↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャルズメロディー2期   作者: キスよりルミナス
一章  鈴音・香織の成長編
PR
5/15

5話 夢幻であるならば 《前半》(鈴音)

5話   夢幻であるならば……《前半》(鈴音)

  



 友達がいるから私は夢へと歩んでいける。


 アイドル部に入ってからというもの、私の夢はハッキリと見える希望になった。それを掴みたくて駆け足でその夢を追いかける。

 そんな私を1人で突っ走らせることなく、置いて行くこともなく、隣を駆けてくれる仲間がいる。

 だが、自分にしか見えない夢だってある。隣で私のことを励ましてくれる仲間も居らずに、不安という重い暗い色で塗られた道を孤独に進まなければいけない時が来るだろう。その時、私はどうやって明るく色付くゴールに辿り着くのだろう。

 

 そこに辿り着けばママは私の方を振り向いてくれるよね……。





 毎年この時期に開催される『次世代ワールドファッションフェス』に、私が所属するブランド『GND』の代表として日本の誇る首都である東京にやってきた。因みにこのフェスには、人気急上昇中のブランド『HOT beetle』の専属モデルとして楓も来ている。

 2人で福岡から東京に行くのは危険であるという理由で、学園長であるパパから付き添いの教師をつけるように言われたので、部活の一環としてアイドル部顧問の田崎先生に付き添ってもらい東京に来た。

 日本のアジアの玄関と呼ばれる福岡とは比べものにならない程の大都市であった。

 一面に広がり競り合うようにしてそびえ立つビル群、街中を歩く多くの外国の方、福岡の単純な三本線と違い昼ドラの人間関係のように複雑に交差する地下鉄の路線図、耳を塞いだとしても効果のないくらいの騒音。

 全てが福岡には無いもので、魅力であり賑やかであることの象徴であった。

 「東京って凄いよね⁉︎」

 普段見ない光景に興奮しながら、隣を歩く楓が目を輝かせながら私に同意を求める。

 私としてもこの目の前の光景には心が躍ってしまい自然と口角が上がってしまう。

 「ほんとそうね……。福岡は大都市だと思っていたけれど、私としたことが井の中の蛙状態だわ……」

 私や楓が見知らぬ街に目を奪われている間、田崎先生は何も特別に様子を変えることなく私達と歩いている。

 先生は以前アイドルをしていたために、大抵のことには何も動じない人になったのだろう。

 普段の先生は春の柔らかな太陽のような笑顔を見せているけれど、きっとアイドル時代には別の笑顔を見せていたんだろうな……。

 「先生、今度の『スクールアイドル・トーナメント』は学校から何人が代表として出るんですか?」

 楓が思い出したかのように先生に質問する。

 私としても『スクールアイドル・トーナメント』についてのことは気になっていたから、何も気にしていないフリをして耳を傾ける。なんだか喰らい付くくらいの勢いで聞いている自分を遠くから別の視点で見た時のことを考えると、恥ずかしくてどうしようもない気持ちになる。

 「そうねぇ……。たしか、ユニット部門で2人とソロ部門で2人……だったかしら」

 ユニットとソロの合計で4人……。アイドル部は6人で先輩2人が出るとして残り2枠。香織、楓、保真麗、私のうちで2人しか出られないということだ。

 「先輩が2人で1年生で2人……」

 夢を叶えるためには何としてもその2人の中に入らなければいけないのに、3人とも私よりも技術的にも経歴的にも長い。

 『GND』に入ることができて更に一歩夢へと近づいたと思った矢先、幻覚だったかのように夢は私の世界からそっと姿を消した。



 ※  ※  ※ ※ ※ ※



 香織は表ではいつも通りではあるが、裏での努力や些細なところで練習に独自の工夫を加えている。

 

 妹や自分のことを育ててくれた人達へ感謝を込めてアイドルを頑張ると決意したんだとか。自分の成長した姿をトーナメントで見せるために勝たなければいけないと言っていた。

 

 学校に戻ってきた時に過去の話を本人から直に聞いた。

 現在の親は義理の母親であり、本当の両親は交通事故で亡くしていること。事故の影響で記憶を喪失してしまっていることなど。

 普段の優しげな微笑みの裏に隠された悲しい過去と現状に私は言葉を失ってしまった。

 

 私の見ている香織は、ただの氷山の一角に過ぎなかった。


 私にとっての香織という人物は、常にアイドル活動に一生懸命で部員の誰にも負けない程の熱い心を持っている人物だと思っていた。時には、その心の炎が燃え尽きてしまい冷淡になったり冷めたような人間になったりと、落差が激しい時も多々ある。

 それでも常に消えることの無い人間としての美しさが、私には届かないような存在に思えた。

 



 保真麗はトーナメントのことについては自分から話す気配は無かった。

 言ったことと言えば「んー。武琉君と一緒にいる方が楽しいに決まってるよー」くらいで、トーナメントに対しての特別な気持ちは無さげ。

 保真麗本人が言っていたわけではないから分からないけれど、普段の様子からはアイドル部を楽しんでいるだけで、私たちみたいにイベント毎に燃えるような気質では無い様子。




 楓は決して直接は言わないけれど、新年になってからは練習量も多くなっている。

 本人も気づいていないようだが、奥底に負けず嫌いの性格を持っている気がする。負けること……というより、自分だけが周りから離されていくことを避けるため、負けることを避けているように見える。

 

 時にチラッと見せる姿が、現在の強い心を持ち真っ直ぐな人間性を仮のものだと思わせる。



  ※ ※ ※ ※ ※



 私は本当に勝たなければいけないのかな……。

 私は別にそんなことをしなくても良いから、ママに私の姿を見て欲しかっただけ。

 

 「私ったら、何を考えてるのかしら……」

 

 太陽が傾き外気も徐々に冷えていく中、イベントのあるドームの周りを楓と先生の3人で散歩していた。今日が土曜日であるからなのか、近くの遊園地からのアトラクションで賑わう声、親子の楽しそうな姿が私の気持ちを虚しくさせていく。


 何故、私だけ悩んでいるんだろう……。

 

 私の夢が何であるのか途端に分からなくなる。

 トーナメントで勝つことが本来の目的なら私以外の3人のうち2人が出た方が確実。自分の手で優勝を掴みたいというわけでも無い。

 アイドルとして成長することだけが夢であるのなら、そんな事はやる意味が無いことくらい冷静になって考えればいい。

 「鈴音、どうしたの……」

 下を向いて歩いていた私に楓が声をかけてきた。楓の方を振り向くけれど楓とまともに話せる気がなく、私は目を合わせれず黙り込む。一瞬だけ目を合わせた時に見えた楓の不満げに見つめる表情が私を何も言わせなくする。

 「私の夢ってなんだったんだろうね……。トーナメントで勝つことが夢であったのかなって。夢が見えなくなってしまったの」

 楓の顔を見て必死に訴えかけると、楓はハァっと溜め息をついて結んだ口を開く。

 「だとしたら、今まで鈴音の叶えたかった夢は幻覚だったんだよ」

 楓の予期していない言葉だったのに、その言葉が心の中に強く刺さる。そしてその言葉はジワリジワリと私の心の中を抉っていく。

 そんな訳ないと言い返したい気持ちがあるのに言葉が言い返せないのは、それが自分が気づいていなかった真実だったからなのか……。

 

 いや、真実を気づかないフリをして過ごしてきていたのか……。

 

 「周りの環境によって次第に形成されていった偽りの夢だったんだよ。私達が勝手な勘違いをしてしまっていただけで、鈴音自身が気づかないうちに本当の夢を心の中に抱いていたんじゃない?」

 楓は表情を1つ変えずに淡々と私に告げる。楓の言葉を私自身が受け入れたくないのか、言葉だけが耳から入って来るが内容は少しも理解ができない。

 冬の冷たい風が働いてくれたのか、冷静になり頭の中で楓の話を思い出すと次第に内容が掴めてきた。

 私の夢が本当の夢ではなく、周りの人達によって自分自身の中で思い込んでいたということ。本当の夢が自身の奥底に隠れているけれど、「自分の夢は〇〇だ」と決めつけてその夢を閉じ込めたままにした。

 「本当の夢って何なのよ……!楓、教えてよ。私の本当の夢って……」

 気づき始めているけれどそれを認めたくない自分が内に潜んでしまっている。

 アイドル部に入って数ヶ月くらいした時、Cosmicrownに参加した。その頃から心の内では何となくだけれど意識していた。

 けれど、大宮家の長女として強い気持ちを持ってなければいけないと思い、そのことを忘れた気になっていた。

 しかし、香織の家族との話を聞いてから、香織が母親と妹と仲直りしたと聞いて、私にも奇跡は起こるんじゃないかとまた強く願い始めていた。

 遠くから弟や妹が甘える姿を見てきた私だったからこそ、その気持ちというのは深く根付いていて、でもその感情を無理に押し殺していた。

 

 トーナメントで優勝すると決意したこと。それは本当の夢であったのかもしれないけれど、ただの通過点に過ぎなかっただけ。

 完璧な自分でいることにどうして私がこだわりを持っているか。優秀であると周りから褒められることは結局全て通過点。


 全てのことが頭の中で繋がった時、薄々勘づいていたその答えに確証を持つことができた。


 「私の本当の夢は……ママに振り向いて欲しかった……」



 ※  ※  ※ ※ ※ ※


 

 「ママー、私ね今日もおべんきょ、がんばったの!ほらほら!テスト90点だよ!」

 テストの答案を見せる私がいる。弟も妹も小さくてママが2人の世話をしていた。

 「そう、次も頑張ってね。あっ、いけないミルク作り忘れていた……」

 私の方を見てくれもせずにママは2人の世話をする。その場に取り残された私は寂しい気持ちで満たされ自然と涙ぐんでいた。

 

 当時はママが2人にかまっていて私にかまってくれなくなっていた。パパは学校での仕事が多く帰って来る時間が遅くて、帰って来る頃には私は寝ていた。

 そのため私は弟や妹みたいに、両親に多くかまってもらうことなく育ってきた。


 私が小学5年生の頃にママは海外に単身赴任をすることになった。

 旅立ちの日、弟と妹はママに泣いて抱きついていたけれど、私はその様子を羨ましく思いながら遠くから離れてみていた。

 「鈴音もママやパパに甘えていいんだよ」

 パパはそう言ってくれるけれども、2人の様子を見ていると私はどうしても近づけなかった。

 飛行機に乗る前にママが私のところに来てくれたけれど、その時に私は次のように言われたことを今でも鮮明に覚えている。


 「鈴音、お姉ちゃんとして2人のことをよろしくね。じゃ行って来るよ」


 その時に私は確信してしまった。ママが気にしているのは私のことではなく2人の弟と妹のことなんだって。

 ママは旅立つ最後の瞬間まで私のことを見てくれていなかった。

 

 それが悔しくて、そしていつかママに私のことを見てもらえるように、私はママに認められるような完璧な姉になることを決意した。

 姉として弟と妹の世話をして、パパの仕事も手伝って振り向いてもらおうとした。

 だから成績もほぼ毎回1位をとり、運動もできる、男子からもモテると……。完璧であることにこだわってきた。完璧であれば振り向いてもらえると思っていた。

 

 それでも認められず振り向いてもらえなかった私という人間は、いつからか自分と周りの人からしか認めてもらうことがなくなった。


 1番認めて欲しいママからは見てもらうこともできずに。


 そんな行き詰まっていた私はアイドル部に入った。そんな時に私は新たな道を見つけ出した。

 それはアイドルとして有名になってママに認めてもらうこと。

 

 そのためにトーナメントで優勝して日本でトップとなりママを振り向かせてみせると決意した。



 私の夢は間接的にはトーナメントで優勝することだけれど、本当の夢はママに私の方を振り向いてもらうこと。




  ※  ※  ※ ※ ※ ※


 

 「そんなことがあったのね……」

 楓は同情の眼差しを向けながらも優しげな表情で私のことを見つめてくれる。田崎先生も私の話を聞いて同情してくれたのか、ハンカチで目元を押さえ涙を拭っている。

 「鈴音ちゃんは偉い子だね。私の学生時代よりも何倍も偉いわ……」

 学生時代に多くの苦労を重ねてきた田崎先生から言われると、その言われたという事実だけに満足してしまう。

 「私はそんな……。でも、いつか振り返ってもらえると嬉しいです」

 私はその場の空気が悪くならないように無理に笑顔を作る。それでも耐えきれなくなった私は、心が揺れて泣いてしまわないように上を向いて空を見上げる。

 群青色に染まった部分と夕日に染められて赤くなっている部分が混じり合い、鮮やかなグラデーションを見せてくれる。その美しさが私の心に落ち着きを与えてくれる。

 ほんの少しだけ落ち着きを取り戻した私は、無限大に広がっている空にそっと手を伸ばす。

 もし私があの空のように無限大の可能性を持っていたら、ママは私の方を振り向いてくれたのかな……?

 「ママ……。どうしたら私の方を振り向いてくれるの……?」

 問いても答えが返って来ることはなく、私の声は夜になり賑やかさを失った辺りに溶け込んでいくように消えていった。

 

 


遅れてしまいましたすみません



誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします

Twitterのキスよりルミナスもよろしく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。