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第六十九話 俺を大人にして

「やっぱりクリスマスは家族で過ごすものだよね」


 フライドチキンやハンバーグ、ポテトサラダ、宅配のピザが並ぶ食卓を囲んで、兄が言った。


 いつもは、クリスマスを一緒に過ごす恋人がいなくて可哀想と言い返す所だけど、今日ばかりは同意。


 母が、

「あんたたち、来年は彼女と過ごしなさいよ」と喝を入れる。


 彼女……。


 おそらく同じような事を思っている兄が、話題を膨らませないように口を閉じている。


 父が、

「そうだそうだ。俺がお前らと同じくらいの頃はモテまくってたぞ」と言い張る。


 絶対嘘だろ。


「好きな人がいる、いないに関わらず、クリスマスは家族で過ごすものだよ」


 俺の切ない主張に、兄が頷いて同意する。


「いいよなー学生は気楽で、もう冬休みだろ?」


 ということは、先輩と鬼ちゃんさんとのデートという名の修羅場がもう間もなく。


「こたつで一日中ゴロゴロして、ゲームしたり動画配信サービス見たり、堕落し放題じゃん」


 そうそう、先輩とそんなくだらない一日を過ごしてみたい……そんな未来があるのか不安だけど。


「長電話して夜ふかししたり」


 あれ以来、安否確認の電話すらないな。

 ところで、こんな会話夏休み前もしなかった?


 そういえばと前置きをして、兄が、

「俺の服返して」と言う。


「……」

「聞こえてるだろ? 返せよ」

「嫌です」

「何でだよ! 俺のだぞ!」


 ごもっともなお怒り。


「いいお給料もらってるんだから、もっといいの買えば?」

「俺は将来の為に蓄えてるの! 企業型DCとかやって!」


 ライフプランはないのに、マネープランは意外としっかりしている兄。さすが営業成績ナンバーワン。


「ただでさえ今年はお前のせいで、予期せぬ出費が俺の懐を寂しくしてるんだから。突然タクシー使って高い店行くわ、温泉も行ったし、亜蘭くんとご飯も行ったし、酔っ払い上司の酒代の立替も……」


 途中から俺のせいじゃないな。


「何か思い入れのある服?」


 そうだったら正直申し訳ない。

 返すか返さないかは別として。


「去年クリスマス前に彼女に振られて、やけになって買った服」

「そんな負の遺産なら俺が貰う」

「ぬああお前」

「おい、お前ら煩いからどっか行って来い」




 寒空の下に放り出された男二人が、恋人同士の甘いひとときを楽しむ人達に紛れて、クリスマスの夜に佇む。


「好きな人とも過ごせず、家族からは追い出され」

「おい、お前はいいだろ。亜蘭くんと先取りでクリスマスやったんだから」


 先輩、あれからツンツンしてるし、いつも何か考え込んでるし、安否確認の電話もないし……。先輩、機嫌直してください。

 寒さで心まで凍えていく俺に、見知った顔が声をかける。


「甲斐くん?」


 パーカーにスタジャン、ダボっとしたパンツ、スニーカー。ブラックサンタかと思うくらい、全身真っ黒な理人が少し引きつった顔を向けている。


「メリークリスマス。こんな夜に男二人で寂しく……」


 メリークリスマス理人。

 哀れな目で見ないで。


 兄が、

「寂しくはないぞ!」と主張する。


 そう言われると寂しくなるな。


「二人とも、何で俺を呼び出したの? 俺、バイト終わって帰るとこなんだけど」

「どうせお前、クリスマス一人で寂しく過ごしてるだろうから、可哀想だなと思って」

「無神経なやさしさが神経を逆撫でする……」

「クリぼっちなの? 可哀想に。お兄さんが何かプレゼントを買ってあげよう」


 仲間を見つけて嬉しそうな兄が、理人の肩を抱く。


「この兄弟……凍え死ねばいいのに。こんなバカ兄弟じゃなくて、先輩とのクリスマスを過ごしたい」


 吸血鬼一家のクリスマスってどんな感じなんだろう。血の入ったグラスで乾杯とかするのかな?


「亜蘭くんにラインしてみようか?」


 兄が、かわいいスタンプとともに、クリスマスの様子を尋ねる。


「先輩は、ご家族とのクリスマスを楽しんでるんだから、邪魔しちゃ悪いだろ」

「あ、確かに。ごめんね亜蘭くん」

「返事来たよ」


 三人で兄のスマホを覗き込む。

 先輩から送られてきた、ご馳走が並ぶ食卓の写真から、ご家族で過ごすあたたかい雰囲気が伝わってきて、心がほっこりする。


「わーご馳走だーおいしそー! グラスに入ってるのは赤ワイン? でも亜蘭くんは未成年だし……」

「トマトジュースじゃない?」

「健康的ー」


 理人の誘導にあっさり納得する兄。


「わ〜かわいい〜亜蘭くんが写ってる写真も送ってくれて……社長に隠れてお姉様のお顔が見えませんね」


 白いふわふわのセーターを着た先輩が写っている。


「その写真、送って」

「お兄さん、俺も」

「嫌で〜す。送りませ〜ん」


 理人と二人で、兄のこめかみをグリグリする。


「痛い痛い痛い! やめて! 息ピッタリじゃん」


 兄のスマホが、先輩から新しい写真が送られてきた事を告げる。


 白いシャツを脱いで、半分以上背中が露わになっている先輩が、大人びた横顔を見せている。滑らかな肌の質感が伝わってくるような白い曲線美に、三人同時に硬直する。


 え……?


 すぐに写真が消されて、メッセージの送信を取り消しましたという履歴が表示された。


「……ゴクリ」

「おい! 喉を鳴らすな! 先輩でやらしい想像をするな!」

「甲斐くんだって顔真っ赤じゃん」

「お前もな!」

「あ、電話かかってきた」


 先輩からの着信に応じる兄に近づいて、会話に聞き耳を立てる。


「あの……すみません。今の……俺、間違えて送っちゃって」

「ヘ……? あ、いや、あの、あのあの……」


 見なかったとか嘘付けないのか、お前は。


「忘れてください」


 たぶん全員が忘れられないと思っている。


「亜蘭くん、まさか誰かに撮ってもらった訳じゃないよね?」

「セルフタイマーです。俺、今どうやったら大人に見えるか研究してて。あの、どうですか? 俺、大人に見えましたか?」


 まるで兄を誘惑するように、先輩が恥じらいながら言う。


「お兄さん、俺を大人にしてくれませんか?」

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