No.32 ありがとう
(どうする?このまま鉱山に立て篭もるか、外に出るべきか私はどっちを選べばいいの!?)
考えている時間も余裕もない。
武器を構えはするものの戦闘準備が出来ていないのだ。
内心焦る私にシェパード先生は優しく、ゆっくりと声をかけてくれる。
「カンナ君、まず両方を相手にするのは私達では無理だ。ガストンの動きと止めよう。ヴァンダ君はあくまでも上空で援護しているだけだ、優先順位は低い。鉱山は私達にとって有利だ。ガストンは地形を把握してないからね」
その年長者の助言に安心する。
これで迷いは吹っ切れた。
「でもどうやってガストンさんの動きを封じますか?」
「それなら逃げるのが一番だ、前線を下げて相手を包囲しよう。行くよカンナ君!」
シェパード先生の指示に従いガストンさんに背を向け逃走を開始する。
「逃げられると思うなよ!!ジョーイ、バネを出せ追跡する」
「あの靴、複数個機能があるんですか!?」
「靴の型をした武器だからね。素材も機能も豊富だよ、さすが伊達にパーフェクトは取ってないね。息子ながら厄介だよ。カンナ君、ここから真っ直ぐ進んだ場所がこの鉱山の中で開けた場所だ。移動用のトロッコもあったはずそれで鉱山を移動しよう」
(す、凄い。なんか洞窟探検でもしてるのかな…。シェパード先生が教授に見えて仕方ないんだけど)
そんな事をボヤッと考えていたらガストンさんとの距離が身近に迫っていた。
その刹那、片足をこちらに振り上げられる。
ガストンさんはシェパード先生よりも私を先に潰したいようだ。
「シェパード先生は先に行ってトロッコの準備をお願いします!私も後でそちらに向かいますから!」
その言葉にシェパード先生は戸惑っていたが、
「大丈夫です、私もガストンさんと同じ守護者ですから」
と言うと頷き奥の方へと向かっていった。
「おい女、お前がそんな武器持つ資格なんかねぇんだよ。ライアンの方が剣を持つのに相応しかった。仲間に殺害を押し付ける時点で人間失格だ。恥を知れ」
「…何度でも好きな用に言っていただいて構いません。でも、助かりました。貴方が単純な人でよかった。頭の良い人はこうはいきませんから」
そう煽ると真っ先に蹴りを入れてくる。
足は2本しかない。攻撃動作は極めて単純だ、受け流すのに徹すればガードは可能だ。
「てめぇ、性格悪いな。ヤンより悪い、あの医者もまともじゃなかったしな」
「パパの悪口を言わないでもらえますか?そんな事してたらシェパード先生にさらに嫌われますよ。いいんですか?」
その言葉に反応し、凄い速さで蹴りを入れてくる。
相手は私を殺そうとしている。高く振り上げているのを見るに頭部狙いだろう、急所狙いの可能性もある。
頭部での急所は一箇所しかない。
剣を顔の横に添えると、相手も気がついたようだがそのまま首狙いで蹴りが入る。
だが首までの位置には達しない。正確に攻撃を受け流せたようだ。
「しぶとい女だ、攻撃を先読みしやがって」
「褒めていただいてありがとうございます。でもこれからガストンさんの大好きなシェパード先生とトロッコに乗る約束をしているので失礼します」
「テメェ待ちやがれ!!」
その言葉を無視してシェパード先生と合流しトロッコに乗る。
乗った後緊張が解けたのか一気に痛みと脱力感に見舞われた。
「はぁ、はぁ。ゲホッ、ゲホッ」
シェパード先生に背中をさすってもらいながら何度も「大丈夫だよ、安心なさい」と落ち着く言葉をかけてもらった。
まだ腹部の痛みが癒えていない状態でガストンさんの蹴りを受け流せたのは幸運だった。
殺人キックは受け流すだけでも大きな反動がある。
怖がる自分を奮い立たせる為、喋り続けガストンさんを煽ったが大丈夫だっただろうか。
「カンナ君、私が後方に行ってガストンの攻撃を食い止めよう。この速さでもガストンなら追いつく。君は少し休んだ方がいい。今までも戦ってきたんだ。戦う恐怖心があってもおかしくない」
確かに、正直言ってこの戦いは不幸の連続で救える以上に亡くなった物も多い。
正直言ってしたくないこの不毛な戦いを終わらせたい。
でもそれが出来ない。最後まで私は戦い続けないといけない。
そう考えているとシェパード先生が悲しそうな目で私を見つめている。
「守護者の生徒達は全部背負いすぎだよ。教師に任せてもいいんだ。デール、裁ち鋏に顕現してくれるかな?カンナ君はここで休んでいて」
「シェパード先生、危ない!!」
次の瞬間、ガストンさんが私達に追いついたのか蹴りを入れてくる。
しかし、シェパード先生はその隙を見逃さなかったなかった。
片足のタガーとバネを大きな鋏を使い一瞬で切断し。
すぐさまもう一振りし足の軌道を逸らす。
「いや、案外出来る物だね。初めてやったからドキドキしちゃったよ。ガストン、お前なら受け身を取れるだろう怪我はしないようにね」
「このクソ親父!!余計な事しやがって邪魔するんじゃねぇ!!」
「す、凄い!!何で穏やかなシェパード先生がガストンさんのお父さんなのかわかった気がします!!」
お互いに動体視力というか反応速度が違うのだその後ガストンさんは受け身を取り、タガーとバネを復元させ私狙いで攻撃してくる。
シェパード先生はそれを把握し、目の前に立ち塞がる。
「親父、眼鏡かち割るぞ。どけ!!」
「視力が良すぎるから掛けてるだけだよ。ガストン、私はお前の頑張りを認めるつもりだ。私がお前の攻撃を防げるのは練習している所や大会を見ているからだ。…もうやめよう、良く頑張ったね。ありがとう」
その言葉にガストンさんはパラパラと涙を溢す。
トロッコも丁度終点につき、私とシェパード先生は共に降りる。
「…何だよ。何で今になってそんな事いうんだよ!!俺の事なんか見てくれなかった癖に!!」
「そんな事ありません!!シェパード先生はガストンさんの事を心配してたんです、ずっと、今でもそうです」
そのあとシェパード先生はガストンさんに近く、しかしガストンさんは認めたくないのか一定の距離を保ち続ける。
「親と子供っていうのは家族だけど考えてる事は違うからね。でもね、どれだけ心が離れていても側にいられなくても心の片隅で思っているものなんだよ。…ただ、私はお前に健康でいてほしいだけだったのに言葉が足りないせいでお前を不自由にしてしまった。ごめんよ、ガストン」
そのあと、ガストンさんは自分の右肩を押さえつける。
ガストンさんにもシェパード先生の想いが伝わったのだろう。
「ガストンさん、助け出す事が出来た守護者のみなさんはキョウさんの力で目や腕を取り戻せたんです。ここから出ましょう。まだ間に合います」
私を信用していないのだろうガストンさんは迷っているようだ。
その時だった、何かが崩壊する音がする。
「もしかして鉱山が崩壊しているんじゃ」
「そんなはずないよ。グノームが管理しているんだ。…まさか」
その言葉にガストンさんは目を逸らしている。
「俺が帰ってこなかったらヴァンダの奴にロケランを打ち込めって言ってある」
「不味いですよ!!そうでした、外から攻撃する事も出来るんですよね。逃げましょう!!お2人とも」
2人の手を引っ張り、元来た場所から鉱山を出ようとするがかなり距離がある。
「シェパード先生、他に出口はありませんか!?」
「ヴァンダ君が入り口を上手く塞いでいるんだ。ガストンだけでも救おうとしているのかもしれない。最初の入り口に戻るしかないよ」
「…」
入り口の近くまでくると爆発音が聞こえる。
その時だった、もうちょっとで3人一緒に出られると思った時横から瓦礫が崩れてくる。
最初ガストンさんが蹴り上げた振動で崩れてきたのかもしれない。
「おい親父、カンナ死ぬなよ」
次の瞬間吹き飛ばされるように蹴りを受ける。
全身が痺れ動けずにいたが今の状況を考えれば必死に這いずりながら彼の元に向かう。
しかし、それを制する人がいた。ヴァンダさんだ。
私の前に立ち塞がり武器を構えている。
「ヴァンダさん、ガストンさんがまだ鉱山の中にいるんです。攻撃を止めてください。お願いします彼を助けて下さい。お願いします…」
その言葉に気づいたのか彼の元に駆け寄っている。
自分はもう動けない。祈るしかないのだ。
シェパード先生も体を引きずりながら向かっている。
2人は塞がる崖を取り除いていくとボロボロになったガストンさんの姿が見えた。
「ガストン、今助けてやる。一緒に帰ろう」
「…うるせぇよ親父。…お前の方が…ボロボロだろうが」
「ガストンさん、なぜ2人を庇った。何故…」
「…俺の気まぐれだ。お前は気にすんな。後悔してない、自分で選んだんだ」
そのあと、ガストンさんはシェパード先生を見やる。
「Father,thank you for your help 」
(親父、助けてくれてありがとう)
そう晴れやかな笑みを浮かべ、ガストンさんは息を引き取った。
どうしていい人ほどすぐに居なくなってしまうんだろう。
それはきっと仲間想いで優しいからだ、自分の命さえ犠牲にしてしまうぐらいに…
泣きながら体を這いずらせ、彼らの元に向かう。
3人で協力し、ガストンさんの遺体を瓦礫の中から救い出す事が出来た。
「どうしてガストンさんはお前たちに救われたと思ったんだろうな…。いつもそうだ、助けてくれるのに助けられない」
そうフードの下から涙声になりながらいうヴァンダさんに何も言えなかった。
しかし、その後ヴァンダさん私の方に真正面から向き直りこう告げた。
「…これで最後だ。どうか私達を救ってくれ。どんな結末になっても私は受け入れる。満月の夜に会おう。行くぞグリフォン」
そのあと、ヴァンダさんはグリフォンに跨り満月の夜空を駆けていった。
シェパード先生はガストンさんを抱き抱えながら涙を流している。何度も何度も彼に「ありがとう。よく頑張った。ガストンは誰よりも強い子だ」と今まで口にしたこともなかったのだろう、彼への想いを伝えていた。
これで最後だ、この余りにも不毛で悲惨な戦いも終わる。
こうして8月の満月の夜は過ぎていった。
No.32を読んでいただきありがとうございました。
ジュリオ戦の時から親子関係の話を入れてそのままガストン戦に入れたのでよかったと思います。
今作の「〇〇コンプレックス」の人達って依存もそうですが劣等感もあるんですよね。
親の心子知らずですが逆もあるんですよね。何とかして親父に認めてもらいたかったガストンですが、切ないですね。お互いの気持ちも分からず。そこからドンドン遠のいていました。
次はNo.33「大空を駆ける」をお送りします。いよいよ最後のヴァンダ戦ですね。




