ヴィオのためにできること
ヴィオの希望を聞いてからのユーリスは早かった。キリーを呼び出してうちで作戦会議だと息巻いた。
「ヴィオは寝たか?」
「うん、昼間は魔力制御と剣の稽古で力を使ってるからご飯食べたらすぐ寝ちゃうわ。」
私はあくびをしながら答えた。会議はヴィオが寝てからなので夜が深まっている。ヴィオと一緒に寝たい。
「さて、課題を出して対策を考えて行こう。」
早速ユーリスが切り出す。キリーが眠気覚ましにお茶を入れてくれる。私の自慢のブレンドだ。
「まずは中央教会へ行って選定を受けることだな。 オメガでなくても魔力が強いから教会保護の可能性が高い。何にせよ対策は必要だ。」
「教会の保護って強制力が強いの?」
「う~ん、強制っていうか、今まで教会保護を断ったって話は聞いたことがないな。」
私の疑問にキリーが答える。
「オメガだとわかった時点で、一般家庭で保護しつつ育てるのは相当難しいぞ。あちこちから狙われるし、成長期になれば発情期がある。その期間、高い抑制剤を何日も飲むか、隔離して誰とも接触させないようにするって家庭でできるか?魔力量が多いのも同じだ。育てるのには金も時間も場所も必要だ。貴族だとしても下級ならそんな余裕はない。だったら教会で安全に生活できるなら預けるだろ。」
「確かに・・・教会預けは家族と離れて寂しいと思うけど、家にいても隠されるように育てられたらそれもまた寂しいよね。」
「そこだよな~。オメガには生きづらい世の中なんだよ。」
3人とも黙ってしまう。
「おう、今はヴィオの事が優先だぞ。しんみりしてる場合じゃない。」
ユーリスの言葉で私もハッとする。一般論は後回し。
「で、どうするんだ?教会。」
キリーが続ける。
「要は、ヴィオがブラウのもとで養育することを正式に認められればいいんだよな。」
「教会にってこと?」
「そうだ。オメガ、魔力、両親が神官で孤児。どう転んでも選定を受ければヴィオは教会預かりになるのは確定だ。それを覆すには、それ相応の理由やある程度の圧力もいるだろう。」
「圧力ねぇ~。」
キリーが胡乱な目でユーリスを見てる。なになに?
「教会に行く前に、根回しは必要だな。」
「どうするの?」
「事前に、ブラウがヴィオの保護者だと正式に言えるようにしておくってことさ。」
「養子縁組でもするのか?」
キリーが聞く。
「いや、ヴィオの場合、あくまでも所属は教会になるだろう。そこは譲れない点だと思う。その隙をついて仮親として申請するんだ。」
「仮親?養子とどう違うの?」
「ヴィオの魔力量からすると、いずれ大人になれば教会か国に所属して働くことになるだろう。残念ながら大工やパン屋になりたいって言っても難しい。貴族だけじゃない、下手したら他国からも狙われかねない。なら安全のためにも教会や国に属しておいた方がいい。」
「仕事は選べないのね・・・。魔力が多いっていうのも不自由なんだね。」
ベータの私たちの方がよほど仕事の選択幅は広い。なんだか可哀そうな気もする。ユーリスもそうだったのかな。
「なので、仮親だ。養子縁組だとその家の子になってしまうが、教会への妥協点として、教会には所属するが、成人するまでの保護者をたててそこで養育したいと申し立てるんだ。」
「でもそのためには相応の理由がなければ認められないだろ。」
「そこにコネと伝手を最大限に利用するんだよ。」
「コネと伝手ねぇ。」
私が疑いの目でユーリスを見る。
「なんだよ、俺だって多少のコネはあるぞ。ヴィオのためなら最大限利用するさ。」
「やれやれ、厄介なことになりそうだ。」
2人して悪い顔になってるけど大丈夫なの?
「実際に、ブラウはこの家でヴィオを養育している。それは、町のみんなが見てるし証言してくれるだろう。何ならアレン隊長も証言してくれるさ。直に見てるからね。」
「そうだな、ブラウがヴィオの養育者に適してるかって話だから、証言者が多ければ教会も納得するだろう。」
「あとは、ヴィオの魔力量が多いってことで、魔力制御、自分の身を守るってことで護身術と剣技。それを俺とキリーで教えてるってなれば、それも教会への強みになるだろう。」
「でもそれって、教会や騎士団で教えるって言われたらそれまでじゃないの?」
「確かにな。まあ、そこで多少の圧力はかけるが、俺の魔力量からすると、ヴィオの指導者は他に見当たらないと思うぞ。」
魔力量はわからないけど、ヴィオの魔力暴走をおさめて連れて来たんだから、ユーリスの魔力はそれ以上だっていうことなんだろうね。
「あとはファーレン商会かな、エドにも協力してもらわないとな。」
「え?お父さん?!」
意外な人物の登場に驚いた。
「ブラウの身内として、ヴィオの仮親申請の時には保証人になってもらいたい。ルードじゃまだ弱いな。」
ユーリスが半笑いで言う。まあ、しっかりしてはいるけどまだお父さんにはかなわない。うちのお父さんはしたたかなやり手の商売人だ。見た目はほんわかしてるんだけどね。
「もうひとつ、先の話になるが、ヴィオにオメガの抑制剤を定期的に卸してもらう。もしその調剤をブラウができれば一番いいんだが。。。ブラウ、どうだ?」
「え?オメガの抑制剤? 貴族向けのアルファの抑制剤は騎士団とかに卸してるって聞いたことあるけど。。。それは父に聞いてみないと。ルードでもまだ知らされてない可能性はあるわ。」
初めて聞く話に私は驚くと同時に、ユーリスが持ってる情報に驚いた。冒険者の持ってる情報ってすごいな。
「そっちは任せるよ。急ぎはしないけど、確約が取れればかなりの強みになるはずだ。」
「わかった、さっそく魔法通信を送って父に聞いてみるわ。」
情報量が多すぎて大変だけど、すっかり冷めてしまったお茶を飲み干して、ヴィオの希望を叶えるために頑張ろうって思った。
翌日さっそく父に魔法通信を送った。事が事だけに詳しく話すことは避けようと思った。魔法通信は傍受されにくいけど、届いた先で父以外が聞く可能性がないとは言えない。会話ができないのが難点なのよね~。
一方、ユーリスとキリーは、選定に行くまでにできることはしておくと言って根回しに行ってる。町の皆さんや、騎士団、中央教会にも行ってるみたい。ヴィオは魔力制御と護身術がちょっと減ってご不満だ。
「ヴィオ、ユーリスとキリーはヴィオがうちで暮らせるように色々頑張ってくれてるからね。ちょっと魔力と剣の勉強が少なくなるのは許してね。」
ヴィオはわかってはいるけどしぶしぶうなづいてる。葛藤してる姿が可愛い。
中央教会へ行った2人が戻ってきた。またしても夜遅い訪問。なんだか微妙な顔。ユーリスは仏頂面だしキリーは半笑い。良い状況じゃないのかな。
「どうしたの?中央教会で何かあった?」
私は軽い夜食を出しながら聞いた。ユーリスは夜食を食べながら、
「伝手やらコネを使って根回ししてきたから、教会への事前説明は上手くいったと思う。一応教会側としても納得して養育権はもらえそうなんだが・・・。」
「ほかに問題が?」
「教会側が条件を出してきたんだよ。」
キリーも夜食を食べながら言った。
「簡単に言うと、ブラウが独身だってことだ。通常なら単身者でも養子縁組や保護者と認められるんだが、何しろヴィオが特殊だろ?俺たちが周りにいるとは言っても、ブラウ自身が魔力が少ないので。単独養育は認めにくいって。」
「え?どういうこと?」
私は今ひとつ理解できなかった。
「独り身だとダメってこと?まあ、確かに魔力が少ないから、ヴィオが魔力暴走したときは止められないわね。誰かと一緒なら認めてくれるってこと?」
「まあ、そういうことだな。」
ユーリスがやけに言い淀む。横のキリーが笑いをこらえて、
「教会は、ブラウとユーリスが仮両親として養育するなら成人まで認めてもいいかもしれないって言ってきたんだよ。」
「ん?私とユーリスが仮両親?夫婦?」
え~~~~どういうこと? 慌てる私、赤くなったり青くなったりしているユーリス、笑いをこらえてるキリー。ちゃんと説明してーーーーー!




