No.15 束の間の自由
「…ない、…ない、いない!!どこに行ったんですの、彼は!!」
目の前に立ち塞がる無数の瓦礫をかき分けながら、あの満月の夜からいなくなった彼を探す。
「ジャンヌちゃん、もういないんじゃないの?アミーゴも瓦礫どかすの疲れたってさ。戻ろうぜ、な?」
「マルソは口だけ動かして全然体を動かしてないじゃありませんの!!…いや、良いですわ貴方はそのままで。来てくれただけよしとしましょう」
私達が自由を許された時間は夜間のみだ。
あちこち彼を探したにも関わらず彼の痕跡すら見つからない。
いや、残された物といえばこの崩壊したコロシアムだろうか?
「この残骸、かなり激しくやり合った物に違いありませんわ。コロシアムだけならまだしも木々も倒れているんですもの」
「倒れているっていうより燃やしたの間違いじゃない?ヤンの戦車砲か、燃やせる武器を持った相手か。あのお嬢ちゃんは剣だろ?そんな物でこの木々は倒せない。お嬢さんに複数人の協力者がいるって解釈でいいんじゃないの?」
「まぁ、マルソ。貴方、案外良い推理をしますのね。音楽と女子の事ばかり考えてると思ってましたが見直しましたわ」
「脳筋のジャンヌちゃんに言われたくないんですけど」
そのあとも日が登るまで捜索を続けたが、何の手がかりも掴めないまま地下へと戻った。
「2人揃って何をしていた。こんな時間に」
ヒールを履いた自分より背か低い彼が私達を見つめてくる。
確か身長は161cmだったと思う。
背が伸びて喜んでいるのを何度も目にしていたのでよく知っている。
踏ん反り返るように話をしているようだが、私からすれば上目遣いにしか見えない。
彼には失礼かもしれないが、とても愛らしく、可愛らしいのだ。
「まぁ、ウサマルじゃありませんの。もしかして怒ってますの声をかけなかったこと。寝る子は育つというでしょう?身長を気にする貴方に気を使ったんですわ」
その言葉に彼は腕を組み不機嫌そうにしている。
「あら、図星ですの」
と彼の頬をツンツンと推す。
次第に膨れ上がる頬が面白いと思った。
「というかウサマル。わざわざ起きて来たって事は何か言いたい事でもあったんじゃないの?」
「あぁ、そうだ。ヤンのやつが逃げた」
「…逃げた?どうやって?私達を捕まえておいて自分だけ逃げるなんて…。本当ですの?嘘ではなくて?」
そのウサマルの言葉に呆然と立ち尽くすしかなかった。
10年近くシャトランスを出た事がなかった彼が今になって外に出た。これは完全なる裏切り行為だ。
「まさか、カンナさんとグルですの!!そんな事絶対許しませんわ!!自分だけ逃げ出そうとするなんて!!」
「ジャンヌ、落ち着け。ヤンの事だ、はなっから俺達の事なんか見捨てる気だったんだろう。俺達は自由になったんだ。だが、“あいつ”がいる限り俺達は外に出られない。“あいつ”を潰す。それはわからない」
「でも、お嬢ちゃんには仲間がいる可能性がある。厄介だね」
その会話のあと数分の沈黙のなかに「カツカツ」音が鳴り始める。
私の考える時の癖だ、頭と足が同時に動き出してしまうのだ。
ヒールの音が数回鳴り響いたあと、足を止める。
結論が出たのだ。
「とりあえず、守護者狩りは今のままで行きましょう。皮肉な物ですわ。ヤンの提案がベストアンサーなんて。カンナさんを倒せないと私達がこの島から出られない。満月の夜に決着をつけましょう」
2月の満月の夜、肌寒くなってきたが動き辛い格好をするのは危険だし嫌いだ。
庭園で雪が積もった花壇を見ながら彼女らを待つが予想外の事が起きた。
「カンナさんはどこですの?」
目の前にはピンク髪の男子生徒と唐服の女子生徒がいた。
「最初からこうすればよかったネ。今夜は来ないヨ。相手は我達ネ」
「お前達が来たせいでリーグ戦が中止になって皆退屈してるからな。相手しろ」
「なんなんですの!?まぁ良いですわ力でねじ伏せます。私が勝ったらカンナさんの居場所を教えてくださいますよね?サフィール顕現なさい」
久しぶりだこの感覚、手甲鉤を握ると血が沸る。
闘争本能が私の中にもあるのだろう。
本来の私はこうあるべきなのだ。
「ルイス、作戦通り行くヨ!!」
そのあと、ルイスと呼ばれた彼が花壇に隠れるように逃げ、私達は取り残される。
「あら、逃げるんですの?私を見て恐れをなしたのかしら?」
その言葉の後、遠くにあったはずの彼女の武器が目の前まで近づいてくる。
彼女が近くに来たのではない。武器が近くに来たのだ。
「お前の相手は我ヨ。1対2じゃお前に不利ね。ここは平等にしてあげるネ。それにお前の相手は我で十分ヨ」
「あら、随分と自信があるのですね。そんなに実力があるように見えませんわ。でも、やりあえば相手の実力はわかる物ですもの。さぁ、貴方の実力見せていただきますわ!!」
赤い棒を掴み、それを軸にして体を回し棒の乗る。
その様子に彼女は驚いているがこの程度、パフォーマンスにもならない。
戦車砲の上に乗ったことのある自分には造作もない事だ。
「悟空、縮小するヨ」
その言葉に合わせ、上空へと飛び上がり相手目掛けて武器を振り下ろすが不思議な棒でガードされる。
「反応はそこそこ良いですのね。これは露骨だったかしら?まだ本気を出せてないんですの申し訳ありませんわ」
「じゃあ練習すると良いヨ。お前、私と同じ匂いがするネ。戦いが好きネ?」
「あら、よくわかりましたわね。貴方も同じ気持ちになった経験がありませんか?戦ってる時だけなのです。自分が生きていると感じる時は。私は直感や本能で動くタイプですの。あまり考え事をするのは好きではありませんわ。単純明快、それが私の好きな言葉ですわ」
「私もそうネ、我お前とは仲良くできそうな気がするヨ。確かジャンヌって名前だったネ?」
「あら、私の事ご存知でしたの?私、有名人ですのね。フェヴリエ・ジャンヌですわ。麗しい名前だと思わなくて?」
楽しい、楽しい、楽しい!!
こうして武器を交え戦えるこの瞬間、勝ち負けなど関係ない。
相手が強いなら尚更燃える!!
私の手甲鉤からの攻撃を受け流していく。
サフィールが他の守護霊と違うところは両手に武器が現れる事だ。
片手で爪と爪の間に彼女の武器を受け、手甲鉤の爪を地面の土に押さえつけるように固定する。
そのあと、同時に霊体、武器に戻す。
その時だった、私達の戦いを邪魔するようにノイズ音が聞こえてくる。
「随分と楽しそうだな。人の気も知らないで」
「ギュィィィィィィン」と音がする正体は彼が持っているチェーンソーだった。
「貴方、ルイスさんでしたっけ?邪魔しないでいただけます?私達は戦っていますの」
「そんなの遊んでいるようにしか見えねぇけどな!!」
「ルイスやめるネ!!それは作戦にないよ!!」
次の瞬間腕が一気に脱力した。
左腕を見れば、肉塊と骨の断片が見える。
「…」
斜め下を見えば自分の腕“だった”物が見える。
『ジャンヌ様!!腕が!!』
「…」
「お前、自分がこれまで何をしてきたのかわかってるよな?お前達守護者を救う為に命張ってる奴がいて、その中に追い詰められた奴がいるんだよ!!馬鹿馬鹿しいだろ。懺悔しろ、神の前で」
と強い感情を含めた瞳で私を見つめてくる。
「はは…あははははははは!!良いですわね。その目気に入りましたわわ。貴方、ルイスさんとおっしゃるの?チェーンソーは意外と切れ味がいいのですね。貴方の扱いが上手いから一瞬でストンと落ちてしまいましたわ」
その私の言葉に彼が私が壊れたのかと思ったのか軽蔑している。
「そんなに怖がらなくてもいいのではなくて?さぁこれからどうするんですの?次は右腕?それともマルソのように右足?左足かしら?さぁ、始めましょうか、サフィール?」
『…ジャンヌ様』
No,15を読んでいただきありがとうございます。
シャンランはモデルからジャンヌと共通点があって男装だったり戦う女性なので気が合いそうですね。
メイもそうなので気が合いそうですね。
ルイスは守護者というか、ジャンヌを毛嫌いしていますね。
ミランダが守護者を助けたいと思っていたので、楽しそうにしている姿を見ると姉が侮辱されているそうな気がして嫌なんですよね。
次は「ラ・ピュアル」の回想をお送りします。
フランス語で乙女という意味があります。ジャンヌ・ダルクがオルレアンの乙女と言われていた事に因んでいます。




