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ベータのくすり屋  作者: 碧海


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12/14

ヴィオのきもち

 ヴィオがコツコツと階段を下りてきた。おずおずとテーブルに座る私たちを見回した。

「ヴィオ、目が覚めたの?おいで。」

 私はヴィオに向かって手をのばした。てくてくと近くに寄ってきたので抱き上げて膝の上に乗せた。

「お腹すいてない?何か食べる?ユーリスがスープ作ってくれてるよ。」

 ヴィオは私を見上げると小さくうなづいた。


「ほら、俺様特性スープだ。熱いからよく冷ましてな。」

 ユーリスがスープが入ったカップを置いてくれた。ヴィオは両手で持つとふーふーしながら飲み始めた。私はヴィオをそっと抱きしめながらサラサラの銀髪に頬をすりすりした。

「ヴィオ、ありがとうね。助けてくれて。」

 静かにそう言うと、スープを飲む手をとめてカップを置いた。そのまま振り返ると、私にぎゅっと抱きついてきた。

「どうした?ヴィオ、まだ怖いの?」

 抱きついたままヴィオがうなづいたのがわかった。

「くろかった・・・。」

 小さい声でそう言うのが聞こえた。


「ヴィオ、怖いなら無理して言わなくて良いんだぞ。だけど誰かに聞いてほしいなら話してごらん。」

 キリーが珍しく静かにヴィオに語りかけた。ヴィオはそっと顔を上げて私とキリーを交互に見る。ヴィオと目が合った私は大丈夫って思いながら笑いかけた。


「くろいのこわいの。」

「門のほう?」

 ヴィオはうなづく。

「それは初めて見たの?」

 ふるふると首を振る。

「いつも見える・・・。」

「今も?」

 ヴィオはうなづくと私を見上げて、私の周りに視線を動かした。私の後ろ?!


「ヴィオ、それは色が見えるのか?」

 ユーリスが聞いた。ヴィオはうなづく。私たちは顔を見合わせた。やっぱりだ。

「色は人によって違う?色を言えるか?そうだな、ブラウの色はどうだ?」

 ユーリスが続けて聞く。ヴィオは少し考えて私を見上げる。

「あか?」

「私は赤いの?」

 私の少ない魔力が見える? 

「ヴィオ、魔力の多い少ないの違いはあるのか?」

 ヴィオはうなづく。

「私は魔力が少ないから、赤って言ってもどういう赤なんだろう。」

「・・・ちょっと。」

「?」

「見えてる大きさとか量が違うのか。魔力が少ないとちょっとだけ、魔力の多い人はたくさん見えるとか?」

 ヴィオがうなづく。

「はぁ~、すごいな。」

 ユーリスが頭をかきながら感嘆する。

「じゃ、俺はどう見える?」

 ヴィオがユーリスを見る。

「まぶしい・・・。」

「へ?」

 ユーリスが変な声を出した。

「魔力量が多いから光ってるのか?色じゃないんだ。じゃ、オレはオレは?」

 キリーも前のめりで聞いてきた。ところが、ヴィオはうつむいて私に体を預けてきた。そして、小さな声で言った。

「きれい・・・。」


「はぁ?」

 思わず3人で声が出て、そのあと私は吹き出してしまった。


「あははは、ヴィオ、こいつがきれいだって?キリー、どこがどうしたらお前がきれいなんだ?」

 ユーリスが大爆笑してる。キリーがむっとしてさらに困惑した顔をしてる。

「ヴィオ、色が見えるだけじゃないのね。魔力の強い人は光として見えるのかな。」

 ヴィオが私を見上げて首をかしげた。

「わかった、ヴィオにしか見えないんだから気にしなくていいよ。」


 私はヴィオに向かって言ったが、ユーリスはまだお腹を抱えて笑い転げてるし、それを見ているキリーは仏頂面。さらにそれを見ているヴィオはわたわたしてる。そんなヴィオを抱きしめながら、


「ヴィオ。ヴィオが見ている世界は私が見ている世界と少し違うみたいなの。それが見えることで今まで怖い思いをすることがあったと思うけど、今日みたいに人を助けることができる力でもあるの。」

 ヴィオが私の顔を見上げてきた。紫の瞳が揺れている。


「でもね、その力は人の役に立つかもしれないけど、ヴィオが怖いなら使わなくていいし、逃げたり隠れたりしてもいいのよ。私はね、ヴィオには毎日笑っていてほしいの。」

「こわいのわかる?」

 ヴィオが珍しく話しかけてきた。

「うん、ヴィオを毎日見てるからヴィオが怖いとか悲しいときにはわかるよ。これは私の力かな。」

 笑いかけるとヴィオは目を瞠って驚いた顔をした。

「すごい・・・。」


「おいおい、ブラウ。嘘教えるなよ。」

 ユーリスが話に入ってきた。嘘じゃないもん。

「ヴィオ、実は俺もわかるんだぞ、ヴィオが悲しいとか楽しいとか。」

 キリーまで入ってきた。ヴィオが口に両手を当てて驚いた顔をしてる。まだまだ純粋だな~


「おい、2人とも!」

 ユーリスがあきれ顔で言った。そしてヴィオに向いて静かに語りかける。


「ヴィオ、多分、心の中がわかる力がある人はいないんだよ。この二人がわかるって言ってるのはヴィオの顔を見ると『なんとなく』わかるって話だ。だから、相手が悲しいのか楽しいのか知りたい、そして相手にも自分の事を知ってもらいって思うから話をするんだ。」

 ヴィオが膝の上で身じろぎもせずじっとユーリスの話を聞いている。


「そうだね、ヴィオ。私はヴィオが楽しいのか悲しいのかが知りたいって思うから話をしてるけど、ヴィオに無理して話をしてもらいたいとは思ってないの。ヴィオが、これは楽しかったから話したい、うれしいから言いたいって思ったら教えてほしいかな。怖かったこと、悲しかったことは、誰かに言ったら怖い悲しいが少しヴィオから離れていきそうだと思ったら誰かに言ってごらん。でも、悲しいを話すともっと悲しくなりそうだったらその時はまだ言わなくていいんだよ。」


 ヴィオのきれいな紫の瞳が私を映している。そして静かにうなづいた。私はもう一度ヴィオを抱きしめた。


「ぶらう・・・。」

 小さな声だけど少し高い澄んだ声でヴィオが呼ぶ。

「ヴィオ!初めて私の名前呼んでくれたね!」

 私は嬉しくなってぎゅっと抱きしめた。ヴィオは耳を赤くして私の腕の中でもぞもぞしている。はずかしいの?


「聞いてれば名前はわかるか。そういえば自己紹介してなかったよな。俺は冒険者のユーリスだ。」

「俺は同じく冒険者のキリー、ユーリスの相棒だ。」

「ゆーりす・・・きりー・・・。」

 2人が改めて自己紹介するとヴィオがそれにこたえる。ヴィオがうちに来てから3つの季節が過ぎていた。


 魔獣突破事件の後からヴィオは堰を切ったように話をするようになった。まだ私たち3人以外には小さい声になるけれど、少年らしい高めの澄んだ声で話してくれるようになった。


 魔獣事件の後、ヴィオは町で一躍有名人になってしまった。ただ、それが良いことなのか判断がつかなかったので、今までのように朝からずっと店にいるのは控えてみた。ヴィオは私の手伝いをしたいみたいだけど、魔力コントロールをするという理由をつけて毎日のようにユーリスと一緒にいるようにした。

 たまに店にいるときも、アレン隊長は相変わらず苦手らしく、彼が来る前に店の奥へ引っ込んでしまう。魔力がみえるってすごい。


「おはよう、ブラウ。あれ?今日もヴィオはユーリスと一緒か?」

「おはようございます、アレン隊長。 ヴィオは裏で勉強中ですよ。」

 嘘だけど。(笑)

「なんだ~、うちから珍しい菓子を送ってきたからヴィオにもって思ったんだが・・・。」

 相変わらずアレン隊長はヴィオが大好きだ。かわいがりたくて仕方ない。自分の子どもたちと同じ感覚らしい。

 魔獣事件以来、中央門の警備隊員は一新され、アレン隊長の責任は半年の減俸と新警備隊員の教育のため、半年の王都帰還禁止だった。半年家に帰れないのは家族大好きな隊長にとっては死活問題らしい。それだけは!と懇願したって。どんだけ家族大好きなの?(笑) どうやらアレン隊長はオメガの番持ちだったらしい。なので、今は相当寂しいのだ。アルファも大変だね。


「アレン隊長さんや、ヴィオを菓子で釣ろうなんて姑息な。」

「そうそう、怖がられてるんだから諦めなさいな。」

 常連のおばあさま方から痛いお言葉が飛んでくる。アレン隊長は頭をかきながら

「姑息って・・・俺はヴィオと仲良くなりたいんだがな~。」

「大丈夫ですよ、怖がってるわけじゃないと思いますよ。大きな男の人に慣れないだけで。」

 私が半笑いで慰める。

「ヴィオには隊長からいただいたって渡しておきます。いつもありがとうございます。」

 そういってお菓子を受け取る。

「そうか~?じゃ、よろしく。」

 アレン隊長も半信半疑だ。仕方ない。だってアレン隊長の魔力は黒くて光ってて大きいんだって。黒いって魔獣じゃんって思ったのは私だけじゃない。

 

 ユーリスが言うには、ヴィオがもしオメガだとしたら、自覚がなくてもアルファに対して警戒をするんじゃないかと。特にアレン隊長のようにバリバリのアルファなら、潜在的に怖いのかもしれないって。

 私には区別はつかないけど、敏感なユーリスには隊長の魔力とアルファの力が強いのはわかるので、同じく敏感なヴィオにもわかるだろうって。


 そういわれてまじまじ隊長を見てみる。大きなガタイ、赤みがかった茶色の髪と濃い茶色の瞳、顔のパーツもすべて大きく声も大きい。確かに何もかも大きいから威圧感はあるけど私にはただの大きなおじさんって感じだな~って思ってたら、

「なんだ?ブラウ。俺の顔に何か?」

「あ、いえいえ。相変わらずイケメンだなと。」

 じっと見ていたらしく、私はあわててごまかした。

「そうだねぇ、しゃべらなければいい男だよねぇ。」

 常連さんたちがほれぼれ見ている。アレン隊長はなんだかわからず頭をかきかき店から出て行った。あれ?ヴィオにお菓子を持ってきただけなの?私はしばらく笑いをこらえていた。


「ねえ、ヴィオ。アレン隊長ってそんなに怖いの?」

 隊長からいただいたお菓子をおやつに食べているヴィオに聞いてみた。ユーリスと魔力制御の練習が終わって今は3人で休憩中だ。

「こわい?」

「え、疑問で聞く?だってアレン隊長が来ると裏へ引っ込んじゃうでしょう?」

「こわくない。ん~って押されるから。」

「押される・・・?」

 面白い表現。

「圧がすごいって意味か。アレン隊長は魔力も多いが、アルファ特有の相手を威圧する力があるから、それを感じてるのかもな。」

「へ~。色だけじゃなくてそれ以外も感じるんだね。ユーリスも魔力多いでしょ?それは大丈夫なの?」

 私は素直に感心して聞いてみた。

「ゆーりすは押さない。ふわーってくる。」

「風か。ヴィオは風の精霊の祝福を受けているのかもな。魔法も風のコントロールが一番うまい。」

「得意な魔法があるのね。確かにここは風の精霊を信仰してるからね。」

「せいれい?いい匂いの風が吹く人?」

 私とユーリスは驚いて顔を見合わせる。

「風の精霊がわかるのか?見えるのか?」

 ヴィオは首をかしげる。

「たまに・・・。良い匂いの風がくるの、光ってる人がいる? 見えない。」

「すごいね~ヴィオ。私には何も見えないしわからないわ。」

 ユーリスが急に押し黙った。


「どうしたの?」

「あ、想像以上にすごいなって思っただけだ。ヴィオ、これからも魔法をコントロールできるようにしような。」

 ヴィオが嬉しそうにうなづいた。私はユーリスを見ていた。


 おやつの後、ヴィオが裏の畑の水まきをしている。上手にシャワーのような水を出している。虹が出ていてキレイ。横でお茶とお菓子を遠慮なく食べてるユーリスの方に向いて、

「ねえ、さっき何を考えてたの?」

「え?さっき?」

「ヴィオが風の精霊の話をしたとき。話をそらしたでしょ。」

「あ~あれか・・・。」


 ユーリスはお菓子をお茶で流し込むと、

「ヴィオの力が思った以上だから、このままでいいのかと思ったんだ。」

「それは魔力が少ない私にもわかった。あんなにすごい力を持ってる人のこと聞いたことないもの。」

「この前、ヴィオの意志なしに教会に預けたりしていいのかって話をしたよな。確かにヴィオの意志は尊重するべきだが、同時に安全に暮らせるようにすることも大事だと思うんだ。ブラウ、一度教会で見てもらうっていうのはどうだ?7歳だとしたら教会で選定する歳だし。」

「私もいずれは選定のために教会へ連れて行かなきゃとは思ってたよ。ヴィオが不安定だったから先伸ばしにしてきたんだけど・・・・。今も明るくなって話をするようになったけど、まだ自分の事は話さないよね。」

「そこなんだよな~。」

 ユーリスがテーブルに突っ伏してる。


「今教会に連れて行ってオメガだって判定されたら、ヴィオの魔力量もあっておそらく即教会保護だ。ヴィオの安全は確保されて、どこぞの貴族に囲われたり搾取されることなく静かな生活が送れるだろう。ただしヴィオの意志は反映されない。それがこの国のシステムだからだ。」

 テーブルに突っ伏したユーリスの表情はうかがえない。珍しく落ち着いたユーリスの声だけが響く。


「過保護なのかな~。ヴィオがどうしたいか、どうしたら笑って暮らせるか、今教会で暮らして大丈夫なんだろうかって思うのは。7歳だとしても教会へ連れて行くのを先送りにしたくなる。」

 畑で楽しそうなヴィオを見ながら、

「私も同じこと考えてる。オメガだとしてもこのままうちで暮らしちゃダメかな・・・。」

 いつも考えてたことが思わず口から出た。ふいにがばっとユーリスが起き上がった。

「それだ!」

「え?どれ?」

 ユーリスがわたしを見て、にやっと悪い顔をした。


「まずはヴィオの意志確認だな。それから教会、それから・・・。」

「ちょ、ちょっと待って。何何?」

 何か思いついたらしいユーリスに、話がわからない私はあわてて聞いた。


「ブラウ、ヴィオとこれからも一緒に暮らしたいよな?」

「?うん、そうだよ。」

「あとはヴィオがどう思ってるか聞こう。ヴィオ、話がある!」

 ユーリスが畑のヴィオに声をかける。ヴィオは水やりを止めて楽しそうにこっちに向かってくる。

「え、ちょっと急に・・。今?!」


 私は、戻ってきたヴィオを膝の上の乗せた。ユーリスがヴィオに向かい合って話し始めた。


「ヴィオ、大事な話がある。ヴィオは自分の年はわかるか?」

「ママが7歳の誕生日をお祝いしてくれた。」

「あの村にいるときか?」

 ユーリスが聞くと、少しためらった後、


「うん。・・・その時もママとパパは苦しそうだった。お医者さんを呼んだけど、遠いからすぐに来られないって。そのあとどんどん苦しそうになって・・・。」

「ヴィオ、怖くなったら話さなくていいんだよ。」

 私は膝の上のヴィオに言った。ヴィオは振り返って紫の瞳で私を見上げたが瞳は揺れてなかった。ユーリスに向き直ると、


「パパの息が止まって、ママもベッドから起きなくなって、ママが村の誰かに助けてって言いなさいって。ここには教会がないから、助けてもらったら遠くの教会へ行きなさいって。でもママを置いて行けないから外へ出なかったの。」

 ヴィオは一気に話をし、少し息をついてから、


「ママも息が止まってもう『あいしてる』って言ってくれなくなったの。だから村の誰かのお家へ行って助けてって言おうと思ったんだけど。。。。」

「助けてくれる人はいなかったのか。」

 ユーリスが聞いた。ヴィオはちょっと首を振ると、

「誰に聞けばいいのかわかんなかった。村のおうちの中は小さくて僕が入ったら狭くなるから。」

 ヴィオなりに気を使ったのか・・。


「おうちに戻ってもパパとママは起きないし、どうしたらいいかわかんなくて歩いてたら黒い大きなのか近づいてきて、怖くて来ないでってずっと言ってたの。そしたら光の中からユーリスが来て大丈夫って。」

 ヴィオは膝の上で少し震えてる。私は後ろからぎゅっと抱きしめた。お腹に回した私の腕をそっとつかんで振り返って聞いた。

「パパとママを置いてきちゃったの。まだおうちで寝てるのかな。。。」

 私は胸が痛くなった。そのままヴィオの頭に頬を寄せた。


「ヴィオ、お父さんとお母さんは亡くなったのはわかるか?」

「うん。。。もう目を開けないんでしょう?愛してるって言ってくれないんでしょう?」

 ヴィオが涙声になっているのがわかる。

「そうだ、二人は今あの村の端のお墓に入ってる。 そのうち一緒に行こう。」

 ヴィオは静かにうなづいた。


「なあ、ヴィオ。7歳になったら教会へ行って、選定の儀っていうのを受けるのは知ってるか?」

「お誕生日が来る前に、ママとパパが言ってた。でもお誕生日の時には行けなかった。」

「そうだな、選定ができるのが大きな教会だから、この国の中央教会へ来るつもりだったんだろう。」

 うつむいてるヴィオにユーリスが話しかけていく。


「選定ってなんだかわかるか?ヴィオがアルファ、オメガ、ベータのどれなのか見てもらうんだ。もしオメガだったら教会に入って生活することになる。」

「おうちに帰らないの?」

 顔を上げたヴィオがユーリスを見る。


「話が難しいかもしれないが・・・。オメガだったら、国が保護してくれるんだ。たまにいる怖いアルファから守ってくれる。まして、ヴィオは魔力が多いから、いろんな人がヴィオの力を利用しようと狙ってくるかもしれない。嫌なのに魔法を使わされたりするかもしれない。そこからも守ってもらえる。」

 ヴィオはじっと聞いていたが、私の方を振り向くと

「ぶらうに会えなくなる?ゆーりすときりーにも?」

 紫の瞳が揺れる。私は何と言っていいかためらっていると、


「確かに、ブラウや俺たちとは違う生活になるだろう。全く会えないわけじゃないが、今のように一緒に寝たり食事したりって訳にはいかなくなる。」

「・・・・。」

 ヴィオは押し黙ってうつむいた。


「ヴィオ、私はね、ヴィオが誰からも怖い思いをさせられないで生活してくれたら良いなって思ってるの。笑って楽しく大人になってほしい。それはヴィオのママとパパもそう思ってると思う。」

「ママとパパも?」

「そう。だからね、ヴィオにも考えてほしいの。ヴィオが毎日怖くなくて楽しく笑って大人になるためにどうしたらいいのか、ヴィオはどうしたいのか。難しいかな。。。?」

「きょうかいへ行けば怖くない?」

「うん、そうだね。教会はよく行ってたの?」

「うん、ママとパパはきょうかいへ行ってお仕事してたの。お祈りしたりお手伝いをするって。」

「そっか、、、なら教会の中ことや神官さまたちの事は知ってるのかな?」

「うん、しんかんさまはやさしかったよ。」

 ヴィオの言葉にユーリスが続ける。


「教会に入ればその神官たちと一緒に生活するようになる。仕事もおそらくお母さんたちと同じで祈ったり、手伝ったりあとは勉強したりするだろう。両親といるような生活じゃないが、静かで平和な生活が送れるだろう。」

「ぶらうは来てくれる?」

「時々会いに行くことはできるかもしれない。でも、教会に入ったら色々と勉強したりして忙しくなると思うけど、同じ年の子たちがたくさんいるだろうから楽しいと思うよ。」

「みんなに会えないの・・・。」

 ヴィオは再び下を向いてしまった。


「ヴィオ、この国の決まりとして、オメガだとわかったら教会で保護することになってる。それがオメガのためなんだと。強すぎる魔力の子も同じだ。子どものための決まりだと言っていい。」

 いつになく静かな語りのユーリスを、ヴィオはじっと見る。

「だが、子どもたちの希望は聞かれてない。みんな両親から離れて生活してるが、子どもたちが希望したわけじゃない。」

 ユーリスが一息ついて続ける。


「そこでだ、ヴィオ。ヴィオがどうしたいか言っていいぞ。教会で神官たちと生活したいか、ここでブラウと生活を続けたいか、それともまったく違う世界で生活したいって言ってもいい。」

「え?ユーリス、ちょっと待って。今ヴィオに選ばせるのは難しいよ。」

 私はあわてて口を出した。だがユーリスは落ち着いて静かに続ける。


「そうだ、今のヴィオに決めろっていっても難しいだろう。だが、逆に『今』ヴィオがどうしたいかの希望は聞ける。将来のことは先になってから決めればいい。」

「ずいぶん楽観的ね。今の希望だって聞いてもらえるのかわからないじゃない?」

「それはヴィオの希望内容によってだな。」

 ユーリスが意味深に笑う。何よ。


「ヴィオ、先のことは考えなくていい。『今』ヴィオはどうしたい?どんな毎日がいい?」

 ユーリスがヴィオの向かって聞いた。ヴィオはまっすぐユーリスを見つめて、


「ここにいたい。ぶらうと一緒にご飯食べたい。ゆーりすと魔法をしたい。きりーに剣を教えてもらいたい。お店でお客さんとお話ししたい。お店のお手伝いをしたい。畑のお世話をしたい。あれん隊長からお菓子もらいたい・・・・。」

 次々と言うヴィオにユーリスも私も圧倒されつつ突っ込み満載で笑い出してしまった。

「わかったわかった、ヴィオ、アレン隊長のお菓子おいしかったんだね。」

 ヴィオは言い切った後にハッとして恥ずかしくなったのか赤くなった。


「ヴィオの希望はわかったよ。このままこの町でみんなと一緒にいたいんだな?」

「うん。」

 ヴィオが珍しくはっきりと返事をした。

「で?どうするの?ヴィオの意志はわかったけどそれをかなえるためにはハードルが高い気がする。」

「まあ、任せとけ。策はある。」

 またユーリスが悪い顔をした。ええええ、違法は勘弁して~。


「ヴィオ。ヴィオがどうしたいかわかってよかった。私もヴィオと一緒に毎日笑って生活したい。ちょっと難しかもしれないけど、それがかなうように頑張るよ。」

 私がそう言うとヴィオは嬉しそうに笑った。キレイだなぁ~。


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