8話 支えとなるあの姿(楓)
8話 支えとなるあの姿(楓)
ステージ上での輝く鈴音の姿を見て思わず、「敵わないな…」と言葉を漏らしてしまった。
鈴音は目まぐるしい速度で進化していき、気がつけば私のことなんて簡単に追い越していた。
あのステージでの鈴音の輝き度合いといえば「私は初めて見ました」と言うのが正しいだろう。その前にユアユイ(里見学園の先輩2人のユニット)や、保真麗や香織のステージ(この前のイベント)などを観だけれど、鈴音だけは飛び抜けて輝いていた。
そんな鈴音の姿を見て私は頭の中に1つの疑問が浮かんでいた。
私はこの1年間、アイドルとして何をしてきて、何を学んだのだろうか。そして、何のためにアイドル活動をしてきたのか。
バスの窓から冬の冷たい雨が降っている外を眺めながらそんなことを思ってしまう。そんな自分に呆れつつ、ハァっとため息をつく。平日の昼間の市内を走るバスは、寂しいくらいまで乗客が少ないので、私1人のため息でも大きく感じてしまう。
自分のつく溜め息がよく聞こえるというのは、更に気持ちを重くさせてしまうので大変良くない。そう分かっているけれど、そのようになってしまう程に、私の気持ちは沈んでしまっている。
バスを降りて『HOT beetle』の事務所へ行くまでも、街中を歩きながら考えている。
右手側に警固公園が見えてクリスマスの一連の出来事を思い出す。あの頃は、私達は香織のことでアイドル活動のことをジックリと考えられる時間なんて全く無かった。
ステージに立っている時も香織のことで頭がいっぱいで、ライブをした時のことなんて鮮明には覚えていない。というより、記憶に残りづらかったのだ。Cosmicrownの5人としての初めてのイベントで楽しみにしていたのかもしれないけれど、いざ始まってみれば普通のイベントとなんら変わりはなかった。
ステージ上で隣に居た鈴音からは特別なものを何も感じなかった。
今の鈴音と昔の鈴音では何が違っているのか……。私には特別な変化の原因は分からずに、分かることとしては、いつの間にか完全な実力差をつけられたことだけだ。
※ ※ ※ ※ ※
『HOT beetle』での仕事が終わる頃にはおやつの時間になっており、2月の凍てつくような寒さも少しばかり緩み暖かくなり、微かにではあるが喜びの気持ちも無い訳ではない。私自身が、寒暖が激しいのは苦手なタイプで、また私の体がとりわけ強いと言う訳では無いので、生温いのは嫌いじゃない。
県がバス王国であるが故の排気ガスいっぱい、近くにパチンコなどがあるせいでのタバコの煙、そんな酷い空気を呼吸するために仕方なく体に取り入れながら、私の次に行くべきところである《ミュージック・スターズ》の事務所へと向かう。
来月にはCosmicrownとしての2回目となるイベントがあり、トーナメントとの練習と同時並行で練習をしていかなければならない。
そもそも私がトーナメントに出ることができるのか不安ではあるけれど、出る前提で考えるしか気を保つ方法はないからそう信じておくとしよう。
「出てみたいな、トーナメント……」
トーナメントのことを考えれば考える程、気持ちは徐々に暗くなっていく。自分の夢が目の前から消えかかりそうで不安になる。
大切なものが消えそうになるたびに怯えるもう1人の私が心の中から出てこようとしてるのがわかる。
そうだったんだ。トーナメントに出るという夢は私にとって大切なもので、私の支えでもあった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
夢の舞台に立って優勝旗を自らの手で勝ち取ることを、小学校の頃から私は願っていた。
それに向かって突き進めるから、決してダンススクールはやめなかった。それに関しては、イジめられていた小学校生活からの現実逃避という理由もあったけれども、主な理由はトーナメントに出るという夢だった。
そもそも、なぜアイドルになりたかったのか。どうしてダンススクールに通い始めたのか……。
あの頃の記憶を今でも鮮明に覚えている。
あの時の私は、僅かの時間で彼女らの虜になってしまった。
派手な演出が施され煌びやかに光るステージに2人は立っていた。美しい立ち姿の2人は、ドームの2階席から見ていても特別なオーラを纏いステージ上で輝いていた。
ドーム内に多くの歓声が響いて、その歓声をステージ上でたった2人だけで受け止めていた。その場にいる誰もが幸せそうな笑顔で、とても楽しそうな笑顔で、彼女らに夢中になっていた。
その当時の私も、多くの人と同じく完璧なライブに興奮して夢中になって歓声をあげた。私の両親も同じように彼女らに夢中になって歓声をあげていた。
私の周りを見渡せば、誰も彼もが楽しそうな笑顔。応援グッズを掲げて「〇〇ちゃーん!」と叫んでいるいい歳している大人もいた。
ライブを見てから私は彼女らに心を奪われてしまった。彼女らのライブは圧巻で、これ以上のライブを観ることは無いだろうと思った。(というより今でも思っている。)
彼女らのユニット名は『double・T』だった。
いつか私もあのようになりたいと決意して今のこの気持ちに至っている。
※ ※ ※ ※ ※ ※
過去のことを振り返りながら歩いていると気がつけば《ミュージック・スターズ》の事務所に着いていた。
エントランスのとこにはトラックが数台止めてあり、その中から多くの機材が中へ運び込まれていた。運び込まれてゆくのは、夜からのバラエティー番組に使われている機材ばかりで、私としても見る機会が少ないので、少しばかり興味をそそられる。
「あら、楓ちゃん?」
「先輩達!久しぶりです!」
声をかけてきたのは、里見学園の2年生である優亜先輩と結衣先輩だった。
2人は双子の姉妹であり、外見だけではほとんど違いが見分けがつかない。見分けをつけるとするならば、髪の色の違いと目つきの違いだろうか。優亜先輩の方が若干ツリ目がちで結衣先輩の方はタレ目がち。
人の目つきは人間性がよくわかるものとして世間では言われているけれど、実際そのような噂も間違いではない。
優亜先輩はちょっとサバサバしたところがあるけれど結衣先輩は柔和な性格で基本的にはのんびりとしている。
まとめると2人は、見た目は違うけれど性格は全く違うということになる。
そんな2人で構成されたユアユイというユニットがあるのだが、そのユニットは全国レベルで、今、流行の最先端を突っ走ろうとしているアイドルユニットだ。
ユアユイは《ミュージック・スターズ》所属であるので、こうして時々会うことがある。
2人にはCosmicrownを結成する時にお世話になったから、感謝の気持ちはあるし、また2人に携わってもらいながらユニットを結成したというのは、私の誇りである。(決して私が凄いのではなく、ただ嬉しいだけ)
「他の人達が来ていないのを見ると今日はお仕事があったの?」
結衣先輩は辺りをキョロキョロと見渡しながら私に問いかける。結衣先輩の声が少し甘いせいで昼の温もりと共になり、私の気持ちをノンビリさせてしまう。
「そうですね。私は『HOT beetle』での仕事がありまして、そのまま此処に来たわけです」
あはは、と、愛想笑いをして結衣先輩に答えると、優亜先輩は「楓、仕事頑張ってるのね。」と、私の頭を撫でてくれる。
「そういえば、あと少しでトーナメントだ。あなた達と決勝の舞台で会えるのを楽しみにしてるよ」
優亜先輩がニカっと笑うと同時に、エントランスから冷たい空気がビューっと入ってきて私の背中にぶつかってゆく。背筋が一気に凍りついたような気になってしまい、自然と背中がまっすぐ伸びて姿勢が良くなる。
「そうだね、桜咲学園が決勝の舞台に上がってくるのを楽しみにしてるよ」
結衣先輩もそうは言ってくれるけれど、桜咲学園が決勝までいけるかも怪しいところだし、そもそも私が出ることができるのかも怪しい。
里見学園は去年の優勝校であるから今回大会にシード権が付与されて、トーナメントを進まずにいきなり決勝に行けるらしい。
決勝までの大変な道のりを通らなくていいからなのか、それとも自分達が居るから今年も優勝できると確信しているからなのか、2人ともやけに余裕そうな表情である。(去年の優勝はユアユイのおかげであると言っても過言ではない、むしろ彼女らのおかげであると言うのが正しいくらい。)
そもそも、私達が決勝なんていけるの……?
心の中でそう思ったけれど、自分と桜咲学園アイドル部についてじっくりと考えて見直してみる。
私は『HOT beetle』の所属アイドル、東田 楓である。
桜咲学園には、松崎先輩・桜田先輩、Cosmicrownリーダーである香織、『GND』所属の鈴音、この前のバレンタインオーディショントップ通過の保真麗、と、メンバーは豊富に揃っているのだ。
そう思うと決勝なんて意外と現実味のありそうな夢だと感じる。桜咲学園だって負けるわけない、決勝まで行きそのまま優勝を勝ち取れる。そんな気さえしてくる。
「絶対に優勝を勝ち取ってみせます!」
私の言葉を聞いた2人は互いに目を合わせて頷き、「待ってるよ、頑張って!」と私に告げて去っていった。
その堂々たる後ろ姿は、さすがの中学生アイドル界トップの風格があり、まるであの時の2人と同じようなオーラを漂わせていた。
久しぶりの投稿となりました、これから2期の本題であるトーナメント編に入ります
さて、3期やら考えたり、新作考えたりしてると早くも時が経ってしまいましたw
あと数話になりますが、ギャルズメロディーをよろしくお願いします
Twitterのキスよりルミナスもよろしく




