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ギャルズメロディー2期   作者: キスよりルミナス
一章  鈴音・香織の成長編
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4話 大切な時間 (香織)

4話  大切な時間 (香織)




 アイドルはみんなの憧れであり、みんなのものである。と言うけれど、実際はそんな事は無理な話のような気がする。人は恋をするものだと思うし、寧ろ動物にだって恋する事くらいあるはずだ。

 鈴音に聞いてみたところ、動物も恋をしたりすると言う学者も少ないわけでは無いし、人間ほどの高度な知性を持つ動物なら恋をするのは当たり前なんだとか。

 だけど鈴音は「恋をした事なんて無いし、するような相手も居ない。」と、自分の意見とはまるっきり反対の事を言っていた。

 鈴音がそう言っていたので、中学生で恋をする事は珍しいことなのかと気になり、楓と伶良の2人に聞いてみたところ、2人とも恋愛真っ最中なんだとか。保真麗はそんなこと聞かずとも彼氏持ちであるから分かるとして………。

 そう言う私も恋愛しているので、鈴音だけが少しだけ特殊だったのかもしれない。


 私は自分の恋が高い確率で叶わないものだと分かっているけれど、せめて彼とは少しでも多くの時間を過ごしたかった。


 

 叶うのなら武琉のことを彼女から奪いたかった。



 ※ ※ ※ ※ ※



 今日は1月でも寒い方であると朝の天気予報の時に言っていたっけ。教室の私の席は、すぐ隣に外に面する窓があるせいなのか寒く感じるような気がする。窓を見てみると窓はくもりが掛かっていて水滴がツーっと落ちているところだった。

 教室と外気の温度差により、教室内の窓の近くの空気に含まれる水分が外気との境の所で冷やされて、空気中の飽和水蒸気量が限界に達して水滴となる……。みたいなことを、鈴音が教えてくれた。

 水滴をそっと手で撫でて窓のくもりをとる。窓の外では雪がしんしんと降っていて、授業中だと分かっていながらも、その美しさに見惚れてしまう。

 「香織、外ばっかり見てどーしたんだ?」

 その声に私は現実に戻されると同時に嬉しくて心が高鳴っていくのを感じる。隣の席の武琉が私に声をかけてくれた。

 「えっとね……。雪が綺麗だなぁって思ったの。武琉もそう思わない?」

 「あ、うん……。雪なんて福岡じゃ全く降らないからな」

 武琉が優しげな顔で私の顔を見て言ってくれる。本当にそんな些細なことだけでも嬉しいと思えるけれど、武琉が彼氏になってくれれば更に嬉しいのだけれど……。

 だが、そんなこと出来るわけない。武琉と付き合いたいという願いだけは絶対に叶えることはできない。

 武琉のことを恋慕うほど、まるで別の世界の人に恋をしているような気持ちになって、私の心は締め付けられるように苦しくなってしまう。それでも武琉と2人だけの時間を味わえるとしたら、その時間だけは大切にしていきたいと思う。



 休み時間であっても、私は武琉を独占していたかった。他の誰もが近寄れないような良い感じのオーラを出して武琉のことを独占していたかった。

 「それでね、今日はね……」

 いつも通り武琉のことを独占していた時のこと。そこに保真麗が姿を表して、私と話していた武琉の手をギュッと握った。

 手を握られた武琉の顔には、驚きと恐怖の2つに包まれたような表情が浮かんでいた。一方の保真麗は、頬を膨らまして不満そうな顔をして武琉の手を握っている。

 「武琉君、ちょっとこっち来て」

 「……あぁ。わかった……」

 武琉は保真麗の言うことに素直になって、そのまま保真麗に手を引っ張られ私のことを置いていく。素直に聞いたのも保真麗が怖いからという理由であって、武琉に恐怖を感じさせるような人を私は許せなかった。

 そう、たとえ彼女であったとしても。

 「保真麗?武琉は嫌そうな顔をしているのに、どうして連れて行くの?早く武琉のことを返してよ」

 保真麗は、訴えた私の方を振り返ると、武琉に抱きつき後ろに回り込んで、顔だけをひょこりと出して私のことを嫌そうな顔をして見る。

 「武琉君は私だけの男子だもん。香織ちゃんは彼女でも何でもないでしょ?」

 そう言って保真麗は、また武琉を強引に引っ張って教室を出て行った。引っ張られて行く時に武琉と目が合ったけれど、武琉は私に助けを求めるようでもなく諦めたような表情をしていた。そんな武琉を見ると、まるで私が間違っていたかのように感じてしまう。

 「……私、間違ってないもん……。武琉と居ることのできる貴重な時間が何よりも大切だもん……」

 言葉に出して自分は間違ってないと自分に言い聞かせるけれども、それでも何かが心の中に引っ掛かり、自分でも素直に納得がいかなかった。



 

 その日は私が声を掛けても、武琉は保真麗の方を気にしながら薄い反応しか示してくれなかった。昼休みに保真麗から引っ張り出された後に何があったのかは知らないけれど、きっと私との関係についての事を言われたのだろう。

 「香織ちゃん、そんなに武琉君のことが好きなの?」

 放課後もクラスの男子と仲良く話す武琉のことを遠くに見ていると、保真麗が急に視界に入ってきた。私としては、武琉と楽しく話せなくなったから保真麗のことを恨んでいる。

 「ほ、保真麗には関係ないでしょ⁉︎」

 私は、本心を悟られないように視線を窓の外に向けたけれど、「好きなんでしょ?」と保真麗から再度聞かれたときには、意識せずとも「好きだよ」と認めてしまった。

 「そう……だよね……」

 保真麗は消えそうなくらい小さな声でそっと言った。その声にはどこか悲しげのような、寂しげのような感情が篭っているように聞こえた。

 保真麗としても、自分の彼氏が他の人に取られないかということが心配で仕方ないのだろう。

 3学期になってからというもの、保真麗は武琉のことをずっと監視しているらしいし、部活の時も武琉のことをずっと気にかけている。

 保真麗は、私と同じくらい、いやそれ以上に武琉のことが好きなのだろう。

 「私、香織ちゃんが武琉君のことを好きだってこと本当は知っていたんだ……」

 外を見て一向に保真麗と視線を合わせようとしない私に、保真麗は優しげな声で徐ろに話し始めた。

 「クリスマスの日、香織ちゃんが武琉君にキスしたとこを、私、見てしまったの。それで武琉君が他の女子に取られないか心配で。特に、ここ最近の香織ちゃん見てると、本当に武琉君が取られそうに思えて。怖かった。」

 保真麗の声が震え始めたことを感じた私は、やっとのことで保真麗の方を向く。保真麗は静かに肩を震わせながら俯いて床を睨んでいた。彼氏なんて出来たことないうえに、彼氏を取られる恐怖を感じたことが無かった私には、保真麗の気持ちが全く分からなかった。

 「香織ちゃん……、これ……」

 「ん……?」

 少し落ち着いた保真麗が私にスマホの画面を見せつけてきた。何があったのかと思い、見せられた画面を見ると、そこには『桜堂・バレンタインチョコCMオーディション』と映し出されていた。

 「これで香織ちゃんが私に勝てば、武琉君といつも通り話していい。けど、これで私が勝ったら武琉君と香織ちゃんには話すことをやめてもらいたいの。私だって彼女だもん……」

 「保真麗……そんな……」

 保真麗の無茶振りに私は反論しようとしたけれど、私の中に浮かんだ1つの疑問が私が反論しようとさせるのを止めた。

 何故、柔和な性格の持ち主の保真麗がここまでして武琉と私を離したいか、という疑問である。

 いつも見ている保真麗は、今の私の目の前に立っている保真麗と違って、周りに纏っている空気はいつも穏やかである。それなのに、今はとてもそんなオーラは感じることはできない。どうしてかだなんて考えるまでもない。

 

 保真麗が彼女として、いや、武琉を好きな女子の1人として、武琉のことを自分だけのものにしたいからであろう。

 

 それならば、私は同じ立場として、恋のライバルとしてその勝負に正々堂々と挑まなければならない気がした。そして、必ず勝って武琉を絶対に私のものにする。


 「わかった。保真麗、その勝負受けたよ。絶対に武琉との関係は私のものにしてみせるから!」


 私の言葉を聞き、眉を目をきっとさせ険しい表情になった保真麗は、「私と武琉君との関係は崩させない」と言い放った。普段は聞くことのできない保真麗の強い意志の籠もった凛々しい声が私の心の中で強く響いた。



 ※ ※ ※ ※ ※



 もし、負けたら武琉と話せなくなるって事だよね……?武琉をどうしても奪いたい訳ではない。

 ただ、私は彼との大切な時間が奪われたくないだけのはずなのに……。

 

 話せなくなったら……、一生届かないような存在になるのだとしたら……。


 ……保真麗に勝って、私だけのものにしたい……。


 ※ ※ ※ ※ ※


 

 あれから保真麗とは全く口を聞かなくなった。

 休み時間に武琉とは話していると保真麗が遠くの方から私達の事をずっと観察している。目が合うと保真麗は私のことをキツイ目で睨んでくる。

 部活の時は近づこうとすらしないので楓や鈴音から心配の声をかけられるけれど、私も保真麗も「何もないから大丈夫だよ」と、事情を頑なに話さなかった。そう言って返している度に、楓達は私達のことを探ろうとはしなくなった。

 2人とも「何かあったら相談してね?」と声をかけてきたきり、私達に話しかけることすらも無くなってきた。



 「香織ちゃん、ちょっと来れるかな?」

 「松崎先輩?」

 部活が始まる前にストレッチをしていたら、松崎先輩に声を掛けられた。先輩の優しげな笑みに私の心はホッとして心が落ち着く。

 ここ最近は保真麗に睨まれ、楓と鈴音からは心配の声を掛けられる一方で、私は不安のせいか気持ちが不安定で、毎日が落ち着けない日々だった。

 私は松崎先輩に連れられて部室から出て、部室の前の廊下に並んだ。まだ運動をしていていないから普段よりも廊下が寒く感じ、自分の動きが固いのがわかる。

 「単刀直入に言うね。呼んだのは保真麗ちゃんとのことなの」

 「……保真麗のこと?」

 返事する声が掠れるうえに体も一瞬で固まる。

 松崎先輩の言葉に私は暗い不安の中に放り込まれる。今はどうしても触れられたく無い話題である。

 『保真麗』と言う言葉を聞くと、睨んでくる保真麗の顔が頭に浮かんできて、少しばかり怖い気持ちまで沸き出てくる。

 「昨日、保真麗ちゃんから直に相談をされて……」

 「……いやっ!……嫌です……」

 その名前を聞きたくなくて、自分の立っている現実から逃げたくて、私は耳を塞いでその場に座り込む。

 願えば願うほど、強く想えば想うほど、彼が私から離れていくのが怖かった。悪い方向ばかり考えて、不安な気持ちに煽られてばかりで恐怖の感情が自分の中で芽生えてゆく。

 武琉が離れてゆくことに対しての恐怖……。だったつもりだけれど、実際はその原因となっていた保真麗に恐怖を覚えていた。

 睨んでくる顔、武琉の横で楽しそうに話す姿。武琉に甘える時の表の顔と、私に対しての厳しい表情の裏の顔に恐怖を感じてしまう。

 「香織ちゃん、今から言うことを聞いて欲しいんだけどね。保真麗ちゃんから私のところに相談してきたの。香織ちゃんと仲良くしたいって、こんな関係は嫌だって。彼氏が取られるかもしれないけれど、香織ちゃんとの時間の大切さがわかったって……」

 松崎先輩の温もった手が私の頭にそっとのった。その温かさが嘘では無いことを感じさせてくれる。

 「保真麗が……。そんな……」

 私は耳を塞いだ手をゆっくりと外して顔を上げて松崎先輩を見上げる。松崎先輩は私と視線を合わせるために敢えてしゃがんでくれている。そして母親のような優しい笑顔で私を見つめて、優しく頭を撫でている。

 「保真麗ちゃんとしても彼氏は取られたく無いんだって。それでも、香織ちゃんとの仲が悪いままなのはもっと嫌なんだってよ?」

 「そんな、でも……。私は……。武琉は保真麗なものだけれど……。」

 頭の中で言葉を整理できずに先輩に伝えたい言葉が上手く出てこない。伝えたいのは、私も保真麗と仲良くしたい、という事だけなのに内容を付けようとすると言葉に上手く出せない。

 「ま、香織ちゃんが保真麗ちゃんの彼氏を奪おうとしていたのは感心しないけれど、それだけその男子のこと愛しているのね。取り敢えず、保真麗ちゃんもキツすぎる態度を取ったことを謝りたいらしいし、香織ちゃんも謝らないとね?彼氏を奪おうとしたことに関して」

 松崎先輩が優しく言うので何も言い返せない。その言ったことが間違っているのならば、私は言い返せるはずなのに言い返す言葉が無い。


 つまり、私が間違っていたということである。

 薄々勘づいていたけれど、武琉との大切な時間を永遠のものにしたくて、その事実を認めたくない私がいた。

 

 クリスマスの日、私が武琉と強引にキスした時、保真麗と楓にその現場をガッツリと目撃されてしまっていた。その時の保真麗は明らかに気まづそうな顔をしていたし、何か不安そうな顔でもあった気がする。

 彼氏が他の女子に強引にキスされた現場を見たら誰だってそうなるだろうし、怒りに狂って私や武琉に手を出すことだって大いに考えられる。だが、保真麗は決して私や武琉に怒りを露わにすることは無かった。

 そのことで、保真麗は何もしてことないだろうと考え、武琉に手を出していた私がいた。保真麗の優しさに甘えてそれを当たり前のことのように思い、友達の彼氏に手を出していた愚かな私がいた。

 

 いつまでも罪を重ねていってしまう自分のことが本当に嫌になってしまう。

 それでも、私のことを見捨てないでくれている友達が居るのなら、私自身は罪滅ぼしをするのが当たり前のはずだ。


 「私、保真麗に謝ってきます。松崎先輩、大切なことを気づかせてくれてありがとうございます」

 私は早く謝りたくて思わずその場に立ち上がる。そんな私を見た先輩は、ゆっくりと腰を上げて私の目の前に立つ。

 1歩、2歩と私に近づいてきて動揺する私をゆっくりと抱きしめた。石鹸の甘い香りがふわりと香った。

 「うん、香織ちゃんは偉いね。大切なことに気付けるような良い子になったね」

 動揺していた心が落ち着いて、ホッとして私も松崎先輩を抱いた時……。


 「香織ちゃん!香織ちゃん、私、伝えなきゃいけないことがあるの!」

 

 「……っ!!!」


 その声に私は目をやるとそこには息のあがっている保真麗と、向こうからゆっくりと歩いてくる桜田先輩の姿が見えた。

 「さ、保真麗ちゃんのところに行きなさい。伝えたいことがあるんでしょ?」

 松崎先輩は私の耳元でそっと囁いて私をゆっくりと離す。離されて一瞬だけ松崎先輩と目を合わせると、保真麗にゆっくりと歩み寄った。

 「「あ、あの……」」

 私と保真麗の声が同時に重なる。恥ずかしくなって私の顔が赤くなるのを感じたけれど、同時に保真麗の顔も桜のような桃色に染まる。

 「香織ちゃん、先にいいよ……」

 「ごめんなさい、保真麗。私、保真麗の気持ちをサッパリわかっていなくて武琉にベタついていた。もう奪おうとなんて考えないし、これからも保真麗と一緒に時間を過ごしたい。だから、私のことを許してください」

 意外だったのか保真麗は少し拍子抜けしたような顔をしたけれど、すぐにいつもの柔和な笑顔になり私のことを見つめる。

 「ごめんね、香織ちゃん。キツく当たりすぎちゃったみたい……。それに睨んだりもして。武琉君と楽しくしている香織ちゃんが羨ましくて嫉妬してしまって……。」

 「ちょっ、保真麗っ⁉︎」

 顔を真っ赤に染め上げた保真麗は私に抱きついた。保真麗の甘い吐息が顔にすぐに感じるくらい顔が近くなり、さらに恥ずかしくなり体全体が熱くなる。

 「香織ちゃんとの時間の大切さに気づいたよ。いつまでもこうして仲良しでいようね」

 「うん、そうだね……。保真麗……」

 

 武琉がどうだとかは、今の私にはどうでもいいことであった。日々の中での大切なものを当たり前のことのように生活していたことを恥じる。

 

 本当に大切なことに気づけてよかったよ……。


 私にとっての大切な時間をいつまでも守っていこうと決意した。

 


誤字脱字、内容のおかしなところがあれば報告よろしくお願いします。

Twitterのキスよりルミナスもよろしく。

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