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第八十九話 兄と結婚

「あの……」


 先輩が、おずおずと兄に問いかける。


「お兄さん、俺の兄と結婚するんですか?」

「……」


 おい、わざとらしく何の話?みたいな顔をするな。


「それはあの……あれです、差し入れ嬉しいなって言うノリで……あの、結婚は……しません……」


 罪悪感を感じているのか、段々と兄の声が小さくなっていく。


 お前こそ、ピュアなハートを弄ぶな。

 希惟さんも、さすがにお怒りなのでは? もうぶん殴っていいですよ。


「では、私とここでルームシェアするのはいかがですか? そうすれば、いつでも食事を作ってあげられます」


 希惟さんが、自分の心を落ち着けるように細く長いため息を吐き、結婚にかわる提案をした。 


「ドアインザフェイス。最初に、大きな要求をして断られたあとで、本命の小さな要求をして、承諾を得る交渉術。断ってしまった罪悪感を逆手に取る」

「理人?」


 急に自分の役目を果たすかのように解説を……?

 結婚という大きな要求の後で、本命のルームシェアを勝ち取るという算段だと?


「心理戦を用いてまで、希惟さんが計画的に兄を落としにきてるみたいな偏った見方はやめろ」

「事実だよ」


 またまた、希惟さんがそんな姑息な手を使う訳ないだろ。


 思いがけない提案に、言葉を詰まらせる兄に、希惟さんが、更に兄にとって都合のいい条件を追加する。


「もし、承諾していただけるのなら、家賃、光熱費、食費、その他、生活に関する費用は、全て私が負担します」

「な、何だってー!?」


 思わずテーブルの上に、身を乗り出す兄。


「結婚とルームシェア、どちらにしますか?」

「誤前提暗示。二者択一の問いかけによる心理学。人は選択肢を与えられると、それ以外の選択があるにも関わらず、与えられた選択肢の中だけで、物事を判断してしてしまう」

「理人?」


 鬼ちゃんさんがいない時の解説役は、お前が担ってるの?

 でも、希惟さんがそんな姑息な手を使う訳ないだろ。


「おいしいご飯も食べれて、お金も払わず……何それ最高かよ……。ん? でも、待てよ……」


 兄が、眉を寄せて、

「ルームシェアするなら、ここじゃなくて、お前の住んでる所の方がいいんじゃないの? 絶対その方が広いだろ。ここ1Kだぞ?」と言った。


 指摘されたくなかった事なのか、希惟さんの口元が僅かに歪む。


「お前、ここの何倍も広い所、住んでるんじゃないの? 部屋も何部屋かあって、夜景がきれいに見えるような」

「わ、私はホテル暮らしなので……」

「へーリッチだねーさすが……ん? じゃ、どこで差し入れ作ったの?」

「……」


 希惟さんの目が泳いでいる。

 1Kの方が距離感近いですもんね。広い住まいじゃ、家庭内別居みたいな事もできちゃいますもんね。


「せっかくご近所になったのに」

「亜蘭くん! 俺もご近所で嬉しいよ!」


 特に意図はない先輩の一言が、劣勢になりつつある希惟さんに、助け船を出した。

 理人が、希惟さんの提案が、俺たちにとっても悪くないという事を、俺に気付かせる。


「先輩のお兄さんがルームシェアすれば、先輩とお兄さんの仲が深まる心配も、酔っ払ったお兄さんの心配もいらなくなるね」


 な、何だってー!?


「快諾するべきだよ! こんないい条件ないよ!」

「何でお前がノリノリなんだよ。でも、この部屋狭くて、もう一台ベッド置けないしな……」

「私は床で構いません」

「ちょうど、俺が持ってきた来客用の布団が!」

「俺の寝袋もあるし」

「だから何で、お前らがノリノリなんだよ。それは持って帰れって言っただろ」

「お兄さん」


 先輩が、兄に向けて深々とお辞儀をする。


「兄の弟離れの為に、よろしくお願いします」

「なっ……亜蘭くん、とりあえず顔を上げて……」


 先輩、兄に頭を下げるほど、希惟さんからの干渉に嫌気がさしてたんですね。


「お兄さんが兄とルームシェアって、もう俺の家族みたいなものですね。そしたら俺、お兄さんの弟」


 顔を上げて、兄の手を取った先輩の周りを、キラキラとした光の粒が舞っているように見える。


「お、弟……? 亜蘭くんが……俺の……」


 衝撃の事実に、兄が目を見張る。


「……します」


 兄が、高らかに宣言する。


「俺、希惟とルームシェアします!」

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