7話 告げる愛、告げられる想い(香織)
7話 告げる愛、告げられる想い(香織)
告げる愛があり、告げられる想いで盛りあがるイベントが1年に1回ある。
大切な人にチョコを渡す人、チョコを友達にあげる人、チョコに恋心をのせて愛を告げる人。
その人達に対して自分の想いを告げる人も居る。
夕方の教室。暮れかかっている夕日が彼を照らして、彼の美しさを一気に引き立てる。その姿を目の前に、緊張して私の心臓の鼓動が早くなる。
「私、諦めきれない……。保真麗との仲は引き裂かないけど、私の想いを受け取って……!」
この日のために買ってきたチョコを可愛い小さな箱に詰めて彼に手渡す。顔を紅く染めた彼は私のチョコを受け取って微笑む。
「ありがとな、香織……」
優しく告げた彼は私に近づき、私の肩に両手を置く。そして目を瞑り私に顔をゆっくりと近づけ……、
※ ※ ※ ※ ※ ※
「えーーーっ!……って、夢……」
あと少しでキスだったのに悪いタイミングで夢から覚めてしまう。現実だったら良かったのに……。夢だったのか……。
「おい、どうしたんだよ?」
隣の席の武琉が怪訝そうな顔で私のことを見ている。嫌な予感がして周りを見ると、教室の全員が、そして先生までもが私のことを見ている。
「い、いや……何もないよ……」
恥ずかしくなり、私が下を向くと同時に教室内ではどっと笑いが起きてしまう。
あぁ……恥ずかしい……。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「っていうことが昨日あったの。私、すっごく恥ずかしかったの……」
部活が終わった後、昨日の恥ずかしかった話を、好きな人にチョコを既に渡し終えている楓に話す。楓は私の話を聞くと、漫才でも見たかのような勢いで大笑いした。
「アハハッ!香織、住川君のこと好きすぎでしょ!」
楓がチョコを渡した時、本命である笹岡君が良い印象を示してくれたようで、すっかりと調子に乗ってしまっている。
私だってそんな風になれば良いのにな、とは思っている。
しかし、私は上手くいかずに、気がつけば昼を過ぎてしまって夕方に近くなっている。
渡す予定のチョコは制服のスカートのポケットで準備をしているけれど、当の本人である私は心の準備が出来ていない。
「早く住川君にチョコ渡さなくて良いの?あんなに練習していたのに?」
鈴音が私を呆れたような顔で見つめている。鈴音は恋愛なんて全くしていないから、チョコを渡す相手は居ないらしいけど、多くの人からチョコを貰っていた。机の上に高く積み上げても崩れ落ちそうなくらい多くのチョコを持って部活に来たのを覚えている。
その時、改めて鈴音の校内での人気度を認知させられてしまう。
中には、女子からなのに本命チョコもあったんだとか無かったんだとか……?
「鈴音は渡す側じゃないもん……」
鈴音のことが羨ましくて、ついツンとした態度を取ってしまう。私の様子を見て鈴音はクスッと笑い「そうね、ごめんなさい」とそっと返した。
「ま、でも。渡してみたら?昨日、一緒に私達でチョコを作ったから大丈夫よ」
土曜日の授業は平日よりも早く授業が終わるので、昨日は楓と2人で、寮のキッチンで手作りチョコを作った。
懸命に武琉のことを考えて作ったチョコだから、気持ちだけでも良いから伝わって欲しいと願う。だから、渡さないといけないけれど、渡すタイミングが見当たらない。
「今、武琉君にチョコ渡してきたー」
渡す方法を悩んでいるとご機嫌そうな保真麗が、左手に小さな袋を持って部室に入ってきた。嬉しそうに微笑む姿の保真麗が羨ましい。
私だけがバレンタインという行事に置いてけぼりになってしまっている事に焦ってしまう。
「あの2人は買ったらしいけど、保真麗はどんなチョコ渡したの?」
「私は手作りだね!そうすれば想いが伝わってくれるかなって」
「ほぉ……!やっぱ、保真麗も手作りなんだね!」
質問したのは鈴音なのに、楓はその鈴音を押して興味を示し保真麗にくいつく。一見、興味無さげに振る舞っていた鈴音も、保真麗の手作りチョコには興味があったのかくいついている。
2人に囲まれた保真麗は突然、何かを思い出したかのように袋をゴソゴソとあさり始めた。
「あっ、そうだ。みんなにも作ったんだ!食べる?」
袋から丁寧に包装されたチョコが幾つか姿を現す。友チョコ分も作っておけば良かったかな?という気持ちになるけれど、今から作るのは手間がかかるなと思い気が進まない。
「もらうね!嬉しい!」
「是非、貰いたいわ!」
2人は保真麗からチョコを貰って美味しそうに食べ始めた。私も食べたいと思うけれど、バレンタイの日にライバルからチョコを貰うなんてどうにかしてる、という気持ちが私を静止させる。
「香織ちゃんも私の食べる?」
保真麗が無邪気な笑顔で、少し離れた私も誘ってくれる。だが、楓や鈴音の様子を見ていると食欲をそそられてしまうけれど、今日だけはライバルのチョコを受け取ることなんてできない。
「ご、ごめん……。明日に貰って良いかな?」
私は作り笑いで遠慮がちに言うと、保真麗は「そう?いいよ、明日でも」と、私の心の内を察することなく優しく接してくれる。
その行為が私の中にある微かな良心を痛めてつけてくる。
「保真麗ー!」
声のした方を見ると、入口に彼が立っていた。声を聞いただけで誰だかなんて分かる。
その彼がアイドル部の部室に来てくれただけで嬉しい。ただ、私ではなく保真麗を呼んだことはあんまり嬉しくなかったけど。
「ん?どーしたの、武琉君?」
武琉の姿を確認した瞬間、保真麗の頬は緩ませデレデレとした態度になる。
保真麗は武琉の元までスタスタと近づいて、抱きつき上目遣いをして彼を見つめる。
「保真麗のチョコ、美味かった!ホワイトデー必ず返すからな!」
抱きついて離れそうな様子を見せない保真麗に少し困っていながらも、優しく保真麗の頭を撫でている。
その様子を見て、楓と鈴音は楽しみながら眺めているが、私は目の前の光景を楽しめない。むしろ自分がそんなことをできない悔しさが募っていく一方である。
私だって武琉に甘えてみたいのに、保真麗しか出来ないことが嫌だった。
その光景を目の前でまざまざと見せられつけることが苦しかった。
チョコを渡すと同時に愛まで伝えて、武琉と大切な時間を作りたかった。
「武琉、話したいことがあるんだけど……」
口に出してみると、その声はあまりにも大きく部室の中に響く。その場にいる私以外の4人がこちらを向く。楓と鈴音は一気に表情が曇って、不安そうな顔でこちらの方を見ている。
その視線を横に感じながらも、私は武琉と目を合わせてからゆっくりと武琉に歩み寄る。武流の日に焼けている褐色の右手を掴む。
「保真麗、武琉のこと少しだけ借りて行っていいかな?」
手を掴んだまま保真麗のことをみると、保真麗は私の意図を少し汲んでくれたようで、私に優しく微笑みかける。
「少しならいいよ。」
「ありがと……」
彼女の笑顔が私の胸にチクリと刺さった。実際に行動にうつすと、我ながらその行為は惨めであった。絶対に叶わない恋なのに諦めきることができずに、友達の彼氏に好きだということを伝えるとは、私はなんて惨めな女の子なんだろう。
そして、友達の目の前でその子の彼氏の手を握る私は、どれほど醜い姿をしているんだろう。
「あの。香織?俺に何か用があるのか?」
手を握られている武琉は、状況を飲み込めていなさそうで困惑している。
「ついてきて。」
私は武琉の質問に答えることなく、武琉を連れてアイドル部の部室を去った。
※ ※ ※ ※ ※
武琉を連れて赤い夕陽の眩しい夕方の空き教室まで来た。来る途中に何度も「何なんだよ?」と聞かれたけれど、全てに「後で話すから。」と目を合わせることなく言った。武琉を連れてきた目的は、想いを告げる時に伝えたかったから、チョコを渡す場所までは理由を言わなかった。
私達の教室に着くと、武琉を手を離して解放した。だが、彼は私から逃げようともせず、私の前に立ち尽くしている。武琉はじっとのことを見つめている。
この様子。昨日、夢に見たあのシチュエーションと同じである。あの夢が正夢になるのかと、期待に胸を膨らます。
「で、ここまで俺を連れてきたのってなんだったんだよ」
武琉は苛立たしそうな表情で私のことを見ている。だが、すぐに表情を緩め「何かあったら聞いてやるよ」と優しく囁いてくれる。
その行為が愛おしく感じて、彼をまともに直視することができない。目を合わせようものならおかしくなってしまいそうだ。
「武琉に聞きたいことがあってね……」
ポケットに隠し持つチョコをどう渡せばいいか分からずに、本題に徐々に切り込んでいくことにした。
「武琉は、女の子にチョコ貰うの嬉しいよね……?」
武琉は怪訝そうな顔をして「嬉しいけど……。」と言って私を見つめる。私の質問内容がちょっと単刀直入過ぎて困っているんだよね。
でも、これくらい積極的にいかなければ、渡したいチョコも渡せず伝えたい気持ちも届かないように思える。
今しか武琉に聞くチャンスは無い……!
覚悟を決めた私は武琉に近づく。武琉が動揺し始めたら、そっと体をくっつけて上目遣い。
この日のために男子を堕とすテクニックを練習してきたが、少し前に鈴音に「こんな行為をどこで覚えたのよ?」と呆れ半分で問われた。「ネットで調べたの!」と自信を持って胸を張った私に対して、鈴音は大きな溜息をついて「自分に合った方法が確実だわ。」と冷たく言い放った。
結局、鈴音の言っていることが分からずに、自分スタイルは諦めてネットに頼ることにしたけれどさ。
「あの……。武琉は私のことをどう思っているのかなって……」
私に抱きつかれても、私がどんなに媚びた態度を見せても、顔を赤くすることなく表情も変わらない武琉は、気まずそうに答える。
「どうって……。幼馴染、友達っていう感じかな。」
やっぱり、そうだよね……。なんとなく分かっていたが、直接言われて改めて実感させられる。
……だって、武琉には保真麗がいるから、無理なんだよ。
私がどう頑張ろうとも、工夫しようとも保真麗に勝つことはできない。
休み時間にたくさん話したり、少しでも可愛く見せようと髪型を変えてアピールしてみたり、ちょっとスキンシップを多くしてみたり、武琉の気を引くために頑張ってきた。
毎日毎日、武琉のことを考えて、どうしたら心の距離がもっと近くなるかをいっぱい考えてきた。
それでも、私は保真麗には叶わなかった。
「やっぱ、武琉には保真麗がお似合いなんだよ」
私はチョコの入ったポケットに入れていた手を、チョコを手放してからそっと出す。
この恋が叶わないものだとようやく受け入れることができた。
長かった恋が終わったと思うと、何とも言えない虚しさに襲われる。その虚しさは、やがて抑えきれない苦しい気持ちに変わり始める。
その苦しさが私の胸の中でいっぱいになり、私の瞼の裏を熱くさせる。そして、私の目からポロポロと涙が出てくる。涙が頬をつたって落ちていく。
ダメだ……。泣いてしまってる……。
「香織、お前、なんで泣いて……。」
涙を止められない私を武琉が不安そうに見つめている。
武琉のことが好きだからこそ、彼に心苦しい思いをさせてこの恋を終わらせたくはなかった。
最後は、この恋の最後くらいは、好きだった武琉に笑顔でいて欲しかったから、無理に笑顔を作ってしまう。。
「保真麗とこれからも幸せでいてね……」
それだけを告げると、私はパッと武琉から離れて教室から出ようと走り出した。
こんなことを言いたいわけじゃない。もっと言いたいことはいっぱいある。感謝の気持ちを伝えたいし、何よりも大切な想いを伝えたかった。
それなのに、最後の時まで、武琉が喜びそうな言葉を考えてしまう。
私が武琉のことを好きっていう好きな気持ちは変わってくれないんだ。
「ちょっ、待てよ、香織……!。」
教室のドアを出る直前で武琉に呼び止められる。
振り返ると、夢に見たような姿で武琉が立っていた。夕陽で紅く染まった中に立っている彼の姿は、今までで最も美しく、私の心を傷つける。
これで、もう本当に終わりなんだね。
事故で小学生の時に遊んだ記憶は失っているけど、中学に入って思い出をいっぱい作ったよね。
具体的に何かしたというよりも、武琉と一緒に過ごした何気ない日常が全て私にとって大切な時間だったよ。大好きなあなたと多くの時間を過ごせて、私は幸せだった。
あなたに恋をした幸せな日々のことは忘れないよ。
「大好きだよ、武琉……。」
私は気持ちを彼に告げ、楽しかった2人だけの空間から完全に身を引いた。
※ ※ ※ ※ ※
日曜日の夕暮れで暗いアイドル部の部室に戻る。
もうみんな帰ってしまっていて、部室にいるのは私1人だけだった。
気持ちの整理をしたくて来たけど、この広い部室に1人だけっていうのは逆に気持ちの整理できないような気もする。
壁に寄りかかってゆっくり腰を下ろして座る。暮れかかった夕日が、部室の窓からダイレクトに私の顔に当たってとても眩しい。
スカートのポケットに手を突っ込むと、チョコがあるのがハッキリと伝わる。武琉に渡すことすら出来なかったチョコをビニール袋から取り出す。ポケットの中で温まり過ぎたせいか、チョコの表面は溶けていて、せっかくの手作りチョコも綺麗な形をしていなかった。
「もったいないから、食べなきゃ……」
ここまで来てその程度のことしか口にできない自分が惨めに思えてくる。さっきまで他に言葉にしたい想いは溢れるほどあったのに、今はどうして思いが溢れてこないの?
答えの帰ってこない質問を、心の内で自分自身に質問をする。
溶けかかったチョコを指で摘んで口の中に放り込む。指についたチョコも、舐めてチョコを味わう。
「ふ、不思議……。チョコってこんなに苦かったっけ?」
本来は武琉にあげる予定だった代物だと感じ始めた途端、また武琉との懐かしい日々を走馬灯のように思い出される。
「最後くらいは好きって言って欲しかったな……。」
どんなに頑張っても残念な結果で終わってしまった私が悔しかった。そして、彼のために作ったチョコを1人で食べる私が可哀想だった。
私の両目からはひたすらに大粒の涙が溢れ出てくる。泣く時のしゃっくりで、チョコは食べづらいが、ほろ苦い味がするということだけは嫌なほどに伝わってくる。
「苦いな……。バレンタインチョコ……」
こうして私の恋は、相手に愛を告げられること無く終わった。
チョコ全くもらえません、明日が本番ですかね。
急いで書いて文章や内容めちゃくちゃかも…ごめんなさい。
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