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ベータのくすり屋  作者: 碧海


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11/14

ヴィオのちから

 その日は珍しくユーリスもキリーも依頼がなく、朝からヴィオの相手をしてくれていた。私は開店から忙しくてヴィオの相手をしてあげられないから助かった。急な冷え込みで風邪をひく人が増えてきたからだ。


 昼過ぎにようやく落ち着いてきたので、店を休憩にして遅い昼食を食べに行くことにした。ユーリスたちにねぎらいの意味もある。

「ジョアンさんのところへ行こうか。あそこなら昼過ぎでもランチやってるはずだよ。」

「お、今日はブラウのおごりか?」

 ユーリスがすかさず言う。

「はいはい、今日のヴィオの先生代ですね。」

 ヴィオは私と手をつないでジョアンさんの宿屋兼食堂へ向かう。魔法制御と鍛錬の後だけど疲れを見せずに楽しそうだ。

「ヴィオ、魔法と鍛錬は楽しい?」

 と聞くと、コクコクうなづく。無理してたらいやだなと思っていたので少し安心。


 ジョアンさんの店はうちより中央門に近い。遠くに門が見えた。今日はずいぶん人が集まってる。荷馬車が何台もついたのかな?って思っていたら、ヴィオのつないだ手がぶるぶる震えてきた。見ると顔もこわばって何かつぶやいた気がした。

「くろい・・・・。」

「ヴィオ、どうし・・・?」

 言い終わらないうちにユーリスがいつになく焦って叫んだ。

「まずい!あの荷車の中は魔獣だ! あいつら、解体せずに持ち込んだな! まだ生きてる!キリー行くぞ! ブラウ、ヴィオと建物の中へ!」

 と言って中央門へ走って行った。


「ヴィオ、とにかくどこかへ入ろう!」

 何がどうなってるかわからない私は、震えるヴィオの手を引いて来た道を引き返す。町の中心部の方が建物も多い。どこか近くの店に入れてもらおうかと思っていると、後ろの方から咆哮とともに人の叫び声、何かが壊れる音。


「ヴィオ、走るよ!」

 振り向くのが怖い私はヴィオを抱えると走り始めた。怖くてもつれそうな足を必死に動かした。

「ヴィオ、絶対守るからね!つかまってて!」

 見なくてもわかる、唸り声とともに『なにか』か後ろから迫ってきている。

「ブラウ!ヴィオ!」

遠くでユーリスの叫び声、と同時に、

「来ないでーーーーーーーー!!!!!」

 抱えているヴィオが後ろに向かって腕を出し聞いたことのない大きな声で叫んだ。


 ドーン!という衝撃音とともに後ろからものすごい衝撃で押された気がした。その場に膝をついた時、土煙と強風が後ろから吹いてきて、私はヴィオに覆いかぶさるようにその場にうずくまった。あたりが真っ白になりさっきの轟音で耳も聞こえない。


 私は体を起こし腕の中のヴィオを見ると、気を失っている。

「ヴィオ!大丈夫?どうしたの?」

 何が起きたかわからない私は、どうしようと思ってヴィオを抱えたまま濛々とした土煙の中振り向いた。 


 だんだん土煙がおさまってきて、うっすら見えてきたのは、煙の向こうからユーリスとキリーがすごいスピードで駆けてくる姿と、穴・・・・?


「ブラウ!ヴィオ!」

 ようやく耳も聞こえるようになってきたが、私は中央門にくぎ付けだ。煙が晴れた先に見えた中央門は壊れ、壁の上には黒い穴?何かが食い込んでる?


「ブラウ!大丈夫か?ケガは?」

「2人とも大丈夫か?」

 ユーリスとキリーがそばに来てくれた。

「何がどうなってるの?ヴィオは気絶して。。。」


 私は2人を見て安心したのか今になって急にガタガタ震えだした。

「もう大丈夫だ。ブラウ。」

 ユーリスがマントを脱いでヴィオを抱えている私ごとふわっと包んでくれた。暖かくてなんだか安心する。私は緊張が解けたのかその場で泣き出してしまった。 ユーリスがマント越しに私たちを抱え、「もう大丈夫だ、安心して。」と繰り返し言ってくれた。


 少し落ち着いてきたら、キリーが私からヴィオを受け取って抱き上げてくれた。

「魔力切れだな。派手にやってくれたな~。加減なんかしてないだろうから全力で吹き飛ばしたな。魔力切れなら寝れば治る。安心しなブラウ。ヴィオはよくやったよ、ブラウを守ったんだ。」


 それを聞いて安心したら急に気が抜けたみたいで力が入らない。支えてくれていたユーリスが私の名前を呼んでいる。その声がどんどん遠くなっていく。


 気が付いたら自宅のベッド、部屋が暗い、夜?ヴィオが横に寝てる。私にくっついてすやすや寝息を立てている。安心した。横を見るとユーリスが椅子に座って仮眠してる。


「お、気が付いたか。」小さい声で言う。

「えと・・・。」

「まだ夜明け前だ、もう少し寝てればいい。」

「喉乾いたし、お腹もすいたから起きる。」

「ゆっくり起きろよ。」


 ヴィオを起こさないようにつかんでいる手をそっと外すとちょっと身じろぎしたがそのまま寝てる。ユーリスが背中に手を添えてゆっくり起こしてくれた。そのまま私の膝の裏に手を入れるとふわっと抱き上げられた。

「わわ!」

「静かに、ヴィオが起きるだろ。つかまってろ。」


『緊急時緊急時・・』と心の中で言いながらユーリスの首に腕を回す。顔が熱くなってきた。

 下に降りるとキリーもいた。私に椅子を譲る。ユーリスがそっと椅子におろしてマントをかけてくれた。はずかし~


 キリーがキッチンから水を持ってきてくれる。のどが渇いていた私はごくごく一気に飲み干した。その間にユーリスがお茶の用意をしながらスープを温めていた。


「夕べ泊ったからキッチンと食材借りたぞ。」

 言いながらスープとちょっと炙った白パンを置いてくれた。野菜の良い匂い。


「夕方パン屋のおかみさんがお見舞いだって持ってきてくれた。ほかにも町のみんなが心配とお礼だっていろいろ持ってきてくれたよ。」ありがたい。


「で、いったい何があったの?」

 私はスープとパンで体が温まったので早速2人に向き合った。ユーリスが順番に話してくれた内容は驚くばかりの事だった。


 ユーリスたちが中央門に向かっている途中で魔獣が荷車を破壊して飛び出し、ユーリスたちを飛び越え町の中央、私とヴィオの方へ向かってきた。とっさにユーリスが拘束魔法で魔獣を止めた。攻撃魔法では私たちにも影響が出ると思ったからだった。そこへヴィオが魔獣に向けて魔力を放ち、吹き飛ばされた魔獣は中央門に食い込んだという訳だった。


「それだけ聞くと簡単に聞こえるけど、実際は相当大ごとなんじゃないの?」

 お茶を飲みながら私が聞くと、

「まあ、確かに・・・言うほど単純な話じゃなくなってる。」


 横からキリーが整理するように話し始める。

「まず冒険者たち。あいつらは、魔獣を仕留めたら壁外で解体して素材としてギルドに持ち込むというルールを無視して本体のまま町に入れようとした。初心者っぽかったから、仮死状態なのを分かっていなかったのかもしれないが、そもそもギルドでは本体は引き取らない。もしかすると、本体が欲しい奴から闇依頼を受けたのかもしれない。」

「闇依頼?」

「ああ、本来は取引禁止のものをギルドを通さず採集依頼をすることさ。報酬は破格だが、ばれたら依頼主も依頼された側も拘禁刑が待ってる。」

「ダメじゃん。」

「そうだよ、割に合わない仕事のはず。それをどこかの馬鹿が魔獣生け捕りの依頼をしたんだろうな。初心者ならリスクより報酬をとったんだろう。馬鹿な奴らだ。刑罰と合わせて、もう二度と冒険者登録ができなくなるっていうのに。」

「さすがに厳しいんだね。」


「ギルドは依頼主も冒険者も守る組織なんだ。だから違法者は容赦しない。そうしなければ今回のように関係ない人を巻き込むし、場合によっては王都にまで危険が及ぶからね。」

 ユーリスもお茶を飲みながら説明してくれる。


「次に、中央門の警備隊。アレン隊長が文字通り鬼になってたよ。今回魔獣に生きたまま中央門を突破された形になったから、警備隊の面目丸つぶれ。」


「結局、警備隊じゃなくて、冒険者でもある一般人の俺と、さらに子どもヴィオに魔獣退治されたって訳だ。」

「あ~。アレン隊長の怒りが目に見えるわ。」

 私は思わず笑ってしまったが、キリーはまじめな顔で、

「今は食い込んだ魔獣の回収と門の修復で大わらわだが、終わり次第今の中央門警備隊は全員任を解かれて中央に返されるだろう。騎士団へ戻って再教育される。それもかなり厳しく。」

「自業自得だな。子どもに後れを取ったったんだから。」

「なんだかこのまま話を聞くのが怖くなってきたわ。」


「最後にヴィオだ。」

 キリーが珍しく大きなため息をついた。


「そうだ、何でユーリスは生きてる魔獣がいるってわかったの?」

 私はついつい疑問を口にして話題を変えた。

「あ、そっちか・・・。」

 ユーリスが頭を掻き少し言い淀んだ。


「う~ん、ヴィオを見つけた時と同じっていうか・・・。前にも言ったけど、魔力に敏感なせいか魔力を香りとして感じるんだよ。今回は生きてる魔獣の匂いがしたんだ。」

「それはユーリス特有って言ってたけど、ヴィオもそういうのあるのかな?」

「ヴィオが?」

「うん、ユーリスが中央門に向かう時に、ヴィオも震えだしてて、確か『くろい』ってつぶやいてた気がするの。すごく怖がってた。」


 するとキリーが腕組みしながら

「もしかするとヴィオもユーリスと同じで魔力を感知できるのかもしれないな。あれだけの魔力だ。ユーリスは匂いっていう形だけど、ヴィオは色かもしれないぞ。」

「魔力が見えるってことか?」

 ユーリスも感心したように言った。


「これは本人に聞いてみないとわからんが、ヴィオは俺たちと違うものを見ている可能性はある。」

「魔力の色が見えるなら、魔力の強い人ほど怖いのかもしれない。」

「ユーリスは大丈夫でアレン隊長が苦手なのもそのせい?」

「まあ、可能性だけどな。」

 私たちはテーブルを囲んで押し黙った。確かに単純な話ではなくなってきた。


「もし、もしもよ。ヴィオが魔力が見えるってことがわかったらどうなるの?」

 私は不安になって聞いた。

「狙われるだろうな、あらゆるところから。」

  明け方の冷気が入ってきたのかと思うくらい、背筋が寒くなった気がした。


「そうでなくても、今回のことでヴィオの魔力がものすごいってことはみんなに知れ渡ったんだ。町の人は英雄扱いだが、騎士団やアレン隊長はヴィオの魔力に警戒している。子どもがあんなに大きな魔力を使ったんだ、制御できないなら危険では?という意見も出てる。それに加えて魔力が見えるってわかったら、早晩教会で保護した方がと言う話が出るだろう。」

 キリーが珍しく眉間にしわを寄せて言った。 


「そして、これはまだ憶測だが、ヴィオはたぶんオメガだ。」

 ユーリスも深刻な顔で付け加えた。


「こうなると貴族やあらゆるところから自分のところに取り込もうとする輩が出てくるだろう。そこから守るという意味でも教会で保護してもらった方がいいかもな・・・。」


「で?ヴィオの意志は?」

 静かな部屋に私の声が響く。うつむいていた2人がはっと顔を上げた。


「魔力が強いのもオメガなのもたまたまそう生まれただけで、ヴィオが望んだことじゃない。それなのに保護と言う名のもとにヴィオの意志を聞かずに自由を奪うの?ヴィオはどうしたいのか聞かないの?」


 2人とも目を瞠って私を見た。

「そっか、ヴィオの意志・・・。俺たちはヴィオの事を心配はしてるが、どうしたいかは聞こうとせずに勝手に決めようとしてたな。」

「ユーリス、それは・・・。」

 キリーが何か言いかけた時、ユーリスが階段の方を見た。

「ヴィオ?」

 カタン、と2階で扉の音がした。ヴィオが起きたのかも。


「ヴィオの気配がわかるの?」

「ああ。降りてくるな。」

 私は不思議な気持ちでユーリスを見た。ユーリスもまた、私にはわからない世界を感じているのかもしれないと。

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