「バルバロッサ」の回想
人生100年と言われるこの時代だが、誰もが100年という月日を過ごせる訳ではない。
私もその1人だった。
私の命は他の人に比べて短い物だった。
だから私の両親はその短い命を繋ぎ止めようと私をベットに寝かし付け、そこから出ないように本を与えた。
最初は良かったものの、その生活はやがて苦痛へと変わっていった。
なんとなく、自分が病気を患い外に出られないと理解し始めてから自由がないと思った結果なのかもしれない。
そんな自分にまるで塔の中に閉じ込められた姫のようだと感じた。
なら母親は魔女だろうか?そう考えると自分の家族ですら敵だと考えるようになった。
どうして童話に出てくる姫でさえ外に出られるというのに自分は外に出られないのだろうか?
そんな事を考える日々をベットの中で過ごしていた。
自分の人生は一瞬で終わる。
だから効率よく生きなければいけない。
本を読んで自分の人生の糧になるように沢山の本を読み進めて行く。
本を読んでいると様々な人の人生を見たり、登場人物になりきっているように感じるのだ。
しかし、本を読み終えると同時に毎回思う事があるのだ。
「自分の人生とは一体なんなんだろうか?」と。
人には誰にも物語という名の人生がある。
たとえ本に乗るような物でもなくてもだ。
その時、欲しいと思ったのだ。自分の人生が。
たとえ主人公として語られる事がなかったとしても…
そんな幼少期の私に転機が訪れたのはあの日からだろうか?
ある人物の本を読み終えた後の事だ、突然の頭痛に襲われた。
頭が割れそうになり、ベットから転がり落ちる程の激痛だ。
その痛みが収まるのを待ち目を開くと先程の本の中にいた人が目の前に現れたのだ。
「大丈夫か」と声をかけられ手を差し伸べられるがその手はすり抜けてしまう。幽霊というやつだろう。
私の母国において目の前にいる彼の話をする事はタブーとされている。
彼は言ってしまえば、巨悪、悪魔と呼ばれる存在だろう。
しかし、孤独であった私にとって彼は良い話相手だった。
私は彼からこれからの未来を聞いていた。
あまりにも突飛な話ばかりだったが何故かその話を素直に受け入れられた。
私はその運命に従い外に出る事を望んだ。
悪魔の言葉を確かめる事が出来るのは生きている人間である自分自身であると考えたからだ。
それに私に救世主が現れるという。
私にとってもメリットがあると言う事だ。
しかし、問題があった。両親がシャトランスに行く事を許してはくれなかったのだ。
何度も手術したその体で留学など無理だと。
この時、自分がどれだけ無茶な事をしようとしているのか理解できた。
しかし、その衝動を止める事は出来なかった。
それが自分にとって正しい事だと信じていたからだ。
自分の中にある狂気を理解しながらも、私はシャトランスに留学する事にした。
その中で1つ両親が提案したのが、動物を同伴させる事が出来る事を利用し、介助犬を一緒に連れて行く事だった。
その時、知り合いの医者からもらった犬がブロンディだった。
犬好きの悪魔が彼女に名前を付けてくれたのだ。
シャトランスに留学した私だったが、建てられたばかりのスクールという事もあって生徒数は70名程だった。
私は悪魔に対し自分の忠誠を誓う為に軍服のような制服に身を包んだ。母国では考えられない姿だ。
背徳心もあるが、悪魔と通じた私にはこの格好が相応しいだろう。
病を患っている事を周囲に隠しながらシャトランスで過ごすのは大変苦労した。
薬で心臓の発作をコントロールし、もしもの為にブロンディの首輪にも薬の入った容器をつけていた。
しかし、十分な警戒をしながらも予想外の事は起こる物だ。
しかし、それこそ自分が求めていた物かもしれない。
試験勉強をしようと校舎に夜遅くまで残っている時だった。
図書室を出た後、胸の痛みを感じた。
痛みはドンドン強くなっていき、倒れ込んでしまう。
その様子に側にいたブロンディが心配そうに私に寄り添ってくれる。
「ブロンディ、ありがとう」
そう言いながら首輪に入れている薬を取り出し飲み干す。
直ぐに痛みが癒えるわけではない。
体を引きずりながら壁の方へと体を預ける。
その時だった、人影が見えた。
しかし、手や足元が透けている。
その顔は悍しく何かに潰されたように見える。
人型である事にさらに恐怖心が増した。
このスクールに呪縛霊でもいるのだろうか?
虚ろな目で見つめていると霊は突然立ち止まり私の方に近づきヒラヒラと手を振っているようだ。
いや、腕が見えないのでそういう風に見えるといった方がいいのだろうか。
私に意識があるのか確認しているのかもしれない。
よく見ると黄緑のワンピースを着ており長いオレンジの髪を持っている。女性なのだろう。
「ご心配なく、持病ですから。薬も飲みましたし」
『ごめんなさい、なんだが放っておけなくて。主人が医者をしているの。主人だったら倒れてる人を放っておかないもの』
「医者ですか、この島に?病院があると言う風には聞いていませんが」
『今は研究者として働いているから。でも腕は一流よ。外科医だから手術専門だけどね』
その言葉にようやく合点がいった。
「救世主」彼女が出会うきっかけをくれたのだろう。
私の病を治してくれる人との出会いを。
「…私は幼い頃から心臓の病気を患っているんです。Dr.に見ていただく事は出来ませんか?母国でも何度か手術をしているのですが完治出来ていないのです」
その言葉に彼女は悲しそうな顔をし、「待ってて」といった後どこかへと行ってしまった。
見捨てられたかと思った私は期待する事はせず、胸の痛みがなくなると立ち上がった。
エレベーターの前に来た時声が聞こえた、男性の声だ。
「やめろ、離せ!!くそ、何なんだ出てこい。正体を表せ!!」
先程いた彼女が男性の手を引っ張りこちらに向かってきた。
(…本当に連れてくるとは思わなかった。というか彼は見えてないのか?彼女が)
このスクールは不思議な現象ばかりだ、そんな環境を私は案外気に行っている。
私の目の前まで連れてきてくれるが、男性は嫌な顔をしている。不機嫌なのか直ぐに分かった。
「失礼、私が頼んだのです。どうしても貴方にお会いしたかった。腕の良い外科医だと聞いていましたから、私の病気も診ていただけると思って」
「お前は悪魔でも連れているのか。いや、クラーケンを連れている私が言う事ではないな。誰に聞いた、私のことを」
「そこにいらっしゃるご婦人に。これはきっと運命でしょう。彼女が貴方会わせてくれた。まさか私を見捨てる訳ではありませんよね?貴方は死亡診断書だけを書くのが仕事ではないでしょう。そうしないとまた人が死にますよ?よろしいですか?」
その言葉に彼は嫌な顔をする。
間違いなく彼は目の前にいる彼女を亡くしたのだ。
というよりも、自分がこんなにも命に対し貪欲である事を知った。
「はぁ、分かったついてきなさい。と言いたい所だがカードキーがない」
その言葉にご婦人が私にカードを手渡してくれる。
夫婦そろって律儀な方だ。
「いえ、ご婦人にいただきましたから。問題ありません。いきましょう」
そのあと、エレベーターに乗り地下5階までたどり着いた。
「同居人がいるが、彼は常にここにいる訳じゃない。冷たい地下より暖かい所の方が好きだそうだ。持病はなんだ?検査機器なら一通り揃っている」
「心臓です。幼い頃から。ご婦人から医者だと紹介されましたが専門は?」
「私は君達子供が羨ましい。私は脳が専門だが救急にいた事もある。こんな所で研究医をするより現場の方が人の役に立っていたかもしれないな。検査を始めるから検査着に着替えなさい。始めるぞ」
そのあと、Dr.の指示に従い検査を受ける。
非常に丁寧でテキパキと検査してくれる。
全ての検査が終わり、結果が出るまでこの階を探索している時だった。
12時の方向にある廊下の一番奥に頑丈そうな扉がある。
近くまでいくと、下から冷気が漏れているのだ。
近くにDr.もいないので少し開けて覗いて見る事にした。
中に入るとまるで冷蔵庫の中にいるように寒い。
息をすると白くなるぐらいだ。
その部屋の奥にほのかな光があった。
下から溢れるその光の側に長方形のガラスケースがあった。
恐る恐る近くと中に何か入っているようだ。
黄緑の布が見え先程のご婦人を連想させる物だったので尚更奇妙に思った。
その正体を確かめようとすると、その無残な姿に心臓が止まりそうになる。
先程のご婦人の遺体が何故ここにあるのかわからないが、先程見た容姿と一致していた。
両手両足がなく、顔の出血も酷い。
この状態でなければ尚更、死体は腐り出血も多かっただろう。
ご婦人の顔をじっと見つめていると、後ろから足音が聞こえた。
「どこにもいないと思ったらここで何をしている。それに触るな」
と彼がこちらへと近づいてきた声をかけられる。
「申し訳ありません。ですが、ここに何故このような遺体が?こんな状態では亡くなっているでしょうに」
「…私の妻だ。数年前に山奥で襲われて亡くなった。さぁ、もう戻りなさい」
そう言いながらも彼はご婦人を見つめそのまま動かない。
その悲しい眼差しの中に彼女を思う愛おしさを感じた。
「Dr.貴方はご婦人をどうしたいのですか?まさかこのままガラスの棺の中で眠らせる訳ではないでしょう?」
「彼女を山奥で見つけたとき、頭が真っ白になって遺体を抱いて山を降りたんだ。そのあと彼に会った。私は焦ったが彼は遺体を保管する施設を用意してくれた。それがシャトランスだ。…いつか医学が発達して妻を生き返らせる事ができれば、娘にも会わせてあげられる。しかし生き返らせる方法を誰も知らない」
その言葉に私は悪魔との会話を思い出した。
今の人間が未来を作り、予言通り行わなければいけないのだ。
前列がないのであれば作ってしまえばいい。
私が彼の手助けをしよう。
「Dr.私に手伝わせてくれませんか?いえ、違いますね。実は私もこのスクールでしなければいけないことがあるのです。どうでしょうか?私はひ弱に見えますが良い武器を持っているのです。提案があるのです。ご婦人を生き返らせる方法が」
その言葉に彼は私の方を掴み食い入るように見つめてくる。
「どんな方法だ。私でさえ考え付かなかった方法でもあるというのか!?」
「まずご婦人は完全な人間ではありません。それを補う必要があります。四肢がなければ義手、義足をつけるでしょう?ですのでこのようにします。私がご婦人に合うドナーを連れてきます。Dr.はドナーからパーツをもらいご婦人の手術をして下さい。どうでしょうか?」
「人間を使うのか。だが、ドナー候補はここにいないだろう」
「ならば作りましょう。ドナー候補を競わせるのです。どんな状態にも耐えられるドナーを探す。良い案があります。校内大会を作るのです。私も参加してドナー候補を探しましょう。適合者がいれば私が連れてきます」
「なら私は生徒の中に協力者を得る事ができたという訳だな。良いだろう、その案を採用する。形ばかりと思っていたが、理事長の権限をここで使えるとは思わなかった。そういえば自己紹介をしていなかったな。私はヤシロ・ケンシロウこのスクールの理事長をしている」
「グデーリアン・ヴィルヘルム・ヤンと申します。それではDr.これから長い付き合いになると思いますがよろしくお願いします。必ず成功させましょう。貴方と私の為に」
そのあと、握手を交わした。
やっと見つける事が出来た。この運命に協力してくれる者が。
私達はこれから沢山の犠牲を出すだろう。
しかし、それで未来が定まるのなら軽い犠牲だろう。
そして私はDr.と10年の時を過ごす事になった。
「バルバロッサ」の回想を読んでいただきありがとうございました。
回想なので話数を付けなかったのでちょっと違和感が有りますがしょうがないね。
ヤンは時系列的に一番最初となります。大会が始まってからの描写はジャンヌの回想でやりたいと思います。
ちょっと悪魔さんの影響が強すぎてくどい感じになってしまいましたね。
キャラ付けの一つだと思っていただければ幸いです。
塔の中にいる姫は「ラプンツェル」の事ですね。同じくグリム童話なので描写しました。
作者某夢の国の作品が好きすぎてキャラクターにかなり影響が出てますね。
キャラクターがイメージしやすいんですよね。やっぱり先駆者は偉大です。
次はNo.14「結末」をお送りします。
守護者との対決は各キャラ3話を目安に作ってます。まだ下書きが出来てないのでどうなるかわかりませんけどね。




