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第五十九話 弟の扱い方を俺が教えてやる

 翌日、希惟さんが目覚めたのは、午前十時を回った頃だった。


「頭が痛い……」

「よお、お目覚めか? 酔っ払い社長」


 頭を抑えながら、ソファから起き上がった希惟さんが、兄を見て目を見張り硬直する。


「き……公都さん?」

「ぐっすりよく寝てましたねぇ」

「ここは……」


 まだ状況が分かっていない様子の希惟さんが、はっとして、

「今、何時ですか!?」と言った。


「取引先との打ち合わせが……」


 慌てた様子で立ち上がった希惟さんがよろめいて、それを兄が支える。


「今日の予定は全部キャンセルだ」

「え……? いや、そういう訳には……」

「土曜日くらい休め」

「公都さん、今日は大事な仕事が……」

「残念だったな。実はもう、秘書の鬼ケ原さんに連絡済だ。社長は体調不良で一日動けないって」


 兄が悪い顔をしてそう言った。


「な……」

「仕方ないですね。何とか対応しますので、ボーナスは弾んで下さい、だそうだ」


 希惟さんが急に力が抜けたように、その場にへたり込む。


「格好悪い所を見せてしまいました……」


 額に手を当て俯く希惟さんが、自分を責めているように見えた。


「お前、もう少し力抜けよ」


 兄が腰を落として、希惟さんの背中に手を添える。


「楽しろ、頑張るな、怠けろ。過去のお前がどうだったかなんて知らないけど、もう十分だろ」

「ですが……」


 顔を上げて、兄と視線を合わせる希惟さんの表情が、それは許されない事だと訴えている。


「完璧じゃなくてもいい」


 一人で重い荷物を背負う希惟さんに手を貸すように、兄が手を差し出す。


「お前、仕事よりやりたい事あるんだろ?」

「やりたい事……」


 兄が、イタズラを思いついた子供のように笑った。


「弟の扱い方を俺が教えてやる」




 待ち合わせ場所の、広告がうるさい複合施設の前で先輩が立っている。

 バケットハットを被り、ハイネックのセーターにアンクルパンツ、ダウンジャケットを羽織って、足元は靴下とレザーシューズ。オールブラックのコーデが新鮮で、かっこかわいい。


「先輩、待ちましたか? 今日はいつもと雰囲気が違いますね。素敵です!」

「……」


 出会って早々に、不機嫌な顔を向けられる。


「俺、お前と二人かと思ったのに」


 俺の後ろから歩いてくる、兄と希惟さんに先輩が視線を移した。


「ごめんね〜亜蘭くん。今日はお兄さん達とも遊んでくれる?」

「あ、はい」


 先輩の顔に疑問が浮かんでいる……。いきなり誘われた上に、兄二人が付いてきたら何で?って思うよな……。


 兄が、希惟さんに、

「服とか褒めろ」と耳打ちする。


 お前、弟の俺にそんな事しないだろ。


「亜蘭、その服よく似合ってる」


 わー美しい兄弟。


 先輩が不快な顔をして、

「着替えてこようかな」と言った。


 辛辣……!

 やけ酒したくなる気持ちすごく分かる。


「今日は仕事じゃないんですね」


 いつもなら悪気なんて感じられない短い発言なのに、敬語と過去を責めるようなご指摘で、希惟さんをグサグサ刺す要素が凝縮している。


 精神的ダメージを食らった希惟さんがよろめいた。


「せ、先輩、希惟さんが仰った通り、俺もよく似合ってると思います」


 先輩の帽子に手を置く。


「かわいいです」


 あれから、先輩が安心できるように、なるべく俺の方から先輩に触れるようにしている。


「おい、人間。気安く亜蘭に触るな」


 希惟さんが、先輩の頭に置いた俺の手を振り払う。


 その弾みで、先輩の帽子が地面に落ちた。俺の苦々しい思いが、まるでスローモーションのように、帽子がゆっくりと落ちていく様に感じさせた。


「……」


 すぐさま帽子を拾い上げ、

「風で飛んじゃったみたいですね!」とフォローする。


「……風?」


 うわー地を這うような声。


「先輩、大丈夫ですよ! 全然汚れてないです!」


 先輩は、凍りつくような冷たい声で、

「俺の兄には、俺の大切な物がゴミに見えるらしいな」と言った。


 あわわわわ。

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