第四十話 俺たち、付き合ってる
「いつから、うちの息子はこんなに増えたんだ? しかもみんなイケメンじゃないか」
仕事から帰宅した父が、そう言った。
希惟さん、先輩、理人がそれぞれ、父と挨拶を交わす。
父を除いて始まる、甲斐家の会議。
「みんな泊まる気満々なんだけど……」
「そうは言っても、布団も足りないしな……」
「あんな高貴なお客様に、夕ご飯、何出したらいいのか分からないし……」
絶対ダメだって。
これを機会に、先輩と兄が付き合うことになったらどうするの? その上、先輩の事を好きな理人、俺をよく思っていない希惟さんもいるんだぞ?
どうしたものか悩んでいると、父が興奮した様子で、
「おい! 夕ご飯デリバリーだって!」と言った。
え?
「希惟さん? そんな気を遣っていただかなくても……」
「いえ、泊めていただくのに、これくらい当然です。何がいいでしょうか? うなぎとか?」
「うなぎ!?」
おい、食いつくな親父。
「すき焼き、しゃぶしゃぶ、寿司、ステーキ、なんでも好きなものをどうぞ」
「すき焼き!? しゃぶしゃぶ!?」
食いつくな兄。
「お母様にはスイーツを」
「スイーツ!?」
あわわ、早くも甲斐家陥落の危機。
「あ、でも布団は? どうする? 一人はソファでいいとして、やっぱり難しいんじゃない?」
そうだよ。
兄貴、よく考え直してくれた。
「一緒に寝ればいいんじゃない?」
先輩!? な……それは誰と誰が!?
「そうだね! 一緒に寝ればいいね!」
先輩のかわいさに負けて、兄が全肯定!
マズいぞ……甲斐家チョロすぎる。そもそも何でこうなったんだっけ……。
「……お前が会社行くって言えばいい話なのでは?」
「会社? 行くよ。あそこまで言われたら行くしかないだろ」
「希惟さん! この人、会社行くそうです!」
「それは良かったです。ではデリバリーを……」
希惟さん!?
「お泊まり楽しみだね〜先輩」
「理人! 来週中間テストだけど大丈夫!?」
「甲斐くん、夜勉強教えて。まだ例の話もできてないし」
あわわ……俺以外みんなノリノリだ……。
「文都」
「先輩?」
先輩は、遠慮がちに俺の手に触れると、甘えるような声を出した。
「ダメ? 俺は、お前と一緒にいたい」
「あ、はい。もちろん大丈夫です」
「いやーみんな惚れ惚れする程、顔がいいな」
「そうね〜見てるだけで幸せになるわ」
ごちそうを前に、お酒も入って、ご機嫌の父と母。
「甲斐くんも顔がいいから、学校でモテモテですよ」
理人? なんでそんな嘘つくの?
「あら! そうなの? そういえばお父さん! 文都、彼女できたのよ!」
「ゴホッゴホッ」
思わず食べていたものを詰まらせてしまう。
「だから、それは……」
「彼女……?」
先輩……? そんな目で見ないで下さい。無実です。
「文化祭の時の写真を見ちゃったのよ! すっごくかわいい、お人形みたいな女の子! その子と電話してた時の文都のニヤけた顔ったら……」
「やるじゃないか文都!」
「いや、違うって……」
「文化祭? あー……あの子? 一緒に写真撮ってたよね?」
理人……?
「背が低い女の子から、写真二人で撮ってくださいって言われてたじゃん」
え? なんだっけ? それ……。
理人が俺に耳打ちする。
「甲斐くん、先輩のことが好きとか言っておきながら、他の子に手出してるんだ? 先輩への気持ちは俺の方が上だね」
兄が、呆れた顔で、
「お前、懲りない奴だな」と言う。
その隣で、希惟さんが、軽蔑の目を俺に向けた。
「……」
先輩が俯いたまま動かない。
先輩? 何で、いつもみたいに怒らないんですか? まさか……泣いて……。
「これは、先輩!」
スマホのロック画面を全員に見せつける。
「俺が好きなのは、先輩だけだから」
静まる食卓。
顔が燃えているみたいに熱い。
「あ、本当だ〜先輩だね。かわい〜」
「お前、ずるいぞ!」
「何? お前……いつの間に亜蘭と……」
「あらあら、これ、亜蘭くんなの!? 通りでかわいい訳だわ〜」
「お前は、本当に先輩先輩だな」
はぁ、良かった……。また誤解が生まれる所だった……。
俺はもう、先輩を傷つけたりしません!
先輩が俯いた姿勢のまま、固まっている。
顔を真っ赤に染めて。
せ、先輩!?
その反応は一体……?
「俺も、見せたいものがあって」
理人が、徐にスマホを取り出す。
全員に見えるように見せつけた画面に、吸血鬼の格好をした俺と、狼男の格好をした理人の、今にも口づけをしてしまいそうな際どい写真が映っていた。
父が、持っていた箸を落とす。
再び静寂が訪れる食卓。
「甲斐くん。甲斐くんは今、学校でモテモテなんだよ」
ん? さっき聞いたよ?
その話し方、怖い話聞いてる気分になるんだけど。
「こういう方向で」
どういう方向で?
「俺たち、付き合ってると思われてるから」
「はぁ!?」
理人の胸ぐらを掴み、揺らす。
「何でだよ!?」
「俺だって不本意だよ!」
兄が、え? そうなの?という顔をしている。いや、何でお前は意外そうな顔してるんだよ。
おかしなことの謎が、また一つ解けてしまった。
「何が何でそうなった!?」
「文化祭で体張りすぎたんだよ! ついでに言っておくと、甲斐くんが、天性のドS俺様鬼畜攻めで、俺は、嫌がりながらも、実は快感を感じ始めている従順な受けだから!」
お、お前、親の前でよく言えたな……。
父と母、白目剥いちゃってるじゃん。
「せ、先輩は知ってたんですか?」
先輩は、俺から目を逸らしつつ、
「俺は、分かってるから……大丈夫」と言った。
うわぁんその反応、ちょっと前に見た!
そういうこと?
だから、ちょっとすれ違った時に肩が触れただけで、すごい勢いで謝られたり、下駄箱に赤いバラが入ってたり、理人といる時に、熱い視線を感じていたのもそのせい?
そういや俺の机に、ハートマークが書かれた理人とのツーショット写真が置いてあったり、首輪とムチが置いてあったことがあったけど、そういう意味? 俺、落とし物コーナーに届けちゃったよ?
希惟さんが、
「自業自得ですね」と言った。
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