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第三十六話 兄をブロック

 屋外、グラウンドに設置されたテントに、食べ物関係の店がたくさん設置されている。


 チュロス、唐揚げ、たこ焼き、焼きそば、ドーナツ……先輩は何を食べたいですか? 俺は、先輩が食べたいものがあれば、何でも食べさせてあげたいです。


 文化祭二日目、最終日。

 先輩と楽しいデートのはずが。


「何でお前がいるの?」


 先輩を俺と挟むように、狼男の格好をした理人が並んで歩く。


「甲斐くんと先輩のデートを邪魔しにきたんだよ」


 そんな堂々と。

 

「先輩は、どうしてまた、猫耳付き女子高生なんですか?」


 揶揄うように、先輩が、

「好きなんだろ?」と俺に聞く。


「あ、はい」


 好きですけど、俺以外に見られるのは嫌いです。


「会って早々悪いけど、俺、すぐクラスの手伝いに行かないといけない」


 あ、なるほどそれで。

 一瞬、俺の為に着替えてくれたのかと思ってしまった。恥ずかしい。


「先輩のクラス、気合い入ってますね」

「一番盛り上がったクラスが、午後のステージで表彰されるんだよ。豪華賞品があるらしくて、みんな張り切ってる」

「そうなんですね」

「じゃあ何か食べながら教室向かおうよ。ね、先輩?」


 理人が、明るさが溢れるような笑顔を先輩に向ける。


「先輩の猫ちゃん、かわいいね」


 理人は、先輩の猫耳に触れ、

「首輪して繋いで閉じ込めちゃいたい」と言った。


「おい犬、あれ買ってこい」


 先輩が、テントを指差し、顎を上げ見下すような態度で、理人に買い物を命じる。


「わぁ先輩……。その顔、泣かせたら堪らないだろうな」


 理人は大好きなご主人様に取ってこいと命じられた犬のように、尻尾を振りながらテントに向かった。

 先輩、理人の扱い、上手くなってないですか?


 先輩の手が、俺の顔に触れる。


「その格好、やっぱり似合ってる。俺の為に着替えてくれた?」


 先輩との約束通り、俺は吸血鬼の格好で来た。


「あ、ありがとうございます」

「赤い目がきれい。お前の血の色みたい」


 先輩の瞳に光が反射して、キラキラと宝石が輝いているように見える。

 先輩の目の方が100倍きれいだと思います。

 

「スマホ貸して」

「え? あ、はい。どうぞ」


 なんで?と思いつつ、先輩のご要望には、ほぼ100%従う俺。


「へぇ」


 ロック画面を確認した先輩が、俺を揶揄う口実を見つけたみたいに笑った。


「はっ! か、返してください!」

「はいはい、分かったよ。お前、俺のこと大好きだな」


 先輩とのツーショット写真を設定した事がバレてしまった……。立っているのがやっとなくらい恥ずかしい。


「先輩! 買ってきたよ〜! はいフランクフルト。焼きたてだから熱いかも」


 理人が、自分の手から食べさせようと、手に持ったフランクフルトを先輩に向けた。

 顔を近づけて、口に含めようとする先輩の両肩を掴み、引き留める。


「だ、ダメです」

「は? 何で?」

「火傷するかもしれないし、何かダメです」

「何かって何?」


 エロい事になる未来が見えたのでダメです。先輩が食べたいものがあれば、何でも食べさせてあげたいですが、これだけはダメです。


「早く早く」


 理人、お前はワクワクした顔でフランクフルトを揺らすな。




「来たな誘拐犯」


 先輩を教室まで送ると、入り口で先輩のご友人に阻まれた。

 昨日の件で、俺は犯罪者認定されているので、もう誰もご主人様扱いしてくれない。それでいい。


 ちょうど、先輩の教室から、背の高い二人組が出てきた。一人は半泣き、もう一人は魂が抜けてしまっているような顔をしている。


「兄貴と希惟さん。来てたんだ」

「文都?」


 兄は、俺の胸ぐらを掴み、揺らしながら、

「バカ! 嘘つき! 亜蘭くんが、フリフリのエプロンを着けて、おかえりなさいませご主人様♡とか言ってくれる天国じゃないじゃん!」と言った。


 だからそんなわけないって言っただろ。


「怖いよ! 地獄だよ! 声太いし、すね毛すごいし、筋肉隠せてないし、かわいいなんて一ミリもないよ!」


 俺と同じこと言ってる……。


「希惟なんて、教室入ってから、この通り壊れちゃって……」

「亜蘭はかわいい亜蘭はかわいい……」


 これは重症だ……。


「お兄さん? 俺はここにいますよ」


 俺の後ろから、先輩がひょっこりと顔を出す。


「……」

「お兄さん?」

「うわあああああ天使がいるううう」


 先輩に近づこうとする兄をブロック。


「甲斐くんのお兄さん、こんにちわ〜」


 顔のそばで手を振る理人を見て、はっとした表情で固まる兄。


 兄は、俺と先輩、理人へ視線を順番に動かすと、

「え……修羅場?」と言った。


 だから何でだよ。

 お前の中で、何劇場が上映されてるの?


「亜蘭!? な……」


 希惟さん、何でそんな格好をしているんだとか言うんだろうな。


「な、なんで、そんなにかわいいんだ……」


 あ、まだ壊れちゃってるみたいですね。


 希惟さんを見て、理人が、

「誰?」と聞く。


 あれ? これ大丈夫?

 吸血鬼ハンターの理人が、先輩の兄、吸血鬼の希惟さんと対面してしまって大丈夫?


 あわあわと心配する俺をよそに、先輩は、希惟さんの事を、

「他人」と言い切った。


 し……辛辣すぎませんか?


「え? 他人のくせに、先輩のこと呼び捨て?」


 理人の希惟さんを見る目が、敵意剥き出しに変わる。


 それに気づいた希惟さんが、

「何だお前は? 気に入らないニオイがするな。亜蘭とどういう関係だ?」と睨み返す。


 希惟さんに歩み寄り、刺すような視線を向ける理人。


「あんたこそ、先輩の何? ストーカー?」


 お兄様だよ。

 先輩と似てると思わないの? 吸血鬼っぽいなとか。お前、吸血鬼ハンターだろ? 吸血鬼察知するアンテナ壊れてるの?


「理人、希惟さんは常識があって立派な大人だよ。(先輩には)やさしいし、車もかっこいいよ」


 殺伐とし始めた空気を和ませようと、希惟さんをフォローすると、今度は、先輩が殺し屋のような目で俺を見る。


 え!?何で?


「信じてやるって言ったからには、信じてやるけど、いつまでとは言ってないからな」


 ひぃん何で今、その話なんですか?

 殺伐度が増したし。


「と、とりあえず帰ろうか理人。先輩のクラスは表彰狙ってるし、邪魔しちゃいけないから」

「表彰?」


 食いついた兄に、先輩が説明する。


「一番盛り上がったクラスが、ステージで表彰されるんです。豪華賞品があるらしくて、みんな体張ってます」

「へー青春だねー。そういう事なら俺達も協力しないと。ステージで表彰される、亜蘭くん達のクラスを見よう」


 兄は、そう言って希惟さんと目を合わせた。


「盛り上がりは何で判断されるんでしょうか?」

「それはやっぱり、売上だろ」


 そうなの?


 兄は、先輩の腕を引いて抱き寄せると、財布から取り出した一万円札を、人差し指と中指に挟んで頭上に掲げた。


「この金で、亜蘭くんを指名する」


 バカだ。こいつバカだ。

 先輩の腰に手を回すな。


「常識がないんですね」


 希惟さん……! そうなんです、うちの兄は常識がなくて誠にすみません。


「亜蘭を指名するのに、たった一万円ですか?」


 ん?


 希惟さんが、財布から一枚のカードを取り出し、頭上に掲げた。


「ブ、ブラックカードだと……!?」


 理人が、

「バカばっかりだね」と言った。

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