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ベータのくすり屋  作者: 碧海


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10/14

ヴィオのこと

「みて~~~~!」

 裏の畑からかわいい声がする。ヴィオの声だ。今日はユーリスと魔力制御の練習をしているはず。見に行くと、ヴィオの両手から霧のような水が噴き出していて、畑全体に水を撒いている。霧状なので虹がかかってる。


「すごいね~。畑にまんべんなく水を撒けるようになったんだ。」

「魔力制御がうまくなってきたから、魔力の強弱もうまくなってきたな。」

「そうね、前は台風かっていうくらいの大水だったからね~。」

 ユーリスと私が笑いながら言うと、ヴィオはちょっとすねたような顔をした。途端に水があちこちに飛び始めユーリスが水浸しになってる。


「こら、ヴィオ。魔力出してるときには油断するな!」

「あははは!ヴィオ、そろそろ止めてあげなさい。」

 私は笑いながらヴィオに言った。ヴィオは渋い顔をしながら魔法を止めた。私は生活魔法しか使えないけど、それでも使う時には詠唱したり、魔法陣を利用したりしてるのに、この二人はそんな感じがない。普通に魔法を出してる感じ。


「ねえ、ユーリスもだけどヴィオも魔法使う時に詠唱とか魔法陣は使わないの?」

 ユーリスにタオルを用意しながら聞いてみた。


「う~ん、俺も魔法はほぼ自己流だからな~。気が付いたら魔法使ってたし、魔法の規模が大きくなったんで慌てた親が魔法士呼んで制御を習ったんで、基本詠唱や魔法陣は使ってなかったんだよ。いまだにそっちは慣れないかな。だって早いし(笑)」

 ユーリスが魔法の先生で大丈夫?ってちょっと思った。


「私は大きな魔法が使えないからわからないけど、そういうもんなの?」

「俺が教えちゃったせいなのかな、ヴィオも無詠唱でできるんだよ。ただ、誰でもできるわけじゃないとは思うよ。ヴィオに魔法の才があったからこの年でもできるんだと思う。」

 ユーリスはタオルで体を拭きながら言った。ヴィオは水浸しになったあたりを風魔法で乾かしてる


「あれも繊細な制御がうまくなったからできるんであって、普通なら土ごと吹き飛ばしてるよ。」

「ヴィオは天才だねぇ~」

 私が感心してると、ユーリスが胡乱な目で私を見て

「ホント、親バカだよね。普通魔力が強いと怖がるんだけど・・・。」

「ヴィオの可愛さが最強なだけ。 ヴィオ~、あんまり乾かしすぎなくていいよ~。そろそろ上がっておいで。」


 やれやれというユーリスを横目にヴィオに声をかけた。ぱあぁっと笑い顔を見せてこっちに向かってくる。うんうん、きれいでかわいい!


 ヴィオは楽しいときや私に何か呼びかけたいときだけ声を出すようになってきた。ただし、楽しいうれしいという時限定だ。それ以外で寂しいとか悲しいとかの感情で声は出していない。私も声が出たという事実だけで、会話をしようとは思っていない。ヴィオの表情だけで十分わかるし、Yes,Noの意思表示があれば生活は成り立つからだ。それはユーリスとキリーとも共有している。第一、理解力があるのでこちらの話はほぼ理解できてる。


 ヴィオは私を呼びたいときは、私の服をちょいちょいと小さくつまむ。遠くにいるときはわざわざ近くに来て同じようにするので不便はないようだ。遠くと言ってもそんなに離れる事がないので今はこれでいいと思ってる。


 ある日、珍しく長い護衛の依頼を終えてユーリスとキリーが帰ってきた。

「お帰り、長期の依頼だったね。遠方だったの?」

 夕飯も済んだ遅い来訪だったので、何かあったなとは思った。すでにヴィオは寝ている。私は2人に軽い夜食を用意した。


「隣国中央までの片道護衛依頼だったから、帰りにヴィオの事を聞いて回っていたんだ。親戚とか知り合いがいないかとね。」


 ユーリスは夜食を食べながら話し始めた。

「前に境界の村で聞いた話だと、ヴィオの両親はどうも巡礼神官だったらしいということ。容姿はヴィオに似ていたみたいなんで、それを頼りに隣国中央の教会で聞いてみたんだ。」


 隣のキリーがスープを飲み干して、

「中央教会に所属してる神官ではなかったんだが、巡礼神官が通った時の記録が残ってて、そこに神官夫婦の記録があった。夫婦の巡礼神官は珍しいから中央教会の神官が覚えていて、子供が一緒だったからで多分そうだろうと。」

「じゃ、ヴィオはもっと遠いところで生まれたってこと?」

「もしかすると、帝国中央かもしれない。」


 ユーリスが食べ終わってお茶を飲みながら言った。

「帝国?どこ?」

「あはは、そうだよな、遠すぎて縁がないな。隣国よりさらに先に大きな帝国がある。ここシェーングレンは帝国から分かれた分家みたいなものかな。遠い親戚だと思えばいい。」

「ふ~ん。」

「シェーングレンは周りに魔獣がいる森があるから、昔々魔獣討伐の拠点として帝国の王族の一人がこっちで立ち上げたって歴史がある。国の歴史書で習わなかった?」

「うちは商家だから、国の歴史はさらっとだし、魔力が少なかったから魔法学校行ってないもん。」

「まあ、大昔の話だから知ってる人は少ないかもね。」

 ユーリスはさらりと言ってのけた。知ってるんかい。


「一応遠い親戚の分家だから、帝国と国交はあるし、関係は良好と言ってもいいかな。距離も遠いから向こうは辺境の国って感じで気にしてないかもね。ただ魔獣を帝国に近づけないでくれって感じで。」

「ずいぶん都合がいいわね。」

「王族なんてそんなもんだろ。」

 いや、そんなの知らないし。


「だから宗教もなんとなく近くて精霊は違うらしいけど同じような精霊信仰の国なので、中央の神官たちは巡礼でシェーングレンの方へ来ることもあるらしい。」

「それでヴィオたちはこっちへ向かっていたんだ。」


 同じく食べ終わったキリーが参加してきた。

「巡礼だけの理由じゃなかったみたいなんだ。」

「?」

「隣国に着いた時にはヴィオはすでに生まれてて、もう魔力過多の片鱗は見えていたそうだ。魔力暴走を恐れた夫婦は、中央を離れてシェーングレンに向かったって言ってた。」

「なんでシェーングレンなの?」

「ヴィオは風の精霊の祝福を受けていたみたいで、小さいころから強風を起こしてたらしいんだ。だから、風の精霊アイオロスを信仰の中心としてるシェーングレンでヴィオを育てようと思ったらしい。」


 ユーリスが話を引きつぐ

「その途中で流行り病にかかったみたいで、どうにかたどり着いた隣国の境界の村で2人とも息絶えてしまったらしい。村に着いた時にはすでに重病だったみたいだ。」

「そんな・・・・。」

「本来ならば隣国の教会で保護することもできたはずだが、何せ田舎の辺境の村。どうしたらいいかわからないまま、ヴィオは村の外へ出てしまい魔力暴走を起こしたらしい。」


 私はヴィオの両親のことを思った。シェーングレンを目指してたのに目前で息絶えた二人が気の毒でならない。

「それで、ヴィオの親戚とか知り合いとかは見つかったの?」

「それなんだが・・・。」

 ユーリスはお茶を飲みながら言い淀んだ。


「神官夫婦の子どもだってことはわかったんだけど、両親の出自は帝国でないとわからないかもしれない。そもそも神官になった時点で神に仕える身として家とは縁が切れるんで家名がないんだ。だからもともとどういう家の人間かってわからないんだよ。」

「え~なんで?」

「神に仕える神官は、身分にかかわらず平等だっていうのが教会の教えなんだよ。だから貴族も平民も同等に扱われるんだ。」

「へ~。良いことだけど、こういう時に困るのね。」

「そうだな。」


「あ、わかったこともあったぞ。ヴィオの名前と両親の名前だ。記録に残ってた。」

「そっち早く言ってよ!」

 催促する私にユーリスがにやにやしてもったいぶって言った。

「セレブロ神官とブランカ神官、そして子供がルナリオだ。」

「ルナリオ!きれいな名前だね。ヴィオにピッタリ!」


「ただ、それもいろんな情報を踏まえた『そうかもしれない』というだけだ。実際にヴィオが自分の名前がルナリオだと言わない限りな。」

「それは難しいね・・・。」

 今のヴィオの状態では、自分の名前や両親の名前を自分から口にするのは難しい。まだ心の傷が癒えてない状態で、両親に関することを聞くのはかわいそうだし、せっかく明るくなってきたのにまた殻に閉じこもってしまうかもしれない。

「この話をヴィオにするのはまだ早いね。」

「そうだな。」

 私たち3人は同じことを考えていたようだ。両親の事、ヴィオの名前含めて話すのは先送りにすることにした。


「ヴィオの両親については、帝国の中央教会へ問い合わせないとわからないので、そっちは伝手を探して調べてみるよ。」

「伝手があるの?」

「俺たちも伊達に傭兵やってないよ。情報は最大の武器だからな。」

 キリーがにやりと笑って言った。なんだか不穏。

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