から店は通常営業にした。
朝から常連さんが来る店先に、ヴィオも一緒にいてもらうことにした。入れ代わり立ち代わりくる近所の人たちに戸惑っていたが、だんだん慣れてきて、私が調剤しているときは椅子に座って絵本を読んだり、私の調剤をキラキラした目で見ている。
「おはよう、ブラウ。栄養剤と健康茶を・・・っと、君がヴィオか。元気になってきたか?」
中央門のアレン隊長がヴィオの頭を撫でる。ちょっと大きな男の人にビビるヴィオだったけど、アレン隊長は2人の子のお父さんだ。距離の詰め方は上手い。
「アレン隊長、大きな声はヴィオが驚くよ。」
ご近所さんが注意する。
「あ、すまんすまん、地声がでかいからな。」
イケメンは多少がさつでも許される。アレン隊長の笑顔に常連さんの体温も上昇中。
「いつもありがとうございます、健康茶と栄養剤はこの前兄たちがご迷惑かけたお詫びです。持って行ってください。」
「いやいや、ブラウ。あれも仕事だから受け取れないよ。」
「じゃ、今後何かお願いするときのための前払いとして持って行ってください。」
私は、生真面目なアレン隊長に無理やり押し付けて言った。
翌々日、ジーンさんが大工仲間と一緒にヴィオの椅子を持ってきてくれた。
大人用の椅子より一回り小さく座面が大人より高め。背もたれから足にかけて細かい細工彫りもしてある。あ、菫の花だ。ヴィオは目を輝かせて椅子を見てる。
「ヴィオ、きれいだねぇ。この模様は菫の花だよ。ヴィオの瞳と同じ色をしたきれいなお花なんだよ。」
「おう、ヴィオ。座ってみ。」
ジーンさんに言われてヴィオはそっと椅子に座った。楽しそうに足をパタパタしてる。
「高さもちょうどいいかな。これなら飯も食いやすいだろう。」
「ジーンさんありがとう。菫の細工細かくて素敵ね。」
と言うと、
「これはうちのばーさんが彫ったんだ。90過ぎてるのにまだ現役バリバリ。元気で困るよ。」
「女性の年を人に話すもんじゃないよ。このバカ孫。」
一緒に来ていたジーンさんの祖母デイジーさんが、ジーンさんの足を思いっ蹴って言った。
「いってーな、なにすんだよ。」
普段は棟梁のジーンさんもデイジーさんの前では形無しだね。
「デイジーさん、ありがとうございます。ヴィオが喜んでる。」
「なんてことないさ。それにしてもヴィオはずいぶんときれいな子だねぇ。大きくなったらいい男になりそうだ。」
「私もそう思います。」
うちの子イチバン。
「町の皆さんがヴィオに優しくしてくれてうれしいです。きっとそのうち話もできるような気がします。」
私が常連さん含め、皆さんにお礼を言うと、デイジーさんが静かに話し始めた。
「この辺りはあの大きな壁ができる前は魔物暴走がしょっちゅうあってね。騎士だけでなく、町の大人も子どもも大勢犠牲が出たんだよ。だから、子どもを亡くした親たちにとっては、親を亡くして孤児となった子を拾って育てることは普通だったんだ。拾い子は精霊様から授かった子だと大事に育てたもんだよ。だからヴィオも精霊様の子だと思ってみんなで大事に育てていけばいいんだよ。」
デイジーさんはこの辺境の歴史を知る数少ない人だ。歴史が刻まれた深いしわをさらに深くしてにっこり笑った。様々な悲しい風景を見てきたんだろうなと思った。




