23話 ダンジョンと仲間の在り方
僕を含む鋼の牙一行はソナニ村とは反対側、モントリル方面へと馬車に揺られて進み、途中で下車してからはここのところ依頼をこなすために入っていた森を右手に草原を進んでいく。
「ポーツはソロで冒険者やってるんだったな?Fランクなのにダンジョンの依頼を勧められるとはそれだけ良いスキルを持ってるってことか?」
歩きながらリーダーのデェンウィはこちらの実力を確認したいのか遠慮なく聞いてくる。
パーティの命を預かる身として僕の戦力を知っておきたいのだろう。
「良いスキルかどうかはわかりませんけどそれなりには戦えると思います」
何を基準にして話せばいいか分からなかったが、Cランクのネイビスにも勝つことが出来たので”それなり”には戦えると思い濁して返答した。
それにスキルを言うにはまだ信頼関係も出来ていないので簡単に教えるわけにもいかなかった。
「ポーツ君は見たところ剣の使い手ですか?腰に差しているのは珍しい形の剣ですね」
ピノは礼儀正しく僕の実態を掴もうとしているようだ。
「これは炎刃刀という剣です。鍛冶師からは剣ではなく刀だ、と言われていますが・・・」
「そんなことよりこんな坊やがダンジョンの魔物を倒せるのかしら?私に傷を負わせたら恨むわよ」
鋭い視線で僕を威嚇するように攻め立てるのは魔法使いのルーミーだ。
黒染めされたローブの胸元は広く切り込みが入っており、豊満な女性躯を際立たせている。
怪我をしたくないならもう少し露出を減らせばいいのに、という言葉は飲み込んだ。
そんな会話にも参加しない白い装束で身を包んでいるベルは無表情で後ろをついてくるだけで、僕に対して少しも興味がないようで遠く前を見つめて足を動かしている。
そんな一行を2匹のオークが襲い掛かってくる。
「戦闘準備!」
デェンウィはそう一喝して指揮をとる。
僕はこれまで何度もオークを退治していたので緊張もなく戦闘体勢に入る。
むしろデェンウィの叫びに少し驚いたくらいだ。
「ポーツ!お前の実力を見たい。1匹任せられるか?」
「ええっと、両方・・・でもいいですよ?」
少し怪訝な顔を浮かべ、「よし、じゃあやってみろ」と鋼の牙4人は前に出た僕と距離を取った。
オークくらいなら炎刃刀という強力な武器もあるし魔法も使わないで倒すことが出来る。
まずは威圧でこちらに意識を向けさせる。
丸太のように太い棍棒を片手に襲い掛かるオークに対して正面から応対する。
「お、おい!」
それを見ていたデェンウィが焦ったように心配するが、棍棒は炎刃刀の切れ味にストンっと半分に切断されて鈍器の役割を失う。
怯んだ1体のオークを横薙ぎにして下半身を切り離すと残る半身はその場で燃え始める。
炎刃刀の効果が切断面から炎を発生させたのだ。
躊躇しているもう一体のオークは翻って逃走を図るが、巨体で鈍足な豚には逃げ切るだけの素早さが足りていない。
僕の軽めのフットワークで追いつくと背中から斜めに刀を振り下ろす。
肉や骨に邪魔されることなくオークの肉体はどしんっと物音を立てて両断された。
刀についた血を振り払い鞘にしまったところで振り返るとベル以外の3人は口を開けて呆然と立ち竦んでいた。
「それなりには戦えますかね?」
そう聞くとうんうんと何度も首を縦に振ってくれたので”それなり”に戦えると認めてくれたのだろう。
一戦を終えてからは魔物が襲ってくることもなく、岩が集まったような場所に辿り着き、休憩を取ることになった。
デェンウィからこの先にダンジョンがあると説明を受けたので入る前の最後の休息といったところだ。
「それにしてもポーツの腕は確かなようだな。ソロでやるには勿体ない逸材だ。どうだ?うちに正式に入ってみるか?」
「いえ、僕にも一人だけ仲間がいるんですよ」
「なんだ、そうなのか。それは残念だな!」
「ポーツ君はCランクで留まるような器ではないですよ、まぁポーツ君がパーティに入ってくれればBランクに昇格することもあるかもしれませんが・・・」
「ちょっと!さすがにカッツェがいないところでそんな話するのは薄情よ」
カッツェというのは残る一人の剣士のことだろう、と話の空白を想像で埋めている僕を除け者にして鋼の牙一同にはただならぬ空気が漂っている。
「・・・・・・」
ベルは物言わず冷たい視線をデェンウィへと向けている。
場をむず痒い気まずげな空気にしてしまったリーダーは頭を掻きながら「すまんすまん」と誤魔化し笑いをするのがやっとのようだった。
「さて、そろそろ行くか」
ひとしきり休息を取り終えた一行を確かめたデェンウィからダンジョンへ向かうと告げられる。
それは先程までの空中分解したような信頼関係を一つにまとめるだけの声色で、皆がそれぞれに身も心も引き締めたように姿勢を正す。
草原を抜けて、休みを取った岩間の奥へと進むと、一際隆起した岩山のような場所があり、その大きな塊の足元には地面の下へと延びる階段が薄らと見えている。
ここがダンジョンか。
そこには見張りの兵が2人立っており、Cランクパーティの鋼の牙とはすでに顔見知りなのかすんなり中への侵入を許可してくれた。
暗闇へと続く階段を進みながら、
「ここからは俺とポーツが前で進む、その後ろをルーミー、ベル、最後尾はピノ、後方を警戒をしてくれ」
リーダーのデェンウィの指揮の通りの陣営で地下へと進んでいく。
地下へ進む穴の中は、入口からの太陽の光しか届かないので薄暗く、少し奥に進んだだけで頼りの陽射しは完全に役割を終え、ただの暗闇へとフェーズを進めた。
このまま暗い穴を進むのかと不安を抱いていると、後ろにいたルーミーが何かを呟き、鋼の牙を中心に光が放たれる。
「さ、進みましょ」と落ち着いた声で先を促すルーミーを見て、ダンジョンでの身の振り方を学習した。
そのまま地下へと進んでいくと今度は進行方向側から光が差している。
ルーミーが使った魔法の力で明かりを確保したからこの先もそれを維持していくものだとばかり思っていたが、精々が5分程度進んだところで魔法の光は役割を終えて解除された。
「ポーツ、ここからがダンジョンの1層だ」
デェンウィの言葉を受け、ダンジョン1層を確認するように目視すると、拓けた空間には岩山を潜ってきたとは思えない程の植物と水の流れる潤いの気配を感じる。
そこは一つの世界が広がっているようで、天井は淡く発光しており、その世界の彩明を調和している。
光に照らされた大地には草が生え、木が生え、その枝には実りを結んだ果物が赤青黄色と彩りを加えている。
経験のない不思議な空間に童心を擽られながら進んでいくと先頭を歩くデェンウィが背中に担ぐ大楯を前に構えた。それと同じくピノも弓を手に掛け、矢を掴む。
ルーミーは杖を握り、ベルは・・・特になにも変わらなかった。
魔物の襲撃が近いことを行動で告げられて僕も炎刃刀を鞘から抜く。
程なくして前方から3体のトカゲのような鱗をした人型の魔物がこちらに駆けてくる。
「まずはリザードマンだ!気を抜くなよ!」
デェンウィは戦闘の合図を送り、大楯を構えながら魔物へと突進をかます。
吹き飛ばされた1体に向かい、矢がバシュっと刺さり、呻き悶える。一瞬の攻防の結果に驚きと戸惑いを隠せない余る2体に向かって火の矢が放たれる。
着弾と同時に燃え上がると、リザードマンを形成していた体が粉々になり、小さな黒い石が残るだけだった。
ギルド職員の言っていたこれが魔石か、と納得した。
この戦闘に於いて自分が何もしていないうちに終わってしまった。
申し訳なさから次は自分が、とデェンウィに進言しようとしたところ、
「俺たちだってなかなかなもんだろ?期間限定とはいえ今は同じ肩を並べる仲間だ。信頼し合っていこう」
僕は”仲間”という在り方について考え方を間違えていたことに気付く。
自分の仲間はあくまでもマルルだけだった。
それは僕が守る存在、危険のないようにと注意していないといけない。
そんな風にマルルのことを想っていた。
でも今まさにデェンウィの言った”仲間”の意味はどちらかが守るような関係性ではなく、お互いの身を案じながらそれぞれの役割を担い、目前の障害を共に越えていくことを”信頼”という形のない繋がりをもった存在のことだった。
僕はこれまでマルルを仲間だと思って一緒に居たけど”信頼”とは違った別の繋がりで共に行動をしていたのではないかと自身の考え方を改めるきっかけとなった。
それからも魔物は断続的に襲撃を試み、魔石へと姿を変えていった。
僕は特に傷を増やすこともなくただただ肉体疲労を積み重ねるだけで済んだが、他のメンバーは爪を立てられた擦傷などで所々に赤い筋を作り、それをベルの治癒魔法で回復しては戦闘を続けるといった具合だ。
「ポーツはすげえな!ここまで無傷でやれるならもっと深くまで進めるかもしれない・・・が、情けないことにウチのメンバーじゃここらが潮時ってとこか」
すでに集めた魔石も3桁になったかというところでダンジョン探索もとい魔石集めの終了をデェンウィは告げた。
鋼の牙のメンバーを見るとデェンウィも肩で息をしているし、ルーミーは魔力が尽きかけているのか杖を地につけ重たい体を支えている。
ピノも持ち合わせの矢が残り少なく、汗で額を濡らしている。
ベルは、相変わらず無表情ではあるが息遣いは道中よりも荒くなっている。
リーダーの指示により僕らが来た道を戻り始めようとした、その時、
ぐぅおぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!!
奥の方から聞いたこともない咆哮が響く。
「マズい!みんな急いでダンジョンを出るぞ!」
デェンウィの言葉を聞き終える前に僕意外のメンバーは入り口に向けて走り始めていた。
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