24話 地竜アースリザード
雄叫びがダンジョン内の空間に響き渡る中、鋼の牙のメンバーと僕は5人で撤退すべく入り口へと走る。
ここまでの戦闘で十分に疲労も溜まっている中での緊急事態に息も絶え絶えといった4人の足取りは重く、大楯を担ぐデェンウィに至っては元々敏捷性が低いこともあり全員と一つ距離を置いて追いかける形になっている。
「デェンウィさん!大丈夫ですか?それより一体あの叫んでいるのは何なんですか?」
「はぁ、はぁ・・・なんとか大丈夫だ!あいつはこのダンジョンのボスと言われているアースリザードっていう地竜だ!」
「地竜って!?ドラゴンですかっ?」
「ポーツ君、リーダーが辛そうだから私から話しますね、地竜はドラゴンの下等種とも亜種とも言われている魔物です。ドラゴンには劣りますが今の我々では立ち向かうのは無謀です。万全の状況でも逃げるのがやっとといったところかと」
走りながらピノが近づき説明をしてくれた。この状況下で後れを取っているデェンウィに負担をかけるのは確かに悪手と言えよう。
すかさずフォローに入る辺りピノのパーティでの潤滑油的な立ち位置を内心称賛しつつ、また同時に自分の状況判断力に反省しつつ後ろを走る盾使いを見やると息切れを起こし、少しずつ距離が開いていることを感じ、手助けになればと重たそうな盾を代わりに担ごうとデェンウィに近づく。
デェンウィの後方にはすでに巨大なトカゲがこちらへと速力を上げて猛追している。
「デェンウィさん、僕が代わりに盾を持ちます!だからもう少し頑張ってください!」
「悪い!もう・・・息が・・・続かねえ」
大楯を渡されるとその大きさに倣い重量は見た目通りで、この盾をよくずっと振り回していたなとデェンウィの膂力に感心した。しかし、それはこの事態を思えばもう少し軽い盾を用立てても、と同時に反対の意見も芽生えたのだった。
遅れを取る二人を気にせずに走るルーミーとベルはなんとか入口へとたどり着くことができたようだ。
今の目的地である入り口の階段の奥で明かりを灯すルーミーを見て安心し、続くピノの姿をその目で確認した直後、
どしーーーーん!!!
まだ追い付かれる距離ではなかったように思っていたのだが、いつの間にか巨体を大きく跳躍したアースリザードが入り口前に、僕とデェンウィさんの間に道を塞ぐように降りたった。
その姿はドラゴンの下等種と言えば劣っているのかもしれないが、5メートルはある体長に鋭く尖った爪と牙。茶色い鱗状の肌はゴツゴツした印象で岩を相手にしているような感覚だ。
「ポーツ、俺のせいですまん!なんとか逃げ道を作ってやるからお前だけでも逃げきれ!」
そう言って僕が今さっき手に取った大楯を奪うようにして取り上げた。
「そんな・・・デェンウィさんも一緒に脱出しましょう!」
そう言って僕は炎刃刀を鞘から出し構える。
戦闘の意志ありと認識したのかアースリザードは再び咆哮を上げた。
より至近距離で放たれる声の暴力はそれだけで身震いを起こすほどの威力があり、ここまでの強敵に今まで出会っていないことから足が竦む。
それでもここで命を失うことはできない。まだ何も成しえていないのだ。
マルルとだってまだまだやりたいことは沢山あるんだ。
明滅する地竜の眼光が狙いを定めたのか見開きその巨体を弾ませて僕とデェンウィさん目掛けて転がってくる。その物量は圧倒的で巨大な岩石が降り注ぐような恐怖を抱く。
大楯でも弾けるかどうか、しかし大柄な男の背中は屈する気配どころか叫びを上げて自らを鼓舞して立ち向かう。
ドガァァアン!!!
大きな音を立て、土煙が巻上がる。
徐々に視界を取り戻すとデェンウィさんの大きな背中が立ったままアースリザードを抑え込んでいた。
明らかな体格さにどこか諦めを抱いていた自分を責め、デェンウィという男の偉大さ、強さに感嘆する。
「ポーツっ!!!今だ!逃げろぉ!!」
抑え込んでいたと思った衝突は今なおその攻防を継続しており、じりじりとデェンウィの体を後ろへ押し込んでいく。
「でも・・・デェンウィさんが!」
「いいから行け!大人が子供の道を閉ざしてどうする。未来ってやつを繋げるためには年取ったオヤジはこうやって体を張らなきゃなんねぇんだよぉぉぉ!!!!おらぁぁぁ!!」
デェンウィの怒号と腕力に一瞬怯んだアースリザードはその体を前に押し進める事が出来ず、突進行動を停止して別の手段を模索するように後ろへずりずりと滑らせる。
僕はデェンウィさんの言葉で全身を押されたように入口へと走っていた。
背中を伝い、アースリザードとデェンウィさんのぶつかり合う衝撃音が響いているが振りむくことが出来なかった。一度振り向いてしまえば勇敢な男の悲願を貶してしまうようで怖かったからだ。
「ポーツ君、良かった。生きてここまで来れて・・・」
「良い訳ないでしょ!デェンウィが・・・まだあそこで戦ってるのよ!?」
アースリザードの勢いに乗った尻尾に打ちのめされたデェンウィはすでに立ち上がることも出来ず、その後前足で圧し掛かられた後は藻掻くのがやっとという状況。
「・・・・・・助けに・・・いきますか?」
その時がベルの初めての発言だったが、結局誰もその言葉に返すことが出来ず立ち竦む。
ドラゴンの下等種の捕食する姿から目を背けることが出来ず、
項垂れるように僕はデェンウィの最期を見届けた。
満足したのかアースリザードは去っていく。
僕を含む4人は茫然とダンジョンを出ていき、誰も何かを口に出すこともなくただただ自己嫌悪と自責の念に苦悩しながら重たい体を町に向ける。
僕がもっと強ければ。僕がアースリザードに怖がらなければ。僕が、僕が、僕が・・・
「あなたが悪いわけじゃ・・・ない」
いつの間にか僕の隣を歩く白いローブを纏っている少女、ベルが本日2度目の発言をする。
それはか細く、頼りなく、それでいてどこか包容力のある慈愛のこもった言葉だ。
それをきっかけに目から零れるものを吐き出さずにはいられなかった。
手の届くものを守れるように、その強さを求めるように、僕の弱い心を捨てるように涙に含んで流していく。
力なく戻ったパーティはギルドに戻るでもなく、解散した。
報酬のことをピノさんが何か言っていたけどあまり頭に入ってこなかったから後日ギルドから受け取るように言われた。
宿に戻ったがマルルはまだ魔法の館にいるのだろうか?
すでに空は薄暗くなっている。
どこにいるのか、弱気になっている僕の不安は搔き立てられ、マルルの存在にどこか依存気味になっている。
焦るように、ただ安心したいだけの感情からマルルを求めて魔法の館へと足を走らせる。
しかしそこにはがらんどうの外殻しか残っていないただの家屋があるだけだ。
魔法の館という看板もなければ、装飾もない。
中に入れば散らかった蔵書やら薬やらがあったはずだ。その何もかもがなくなっていた。
ただ空間が広がる屋内は小さな建物にしてはずいぶんと広く感じてしまう。
頭の容量を超えた異常事態に僕は混乱し、事実だけを受け止めて立ち尽くす。
マルルはどこに行ってしまったのか。
魔法の館はなぜ無くなってしまったのか。
ダンジョンに行っている間に何が起きたのか。
その後も町中を走り回り空はすでに明かりを消している。
マルルの行方の一切が絶たれてしまい焦燥感と虚無感から酷く疲弊していく。
探知スキルを使っても反応せず、草臥れた靴は次第にめくれて前につんのめる。
休むことなく探すもその姿どころか気配の取っ掛かりさえ見つからない。
当てもなく走り回り最期に行きついたのは教会だった。
何にも頼れるものがないのだ。最後は神頼みしかなかった。
どうか僕にマルルを返してください。
そうお願いするために。
教会に入ると中に一人。
後ろ姿から神官かと思ったが近づくと小柄な背丈に神聖な白いローブを身に纏う記憶に新しい外見。
「こんな時間に・・・どうしたの?」
ベルはゆっくりと、そしてやはり慈愛のこもった声色で言葉を口にする。
デェンウィのことですでにベルには醜態を晒しているのでもはや身の振りかたなどに構っていられず、
「マルルが、僕の・・・マルル・・・仲間が・・・いなくなって・・・」
縋るように泣きついた僕を、優しく抱擁し、頭を撫でるベルは道標を指すように厳かな言を紡ぐ。
「ポーツ・・・あなたを救うことが出来るのはあなたしか居ません。その先には大きな・・・とても強大な相手に立ち向かわなければならないかもしれません。それでも・・・あなたが救いを求めるのなら・・・私があなたの心を包む衣となりましょう」
一体何を言っているのか、僕は混乱に混乱を重ねて頭の中がまとまらなかった。
「恐らくあなたの仲間は・・・ギルド本部に連れて行かれたはずです・・・」
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