王都へ ユーリス
ブラウをファーレン商会へ送った後、俺は王城へ向かった。ヴィオの件で父王に連絡したら、王都に来たら王城に来いって呼ばれた。
馬車から外した自分の馬で王城裏手へ行く。城壁近くには林程度の樹が林立しているところがある。不審者以外は人が来ることはないような人気のない場所だ。馬を降りて近くの樹につないで城壁の近くへ行く。城壁の1か所に王家の紋章が小さく彫ってある石がある。そこに手をかざして魔力を流すと、城壁が消えてぽっかり穴が開き中に入った。
ここは王族の緊急出入り口だ。魔力登録されている人しか出入りできないので、今は王と王妃、王太子と次兄2人と俺だけだ。嫁いだ姉たちは外に出た者として登録されてない。俺は臣籍降下したとされてるので、正面から公式に入るには一般人と同じ扱いになるので手続きが煩雑ですぐに入れない。なので、呼び出された時のために、登録はそのままにしておけということだった。
中に入るとすぐに後ろの穴が閉まって城壁に戻るのがわかる。続けて人が入れないようになっている。
内側は王宮の私邸中庭に通じる木立の中だ。木立を抜けたそこに見慣れた侍女長が待っていた。
紋章に魔力を流した時点で王の執務室で反応があり、誰の魔力かわかるようになっているので迎えに来たようだ。
「お久しぶりでございます、ユーレリウス様。ご立派になられて・・・。」
何年ぶりかの再会に感激してる?
「さ、お召替えを」
「え、ちょっと父上に呼ばれただけだよ。謁見の間じゃないよね?」
「今回の件、ユーレリウス様から直接ご説明いただきたいと皆様が。」
「ささ、お召替えを」
圧がすごいな。
「すぐ帰るしこのままでよくない?」
「『皆様』お待ちです」
「もしかして全員集合?」
侍女長がものすごく優雅な笑みを返してきた。3者面談よりヒドイ・・・。
俺は控えの間で湯あみから始まって着替えさせられ、すっかり疲れた状態で王宮の居間へ向かった。
ここはいわば王族の私邸、家族の住む場所だ。護衛や侍女長は扉の外で控えてる。居間へ入ると家族が全員集合してた。ウソ、嫁いだ姉上たちまで!
両親王太子はもとより、騎士団の副団長の次兄、跡継ぎが女子の辺境公爵家へ養子へ行ったすぐ上の兄。キリーの長兄に嫁いた長姉と、侯爵家へ降嫁した次姉までいる。実はキリーとは義理の兄弟になる。
「父上母上兄上がた、姉上がた、大変ご無沙汰しております。皆様お変わりなく・・・。」
居間に集まった錚々たるメンバーに臣下の礼をして挨拶をしようとしたら、
「ここは家族だけ、堅苦しい挨拶は抜きだ。」
「さあ座って顔を見せて頂戴。すっかり大人の顔つきになったわねぇ。」
久しぶりの母は変わらずふんわりしてる。
「ユーレリウスがちゃんとご挨拶してる・・・!」
「魔力暴走で尖塔に大穴を開けたあのユーレリウスが・・・。」
「キルディスと王宮を走り回っていたずらしていたあのユーレリウスが・・・。」
「ちょ、ちょっと待ってください、兄上姉上がた。私が何歳の時で止まってます?」
家族から次々と洗礼を受けるなか、勢揃いの真正面に座る。落ち着かない。
「まあまあ。お前の魔法通信は明瞭なんだが一方通行だから、直接説明が聞きたかったのだ。話をしたらみんな顔を見たがったのでこうなってしまった。」
父王が笑いながら言った。王の顔とは違う、家族にだけ見せるいつもの父の顔だ。
侍女長も下がっているので、母が手ずからお茶を入れてくれる。これも久しぶり。は~うまい。お茶を堪能してると、父王が切り出した。
「それで、その子は実際どうなんだ?魔力が見えるとか?」
「はい、本名はルナリオ、帝国の巡礼神官夫婦の子です。当初話ができなかったので、私たちは紫の瞳をしていたこともあり仮にヴィオと呼び名を付けました。明日中央教会へ行って、選定の儀を受けた後、仮親として保護者登録をしてくる予定です。私の見たところおそらくオメガだと思われます。事前に話は通してあるので、受理されると思いますが、念のため王宮からも手をまわしていただけるとありがたく。」
俺は一気に現状報告をした。魔法通信ではどこで他者に聞かれるかわからないので詳細は伏せていた。
「そのヴィオですが、1人1人の魔力が色として見えるそうです。それも魔力量によって濃い薄いがあるようです。また、精霊の気配もわかるようです。」
「見えるのか?」
兄王太子が聞いてくる。
「いえ、輝いているので姿は見えないそうです。」
全員が溜息をついてお茶を飲む。わかる、国レベルの大問題だよね。そんな話聞いたことない。
沈黙を破って父王が切り出す。
「こちらでも極秘に帝国に巡礼神官について問い合わせてみたんだが、どうも母親の方は帝国の王族に連なる家の娘だったようで、遠い親戚にあたるかもしれん。」
「ええ?ヴィオと遠縁ですか?」
「ああ、父親の方も高位貴族の家系だそうだ。神官なので籍は抜いているが、親族がまだ健在でな、夫婦を帝国で弔いたいという話も出ている。」
「もしかしてヴィオを引き取りたいって言ってきてるとか?」
「そこまでの情報は渡してないが、その子のことが知られれば可能性はある。だから早急にお前たちの仮親と、教会の後ろ盾が必要になってくる。」
「わかりました。ブラウ・ファーレンとともに、仮親になって成人するまで保護者として養育します。
ただ、成人後は彼がどのような道に進んだとしても、彼の意志を尊重したいと思います。たとえ帝国に行きたいと言ってもです。そして、両親の墓ですが、今は隣国境の村はずれにありますが、いずれヴィオが成人したらどうしたいか選ばせたいと思っています。」
俺は一気に話をした。果たしてこれは『国』に受け入れられるだろうか。
「ユーレリウス、国としては扱いが難しい子だが、お前の判断に任せることにする。実際、お前以上の魔力の持ち主がこの国にはいないというのが現状だ。いざという時にその子を抑えられらるのはおそらくお前だけだろう。」
父王は俺をまっすぐに見る。
「それだけに、お前とファーレンの娘の責任は重いぞ。その子がまっすぐに育つよう頼んだぞ。」
いつになく重い父の言葉だった。
「承ります。」
俺はそれ以外の言葉は見つからなかった。もしヴィオが悪に染まるようなことがあったら、俺の手で何とかしなければならないということだ。
ヴィオは今のところ心根の優しい子なので、このまま成長してほしいと思った。
「あのユーレリウスが父親ねぇ。」
「ブラウ・ファーレンはどんな娘なの?ファーレン商会の娘だとか。」
俺と父が深刻な雰囲気になりそうだったので、姉たちは努めて明るくしてくれた。
「さあさあ、質問攻めは後にして。ユーレリウス、今日は王宮に泊まっていくのでしょう?久しぶりに皆で夕食にしましょう。用意させてるのよ。」
母はどんな時でも明るいっていうかほんわかしてるなぁ。
「王都の屋敷に帰ろうかと思ってますが・・・。」
俺が戸惑いながら答えると、王太子が、
「ユーレリウス、母上がお前に会えるのを楽しみにしていたんだ。親孝行だと思って付きあえ。キルディスも今日は公爵家へ帰ってるんだろう?」
「兄上・・・わかりました。」
そう言うと、母は楽しそうに、
「ユーレリウスの部屋はそのままだから今日はそこへ泊ってね。いつでも帰ってきていいのよ。ブラウ・ファーレンもその子も一緒に王宮に住めばいいのに~。」
「母上・・・戻りませんよ、私は冒険者ですよ。」
「そうなの~?」
母は本気で残念そうだ。
「王妃よ・・・。」
父王はいつものように天然の母に笑ってる。兄姉たちも笑いをこらえて生暖かい目で母を見てる。本当に天然なのか?
その日は久しぶりに集まった兄姉たちと両親とともににぎやかな晩餐となった。いじられ末っ子は健在だった。そして、もとの自分の部屋に泊まり、翌朝またあの城壁の抜け穴から外へ出た。
愛馬よ、遅くなってごめんね。あれ?誰かにお手入れしてもらった?ごはんももらった?さすが王宮、ぬかりない。




