第3話
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レッドサイクロプス。めちゃくちゃ凶暴で強い一つ目の巨人の魔物。前に戦った時は、すべてが俺を上回っていて、死にかけまで追い込まれたが……あの時運よくコイツの弱点をつけたおかげで大幅なレベルアップができたんだ。
「お前の弱点は、このバカデカい目だよなぁっ!!」
短剣を振りかざし、レッドサイクロプスの目玉を一突きしようとするが、大きな手によって遮られる。
「まっ、前みたいにお前が油断してた状況じゃないし、なかなか弱点はつかせてくれないよな。でも……。」
俺は左手で握っていた砂を、レッドサイクロプスの目に向かって投げつけた。
「お前のでかい手じゃコイツは防ぎきれないだろ?」
「ぐぉぉぉぉぉっ!!」
雄たけびを上げながら、両手で自分の目を覆うレッドサイクロプスの足の腱を切り膝をつかせ、体を足掛かりにして一気に飛び上がり、うなじに張り付いた。
「さて、いつまで目を隠し続けられるかな!!」
レッドサイクロプスのうなじ目がけて、短剣を根元まで刺し込み、大きく切り裂く。するとレッドサイクロプスの苦痛の叫び声が森の中に響いた。幾度かそれを繰り返すとレッドサイクロプスは俺のことを振り落とそうと片手を挙げた。
「それを待ってたんだよ。」
うなじを蹴って飛び上がり、自由落下に身を任せながらレッドサイクロプスの眼前に迫る。
「片手じゃそのデカい目玉は覆い隠せてないぞ。」
指の隙間を掻い潜り、レッドサイクロプスの弱点である大きな目玉に短剣を突き刺した。それと同時に狂ったような悲鳴が上がる。
「アガァァァァッ!!!!」
「じゃ、あとは任せるよアイ。」
「はっ、お任せください。」
落下する俺の横を風切り音と共に、真っ白な長髪をなびかせながらアイがすり抜け、そのままレッドサイクロプスの首を切り落とした。
「お見事。」
俺はそのまま着地するつもりだったのだが、レッドサイクロプスの体を蹴って戻ってきたアイが、俺のことをお姫様抱っこしてくれた。
「お、お怪我はありませんかゼラ様っ!?」
「無いよ大丈夫。」
するりとアイの腕の中から抜け出して、地に足をつけると、俺の目の前に文字の書いてある画面が表示された。
『魔物50匹の討伐を確認しました。おめでとうございます。ボーナスとして、ゼラ、アイ両名に経験値を授けます。』
その文字を見た瞬間にレベルアップの通知画面に切り替わった。
『おめでとうございます。レベル58になりました。』
「ボーナスってのもあるんだろうけど、かなりレベルが上がったな。」
「ゼラ様っ、私もレベルがたくさん上がりましたっ!!一気に42まで上がりましたよっ!!」
「アイも42か。ちなみに元のレベルはいくつだったんだ?」
「先ほどまでは32でした。」
「じゃあ一気にレベル10もアップしたってわけか。」
「これでもっとゼラ様のお力になれますね。」
そう言いながら、ふんすと鼻息を荒くして意気込んでいるアイの姿を見ていると、彼女の確固たる意志が伝わってくるようだ。
野暮だろうけども、これで最後だ。最後に彼女に質問をしよう。
「アイ、最終確認だ。今後俺と行動を共にするとなると、こんな事態が日常茶飯事になる。それでも俺に付いてくるか?」
その問いかけに対して、アイは即答してきた。
「もちろんです!!ゼラ様とご一緒できるのであれば、たとえ火の中水の中……ドラゴンの胃袋の中へでも、ご一緒させていただきます。」
「そっか、わかった。じゃあもう今日からアイは俺の仲間だ。よろしくな。」
スッと手を差し出すと、アイは感動しているのか涙を流しながら、俺の手を両手でぎゅっと握りしめてきた。
「はいっ、よろしくお願いしますゼラ様!!」
野に捨てられて8年。初めてできた仲間という存在。……なんだろう、嬉しいな。人の温もりなんてしばらく感じてなかったから。感傷に浸っていると、そんな俺を見てアイがあたふたし始めた。
「ぜ、ゼラ様っ!?な、何か悲しいことでもありましたか!?な、涙が……。」
「あ、いや……久しぶりに人の温もりを側で感じられたから嬉しくてさ。」
グイッと袖で強引に涙を拭うと、アイに向かって笑いかけた。
「さ、俺は大丈夫だから、早いとこ返り血を洗いに行こう。服もすぐに洗わないと血が取れなくなって、臭くなるぞ。」
「は、はいっ!!お供します!!」
そして近くを流れる川にやってきた俺が服を脱ぎ始めると、アイが俺の背中を見て驚きの声を上げた。
「ゼラ様……そ、そのお背中の紋様はいったい!?」
「ん?あぁ、これは罪人の……ん?いや違うな、罪人の印じゃなくて、確か……災厄の印って名前だったかな。ほら、俺さ、魔物誘引ってスキルを持ってるって言っただろ?それがあると街中にいても、お構いなしに魔物を呼び込んでしまうから、この紋様を体に刻まれて、人が集まる街や村、集落なんかに出入りできないようにされてるんだ。」
「…………人間は同種族間の絆が強い生き物だと聞いたことがありますが、それは真実ではなかったのですね。」
「絆なんて脆いもんだよ。このスキルがあるってことが発覚するまで、仲の良かったはずの家族だって、このスキルがあるってわかった途端、俺のことを軽蔑し、貶し、追い出した。」
「酷い話です。」
「ま、今となっちゃ気にしてない。俺一人が不自由になるだけで、何百人もの命が助かるなら安い安い。」
「や、安くはありませんっ!!」
突然アイが大声でそう言ったことに驚いていると、続けて彼女は言った。
「ゼラ様は人間でも、見知った間柄でもない私のことを身を挺して助けてくださいました。私からすれば、ゼラ様の存在はとても、とても大事で、決して安くなんかありません!!」
「……ごめん、失言だった。」
「はっ!?し、失礼しました。思わず……。」
「良いんだよ、こんなに俺のことを想ってくれる人なんてこの8年間いなかったし、素直に嬉しかった。」
ぽんぽんとアイの頭を撫でると、彼女は顔を紅潮させながらも嬉しそうに撫でられてくれた。
「あ、ゼラ様、お背中流させていただきます。」
「んぁ?別にいいよ自分で洗えるから。」
「だ、ダメですか?」
涙目ながらの反則級に可愛い上目遣い。こんなのでせがまれて断れるわけはなかった。
「わかった。じゃあお願いするよ。」
「ありがとうございます!!それでは川の水を汲んで……ボゥリィ。」
「んっ!?それ、もしかして魔法か?」
「はいっ、お湯を温める魔法です。温かいお湯の方が体の汚れも、血の脂も落ちると思いましたので……。」
「驚いたな。人間じゃ魔法を使える人って珍しいんだ。確か産まれたときから適性がある人しか使えなかったはず。」
「そうなんですか?魔族は基本的にみんな使えますよ。といっても、私はあまり強力な魔法は使えないんですけど……。使えるのは、こういった生活魔法ぐらいです。」
「いや、それでも十分凄いことだよ。」
アイは人肌よりも少し温かいぐらいの温度に温めたお湯を、俺の背中からかけ流して、優しくごしごしと体を洗ってくれた。久しぶりのお湯での洗体で、かなり体の汚れと、ついでに疲労も抜け落ちた気がする。
「はぁ~……気持ちよかった。ありがとなアイ。」
「いえっ、ゼラ様のお役に立てたのなら良かったです。」
「それじゃあ次はアイが……。」
「あ、私のことはご心配なく。クリアボディ。」
またしてもアイが魔法を唱えると、彼女の体についていた血や土ぼこりが、あっという間にきれいに浄化されていった。
「はいっ、この通りです。」
「その魔法、俺にも使ってほしいんだけど……いい?」
「もちろんです!!クリアボディ!!」
うん、これから体を綺麗にするのはアイの魔法にお願いしよう。この8年で溜まった汚れが一気に全部浄化されたような感じがして、めちゃくちゃ心地よかった。
最初からその魔法を使ってくれれば良かったような気もしたが……アイに背中を流して貰ったのは心地良かったし、何も言わないでおこう。
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