No.26 パレット
「けい君、2人を包むよ。《椿》で顕現して」
(今度は《椿》!?お兄さん何種類使えるの!?)
同じように囲まれ、赤い液体を注がれるがまるで釜の中にいるように熱い、熱湯だ。
「クラゲさん、嵐を起こして!!水槽もろとも吹き飛ばすよ!!」
「ビュン!!ビュン!!ぐる!!ぐる!!」
タマミちゃんの新しい武器のスペックが非常に高い。
武器に触れずとも相手を倒せるぐらいだ。
「…何というか私、自信無くしたかも。この兄妹武器スペックが良すぎるよ」
と端の方でいじけていると八咫烏さんに突かれるが、タマミちゃんは優しくこう言ってくれた。
「カンナちゃんは強いよ。だって自分の強さも弱さも受け止められるんだもん。自分だけじゃどうする出来ないから仲間に頼ってる。これって結構出来ないじゃないかなー?私だったらブライドが邪魔して出来ないよー」
その言葉にキョウさんは動きを止め、悲しそうにしながら俯いているのがわかった。
何か彼の中で思い当たる事でもあるのかもしれない。
なんとなく自分の言葉を聞いて欲しくて彼にも聞こえるようにこう話した。
「私ね、守護者なのにエキシビションでシャンランさんに負けちゃったの。守護者って負けちゃいけない筈なのに負けた。今までの守護者の皆さんってずっと勝ち抜いてきて負けた事がないんだよね。守護者だけどその中でも私は弱い。でも強い事も私は知ってるというか、信じてる。中途半端だけどね」
その言葉にタマミちゃんは微笑んでくれた。
そしてお兄さんの方を見やり話しかけている。
「ねぇお兄ちゃんは負けた事ある?」
「…ないよ。ずっと勝ち抜いてきた。というか、そもそも試合なんかしてないでしょ」
「じゃあなんでお兄ちゃんは中途半端なの?」
「ちょっと、タマミちゃん!!」
「だってそうでしょ?胸を張って強いとも言わなければ弱いとも言わない。バッチが何よりの証拠だよ。付けないなら捨てればいいのに実家に置きっぱなし。本当は胸につけたいんじゃないの?今、ここにあるからつけなよお兄ちゃん」
とポケットからバッチを取り出し、キョウさんの胸に押さえつけている。
「捨ててくれればよかったのに、何で持ってるんだ」
「お兄ちゃんが何も言わないからでしょー、ダメだよ、自分で決めないとー。どうするのー?」
その言葉にキョウさんは体を震わせながら泣いているようだ。
タマミちゃんの手から奪うようにバッチを掴み、水色へと投げ捨ててしまった。
「…いらないよ、こんなもの。これでせいせいした。さぁ、続きを始めよう」
そう言うキョウさんを通り過ぎ、私は湖の中へ飛び込んだ。
「カンナちゃん!!」
守護者の私ならわかる。このバッチがどれだけ大切な物なのか。
手加減しようがしまいが何回戦もの試合を勝ち抜いてきたその実力に間違いはないのだ。
これを手放した時のキョウさんの顔が忘れられなかった。
付けなかったのではない。付けたくても付けられなかったのだろう。
私達がキョウさんにしてあげる事は2つだ。
バッチを付けてあげる事。
そして負ける事を知ってもらう事だ。
「タマミちゃん、私は大丈夫だから。お兄さんをお願い!!」
「どうしてカンナちゃんは湖に飛び込んだの。訳がわからないよ…」
「…わかったないのはタマミの方だよ。きっとタマミも同じ事になったらわかると思うよ」
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「やった!あったよ、タマミちゃん、キョウさん!!えっ!?」
湖から辺りを見渡すとまるで何色もの液体が散りばめられている。
良く見ると、何度も何度もタマミちゃんが囲まれた水槽を破壊している。
「お兄ちゃん、それで本気出してる?全然変わってないよ、さっきと」
「タマミが強すぎるんだよ。何なんだよもう。こんな兄妹喧嘩見た事ないんだけど。僕は認めないからな妹の方が強いなんて。兄として格好悪いでしょうが」
戦況はタマミちゃんが優勢だ。
バッチを取り戻した私はお兄さんの方へ駆け寄り組みつく。
「あー、もう何なんだよ一体!!こうなったら全部囲って全部混ぜちゃえばいいんだ!!椿、藍、葉全部混ぜてしまえ!!」
『キョウって大胆だね。それじゃあ行くよ、えい!!』
何が起こるのかわからない私は目を瞑り、水槽の中でじっと待つ。
目を開くとそこは無だった。何もないのだ。
真っ白で何も見えない。赤、青、緑を混ぜ合わせたのだろう。
タマミちゃんやキョウさんの姿も見えない。
じっとしているとある事に気づいた。
体がドンドン縮んでいくのだ、というか幼くなっている。
時間が戻っているように感じるのだ。どう言う事だろうか?
「けい君戻って、もう声まで幼くなってるじゃないか。どうやったら戻せるんだい?」
『黒にするんだ。全部の色を混ぜるんだよ。任せて!!』
すると一瞬で真っ暗になり、元の姿になるとキョウさんが戻してくれた。
他の色もそうだが、白や黒の人の姿まで変えられるこんなに水槽が強力な物だとは思わなかった。
「キョウさんって凄いですね。あの、もっと見せてくれませんか?敵が勿体ないです。見せて下さい、貴方の無限の力を」
「なんか趣旨変わってない?僕は君を捕まえに来たんだけどな」
「ねぇお兄ちゃん。どうして手を抜くの?お兄ちゃんの力が有れば普通に勝てたのに」
「僕は勝ちたかったんじゃない。負けたかったんだ。でもそれすら出来なかった。…僕は2人が羨ましいよ。何でそんなに堂々と戦えるんだ」
「そんな事ありませんよ、必死なだけです。お兄さん相手なら尚更です。タマミちゃん、今度こそお兄さんを捕まえるよ!!」
「何言ってるの、捕まるのはカンナさんの方だよ、けい君僕とカンナさんを囲んで、仕切りをつければ2色つかえる。僕は《葉》彼女は《山吹》だ」
「八咫烏さん、相手を迎え撃つよ顕現せよ」
水槽に囲まれ痺れを耐えながら泳ぎキョウさんの向こう側まで近づく。
(もしさっきみたいに色が混ざるなら、この方法を使えば助かるかもしれない!!)
剣で壁を破壊し、黄色と緑を混ぜ合わせる。
すると少しずつ黄緑に変わっていき擦り傷が癒えていくのがわかる。
黄緑には回復の効果があるようだ。
しかし、《葉》と違い息ができない。
ゴボゴボと息が漏れ口を抑えるが息が出来ず下に下に体が沈んでいく。
しかし、それを支えてくれる人がいた。
キョウさんが私を抱き上げてくれたのだ。
「けい君戻っていいよ。…どうしてここまで戦えるんだろうね」
その声が聞こえたあと私は目を閉じた。
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目を覚ますと何枚ものタオルに包まれており、見慣れない室内にいた。
「ここ…どこ?」
「ようこそ、僕達ニンフスピアリ寮へ。タマミが今君の寮に行って着替えを持ってくるってさ」
「あ、ありがとうございます」
そのあと、キョウさんは何故かじっと私を見つめている。
「今って1番チャンスだよね。君を理事長の所へ連れて行くの。例え君でも僕には勝てないでしょ?タマミは…強すぎるけどね」
「確かにそうですね。兄妹揃って強いなんて羨ましいです」
「…違うよ。タマミは強いけど僕は弱いよ」
「そんな事ないですよ。だって持ってるじゃないですか私と同じバッチ」
ポケットからバッチを取り出し、キョウさんが着ているローブの胸ポケットにつけてあげた。
「うん、良く似合ってますよ。やっぱり守護者は違いますね」
その言葉にキョウさんは笑いだす。
「君だって守護者じゃんか。そうだ、カンナちゃんって呼んでもいいよね。タマミの親友は僕にとっても親友だからさ」
「はい勿論です。キョウお兄さん」
「カンナちゃん、目を覚ましたんだねー。よかったー。凄く心配したんだよー。着替え持ってきたからねー」
「さてと、僕は地下に戻るよ。連れて帰らなかったら理事長は怒るかもしれないけどね。このままいてもしょうがないからね」
「ま、待ってくださいキョウお兄さん!!あのまま地下にいるのは危険だと思います。…メイさんの事もありますし。この島から出た方がいいかと」
「確かにそうだねー。実はね、お兄ちゃん達の命を狙っている人がいるの。出来るなら守護者の皆さんを集めて安全を確保したい。お兄ちゃんにはその手助けをして欲しいの!!」
「ちょっと待って、えっ!?僕達って狙われてるの?君達じゃなくて?一体誰に?」
「…私の母です。メイさんも母がきっかけに亡くなっているんです。もしかしたら私達が皆さんを助けても母が皆さんを襲う可能性があるんです」
「ラスボス系母さんか。新ジャンルがきたね。わかった、ありがとう。でも守護者を集めるのは難しいかもね」
「確かにそうだねー。まずは私達で案を練らないと。カンナちゃん、皆んなで作戦会議しようねー」
「うん、そうだね。お兄さんはまずは安全な所に避難してください、明日先生方に相談してニホンに送り返しますから」
「わかった、ありがとう。にしても2人共面白いね。秘密結社でも作ってるの?」
「えへへ、内緒です」「内緒だよー」
次の日、キョウお兄さんをニホンへと送り返した。
しかし、心配な事もいくつかある。
助けられたからと言って油断してはいけない。
勝負は始まったばかりなのだ、助けても守り切らなければ意味がない。
こうして6月の満月の夜は終わりを告げた。
No.26を読んでいただきありがとうございました。
守護者の子達は第4部で一悶着あります。キョウの混色は今後使うことになるかもしれませんね。
次は幕間となります。なんだかんだいってもう2年生も終わってしまうのでプロムや生徒会など今後に関わる描写をしたいと思います
次は「集合の合図」をお送りします。




