第6話
明日から第一章に入ります。そして明日からは1話ずつ、18時の投稿となりますので、よろしくお願いいたします。
魔法の練習をしつつ、すっかり朝日が昇った頃、ようやくアイが目を覚ました。
「ふぁ……はっ!?」
「おはようアイ。」
「ぜぜぜ、ゼラ様っ!?はわ、わ、私……眠ってしまったんですね。」
申し訳なさそうにシュンとしてしまったアイ。そんな彼女を励ますために、ぽんぽんと頭を撫でた。
「アイには睡眠不要なんてスキルは無い。睡眠が必要な体なら眠るべきだ。下手に徹夜なんてしたら体調を崩しかねないからな。」
「はぅぅ、し、しかし。」
「これは俺からのお願いじゃなくて、命令だからな。休める時は休む、寝る時はしっかりと寝ること。いいな?」
「ご、ご命令とあらば、このアイ……蒼角族の名に懸けまして従うことを誓います。」
「ん、それでいいんだ。」
納得してくれたアイの頭を撫でていると、魔力感知のスキルで何かがこちらに近づいてきているのを感じとった。この魔力の感じは多分オークだな。
「ちょうどいいや、アイ朝ご飯の時間だ。」
「ご飯ですかっ?」
「今多分オークがこっちに向かって来てる。アイツの肉は美味しいんだ。……他の魔物の肉に比べれば~の話だけど。」
「オークは魔界でも食用としてポピュラーな食材です。私の種族も良く食べてました。」
「そうなのか……ちなみにアイって料理とかできたり?」
昨日の夜もいつもと変わらず、干した魔物の肉を食べただけだったからな。
「母様ほどではありませんが、ある程度は。」
「じゃあ期待してるよ。オークは俺が倒すから。夜中の間に使えるようになった魔法を試したいんだ。」
洞窟の外に出て軽くストレッチしながらオークが来るのを待っていると、すぐに目の前の森から目を血走らせたオークが姿を現した。
「えっと、食用にするならこの魔法だな。」
詠唱無視のスキルのおかげで、魔法を詠唱する必要はない。頭の中で使いたい魔法を思い浮かべるだけでいいんだ。頭の中で黒風を思い浮かべた次の瞬間、オークの首から上がえぐり取られたように消えてなくなった。
その光景を側で見ていたアイは、表情を驚愕に染め上げてしまっていた。
「ぜ、ゼラ様その魔法は……。」
「あぁ、なんか闇魔法らしい。ただ闇魔法でもちょっと特殊らしいけど。黒風って名前の魔法だ。」
「黒風、た、多分闇魔法と風魔法の混合魔法ですね。……私も3つの属性の魔法に適性がありますが、複数属性の混合魔法は初めて見ました。」
「ちなみにこういうこともできるぞ。」
食料にするオークは一匹で十分だ。他の集まってきたオークは俺の魔法の練習台になってもらおう。集まってきたオークに黒炎、黒水、黒雷の魔法を放ってやると、俺の横でアイは膝から崩れ落ちていた。
「炎に水、更には雷まで……ぜ、ゼラ様はいったい何体の精霊を呼び出したのですか!?」
「ん?俺が呼び出せた精霊は一体だけだったぞ?確か闇の精霊ペルって名乗ってたな。」
「な、名付きの精霊ですかっ!?」
「……精霊って名前あるとか無いとか種類があるのか?」
「ふ、普通の精霊は無いんです。名のある精霊は大精霊と呼ばれていて、そ、それこそ運命に選ばれた者の前にしか姿を現さないんですよ!!」
「あはは、運命に選ばれた者かぁ。ある意味選ばれてるかもな。」
この稀代のゴミスキルを与えられたこと自体が、運命に選ばれてるっていうのなら、意味的には当てはまってる。
「さっ、まぁ一先ず食べれるうちに朝食にしよう。料理は任せても良いな?」
「は、はいっ!!誠心誠意、丹精込めて作らせていただきます!!」
そしてアイは慣れた手つきでオークを解体し始め、あっという間に骨だけにしてしまうと、俺が今まで集めた物資の中にあった、変形したフライパンや包丁、少量の調味料や香辛料を使ってオークの肉を料理していく。するとたちまち、胃袋を直に刺激される香りが漂い始めた。
「おぉ、美味そうな匂いが……。」
「も、申し訳ありませんゼラ様、今ある調味料と器具ではこんなものしか作れなくて……。」
そう言ってアイはフライパンの上でジュウジュウと音を立てる、巨大なステーキをこちらに差し出して来た。
「オーク肉のステーキ、肝ソースがけです。お口に合うかはわかりませんが……。」
「い、いや……俺は今までずっと味付けもなく焼いて食ってばっかだったから、味があるだけでもうれしい。」
早速食べようとすると、それをジッとアイが見つめていることに気が付いた。
「アイも一緒に食べるぞ。俺一人じゃこの大きなステーキ全部は食べれないからな。それに、飯はみんなで食べたほうが……ぐっ!!」
そう口にした時、仮初めの家族とご飯を食べていた光景を思い出し、ズキンと頭に頭痛が走る。
「ぜ、ゼラ様?」
「あ、あぁ……大丈夫。ちょっと嫌なこと思い出しただけ。みんなで一緒にご飯を食べれば楽しいって言おうとしたら、俺のことを捨てた家族と一緒に飯食ってた時を思い出したんだ。」
「あ、あ、えっとその……。」
「話の腰を折って悪かったな。さ、アイも一緒に食べるぞ。」
申し訳なさそうにしていたアイに無理矢理笑顔を作り、食事を促す。
「は、はいっ!!」
俺が手を合わせて、いただきますと言ってステーキに齧り付こうとしていると、不思議そうな表情をアイが浮かべていた。
「ん?どうしたんだ?」
「あの、そのいただきますというのは何でしょうか?」
「あぁ、これは食材に感謝して食べますっていう誓いみたいなもの。さっき俺のことを襲ってきたけど今はこうして俺の糧になるから感謝して食べますって意思表示さ。」
「で、では私も志を同じく……い、いただきます。……こ、こうで合ってますでしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ。」
ステーキを2等分し、大きな方を無理矢理アイに押し付けて、俺は小さいほうに齧り付く。
「んんっ!?美味いっ!!こんなにジューシーなオークの肉は初めて食べた。この肝ソースだっけ?これがあると味がすごく濃厚になって、病みつきになりそうだ。」
この8年で味わうことのできなかったちゃんとした料理に、思わずがっついていると、隣でアイが嬉しそうに笑っていた。
「気に入ってくださって良かったです。」
自分でも驚くくらいあっという間に食べ終え、久しぶりに食事で満ち足りた感覚に心酔しながら、俺はアイに問いかける。
「アイ、もっと調味料も器具もあれば美味い料理が作れるか?」
「はいっ!!お約束します!!」
「……そっかぁ。」
弱ったな……この味を知ってしまったら、もうあの血の味しかしないオークの肉には戻れない。だが、俺は街に入れない。街に入らないと、まず調味料や調理器具の調達は無理だ。アイも魔族だし、もちろん無理。
「誰かの助けが必要だな。」
あんまり他人と接触したくはなかったんだけど、この食事は手放したくないし、できるなら毎日こんな美味い食事を楽しみたい。
「しかたない。前に考えてた他人と接触する方法を試してみようか。」
「何か案があるんですか?」
「あぁ、この国には冒険者っていう魔物を倒したりしてお金を稼いでる人たちがいるんだ。」
「私の住んでいた魔界では日常茶飯事ですね。」
「まぁ魔物を倒すっていう職業だから、もちろん危険が伴う。そこで、危険な目に遭いそうな冒険者を助けて恩を売る。」
「なるほど、恩を売った冒険者をゼラ様の手足として人間たちの街の中に忍び込ませるのですね。」
「そういうこと。俺とアイは街の中には入れないからな。」
ただまぁ、この方法には一つ問題点がある。それは、そうそう都合よく助けを求める冒険者なんか見つけられっこないってことだ。
「そう簡単に見つけられないとは思うけど、一先ず今ある調味料が尽きる前に冒険者の一人や二人には会いたいな。」
「ゼラ様、僭越ながらもう一つ確実な方法がございます。」
手を挙げながらアイがもう一つ、確実だという方法を提案してくる。
「なんだ?」
「私の故郷である魔界に行くのです。」
「魔界……魔族の故郷か。どうやって帰るのかはわかってるのか?」
「魔界でも人間側からの干渉の対策として、脱出口兼侵攻口として人間界と魔界を繋ぐ穴を設置しているんです。その穴からは魔界の魔物が溢れ出していますので、大量に魔物が発生している地点を見つけることができれば……。」
「そこに魔界に繋がる穴がある可能性があるってことか。」
アイの言っている魔界に繋がっている穴を探すほうが確かに確実だな。危機にあっている冒険者を探すよりもよっぽど現実味がある。
「よし、アイの案を採用しよう。必要なものをまとめたらここを出発だ。」
「はいっ!!」
こうして俺とアイの魔界へ行くための旅が幕を開けたのだった。
この作品に対する感想、意見などなどお待ちしています。こうしたほうがいいんじゃない?とかそういったものは大歓迎です。単に面白くないとかそういった感想は豆腐メンタルの作者が壊れてしまいますので胸の内にとどめていただければ幸いです。




