12話 憧れと感謝《後半》(香織)
読む前にここ最近、回想シーンや過去のことが多くなっているので、一期を読んで下さると話の流れがわかりやすいと思うので、是非読んでください。
ギャルズメロディー1期の1話、2話、4話、5話、26話、27話、29話あたりの内容が絡んできています。
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12話 憧れと感謝《後半》(香織)
① 予選の結果発表
取り敢えず私達はライブを終えて桜咲の控室に入る。控室のパイプ椅子に座った途端、どっと疲れが出る。まだ、里見との勝負をする可能性があるのに、ここまで疲れているのでは決勝での勝ち目は無くなる。
今頃、体力のある楓か鈴音のどちらかがソロのステージを開始しただろう。
今まで何回かライブをしてきたことがあったが、大勢の観客の視線が自身に集まっていることなんて初めてだった。しかし、初めてみるステージ上からの景色に緊張をすることは無かった。
そこからの景色に、ほんの僅かの間に慣れたのではない。
松崎先輩の足手まといにならないように必死にライブをしただけだった。ステージ上でのミスは1つも許されないものだから、演技に集中することで精一杯だったのだ。
「お疲れさま、香織ちゃん!」
ライブを終えたあとの控室にライブを終えても元気な松崎先輩の声が響く。先輩は疲れた私にペットボトルの冷たいお水を渡してくれる。
「ありがとうございます。……水、本当にもらっていいんですか?」
奢ってもらった物なので、つい遠慮してしまう。遠慮する私に先輩は「可愛い後輩ちゃんなんだから!」と気にせずに言ってくれる。
断るべきか否か迷ったが、これ以上拒むのは悪い気がするので先輩の好意に甘えていただくことにした。
ライブをして温まった体に冷たい水が流れ込んでくるのが気持ちいい。お腹に冷たいものが流れてくるのがハッキリとわかる。
「香織ちゃん、決勝に行ったら次もよろしくね!」
決勝に行くことができるのは1校のみ。しかもどの相手も毎年全国に行くような強豪校。
勝てる可能性の低さは今までのオーディションの比にならないであろう。
しかし、話す松崎先輩の態度が、決して結果を気にしている様子がなくリラックスしているように見えるのだが何故なのだろう……?
なんだか頭の中、ぼーんやりとしてきたな。疲れて眠いし。
全く慌てることのない松崎先輩を見ていて、ふと東京に来る前に桜田先輩に呼び出されたことを思い出した。
※ ※ ※ ※ ※
「香織ちゃん、ちょっと時間あるかな?」
出発日の前日だったため、調整をしていた時のこと。
床に座って脚を伸ばしストレッチをしていた私のところに、小柄な桜田先輩がちょこちょこと歩いて来て話しかけてきた。
「はい、今ならありますよ」
私が答えると桜田先輩は私の横に座った。座高も私の方が高いため、桜田先輩が私を見上げるようにして話す形になってしまう。
床にペタリと両手をついて、桜田先輩は楽そうな格好で話し始めた。
「4月か5月頃に私が話したこと覚えてる?」
「……少しは覚えています」
完全に忘れてしまった訳では無いが、殆ど記憶に残ってない。
覚えてることとしては、あの頃は、まだ松崎先輩が一時的にアイドルを辞めていた状態だった。
仕事に追われる日々だった松崎先輩の体調を気にしていた桜田先輩が、自分を悪者にしてまで松崎先輩の健康を守ろうとしていた。その桜田先輩の思いに気付いた松崎先輩は、自分からアイドルを辞めて大切な桜田先輩に心配をかけさせまいとしていた。
そんな事情によって一時的にアイドルを辞めていた松崎先輩は、芸能界という舞台に戻ろうとしたが気が進まずに戻れていなかった。そこで、私が松崎先輩にアイドルとして戻ってもらえるように頑張っていた時。
「かずみんがあなたの事を認めていた事に、私、すっごく驚いちゃってさ。優亜ちゃんと結衣ちゃん,そして私の事しか認めていなかったのに、新人の香織ちゃんが認められていたなんて」
なんだか思い出してきたような気がしてくる。当時の私は、『かずみんに認められたあなたならきっと助け出せる』という桜田先輩のセリフを理解出来ずにいて、「凄いことなのか!」程度にしか思っていなかった。
「それで、大会の時なんだけど、かずみんは決勝に行けると信じ込んで余裕そうに見えるかもしれない。けど、それは、かずみんがあなたの事を実力があると認めているから。だから、かずみんが油断してそうに見えても大丈夫。その時は必ずいい方向に向かってる証拠だから!」
桜田先輩はそう告げると、「言いたいのはそれだけだったの。明後日頑張ってきてね!」と言って去ってしまった。
※ ※ ※ ※ ※
回想の終盤から体を揺すられる感覚がする。誰かが私のことを起こそうとしている。
「もう、……香織、起きなさいよ?」
「あふぇ……?寝てた……?」
鈴音に起こされてようやく目を覚ましたようだった。あ、そろそろ結果発表かあ……。
田崎先生、楓、鈴音、松崎先輩が全員したり顔をして集まってるんだけど、なぜ?私、まだ寝ぼけちゃってるのかな……?
「さ、早く!決勝の準備!必ず優勝取りに行くんだから!」
楓から急かされて「ああ、そうだ。急いで準備しなきゃ!」って思ったけど、いま、決勝の準備って言ったよね?
「決勝……?私達、予選通過したの……?」
「そうよ、あなたが寝てる間に結果発表されたの」
楓は呆れたような顔をしたけれど、すぐ後にニヤリとして「優勝も夢じゃ無いわ!」と呟く。その様子を見て初めて予選通過を現実として受け止めることができたが、起き立ちで頭の中がボンヤリとして夢の中にいるような気分。
「香織ちゃん、最後までよろしくね!」
松崎先輩が私に声をかけてくれるが、私は視界の端にチラッと見えた鈴音に注意が向いた。
床のある一点を睨みつけて、表情を曝け出して我を忘れたかのように爪を噛んでいた。予選通過したにも関わらず、悔しさを噛み締めるような態度の鈴音がそこには居た。
変わり果てた鈴音の様子が気になって、気がつけば松崎先輩への返答が疎かになっていた。
② 決勝
先に行われた里見学園のライブには一瞬で目を奪われてしまった。昨年の王者の実力を目の当たりにして言葉が出せなかった。
控室から会場の様子が見えたが、会場中の視線も即座に引き付けて全員を虜にしていた。あのパフォーマンスには誰でも惹かれてしまうよ……。そう思わせるくらいのライブだった。
あと少しで彼女らと同じ舞台に立たないといけない。
ステージ裏に居ても騒がしく聞こえてくるアンコールの声。(この大会では1回のみのライブなのだが、アンコールの言葉を引き出す程に素晴らしかったということ)それによりかかってくる重すぎるプレッシャー。ステージへ行こうとしても足が棒になって動かない。
「先輩……。う、動けません……。」
動け動けと自分に言い聞かせても体が動いてくれない。私はここで勝たなければ、妹やお母さん、元の両親への感謝の気持ちを伝えられない……。
勝てないよ、勝ち目なんて無いよ……。
「勝てませんよ……。勝たなければ、私の気持ちを……」
「そんなに勝ち負けになんてこだわらなくていいわ。勝っても負けても、思いが強ければその気持ちは届く。たとえどこに居たとしても。それは香織ちゃんが教えてくれたことだよ」
先輩が優しく私のことを抱いてくれる。その温もりに気持ちが安らいで心が軽くなる。気持ちが落ち着いたことで考える余裕ができた。
松崎先輩は私に教わったと言っていたが、過去のことを振り返っても何も思いつかない。
「私がアイドルを一時辞めていた時に香織ちゃんのライブを見た時のことだった。決して特別な才能があったわけでも無かった。だけど、誰よりも『アイドルが素晴らしいものだ』という思いが強かった。そのオーディションで香織ちゃんが優勝したかの結果はわからないけれど、あなたの思いが伝わってきた。その時に初めて気付いたんだ、アイドルの世界は勝ち負けじゃ無いんだって……」
松崎先輩は優しく言葉を紡ぎながら教えてくれた。記憶力のせいで思い出せないことはあるけれど、あの時の私は勝ち負けなんかにこだわってなかった。ただ、思いを届けるのに精一杯だった。
だけど、あの時の私から変わってしまった。
他人の彼氏を奪おうとして必死になって、いつしか結果だけを求めてしまう哀れな人間になってしまった。そして、結果がなければ思いなんて伝わらないと思っていた自分が居た。
でも、違うんだ。勝ち負けなんかにこだわるな、私!
「ごめんなさい……。結果しか考えれなくなってました。思いが強ければ、必ず伝わるんですね!」
松崎先輩は軽くうなづいて「やっぱり、私の認めた香織ちゃんだよ」と言って頭を撫でてくれる。結局、最後まで助けられてばかりじゃん。
松崎先輩が抱いていた私をゆっくりと離す。目が合うことで恥ずかしくなり、自然とはにかんでしまう。
「最高のライブにして、大切な思いを届けよ!」
「はい!必ず届けて見せます!」
憧れの先輩が私には居ます。あの日から芽生えた憧れの気持ちは、消えることなく今も私の中にあります。
そして、その先輩にはいつも感謝をしています。
ほんっとーに、憧れと感謝の気持ちでいっぱいです!
素晴らしい先輩に巡り合えてとても感謝しています。
今のお母さん、こんな私のことを育ててくれてありがとう。琴音、応援してくれてありがとう。
そして、元のお母さんとお父さん。私のことを産んでくれてありがとう。これからも天国で私のことを見守っていてください。
さて、終盤になってきて残りは3話(ほぼ確定)になりました。なんだか、早いなぁと思いながら書いていました。
最後までよろしくお願いします。
読んでくださってる方、感想とかをくれると大変嬉しいです。




