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第二十七話 兄をヘッドロック

「亜蘭くんは、誘惑なんてしなくていいと俺は思うよ」


 機嫌を損ねた子供をあやすように、兄が先輩にやさしく声をかける。


「こんなにかわいいのに、これ以上かわいくなってどうするの? 亜蘭くんは本当、健気だな〜」


 兄はそう言って、先輩の頭をポンポンする。


「俺が、かわいい?」

「あ、ごめん。嫌だった?」


 慌てて兄が先輩から手を離す。


「いえ、ただ意外だったので」


 先輩は視線を下げ、少し考えた後、

「それって、キュートって事ですか?」と聞いた。


「亜蘭くんは、キュート通り越して天使だよ」

「天使」


 俺の隣で、理人が、

「吸血鬼に天使って褒め言葉?」と聞いた。


 それは分からないけど、誰が何と言おうと先輩は天使だよ。


「誰かの為に努力したり、変わろうとしたり、気持ちを伝えようとするのは、キュンとするしカッコいいけど、俺は、亜蘭くんの恋人には、ありのままの亜蘭くんを好きになってほしいなぁ」


 言いつけを守る子供みたいな顔で、先輩が兄の話を聞いている。


「亜蘭くん、恋愛を食欲に例えるなら、俺は、おいしいものがあったら半分こして、おいしいねって言い合いたいけど、亜蘭くんだったら、どうしたい? 俺は、不安になって奪ってしまう恋も、全部食べていいよって言ってしまえる恋も素敵だと思うけど」

「……お兄さん……俺……」


 理人が、

「お兄さん、いい人だね。先輩、益々ときめいちゃわないかな。このまま付き合っちゃうかも……」と不安そうに言った。


「不吉な事を……」


 理人が、俺の事はライバルだと思ってないのに、兄貴に対しては弱気なのちょっと傷つくな。


「ウワアアアン甲斐くん! 先輩が取られちゃうよー!」

「お、落ち着いて理人」


 冷静ではいられなくなった理人の声に、先輩と兄、二人の声が遮られる。

 視線を店内に戻すと、先輩が、指を目に寄せ、涙を拭うような仕草をした。

 兄が、先輩の顎に手を添え顔を上げ、二人の距離が段々と近づいていく。


 え? 一瞬の間に何が。

 これは、あれですか?キ……。


「先輩!」


 ガシャンッ。


 何かが倒れる音の後、ジジッという音がして、盗聴器の音が途切れた。

 先輩と兄のいるテーブルの上で、さっきまで水の入っていたグラスが倒れている。

 兄が慌てて鞄を確認し、心配そうな顔をした先輩が、そこに駆け寄る。


「あ、やば」

「え?」

「甲斐くん、早くお支払いして帰らないと」


 鞄の中を見た兄が、表情を失い固まった。

 先輩は、そんな兄の様子を見て、不思議そうに首を傾げている。


 俺と理人は、全財産を置き、お釣りも受け取らず、店を出た。




「あの変な機械、鞄に入れたのお前だろ? あれって何? まさか盗聴器? 亜蘭くんが心配だからって、俺はお前と違って浮気になるような事はしないぞ!」


 盗聴器を仕掛けた犯人が、俺だと勘違いした兄に問い詰められたのは、次の日の事。

 ところで今、聞き捨てならない言葉が聞こえたけど、俺だって浮気しないからな。


「お前、昨日どこにいたんだ? 中々帰ってこなかったし、心配したんだぞ?」


 それは、夜の街を歩いて家まで帰りましたから。


 兄がニヤけた顔で、

「俺と亜蘭くんがいい感じになるのが心配で、いてもたってもいられなかった?」と聞く。


 実際いい感じになってただろ!とは言えず、

「どうだったの?」と弱々しく聞く。


 まあ、先輩の誘惑に屈したって雰囲気ではなかったよな。

 最後、なぜかキスする感じになってたけど、それまではちゃんと兄の顔だったし。


 兄は、腰に手を置き、ため息を吐いた。


「……やばかった」

「……は?」

「いや、亜蘭くんがかわいすぎて。お兄さんなら、俺に教えてくれますよね?ってうるうるの上目遣いで言われた時、もう、お前の事なんて忘れさせてやろうかって思った」

「は?」

「唐突に、誘惑させてくださいって言われた時も、ベッドの上で俺に誘惑する亜蘭くんを想像しちゃったし、セクシーかキュートか話した時も、脳内で、セクシーな小悪魔亜蘭くんとキュートな天使亜蘭くんが俺を誘惑して、うわー選べないなーって」


 兄をヘッドロックする。


「死ぬ! 死ぬって! それでも、お前の事考えて我慢したんだから! 逆に褒めてほしいよ!」

「いや、今すぐお前の脳内から、昨日の先輩との記憶を消さないとと思って」

「怖い事言うなよー。あーでも、亜蘭くんってちょっと危なっかしいよね?」

「なんで?」

「目に何か入ったって言うから、見てあげてたんだけど、ウルウルの目が可愛すぎて」


 兄が先輩の顎に手を添え、二人の距離が近づいた時の事が思い起こされる。


「俺じゃなかったらキスしてたぞ?」


 あれってそういう……。

 お前、本当にするつもりなかった?


 兄は、俺から逃れると、

「お前が亜蘭くんの恋人じゃなかったら、俺、亜蘭くんの誘惑に落ちちゃってたかも」と言った。


 それを聞いて、首の皮一枚で生かされているような気持ちになる。


「もし俺と先輩が付き合ってなくて、先輩に誘惑されたら、どうするの?」


 兄は俺を揶揄うように、

「えー? 付き合っちゃうかも?」と言って笑った。

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