表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/100

第六十一話 初めて会った時から

「キャッチボールをしよう」


 ゲームセンターを後にして、公園に来ると、兄はそう言った。


 公園の真ん中に位置する草地広場で、兄が背負っていたリュックから、グローブを取り出す。


「うわ、懐かしい」


 兄は、先輩と希惟さんにグローブとボールを渡すと、

「はい、二人で仲良くやってね」と言った。


 先輩が、不服を訴えるように兄を見る。


「こいつ、上手く出来ないだろうから助けてあげてね」

「お兄さん……」

「一人じゃキャッチボールできないから」




 先輩から二匹の犬を預かり、兄と少し離れた所で、二人の様子を観察する。


「何ゆえキャッチボール?」

「兄弟愛って言ったら、キャッチボールなんだよ。心の会話とキャッチボールを掛けて……」

「発想が安直」


 兄の頼みを渋々引き受けた先輩が、希惟さんにボールを投げた。

 兄が希惟さんに向かって、指導の声を上げる。


「体の軸を意識しろ! 腕全体がしなるように! 重心を低く!」


 お前は草野球チームの監督か。


 希惟さんが、美しいフォームで先輩に返球した。


「長い手足を活かした完璧な投球」

「は……?」


 納得のいかない顔をした兄が、

「お前どんくさいんじゃなかったの?」と疑問を投げかける。


「経験があるものは、ある程度できます」

「ある程度……? 覚え悪いとか言ってなかった……?」

「はい、一度では覚えられない事が多いので」

「当たり前だろ! 結局、センスも才能も兼ね備えたハイスペック野郎かよ! ていうか自分に厳し過ぎない!?」


 神が与えた才能に不公平を感じて苛つく、心優しく平凡なサラリーマン。


 希惟さんが先輩に向けて、

「ゲームも次は完璧にしてみせるから」と言った。


「亜蘭、二度とお前を失望させたりしない」


 俺の中で、元々高かった希惟さんの好感度が急上昇。


「何て素敵なお兄様なんだ……」

「どうぞご自由に無双しまくって下さい」


 反比例するように、兄の中で希惟さんの好感度が爆下がり。

 

「完璧じゃなくてもいいです」

「え?」

「俺、助けてあげられるし」

「……亜蘭……」


 希惟さんの目から滝のように涙が溢れた。


「え!?」

「な!?」


 泣いたー!?


「え……な、泣いて……?」


 先輩がめちゃくちゃ引いている。


「立派に成長した事が嬉しくて……」


 兄が、先輩の頭をポンポンしながら、

「亜蘭くんを構ってあげられなかった事、ずっと気にしてたんだって」と言った。


「こいつ、本当は亜蘭くんの事を一番大事に考えていたのに、勉強や仕事に追われて寂しい思いをさせたって、すごく後悔してる」


 先輩が意外そうな顔を兄に向ける。


「俺、兄が家の為に頑張ってたこと、分かってます。そこは尊敬してます。あと構ってもらえなかったとか思ってません」


 先輩の思いを聞いて、希惟さんがまたも感涙する。


「え? じゃあ、なんで亜蘭くん、希惟と距離置いてるの? 本当は甘えたいのに素直になれなくて、それでツンツンしてるのかと思ってたよ」

「あ、甘え!? な……ないです! 絶対そんな事! 甘えたいとか全くないです!」


 ご本人の前で全否定。


「むしろ兄がしつこ過ぎて」

「え?」

「会う度に写真すごい撮ってくるし、服とか靴とか大量に買ってきて、家でファッションショーさせられるし、子供でもないのにご飯食べさせようとするし……」


 兄が、ドン引きの顔で、

「自業自得じゃねーか」と希惟さんを罵る。


「それは、亜蘭のどんな一瞬の表情も逃したくないし、亜蘭の為にあると言ってもいいような服や靴があるのに、それを買わずにはいられないし、食事の時、一口が大き過ぎて喉を詰まらせたり、魚の骨が亜蘭の喉に刺さったりしたら……」

「おたくの弟さんは高校生ですよ?」


 ほんとそれ。


「そういう所が嫌われるんだよ! お前はちょっと弟離れしろ!」


 兄が、希惟さんを叱責する。


「人との関わりがなさ過ぎて、距離感バグってるんじゃないの? あー……分かった、お前、恋愛と友情もごっちゃにしてたな?今日で分かっただろ? 俺がお前にとってどんな存在か」

「はい、益々離せなくなりました」


 兄が、正気を疑う顔つきになる。


「お前、俺の話聞いてた?」

「正直に言うと、初めて会った時から惹かれていました。私達は、自分が好む人間を判断する直感に優れているから、会った瞬間に、ある程度どういう人間なのか分かる。だから稀に、人間でいう所の一目惚れのような事が起こる。それはむしろ……」


 希惟さんが兄と視線を合わせる。金色の目が、ギラッと光った。


「恋愛よりも重い感情です」

「俺、お前が何言ってるか、よく分かんない。人間でいう所の? お前実は宇宙人? だから何でもできるの?」

「弟離れしろと言いましたね?」


 嫌な予感を感じたのか、兄がじりじりと後ずさる。


「言ったっけ? 俺そんな事」


 ついさっき言ったわ。


 希惟さんが、腕を引いて兄を抱きしめた。


「亜蘭から離れる分、あなたが埋めて下さい」


 先輩と二人で拍手を送る。


「うぉい! 祝福するな!」

「お兄さん、俺の為に人肌脱いでください」

「ぐぬぅ、亜蘭くんの頼み……」


 預かっていた犬を先輩に渡す。

 先輩は、大事そうに二匹の犬を抱きしめて微笑んだ。


「先輩、今度は俺と二人で出掛けませんか?」

「二人で……?」

「本当は前からお誘いしようと思っていたんですけど……。再来週の予定はどうですか? クリスマス、なんですけど」


 先輩……! 俺とデートして下さい!

 

「俺、クリスマスは家族で過ごすから」


 緊張して返事を待つ俺に、先輩がきっぱりと明言する。


「………………そ……そうなんですね! クリスマスは家族で過ごすものですよね? あ、あはは……あははは……」


 めちゃめちゃ、はっきり断られてしまった。かっ悲しい。そうですよね……恋人でもあるまいし、俺ごときが、デートもとい先輩とのクリスマスを……。


「一週間早かったら、嫌?」

「え……?」

「来週、会えない? その日、家族みんな予定があっていないから」


 先輩は俺の腕を掴んで、

「俺、お前とクリスマスしたい」と言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ