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第六十八話 年上が好き

「なぜここにと思っている、違いますか?」


 うっ……また思考を読まれた……。


「今日は、亜蘭くんのお迎えに来ました」


 校門の近くに、希惟さんの車が駐まっている。


「あ、そうなんですね。お疲れ様です」


 秘書の仕事って色々あるんだな。身辺調査したり、ウサギになったり、ディナーの予約したり……大変だ。


「お前、鬼ケ原さんと会った事あるの?」

「はっ……」


 先輩が俺を怪しむ。


「甲斐文都さん、今度また俺とデー……」

「今日は! すっごくいいお天気で!」


 鬼ちゃんさんの言葉を遮って、不穏な先行きをブロックする。


「そうか?」


 先輩が、灰色の厚い雲に覆われた曇天を見上げた。


 危なっ……。デートとか言われたら、先輩からあらぬ誤解を……。


「今夜は強い寒気が南下して厳しい寒さになるそうですよ。ところで、甲斐文都さん、俺とデ……」

「わああああああ」


 先輩が俺の腕を掴む。


「お前、俺に何か隠してない?」


 あわわ、一難去ってまた一難。


「ななな何も」

「鬼ケ原さんと何で知り合いなの?」


 わああ美しいお顔をそんなに近づけないでください。


「亜蘭くん、俺と甲斐文都さんは知り合いではありませんよ」


 えっ? 鬼ちゃんさんって気を遣える人だったんだ。


「恋人になる前の準備段階です。お互いの事を知ることから始めています」


 わああああああそれは一方的な視点!!


 先輩が呆気に取られた顔をしている。


「先輩!? 違うんです! 無実です!」

「は……」


 俯いた先輩が不敵に笑う。


 え? わ、笑ってる? もしかして無問題? そ、そうですよね……。先輩なら分かってくれますよね?


「お前、年上が好きなの?」


 先輩が、目が合ったら凍ってしまいそうな視線を俺に向けた。体感温度が一気に−30°を下回る。


 先輩、年上は好きですが、それは先輩が年上だからです。


「この間のデートは楽しかったですね」

「デート……?」


 久しぶりに聞く、地獄の裁判官の様な声。


「それはですね! 不治の病にかかっている鬼ちゃんさんに頼まれて、致し方なく……! とても恐ろしい病気で、アドなんとかと、ノルなんとかリンとか化学物質が脳に……」

「鬼ケ原さんが不治の病とか聞いた事ないけど」

「え……? 嘘だったんですか?」


 鬼ちゃんさんが笑顔を貼り付けたまま平然と、

「嘘じゃありませんよ」と言う。


「病名は、恋煩いです」


 な、ぬ……!?


「へぇ……前からお前の浮気性には悩まされてきたけど、最近大人しくしてると思ったら、こんな身近な所で……。俺に内緒で鬼ケ原さんと会って、楽しかった?」


 先輩!? だから、どうして俺は浮気体質だと思われてるんですか!?


「お話しなかったのは、先輩に心配をおかけしたくなかったからで……」


 結局、弁解している俺。


「そういえばお前、ウサギともキスしてたしな。俺じゃ満足できないの?」

「そのウサギ、俺です」


 鬼ちゃんさんが手をあげて、重大な秘密をあっさりと暴露する。


「俺がウサギです」


 わあああああ空気読んで〜……。

 俺が理人に脅されて、先輩との関係を終えることまで想像したというのに、そんなあっさり……。


「あ゛?」

「秘密にしていた訳ではなくて、先輩を傷つけない為に言わなくていいことをいう必要はないと……」


 結局、がっつり弁解している俺。


「つまり……キスした相手とデートしたわけ?」

「キスはしてないんです! 着ぐるみがぶつかっただけで……先輩も見てましたよね!?」

「はい、まだしてませんよ。お家に上がらせていただいた時は、番犬くんが頑張っていたので寸止めで我慢しました」

「家に……上がらせた?」


 火に油を注がないで〜……。


「あの、それも鬼ちゃんさんが具合が悪かったからで……」

「……」


 先輩が俯いたまま震えている。

 

「先輩?」

「お前……俺が望むだけ、血をくれるって言っただろ!!」


 先輩が、俺に向かって華麗な回し蹴りを繰り出す。咄嗟にしゃがみ込んだ俺の頭上で、空を切る音がした。


「……」


 恐怖で体を震わせる俺に向かって、鬼ちゃんさんが拍手を送る。


「さては、ある人っていうのも鬼ケ原さんの事だな!?」


 その通りです。


「一昨日だって! あんなに俺のこと触ったり、抱いたりしたのに!」


 校門前で、その言い方はやめて……。


「ふふ、かわいいですね。俺は包容力のある大人ですから、少しくらいの事は許してあげますよ」

「な……」


 先輩の怒りゲージが上がるから、話に入ってこないで。絶対楽しんでるな、この人。


「甲斐文都さんは年上好きですから。先日も、大人の恋愛という見出しに惹かれて、雑誌を手に取っていましたし」


 な、なぜそれを。


 恥ずかしさで体が燃えあがる。


「大人の、恋愛……?」


 繰り返さないで下さい、先輩。


「お前、大人の恋愛に興味津々なの……?」

「いえ、あの興味津々って言うか、そうじゃなくて俺が大人に見せる為に、この話やめませんか?」


 空気を読まない鬼ちゃんさんが、

「甲斐文都さん、冬休みになったら、また俺とデートしましょう」と言う。


「い、行きませんよ?」

「俺と大人の恋愛をしましょう」


 その話題はもうやめて〜……。


「行ってもいいけど」


 先輩が、鬼ちゃんさんの提案を受け入れることを許可する。


 え!!? 先輩!?


「な、なぜ……」


 もしかして俺、見限られたんですか?

 ああ……やっと心配がなくなって、先輩と仲良くできると思ったのに……。


「そのかわり、俺も行く」


 ん?


「俺は三人でも構いませんよ」

「じゃあ、そういう事で」

「先輩!? ど、どうして……」


 先輩が、俺のコートを乱暴に掴んで引き寄せる。


「この機会に、お前の浮気癖を矯正してやる。俺以外によそ見できないように、俺の大人の魅力を分からせるから」


 え……? 先輩? 俺はもう既に、先輩以外、見えてないですけど?


「浮気の代償は、それから払ってもらう。俺が言った事、忘れたとは言わせないからな」


 思わず首を両手で守る。


 俺、無実の罪で、首を噛み切られちゃうの?




第68.5話 やきもちも度が過ぎると


 兄との食事に向かう車の後部座席から、運転席の様子を伺う。


 本気なのか? からかってるだけ? 何考えてるか分からない人だよな。それにしても……。


 膝に置いた拳を強く握る。


 文都、絶対許さない。俺に、あんなこと言っておきながら……あんなにハグしたり、キスだって文都からしてくれたのは一回だけだけど……。


 運転席から

「デート、楽しみですね」と声をかけられる。


 おい、宣戦布告か?

 俺のものに手を出しておきながらよくも、鬼ケ原伊織……。


「楽しみ……ですか?」


 俺じゃ相手にならないって?


「ライバルがいた方が、色恋は盛り上がりますから」

「へぇ……随分自信があるんですね」


 大人の余裕か?

 そういえば、文都、大人の恋愛に興味があるみたいだったけど、俺に大人の魅力が足りないから、他に目がいくのか?大人の魅力って何だ? 金銭的自立?


「俺が思うに」


 鬼ケ原伊織が俺の思考を読んだように、

「大人の魅力すなわち、包容力かと」と言った。


「相手のことを寛大に受け入れられる心の大きさです」

「包容力……」

「亜蘭くん、やきもちも度が過ぎると、嫌われてしまいますよ?」


 鬼ケ原伊織の一言に、雷に打たれたような衝撃が走る。


「き、嫌……」

「おや? 考えたことはなかったですか? 甲斐文都さんは、亜蘭くんと同じで、まだお若いですから。心変わりをすることもあるでしょう」

「お、俺はしない!」

「ふふ、甲斐文都さんが同じ気持ちだといいですね」


 くっそ〜……言い返せない……。


「それと、過剰なスキンシップも人によっては嫌われます」

「なっ」


 再び雷に打たれる。


 今だって俺なりに控えて、手繋いだり腕組んだりして我慢してるのに。それもダメって言われたら、俺、耐えられない……。


「ふふ、楽しみですね。デート」


 心から楽しんでいるように、鬼ケ原伊織はそう言った。

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