25話 ベルの正体
ベルの言葉をどう結び付けても自分の中にある知識ではマルルの行方とギルド本部という言葉の間を埋めることが出来なかった僕は、「どうして・・・」と発することしかできなかった。
ベルは続ける。
「ギルドとは魔物を討伐し住民の平穏を守る正義の組織。それはあくまでも表の認識。ここネクトスの町にあるようなギルド支部ではギルドマスターのみ、あるいは一部の者だけがギルドという組織の本質を知っている可能性がある。冒険者には決して伝えられない秘密が・・・」
「秘密・・・?」
「魔石です」
「えっ・・・」
「魔石が何に使われているかギルドで説明を受けた?いいえ、愚問ね。決して説明を受けるはずがないのから。魔石とは何か、そこから説明をしなければならない。それを話せばあなたは世界の混沌に足を踏み入れることになり後戻りはできない。その覚悟があるか、今一度再考して」
今日一日しか時間を共有していなかったがそのほとんどを無言で過ごしたベルとは打って変わって饒舌に言葉が並べられる。そのことに戸惑い、その内容は苛烈でポーツの混乱状態では支離滅裂にぶつ切りにされた単語を発するのが限界だった。
「マルル・・・ギルド本部・・・魔石・・・関係が・・・ある」
「ええ」
町中を走りマルルを探し回っても何も掴めなかった手がかりが目の前にあると提示されたことで焦燥した感情は覚悟とは違うかもしれないが本意を覆すには至らなかった。
「それなら・・・それなら聞かせてください!僕はマルルを見つけたい!」
「分かったわ」と深い嘆息と吐いてからベルによって常識の裏側とも世界の歴史とも言える情報が流される。
ベルの話だと魔石は魔力の塊、魔物そのものとも言われているらしい。
ギルド本部は魔石を使って魔物を生成したり、魔兵器と呼ばれる対神聖族破壊兵器というものを作る為に用いられている。
そしてギルドの本懐として、人類の独立、即ち神からの人類解放というのが目的という。
この世界を造りし創造神ラスカを討つという雲をつかむような内容を告げられる。
かつて創造神ラスカは人類が争うことに苦慮し、魔神ザムドに魔物を生むことを命令したとされる。その効果もあり、箱庭の中の人類は魔物と言う共通の敵を認知していき人類同士の争いは徐々に終息へと向かっていた。しかし人類の中には強欲な性質を持った者や傲慢な意思を持つ者が存在しており、神を喰らわば己が神にとって代わる存在なり、と豪言を吐き集団を組織していった。それが冒険者ギルドのオリジナル、ゴッドイーターという組織の成り立ちだという。
神喰らいと名乗る者たちが行ったのは魔物の掃討。そして魔石の発見から研究、その成果としてダンジョンコアを完成させた。ダンジョンコアは大量の魔石を結晶化させて効果範囲内に魔物を発生させて環境に則した生態系を創り出すことを可能にした。
これにより魔石がダンジョンコアになり、ダンジョンから魔石を回収するという利の循環を作り上げたのだ。そこで冒険者ギルドという表向きの組織へとその顔を変えて、魔石回収の代替要員を大義名分を持って指示するに至った。
冒険者とは意図せずゴッドイーターの手駒とされ、また魔の適正を持った者をギルド本部へと強制召喚している。マルルはその対象になってしまったのではないか、というのがベルの予想だという。
しかしそれを裏付けるように、魔法の館のこと、そこがもぬけの殻になっていた事実がギルド本部のやり方と一致しているのだとベルは言を強めた。
「じゃあマルルはギルド本部に?」
ベルは首を横に振った。
「それは可能性の一つ。ギルドとは別にゴッドイーターの拠点は世界中にあるから。そこで影の使者として洗脳紛いの教育を受けることになるはず。それが叶わなければ排除されるだけ」
「そんな・・・じゃあマルルを助けるにはどうすれば・・・」
「今日のことで鋼の牙のパーティを解散したわ。これから私は本来の居場所に戻る。ポーツには私と同行してもらう。それが恐らくあなたの仲間を救う一番の可能性・・・」
そう言って始終被っていた白いフードを剥がし、光沢が揺れるように煌めく金髪に透明感のある白い肌、やや長めの耳と灰色と黄色がかった眼をこちらに向けた。
「自己紹介がまだだったわね、私は神聖ラスカニア国の第二王女ベルセント・フィリンプス・ラスカよ」
「神聖ラスカニア?・・・の王女様???」
ポーツは早朝からダンジョン探索、アースリザードとの強襲、デェンウィの死、マルルの消息不明とギルド本部にゴッドイーターと混乱の雨嵐に耐えがたい肉体的・精神的疲労を積み重ねた上でのベルの正体。
理解のキャパオーバーをとっくに過ぎていた限界を突破した後にくる衝撃にポーツはついには気絶してしまう。
「えっ、あっ、どうしましょう・・・」
ポーツの抜け殻を目の前にベルは一人、頭を抱えてしまうのだった。
◆◆◆
漆黒の肌を持つ長身の男は笑う。
「ふふふ、この辺境で魔の適正者を見つけることが出来るなんて私も神に愛されていますね。そうだろう?マリリン」
「ええ、そうね。でもこの子はまだ狭間で揺れ動いているわ。じっくり可愛がってあげないと、うふふ」
走る馬車の行車台にギャダルと名乗った男と魔法の館の主マリリンが乗っている。
荷台には拘束された少女が一人。
「もう一人、この町に面白いスキルを持った少年が居たね」
「あら、ギャダルのお眼鏡に適う人間が居るなんて珍しいわね」
「ああ、冒険者の少年でね。算術というスキルを持っていたようだ。彼はいずれ我々の前に現れるだろうね、ふふふ。その時が楽しみだよ」
怪しげに笑みを浮かべる漆黒の肌を持つブラックエルフに、行き先を共にするマリリンですら背筋を凍らせる。
「我らの悲願、神殺しの為に」
その一行は夜の闇へと影を消していく。
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