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第七十七話 先輩とイチャイチャしたい

 先輩、俺には分かっています。

 今までの事を考えたら、先輩が何をお考えなのか。


 俺の部屋のベッドにうつ伏せで寝転んだ先輩が、足をパタパタしながら俺に声をかける。


「早くマッサージ」


 ですよね! やっぱり!

 そして俺は、いつものような過ちは犯しません!


「座った姿勢で大丈夫です!」


 なぜなら足つぼマッサージだから!

 これなら安心!


「足裏って、つぼがたくさんあるらしくて、体のどこが不調なのか分かるらしいですよ」

「へー……痛くないかな」


 先輩が不安そうに上目遣いを向ける。


「やさしくやって……」

「はい! 任せてください!」


 先輩の足裏を、親指を使って刺激する。


「んっ」


 先輩の体がビクッと震える。


「……」


 落ち着け自分、まだ始まったばかりだぞ?


「すみません、痛かったですか?」

「いや、大丈夫」


 ほら、先輩も大丈夫って言ってる。

 足つぼの安全性を信じるんだ。


 両手で包むように足を持ち、親指の腹を押し滑らせる。


「んぅっ……」


 口元に手を当て、ビクンッと体を震わせる先輩。


「……」

「ごめん、くすぐったくて……」

「あ、なるほど。やめますか?」

「ううん、もっと触って」

「……」


 内なる自分との戦いを開始しながら、先輩の足裏を指で押す。


「あ……っん……ふふっ……んぅっ」


 体を震わせながら、身をよじらせる先輩。


「あ……文都……」


 ベッドに仰向けで横になった先輩が、運動をした後のような息遣いになる。


「はぁっ……は……も、もう、ダメ……」


 俺の方がダメかもしれない。




 俺の正気を保つ為に鳴らされた音のように、玄関のインターホンが鳴る。


「誰か来たんじゃない?」

「あ……はい」

「出なくていいの?」

「ええと……」


 先輩が無垢な笑顔を俺に向ける。


「すぐ戻って来ますね」

「うん、喉乾いた。戻ってくる時、飲み物欲しい」


 俺と先輩の邪魔をするのは、兄だけではないという事ですね?


 乱暴に玄関のドアを開ける。


「はい、どちら様で……」


 光を束ねたような金色の髪に、値段の付けられない希少な宝石のような金色の目。整いすぎた顔に高身長、完璧なスタイル……。


「希惟さん!?」

「年始のご挨拶に」


 気品のある、きっちりとした服装の希惟さんが、手土産を持参してそう言った。


 な、何というタイミング。

 俺、希惟さんから先輩に触れるなって釘刺されてるんだよな。

 家に二人きりでいる事がバレたら、目に入れても痛くないくらい、先輩に愛情を注いでいる希惟さんに何をされるか……。 一体どうしたら……。


「公都さんは、ご在宅ですか?」

「いえ、兄は出掛けておりまして。父と母も外出していて、俺だけです」


 お帰りいただこう!

 それしかない。俺しかいないと分かれば、すぐ帰っていただけるはず。


「では、中で待たせていただきます」


 玄関で靴を脱ぎ、慣れた様子でリビングに向かう希惟さん。


 ウワァーン!

 意外と真面目な兄が、年明け出勤の前日、帰宅の時間が早い事を予想しての行動!?

 先輩が俺の部屋にいるのに!!


 希惟さんは、リビングの椅子に座り、

「どうぞ、お構いなく」と言った。


 いや……お構いも何も……。


「お時間、大丈夫ですか?」

「私がいると何か問題でも?」


 先輩がいる事、バレてる訳じゃないよね?

 先輩とイチャイチャしたいので、お帰りくださいって言ったら殺されるかな?


 静まるリビングに、俺の部屋から何かが床に落ちたような音が聞こえてくる。


 先輩!? 一体何が!?


「……誰もいないと言っていませんでしたか?」


 希惟さんが、不審な目を俺に向けた。


「あの……猫がイタズラを……」

「猫を飼い始めたんですか?」


 咄嗟に吐いた嘘が、猫。

 猫カフェに行った帰りだから、もう脳内がほぼ猫。

 ああ、先輩に飲み物も持って行かないと……。


 希惟さんから怪しむ目を向けられつつ、キッチンをウロウロする。


 どうしよう、猫と言った手前、ウーロン茶は持っていけないし。


 マグカップに牛乳を注ぎ、トレイに乗せ、希惟さんの前を横切る。

 なぜか、こちらから目を離さない希惟さんに、緊張感が高まり、背中を冷たい汗が流れる。


「ちょっと、猫の様子を見に……」

「おい」


 希惟さんに呼び止められ、肩を震わせる俺。


 ひぃっ! 何か勘付かれた!?


「マグカップでは飲みにくいだろう」


 希惟さんが、食器棚から浅いお皿を取り出し、牛乳をマグカップからお皿に移して、トレイに乗せた。


 先輩へお出しする飲み物が、まるで子猫に与えるミルクのように。


「……」


 どうする……? 俺……!

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