表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/100

第九十九話 誓います

 テーブルに、希惟さんが作った料理が並んでいる。


「くり抜かれたトマトの中に、ハンバーグがインして、おしゃれな葉っぱが乗ってるのが美味しそう」

「トマトファルシ」

「ひき肉のようなものを、鶏肉で巻いて切りましたみたいなのも美味しそう」

「チキンガランティーヌ」

「ガーリックトーストの上に、細かく切ったトマトとチーズが乗ったやつと、同じくガーリックトーストの上にスモークサーモンとチーズが乗ったやつもおいしそう」

「ブルスケッタ」


 俺に料理名を教えてくれる先輩を見て、理人が、

「普段何食べてるかの違いが出るね」と言った。


 お前も俺と同じようなもんだろ。


「怪我は大丈夫ですか? 無理をしたと聞きました。心配しましたよ」


 鬼ちゃんさんが、俺の三角巾で固定された腕を撫でる。

 触れられている感覚はないけど、なぜかドキッとしてしまう。


「もう同じような事はしないで下さい。君が心配です」

「あ、はい、気をつけま……」

「文都」


 先輩が、俺の顔を両手で包み、自分の方に向けた。


「お前は俺だけ見てればいい。分かったか? 視線をそっちに向けるな。いいな?」


 先輩? かわいいお顔が近くで見られて幸せですが、力が強いです。

 ところで、どうしてこんな席次になってしまったんですか?


 俺の右に先輩、左に鬼ちゃんさんが座っている。

 視線だけテーブルの向かい側に移すと、同じ事を思っているであろう理人が、ため息を吐いた。


「甲斐くんのお兄さん、何で俺を真ん中にするの? 恥ずかしがらずに恋人の隣に座りなよ」

「何言ってんの? 恋人って? 俺、フリーだし、年下が好きなんだけど?」


 わざとらしく、理人の右肩に腕を置く兄。


「……先日も先程も、公都さんと仲が良さそうにしていたが、どういう関係だ? 人間」


 冷たい視線を注ぎながら、理人の左肩に腕を置く希惟さん。


「俺を巻き込まないでえー……。俺……甲斐くんのお兄さんとは仲悪くて……」

「何言ってんの? めっちゃ仲いいじゃん! クリスマスもお正月も一緒だったし! 俺、理人くんのこと、若いのにしっかりしてるなあと思って、感心してるんだぞ? 顔もいいし、ボケもツッコミも、解説もできる」

「今、そういうのいらない……」


 ボケもツッコミも解説も?


「年下はかわいいですよね?」


 鬼ちゃんさんが兄に、同意を求める。


 このピリピリした状況で、それ言う?


「かわいいかわいい」


 お前もこの状況で、よく同意できたな。

 あ〜日ノ岡兄弟の顔が険しい〜……。

 兄と鬼ちゃんさんが揃うと、必ず、俺と理人が被害を受ける構図になる気がするんだけど……。


「かわいくて、つい、揶揄ってしまいたくなりますよね」


 皆さん、気付いていないと思いますが、俺の太腿に今、鬼ちゃんさんの手が乗っています。


「そういえば前に、鬼ちゃんさんに好きなものを教える約束をしましたよね?」


 先輩の呪縛から逃れ、失礼にならないよう笑顔で、困った大人に釘を指す。


「俺の好きなのは先輩です」


 鬼ちゃんさんが、にっこりと微笑み返し、

「そうですか。俺の好きなのは、甲斐文都さんですよ」と言った。


 え? 話聞いてた?


 理人が、もはや感心した様子で、

「強っ……」と呟く。


「鬼ケ原伊織……!」


 先輩が、怒りで体を震わせながら、強く握った拳をテーブルに打ちつけた。


「脳が感情の高まりを感じると、アドレナリンが分泌され、心拍数が上昇したり、自律神経が身体をうまくコントロールできなくなります。 自分の意志とは無関係に起こる震えには、自律神経が関係しているんですよ? それが、怒りで震えるメカニズムです」


 今、そういう情報求めていません。

 鬼ちゃんさんって別次元の生き物みたいだな……。鬼ちゃんさんの住んでる星では、別のルールと常識が存在するみたいな。


「文都に好きとか言うな! それに距離が近い! 隣に座るな!」

「おや? 甲斐文都さんが、俺に取られないか心配ですか?」


 一触即発の雰囲気を感じ取って、兄が場を和ませようとする。


「あ、乾杯するの忘れてたねえ〜!」

「先輩! 乾杯しましょう! 乾杯!」

「空気を読む甲斐兄弟」


 理人、お前も加勢しろ。ワクワクしながら、事の成り行きを見守るな。俺がこの場を上手く収められるか見定めているかのような、希惟さんの無言の圧が怖いから。


「先輩、今日は先輩と理人の誕生日パーティーですよ?」


 俺の差し出した、ジュースの入った紙コップを、先輩が受け取る。


「あ……ごめん……。雰囲気悪くして」

「そういえば先日、甲斐文都さんに介抱していただきました」


 先輩の氷のような視線が、ゆっくりと鬼ちゃんさんに移る。


 やめてえー……。今、先輩の怒りが鎮まりつつあったのに……。


「やさしく手を貸して下さって、キュンとしました。酔っていたのであまり覚えていませんが、甲斐文都さんの手首に……」


 鬼ちゃんさんが、自分の手首の内側にキスをした。

 先輩を揶揄うような笑みが、大人の余裕を感じさせる。


 しっかり覚えてるじゃないですか。

 二度と、鬼ちゃんさんと酒の席を共にしない事を、ここに誓います。


 先輩の手に持っていた紙コップが、無惨に形を変えた。もはや、意味を持たないものとなってしまった紙コップから、ジュースが溢れ、先輩の手を濡らし、床に敷かれたラグにシミを作っていく。


「oh……俺のラグ……」


 兄の切ない呟きは霧散した。

 部屋全体を凍らせてしまうような、冷たい声で、先輩が鬼ちゃんさんの名前を呼ぶ。


「鬼ケ原伊織……。お前、よくも俺のものに……」

「先輩、あの、落ち着いて……」

「落ち着いていられるか! 文都は……文都は、俺の……」


 はっ……マズイ……。

 先輩、ダメです!

 兄の前で、俺の血とか言ったら、先輩が吸血鬼だってバレちゃいますよ!?

 吸血鬼だということを、必死に隠してきた希惟さんの努力も水の泡に!


「先輩……!」


 俺の呼びかけが届く事はなく、先輩の口から続きが溢れる。


 ああ……俺と先輩が恋人同士という、兄の妄想も終わりを告げてしまうんですね……。


 刹那、変わりゆく関係に寂しさを感じながら、先輩の声を聞く。


「文都は、俺の恋人なんだから!!」








 は?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ