No.28 必要な努力
エレベーターに乗った後、ヤンさんに聞きたい事があり話しかける。
「あの、実はヤンさんに頼みたい事があるんです。島にずっといる私達では出来ない事なんです。協力していただけませんか?」
「私の利益になる事でしたらお聞きしますよ」
「え、えっと利益になるかどうかはわからないんですけどウサマルさんやキョウさん、これまで助けた守護者の皆さんを安全な場所に避難させたいんです。ヤンさんが襲われたのを見るに2人も同じような事になりそうで怖くて。皆さんを守る為にも力を貸してもらえませんか?」
そう説得するがヤンさんは眉をピクリとも動かさない。
無表情で私で頭を下げる私を見つめているようだった。
「あの、迷惑だったでしょうか?」
「いえ、そんな事ありませんよ。…ですが私の事を恨んでる人達ばかりですよ。前にも言いましたよね?それに肝心の避難所はどうするんですか?」
「すみません、まだ詳しい事は決めてなくて。でも2人は視力に障害があるので襲われたら危険です。ウサマルさんに至っては両目も見えない。誰かが付いていないと危ないのは確かです」
「そんな事だと思いましたよ。実は私がここにきたのは彼に会う為なんです。満月の夜ではありませんがDr.や貴方を通じて会えるかもとおもったんです。仕事の関係で世界中にアトリエを持っているそうなので丁度いいでしょう。カンナにも紹介します。脅…説得すれば貸してもらえるかもしれませんしね」
(脅す?ヤ、ヤバイこの人説得(物理)をやるつもりだ止めないと!!)
そのあと、最下層の5階に到着しヤンさんについて行く。
入り口である両扉を開けるとヤンさんが大声で誰かを呼び始める。
「ジュリオ!!デル・サルト・ジュリオ出て来なさい!!出てこないと8.8cm高射砲をぶち込みますよ!!」
「ちょっとやめて下さい、ヤンさん!!ここラスボスの根城ですよ!!」
あたふたしていると誰かの足音が聞こえる。
右側から革靴と白衣、そして私と同じ目を持ち、髪が伸びたのか後ろで束ねている父の姿があった。
父がいる事は覚悟していたが、体が上手く動かない。
何をしたらいいのかわからないのだ。
「誰だ煩いぞ。…お前達何をしに来た。私に復讐でもするつもりか」
その言葉も耳に入らずフラフラとしながら父に近づく。
「…パパ。パパだよね。覚えてる?私だよ、カンナだよ?会いたかったよ。ずっと会えないと思ってた」
まるで居なくなって時と同じように泣きじゃくり、子供のように小さくなりながら父にしがみつく。
「Dr.抱きしめてあげて下さい。…私の両親も再会した後なかなか手を離してくれませんでした。カンナもきっと貴方を離しませんよ」
その言葉に父は私を見つめ優しく抱きしめてくれる。
安心する。同時と同じ優しい手だ。
「元気だったか。風邪は引いてないか。お前は昔から風邪を引いてる所を見た事がないし大丈夫だろう。…私がいてもいなくても同じだろう。元々家に居なかったんだ。寂しくもなかっただろう」
「ううん、そんな事ないよ。絶対にない。パパがいなくて寂しかったよ!それにね、大事な時に風邪ひいちゃうんだよ。馬鹿だよね、私。…私もシュン君と一緒にいればメイさんを救えたかもしれないのに」
泣きながら崩れて落ちそうになる私を父は支え、私を起き上がらせてくれる。
初めてだった。自分の弱音を言える人が出来たのだ。
祖父母にも迷惑をかけたくなくて寂しいとも言えなかった。
「…そうか。カンナ、私はこの島を出ようと思う。私の役目は終わった。母さんが理事長の仕事を請け負ってくれるそうだ。今、研究室を片付けていたところだ」
その言葉に私は鳥肌が立った。ママが理事長になる?
“あの”母親がそんな事になったらこのスクールはどうなる?
「ダメ、それだけは絶対にダメ!!パパお願い、理事長の席をママに渡さないで!!そんな事をしたらスクールがぐちゃぐちゃになる」
その言葉に父は険しい顔をする。
もしかしたら、すでに違和感を感じていたのかもしれない。
「あの時、母さんから連絡を受けた時は何の動揺もしていなかった。メイの死もさぞ当然のように言っていた。だが、弾丸は間違いなくショットガンだった。…違和感はあったが間違いではなかったようだな」
「Dr.霊感がない、守護霊に詳しくない貴方だからこそ出来る事があるんですよ。まず貴方は私達にとって無害な存在だ。目的を終えたなら尚更です。そんな貴方が理事長という席にいるだけでも安心感がある。貴方はこの島に残るべきだ」
「…わかった。妻は私が常に監視しておく。理事長の席は譲らない。だが、不審な行動をしたら怪しまれる。表は私が裏は彼女がやる事にしよう。私は妻の操り人形になっているフリをする。問題ないか?」
「うん、ありがとうパパ。でも、安心したよ。あんまり顔変わってないんだね。髪を切って、髭も剃れば当時と変わんないんじゃないかな?ママから童顔だって聞いてたけど本当だったんだね」
「…」
「ククク、アハハハハハハ。Dr.は確かに年齢より若く見えますからね。私も26になりますけど、Dr.と会った時の事を考えると私より貴方の方が若く見えるかもしれません」
「おい、ヤン!くそ、余計な事を言いやがって。だから嫌いなんだあの女は子供にもベラベラと余計な事を」
「でもパパはそんなママの事が好きなんだよね?だってもう一度会いたいって思うぐらいなんだもん。…でも、ごめんね。私はパパの気持ちが理解できない。ママは亡くなった後も私の側にいてくれて、死も受け止めていたし」
「当時から答えは出ていたはずなんだ。こんな事をせず、お前と一緒に穏やかに過ごせばよかった。医者なのに娘が病気になったいる事すら気づけない。治療もしてあげられない。でも、こころのどこかで納得出来ない自分もいて、希望があると信じていたんだ。だが、決心はついた。…レイカは危険な存在だ。あのなんでも見透かしてしまうあの目は私の救いだった。優しい言葉をかけてくれたのは間違いなく彼女だ」
とポツリポツリと昔の思い出を口にする父に心が痛んだ。
父がどれだけ母の事を愛しているのかがしみじみ感じられた。
「だが私は彼女の良い所ばかりを見過ぎたようだ。彼女は正義感の強い人だ。絶対に自分の価値観を曲げるような事はしない。彼女は自分が正義だと信じて疑わないんだ。…私も過剰だと思っていたがまさかこんな所で響くとは思わなかった。彼女は「化け物」だ。彼の警告に従っていればこんな事にはならなかった」
「Dr.悔やんでも仕方ありません。過去は変えられませんが未来は変える事が出来ます。私達はまだ生きているんです。声は聞こえる訳ではありませんがはっきりと分かります。私達にはまだやるべき事があると」
「パパ、お願い私達に協力して。頼れる大人がいるだけで戦況は変わるの。子供に力だけじゃ限界がある。ヤンさんやパパみたいなバックアップをしてくる大人が必要なの。特にスクール内じゃ大人の数も限られてる。その分、大きな権力を持ってる人の方が多い。それはパパも一緒なんだよ」
「…娘の頼みなら仕方ない。わかった、お前達を信じよう」
「話がまとまってよかったですね。それで、肝心のジュリオはどこですか?」
「ジュリオなら訓練所にいる。次の戦いの備えて鍛錬をしているようだ。義手の感覚も掴みたいと言っていたしな」
「へぇ、ジュリオさんって努力家なんですね」
「いえ、ジュリオはどちらかというと天才肌なので訓練所に行くのは違和感しかありませんね。とりあえず言ってみましょうか?」
そのあと、訓練所の方に向かうがよく考えればプロムの後だしこんな時間にやっているのかと疑問に思ったが中に入り地下に行くと明かりがついていた。
「よし、後30回はできるはず。あいつらが来るまで力をつけないと」
「精が出ますね、ジュリオ。ですが、こまめに休憩を取ったほうがいいですよ。義手で鎌を振り上げるのは負担がかかりますから」
その声に反応し、彼はゴーグルを外す。
青紫の瞳と波打つ髪を持ち、目の下には深いクマがあり青白い顔をしているので今にも倒れそうだ。
黒い中折れ帽子を被っており、そこにはグノムアランドのネクタイと同じリボンが巻かれている。
バッチもそこにつけているようだ。
黒いのジャケットに白のシャツ、下はロングパンツにお洒落で高そうな革靴を履いている。
手には大鎌を持ち、背は高く180cmはありそうだがライアンさんとは違い細いというかガリガリな体でよくそうな物を持てると感心してしまう。
その前に彼の健康状態が心配だ。
「ひぃぃぃぃ、怖い人だ。何しにきたの!君、死んだんじゃないの!」
「カンナ言われてますよ。言い返してやったらどうですか?」
「いや完全にヤンさんの事言ってますよね?ボケてるんですか?ボケてないですよね?」
その言葉をスルーしヤンさんはジュリオさんに話しかけている。誤魔化さないでほしい。
「ジュリオ、貴方世界中にアトリエを持っていると言ってましたよね?それを私に貸してください。緊急事態です。貸さないと8.8cm高射砲を訓練所にぶち込む事になりますよ」
「アトリエならあるけど何に使うの?僕は価値のないゴミクズだからそんな僕のアトリエでもいいなら貸してあげるよ」
「あのジュリオさんって何してる人なんですか?シャトランスの生徒ですよね?何か芸術活動でもしてるんですか?」
「彼はモデルでもありファッションデザイナーでもあるんですよ。感性を鋭く保つ為に服のデザインだけでなく、彫刻や絵画にも精通しているんです。自分で手がけた作品を個展に出しているそうですよ」
「へぇ、ヤンさんお詳しいんですね」
(あ、あれ?もしかしてヤンさんってジュリオさんのファンなのかな?思ってたより仲良さそうだし、…ヤンさんの一方的な好意かもしれないけど)
「えっ、何?僕の事褒めてるの?やめてよ、そうやって僕を油断させるつもりでしょ。周りは凄いって良く褒めるけど、僕は満足した事なんて一度もないからね」
その言葉にヤンさんは目を輝かせているが、多分ファンの身として作者に限界がない事を知って嬉しかったのだろう。
「あ、あの私からもお願いします。ウサマルさんやキョウさんを避難させる場所が必要なんです」
「君が例のお嬢ちゃん?なら僕と勝負してよ。君が勝ったら大人しくアトリエを貸してあげる。元々満月の夜に決着をつけるつもりだったんでしょ?」
「そうですね、どうせ今まで活躍してないんですしここは1対1といきましょう。彼は守護者の中でも最弱です。こんな奴に勝てないならお門が知れてますよ」
「ヤンさん辛口すぎます。わかりました。では満月の夜に訓練所でお会いしましょう」
そして満月の夜、あれからヤンさんは父に庇ってもらい地下で過ごしていたようだ。
5階以外にも父やペルケレ先生が使う居住区があるらしい。
「それではいいですか?カンナ、ジュリオ」
「えぇ、準備万端です。行くよ八咫烏さん顕現せよ」
「ついにこの日が来ちゃったよ。負けたらどうしよう。ガストンやヴァンダに怒られるかな?いや、死んだらそもそも怒られないか。ノラ、助けて」
とジュリオさんは泣きながらイタチであるノラさんをぎゅっと抱きしめているが苦しそうだ。
『だ、誰か助けて潰れる』(小声)
No.28を読んでいただきありがとうございました。
ケンシロウがベビーフェイスなのは、シュンと会った時若い頃の写真だったにも関わらず面影があると言われたりウサマルにも思ったより若いと言われていた為です。
それは建前で作者の父親が老け顔なので反対に童顔にしてやろうと思ったからですね。
ちなみにレイカが実家で犬を飼っていたと言っていましたが作者の父が昔飼っていたので自分の親の一部を八代夫婦にも入れています。
あとケンシロウはレイカやカンナちゃんに対して雑な態度をとる事が多々あります。
身内なので気にしなくていいと考えていたようですがレイカが亡くなってからその事を後悔していたようです。
愛が無い訳ではありませんが一つの事しか出来ないタイプなので家族と仕事両方を大切にすることは出来ませんでした。
ジュリオの苗字である「デル・サルト」はイタリア語で仕立て屋を意味する言葉です。
イタチが鎌になるのは「鎌鼬」からの言葉遊びですね。
守護者の男性陣は芸術肌の子が多くヤンは絵画が好きですし、マルソも音楽が好きですね。
ウサマルにそういう印象はありませんが勝手なイメージですが古美術品が好きそうなイメージがあります。
1人だけ着物ですし、伝統とか大切にするタイプなのかな?と思います。
キョウは同人誌を描く手伝いをしています。自分でもイラストとか漫画とか書いてるんじゃないかな…。
ペンネームもトワコ先生がユニコーン先生と呼ばれ、キョウもホエール先生と呼ばれていそうです。
ジュリオは言わずもがなですね。自分の感性を大切にしていて天才肌でもあるので実は努力する方法を知らないという弱点もあります。今後はそういう所も書いていきたいと思っています。
何んだかんだ言って1番恵まれてるのってガストンですよね。父のシェパード先生が美術教師ですし、彼も感性や直感に優れています。成績も優秀なのでA評価(日本の通知表の5相当)をもらってそうですね。
次はNo.29「一騎討ち」をお送りします。




