13話 私を導いてくれた友達(鈴音)
13話 私を導いてくれた友達(鈴音)
① 楓の言葉の意味
あと少しで夢が叶おうとしている時に、どうして私は失敗をするの?
楓達が決勝に進んだ事を喜んでいる間、私は悔しさに爪を噛むことしかできなかった。みんな喜びを分かち合っていて、私の様子など目にも入っていないはず……。私の醜態が学校中に広まってしまおうものなら、私は学園長の娘として学校に在籍することはできない。
しかし、私は少し前に醜態を晒してしまった。
予選のステージでミスを犯した。絶対に失敗しないと思った振り付けの時、気持ちの焦りが出てしまい失敗。
そのせいで、松崎先輩、香織、楓の3人に助けられる形になってしまった。
学園長の娘である私が学園の恥になってしまってどうするのよ!こんなのだと、最後のチャンスを無駄にしてしまうじゃない!
ママに認められて振り向いてもらうために頑張ってきたのにこれでは……。
「鈴音、ちょっといい?」
「は、はい。どうしたの?」
楓に声を掛けられたことに気づくのに少しの時間を要した。考え事をしているとどうしても反応が遅れてしまう。
楓が私のことを心配げな顔で見つめている。その顔が一瞬間だけ、脳内でママの顔と重なってゾッとした。私は悩まされすぎている。
「鈴音、ちょっと無理してる?」
その言葉がズシリと私に精神的なダメージを与える。『無理してる?』その言葉は1番言われたくなかった。無理してるからこそ言われたくなかった。
控室以外の会場のどこかに居る時は、本心を隠して常に笑顔でいけない。アイドルである限りそのようなことを強いられる。
「まさか……。私が無理なんてする訳な……」
「嘘つかないでよ。あなたの様子を見ればすぐにわかるんだから。ほら、今だって表情が強張ってる」
ハッと気付いた時には遅かった。知らずのうちに顔の筋肉が硬くなっている。
冷静な態度の楓に言い返すことができずに、私は黙り込んでしまう。
「鈴音は、あなたのお母さんに振り向いて貰いたいんでしょ?」
「うん、そうだけど……」
「それなら簡単なことよ。無理なんかせず、目の前のことにありのままの自分でぶつかっていく、ただそれだけ。さ、ソロのステージまで1時間無いから最後の調整するわよ」
楓は淡々と言葉に出すだけで、決して気持ちを篭めているとは思えなかった。他人事だからと適当に応対する楓に対して、怒りが徐々に募っていく。。
私と同じ立場になった事ないから分かるわけない。楓にとっては他人事でどうでもいいかもしれないけれど、私にとってはとても大事な事なのよ……!
「鈴音、早く調整をしてい……」
「何も知らないくせに!私のことなんて他人事でどうでもいいとしか考えてないんでしょ⁉︎」
楓の態度にカッとなった私は、気がついたら本心が漏れてしまっていた。
感情を素に出してしまう私に対し、楓は冷静に私のことを見ている。まるで感情を失くしたのかと思うくらい、楓は表情を1つ変えずに私のことを見つめる。
「ご、ごめんなさい……。私、ちょっと外の空気を吸ってくるわ……。30分以内には戻るから……」
その場に居づらくなった私は、ステージ上に上がる時のドレスのまま、控室から出て行くことにした。
一旦会場の外に出てみると、中とは違って春らしくほのぼのとした暖かい空気が流れている。
外はこんなに平和なのだ、と思いたくなるくらいにはいい気候だった。
会場がどれくらい盛り上がっているのかがふと気になり、少し周りを歩いてみると、決勝になってチラホラと帰っている人達の姿が散見された。
残念そうな顔で「今年はあの学校が凄すぎたから、仕方ないよ」とか、「月城、桜咲学園に負けちゃったし帰るかー」と言いながら会場を出て行く人達がいる。
どこかも分からないような学校が決勝に進んでしまっては面白いと思わない人たちも多いだろう。それに昼飯時なので帰る人達がどうしても出てしまうのだろう。
それでも、私達のことを見ずに帰っていくのはおかしいことである。どんなものでも一回は評価しなければ、それの可能性に気がつく事なんてない。そんな簡単なこともわからない人達のことを愚かだと思う。
このように言う私も、前までは愚かな人のうちの1人だった。
※ ※ ※ ※ ※
簡単なことに気づいたのは10月くらいだったと記憶している。寒がりで冷え性のある私は、10月でも冬服を着ていたから多分合ってる。
放課後の学園長室でパパと話していた時のことだった。
「失礼します」
ドアをノックして、ある1人の女子生徒が入ってきた。肩甲骨あたりまで伸びる綺麗な髪を緩やかになびかせて入ってきた。何かを決意したような瞳は、目を合わせていない私にすらも強い意志を感じさせた。
彼女の名は、上林 香織。現在、アイドル部所属の香織。
当時の私にとって香織は本当に謎に包まれた生徒だった。
パパが休憩でトイレに行っている間などに、無断で桜咲学園の生徒のプロフィールをのぞいていた。(一応、教師と生徒との面談に使う時のやつだったから大丈夫なはず……。)そして、資料を見ていき、ある程度の生徒の情報を手に入れた。(もちろん、桜田先輩の一件もこの時に探った。)
だが、一部の生徒だけはそれがないのだ。その中に香織も入っていて、当時の私には分からなかった。
これは私の推測になるが、理由としては『特別な事情を持つ生徒は担任のみが持つことを許されるから』だと思う。実際、香織の過去は複雑なものであった。(これは暫く経って本人から聞いて知ったもの)
という具合で、上林 香織 は謎に包まれていた。
そんな香織からパパへ、廃部を取り消してほしいとの申し出が有った。
家族のことがあり部活をできずにいた私は、部活のことになると敏感になってしまっていた。それで私は、香織がどのような人物なのかを確かめる事も兼ねて直接話すことにした。
その時に香織から次のように言われた。
「アイドル部に直接来てください……!」
私は多くの人と話したことがあるけれど、ド直球に物事を言う人物には会ったことがなかった。まあ、その香織の人間性に興味を引かれて、アイドル部に体験入部をしに行ったと言っても、あながち間違いではないのかな?
どちらにしろ、人数の少ない部活は廃部にする予定だった。行っても、部活の良さなんて何もわからない、そう思い込んでいた。
だけれど、アイドル部を実際に体験して評価してみて、部活が素晴らしいものだとわかった。アイドル部(というより部活)に対して、こんなに素晴らしいものは残すべきだと理解した。
この時に『物事は一回評価をすべき』だと、香織から教わった。
※ ※ ※ ※ ※
「少しは見て欲しいものだわ……」
帰ってゆく数人の観客を見ながら呟く。桜咲には、あの人達を振り向かせる力は充分あるのになぁ……。完璧なライブ見せつけて、振り向かせてみたいものである。
「あ、あれ……?」
そう考えていた私の脳裏にママの存在が浮かんでくる。きっと『振り向かせる』というワードが2つ(帰る観客とママ)に共通しているからであろう。
観客でもママでも『振り向かせる』ことは同じなのか……。つい、家族のことだったから深く考えてしまっていたが、どちらも赤の他人であると思えば、何も深く考える必要はない。
ただ見て欲しい、その気持ちをありのままに表現すればいいんだ。
今更ながら、楓の言いたかったことを理解できた。私が思い違いをしていただけで、楓は考えていてくれたんだ。
近くの時計を見ると、あと40分で決勝ステージが始まろうとしている。約束の時間まではあと10分。楓の待ってくれているであろう控室まで走って向かった。
② 私のありのまま
「鈴音、いよいよ私達の出番ね!」
楓が私の手を勢いよくガシッと握る。その手の温もりが私に何かの安心感を与えてくれる。
「そうね。自分のありのままをぶつけにいくわ!」
楓の言っていたことも、至って簡単なことであった。私は、小難しいばかり考えてしまい、簡単なことに気がつかないことが多くある。
変に難しく考えずに『ありのまま』で考えれば、きっと新しい発見ができるはず。そうすれば、私は更に成長できて、誰もが振り向いてしまいたくなるような人間になれるはず。
「それもいいけど、鈴音ファンの方も多くいることは忘れないでね?」
あ、そうだった。私のアイドル活動はファンの皆のためだって、この前のイベントで決めたばっかりだった。目の前のことに囚われすぎてしまって肝心なことを忘れていた。
「楓、あのさ……」
「ん?どーした?」
「私をいつも正しい方へと導いてくれてありがとう!」
楓には本当に感謝をしている。楓が私を導いてくれるから私は成長できた。あの時、部活を始めたばかりの時からずっと楓に感謝しっぱなし。
でも、いつかそれを返せるくらいに成長がしたい。
香織のように、思いを伝えたい人に何回でも気持ちを伝えていけばいい。
保真麗ように、自分と向き合って自分のありのままを貫けばいい。
桜田先輩のように、自分の大切な気持ちに素直になればいい。
松崎先輩のように、皆に温もりを届ければいい。
そして、
楓のように、人を導けるようになれたらいいな。
あと2話です、よろしくお願いします
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