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第六十四話 ガンガンいこうぜ

「あ、文都?」

「かわいいです、すごく。独り占めしたいくらいです」

「……」


 先輩の髪に、頬をすり寄せる。


 あ〜先輩いい匂いがします。先輩を独り占めした罰として、このまま世界が滅びたとしても俺は構わない。


「も、もう……お前くっつき過ぎ」


 俺の胸を押して、先輩が離れようとする。

 その手を握って引き止めると、いつもと違う俺を警戒する顔が向けられた。


「何?」

「ケーキ買って来ました。受け取ってください」

「あ、クリスマスケーキ? 気が利くな」


 あっさりと警戒を解いて、先輩がケーキの箱を両手で受け取った。

 その先輩の太腿に触れ、たて抱っこする。


「なっなんで抱っこ……!?」

「先輩から離れたくないので」

「な……。お前……何でそんなに積極的なの? 普段、こんな事しないのに……。俺は、嬉しいけど……」


 先輩、むしろ、これが俺の本性です。

 普段、めちゃめちゃ猫被ってます。

 どのみちウサギ事件が暴露されて嫌われるなら、この際……。え? これを自暴自棄と言いますか? いや、今日の俺は、誰に何と言われようと、ガンガンいこうぜ。


「今日は先輩としたいことがあります」

「したい事?」

「先輩の事、たくさん気持ち良くできるようにがんばります」

「……」


 俺の腕の中で、カキンッと音を立てて凍るように、先輩が固まった。




 花とキャンドルが飾られたテーブルに、彩りのきれいな料理が並ぶ。

 ベビーリーフとミニトマトを添えたローストチキンに、玉ねぎのソースがかかったローストビーフ、バジルと生ハムを乗せてクリスマスカラーのトマトソースのパスタ、具沢山野菜のミネストローネ。


「先輩が一人で作ったんですか?」

「うん」


 大したことではないというような顔で、先輩が席につく。


「すごい……ローストビーフとか、家で作れるんですね!」

「意外と簡単だぞ? フライパンで焼いてから、耐熱のポリ袋に入れて湯煎して作った」


 へー、ポリ袋で作れるのか。

 簡単なら作ってみよう。

 先輩、絶対、うちの親より料理上手いと思う。


「お前、今作ってみようとか考えてない? 想像で作るなよ。肉が可哀想だから」


 見抜かれている。

 そして肉が可哀想とは?


「いただきます」

「どうぞ」


 先輩が美しい所作で、料理を口に運ぶ。


 あ〜先輩の料理を食べられるのも、今日で最後なんですね〜……。こんな寂しい事ってある? 俺の人生において、もう二度とこんなおいしい料理に巡り合う事はないでしょう。


 心で泣きつつ、黙々と食す俺。

 沈黙を悪い意味で受け取った先輩が、

「口に合わなかった?」と心配そうに聞いた。


「いえ……あの……」

「正直に言え」

「おいしすぎて、一生忘れないように記憶に留めておくのに必死で、すみません」


 この先、ローストビーフを食べる度、今日の事を思い出すんだろうな。それどころか、牛を見る度思い出して泣けてしまうかも。


「お前、大袈裟。食べたくなったら、いつでも作ってやるから」


 泣ける……。


「それより……さっき言ってた、俺としたい事って……」

「先輩、口開けてください」


 小さく切ったローストチキンをフォークに刺し、先輩に向ける。


「あ……。うん」


 髪を耳にかけて、先輩が差し出されたものを口にした。

 ほんのりと頬を赤く染めた先輩が、咀嚼し飲み込むのを見計らって、次の一口を差し出す。


「どうぞ」

「……」


 お菓子はよく食べさせてるけど、ご飯は久しぶりかも。

 ところでどうして今日は、緊張した面持ちなんですか?


「文都、今日は食べさせなくていい」

「いえ、どうぞ」

「……」


 しぶしぶ口を開ける先輩に、程よく冷ましたスープを運ぶ。


「先輩、もうちょっと大きく開けられますか?」

「え」

「入らないので」

「やだ」


 え? やだ?


「もういい! お前の前で、たくさん口開けるの、恥ずかしい」


 先輩が、そう言って俺から目を逸らした。


「……」


 かっわいいい〜……何ですか? それ、煽ってますか? 俺の事。ところで俺は、もう何度も、先輩が口を開ける所を拝見しておりますが。俺の前で、悩ましく飴舐めてた事もありましたけど、あれは良くてこれはダメなんですか? まさかあれ、無自覚でした?


「先輩、ダメですよ」

「は?」

「今日は、先輩のお口に入るものは全部、俺が入れます」


 先輩の顎に触れ、親指で下唇をふにふに触る。

 先輩の顔が、みるみる赤くなった。


「お前、今日変!」


 突然、席から立ち上がった先輩が、キッチンに向かう。


「先輩?」

「水飲んでくる」

「じゃあ、俺も行きます」

「付いて来なくていいから」

「いえ、絶対離れません」


 冷蔵庫から、ペットボトルの水を取った先輩の手に、自分の手を重ねる。背後から抱きしめると、先輩の手からペットボトルが滑り落ちた。床で鈍い音が響く。


「お前、今日強引……。ちょっと、離れて」


 先輩が顔に手を当てて、冷蔵庫を背に付け、ズルズルとしゃがみ込んだ。

 腰を落として、先輩の顔の側に腕を置く。


「嫌です」

「何で……?」

「今日だけ、我慢して下さい」

「……」


 先輩、今どんな顔してますか? 俺に見せてほしい。

 先輩が時々俺に見せる、好きな人に対して恥じらうような顔だったらいいのに。


 触れようとした瞬間、顔を上げた先輩が、不意打ちの攻撃をするように、俺の口にキスをした。

 小動物が、自分より体の大きい相手に強がりを見せるような顔を、先輩が俺に向ける。


「……」

「今日、お前にやられっぱなしだから。俺だけドキドキさせられて、フェアじゃない」


 世界一かわいい。


「先輩、俺もしていいですか?」

「やだ」

「何でですか? 俺の事ドキドキさせて下さい」

「お前がしたら違くなるだろ! 絶対ダメ!」


 なぜ。先輩はいいのに、俺はダメなの?

 それで、何がやられっぱなしなんですか?

 先輩、今日は様子が……。はっ……。


「先輩、顔が赤いです」


 先輩の頬に手を触れる。


「少し、ベッドで休みますか?」


 先輩の顔が、益々赤くなる。


「へ!? う……嘘……お前が俺としたいことって、やっぱり……」

「体、熱くないですか?」


 先輩の頬から首筋にかけて手を滑らせると、手のひらに、じんわりと熱が伝わってきた。


「ほら、火照ってます」

「あ……」


 腰と太ももの下に手を触れて、抱き抱えようとすると、先輩が慌てて俺を引き止めた。


「ま、待って! ご飯、冷めちゃうから!」


 確かに。せっかくの先輩のご飯が。人生最後の。


「じゃあ食事が終わったら、ベッドルームに連れて行きます」

「え!?」


 先輩、俺の目は誤魔化せません。

 たくさん料理して疲れてるんですよね?

 微熱が出るほどに……!


「文都……俺、今日そんなつもりじゃ……」

「俺は、先輩を楽にさせてあげたいんです」

「ら、楽に……」

「溜まってるんですよね? すみません、気付けなくて……」


 疲れが。


「は!?」

「見ていれば分かります。遠慮なく俺に体を預けてください」

「な……!? 見……分かっ……!?」

「先輩としたくて、シュミレーションしてきました」


 先輩にマッサージをして、俺の血をプレゼント。どうですか? 俺が考えた癒しのコース! あ、でも食後にマッサージって良くないんだっけ?


「え、シュミレーションしたの? 俺を、想像して?」

「もちろん」

「……」


 先輩の頭から湯気が立ちのぼった。

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