兄のお土産
ブラウは若いわりに落ち着きすぎてるかなぁ。中の人が転生者設定ではありません。
もっとキャピってもよさそうなんだけど、客層が高すぎてそうなっちゃったのかな(笑)
兄ルードたちからの魔法通信もないまま夕方になり、日が沈む前に店を閉めた。
多少心配だけど、何も連絡がないので多分大丈夫だろうと。
落ち着かないけど夕飯用に庭の野菜と一緒に豚の塊肉を煮込んでポトフを作る。
ポトフを煮込みながら薬草図鑑を読んでいたら日が沈んであたりはすっかり暗くなった。
手元の明かりを消して部屋の照明に魔力を流してつける。
夜に調剤をするときには天井と手元の両方をつけて明るくするけど、食事するときは天井の照明だけにしている。暖かい色味でほんのり明るい。
朝のカンパーニュを軽く炙ってポトフに添えればできあがり。
さて、図鑑の続きを読みながらゆっくり食べようと思っていたら、店のドアの結界魔法が反応してカランコロン鳴っている。
ルー兄さんたちが帰ってきたんだな。私はポトフをそのままに店の方へ行った。
ドアの結界魔法には私の魔力と家族の魔力、あとユーリスの魔力を登録している。
登録者が魔力を流すと、鐘のようなかわいらしい音がするが、それ以外の人が結界を破ろうと魔力を流すと警報音が大音量で流れる仕組み。
これがあるからうちの家族も一人暮らしを許可したし、私も安心して暮らしている。
ドアの結界魔法を解除しながら、
「ルー兄さん、ユーリスお帰り。遅い時間に帰ってきたんだね。近くの野営地に泊まって朝帰ってくればよかったのに。」
ドアを開けると疲れた顔の兄と、何か大きなものを抱えたユーリスが後ろに立っていた。
「ずいぶん疲れてるね、どうしたの? とりあえず入って。ジョアンさんの宿は予約してる?」
二人を店の中へ入れて明かりの下で見て驚いた。兄もユーリスも汚れているし、ユーリスは顔や腕に擦り傷があり、服もあちこち切れてる・・・とユーリスが自分のボロボロになったマントにくるんで抱えてるのを見たら荷物じゃなくて子供?!
マントの隙間から見える頭と服を見る限り、ユーリスと同じように汚れてるし服も切れてるみたい。
「どうしたの?その子。3人ともケガしてるじゃない!それに馬と荷車はどうしたの?うちの前に置きっぱなし?」
矢継ぎ早に聞く私に、
「ブラウ、とりあえず座らせてくれ。」
と疲れた顔のルードが言った。
うちは1人暮らしだから、テーブルは大きいけど椅子は1つしかない。
急いで2階から椅子と、予備の布団や毛布やタオルを集められるだけ持って降りてきた。
ユーリスは床に座り込んで、その小さな子供を膝の上に抱えている。
「ルー兄さん、椅子に座って。お茶入れるから、傷薬持ってくるから座って飲んでて。
あと傷だらけだし、なんだか汚れてるからタオル渡しておくね。
その子はどうする?眠ってるの?床で悪いけど布団敷いてそこに寝かせる?」
私は二人にお茶を入れて、タオルを水で絞って二人に渡し、店から傷薬を持ってきた。
戻ってきても、二人とも薄明りの中で黙り込んでいて変な様子。
「お腹すいてない?私のポトフで良ければ食べる?」
なんだか無反応なので、私はため息つきながら
「さあさあ!まず汚れ落として!何かお腹に入れる!」
と、二人にはっぱをかける。
ユーリスがようやく膝の上の子供をそっと布団に寝かせて毛布を掛け、
「ブラウ、悪いが風呂貸して、シャワー浴びたい・・・」
と、のっそり立ち上がって歩いていく。
「あ、次僕も・・・」とルー兄さんもうちのお風呂使う気だ。
私はため息をついて、
「ユーリスは風魔法で乾かしてきてよ。はい、ルー兄さんはバスタオル。」
ユーリスとルードがシャワーを浴びてる間に、ポトフに野菜と肉を足して煮込み、保冷箱に入れておいたリンゴをむいた。
ユーリスが出るとルードが入れ替わりにシャワーを浴びに行った。ユーリスは寝ている子供のそばへ行き静かに床に座って様子を見てる。
ルードがようやく出てきたときにはもうすっかり夜も更けていた。
用意したポトフとパン、リンゴをそれぞれに渡し、私も少し食べた。
2人ともシャワーできれいになったけど、なぜか無言で食べている。
なんでこんなに空気が重い!
食べ終わって片付け、鎮静効果の薬草茶を入れる。
「ブラウ、酒はないの?」
「くすり屋にアルコールを求めないでよ。」
「酒でも飲まないと眠れないぞ、今日。」
ユーリスはルードの方を見て肩を落とした。ルードもやれやれという感じで苦笑いしてる。
「さて、シャワーもしてご飯も食べて落ち着いたでしょうから、そろそろ話してもらいましょうか?」
二人を椅子に座らせ、私はテーブルの横で腕組して詰め寄った。
「年頃の娘の一人暮らしの家に、いきなり押しかけてきて、さらに見知らぬ子供まで!私は聞く権利があると思いますけど?」
「確かに・・・。」
ルードが重い口をあけた。
「僕らも少し混乱してるから・・・ユーリスの言う通り酒が欲しいね。」
「ハーブティーで我慢して!」
2人の前に淹れなおしたお茶のポットを置く。
2人ともため息をついて、カップにお茶を注ぎ、一口飲んだルードが話し始めた。
「僕らは隣国での買い付けが終わって帰路についていた。途中で1回野営するつもりだったから、中央門に着くのは明日の昼くらいの予定だったんだ。」
「隣国の中央を出発したのは朝で、境界あたりで昼になった。境界を出たら何が出るかわからないし、気を抜けないから境界に近い野営地か安全な場所で軽く昼を食べてから再出発したんだ。」
「それで、境界に一番近い村を出たあたりからなんだかおかしな空模様で、ユーリスが異変に気が付いて、大きな魔力が動いてるって言うんだ。僕には魔力は感じられないけど、空は暗いし風が強くなってきて、何か嫌なことが起こってるってことだけはわかった。」
「大きな魔力?それって精霊様の力ってこと?」
私が聞くとユーリスは少し考えて、
「ちょっと違うんだな。精霊の力を借りて大きな魔法を使う時は大気は静かなんだ。何ていうか、背中をあったかく押してもらってる感じ?
でも今日のは大気自体が騒がしくて、精霊も混乱している感じだった。」
精霊の力も大気も感じ取れない私には縁遠い話だが、ユーリスの言っていることはなんとなくわかる気がした。
ユーリスはカップを両手で包みこみ中を見つめながら話を続けた。
「魔獣がいる可能性もあるし、ルードには結界を張って少し離れてもらって、俺一人で魔力の動く方へ近づいてみたんだ。そしたら、だんだん魔力も強くなって、さらに暴風も吹き荒れてきた。それも自然の暴風じゃなくて魔力で暴風が起きてるみたいだった。」
ユーリスはお茶を一口飲んで、少しためらった後話を続けた。
「俺も経験があるんだけど、生まれつき魔力量が多いと子どものうちは自分でコントロールが効かなくなって魔力暴走を起こすことがある。その暴風も同じような気がしたんで、中心に誰かいるんじゃないかと・・・」
「それで見つけたのがその子なの?」
「ああ・・・。」
今まで自分のことをあまり話すことのなかったユーリスの、初めて聞く話に少し胸が痛んだ。
ユーリスも魔力暴走を起こしてボロボロになったことがあるんだろうか?
「あ、俺はそんなに大規模な魔力暴走は起こしてないよ。家に雷が落ちたくらいかな。」
いえいえ、充分大規模だと思いますよ。心の中で突っ込んだよ。話の腰を折ってはいけない・・・。
「で、その子は暴風の中心にいたのね。それで?」
「子どもの魔力暴走を止めるには、魔力が尽きるのを待つか眠らせるかなんだけど、暴風がすごく強かったんで魔力が尽きるのを待ってたら近隣の村まで被害が及びそうだったんで、仕方なく中心まで突入して魔法で眠らせて連れてきたんだ。」
「それでユーリスもその子もボロボロだったのね。」
私は静かに眠っている子に目をやった。
「でも、その子の家族が心配してるんじゃないの?」
「そこなんだよ・・・・。」
とルードが話を引き継いだ。
「ユーリスがその子を抱えて戻ってきたんで、僕もブラウと同じように考えたから、近くの村まで戻って家族を探そうと思ったんだ。
今度はユーリスにその子を預けて、僕が村へ話を聞きに行ったんだ。」
ルードは冷めてしまったお茶を飲み干して、
「近くの村で話を聞いたら、みんな口が重くてね。それでも何とか聞き出したのが、その子は生まれた時から魔力量が多くて、時々暴走してたらしく村でも対処に困っていたところに両親が病気で次々と亡くなって、面倒見切れなくなったみたいなんだよ。
だからその子が知らぬ間に村の外へ出てしまっても捜すことはしてなかったんだ。」
「なにそれ!こんな小さな子を見捨てたってこと?」
私は思わず大声で怒鳴ってしまった。
「ブラウ、しー!この子が起きちゃうだろ。」
ユーリスが慌ててその子に駆け寄って様子を見る。良かった、まだ魔法が効いていてよく寝てる。
「ごめん、ついかっとなっちゃった。でもひどくない?追い出す以外に何か方法があったでしょう。」
まだ怒りのおさまらない私に、ルードが静かに答える。
「ブラウの言うことはもっともだよ。でも、辺境の貧しい村ではまっとうな判断はできなかったんだと思う。自分たちの生活だけでも精一杯なのに、他人の孤児まで引き取ったら共倒れだと思ったんだろう。」
「そうだな、もしこれがシェーングレンだったら、辺境でも教会に駆け込んで、自分でコントロールできるようになるまで育ててもらえたかもしれない。」
ユーリスがぽつりと言う。
「そんなこんなで、村へ帰すわけにもいかないし、とりあえず眠らせたまま急いで帰ってきたんだ。」
ルードが疲れた顔をして続けた。
私は納得できない怒りにどうしていいかわからなかった。お茶飲んでちょっと落ち着こう。
一口飲んで深呼吸、深呼吸。
「状況はわかったわ。それで、これからどうするの?隣国の子を黙って連れてきちゃってことでしょう?それと、教会へ連れて行くの?」
静かに寝ている子を見ると、なんだか大人の都合で振り回されてる気がして切なくなってきた。
可哀そうという言葉では軽すぎる。あまりに過酷な話だった。
「僕はその方がいいと思うんだけど、とりあえず今夜はここに泊めてくれる?
警備隊長には話を通してあるから、正式な入国許可は明日取るとして、教会へも夜が明けてからだね。なにしろ急いで戻ってきたから宿も取ってないんだ。」
「わかった。その子は私のベッドへ寝かせて。私も一緒に寝るわ。人と一緒のほうが安心するでしょ。
ユーリスとルー兄さんはここで寝てくれる?今何か敷くもの持ってくる。」
「あ、俺たちは寝袋があるからいいよ。もともと野営するつもりで持ってるから。」
「そう?寒くないようにしてて。あ!」
私は急に思い出した。
「そういえば馬と荷車はどうしたのよ!すっかり忘れてたわ。まさかうちの前に・・・?」
「あ、違う違う。中央門の警備隊長に預けてきた。」
ルードとユーリスが顔を見合わせて笑って言った。2人がようやく笑った気がした。
アレン隊長、うちの兄とユーリスがすみません。次に来た時にお茶と栄養剤サービスしよう。
それにしても、とんでもないお土産を持って帰ってきたもんだ。




